8話 お祭りの準備と張り切る村人
祭りの開催が決まり、会議が開かれる。
僕も少しだけ会議に参加させてもらった。何か派手な事がしたいと思いキャンプファイヤーを提案したのだ。キャンプじゃないのは分かっているが、派手だし良いよね。
問題なのは村の完成祝いなのに火事で村が全焼なんて事になったら困る。広場の中心だけど火の粉が飛ぶかもしれないしね。
他でもバーベキューなんかで火も使うから、祭りの開始前に村にある桶全てに水を汲んで貰う事にした。水魔法を使える人も居るから大丈夫だと思うんだけど、お酒も入るしね、念のためだ。
キャンプファイヤーの準備は任せて貰った。木に水分があると危ないので、贅沢にも乾燥させている木材の使用許可を貰った。祭りが派手になるのならその位問題無いそうだ。
でもこれって家とかにも使えるしっかりした木材だよね? 本当に使っても良いのかな? 燃やすんだよ?
会議ではロマーノさんの話も出た。森にも連絡したそうだが、ロマーノさんのお父さんが今回の参加は見送ると言ったそうだ。
森にも人を待機させておいた方が良いので、2人で森に待機して、他の村人は祭りに参加するらしい。ロマーノさん頑張ってるんだな。
この会議で、初めてダークエルフが信仰している神様が分かった。長年森に隠れ住み、森に感謝する事で森の女神様を信仰するようになったそうだ。
森の女神様……神秘的な響きだね。お会いできる機会があれば良いんだけど。でも光の神様は女性だけど女神って言われてないし、何か理由があるのかな?
会議から先に抜けさせてもらい今夜は村長さんの家に泊まる。会議に参加している人はまだまだ計画を練るそうだ。明日が準備、明後日が本番なのに今からはしゃいで体力が持つのか?
翌日、朝食を済ませ、さっそくキャンプファイヤーの作成に取り掛かる。イネスはそのまま僕の手伝いでフェリシアは、村の仕事のお手伝いだ。村長さんも今日出来る事は全部終わらすと張り切っている。
イネスに木材を揃えて切って貰う。僕は木材を井の字に組んで紐で結ぶ下の3段には燃えないように水を含ませ、その上に乾燥した木材を組んでいく。
「あっ、リム、あぶないよ。気をつけないと」
『たのしい』
いかん、リムが興奮状態だ。ジャングルジムに興奮する子供みたいにキャンプファイヤーの木組みで遊びだした。
「んー、リム、危ないからね。僕の頭の上に乗っていて。完成したら遊ぶ時間を作るから。我慢できる?」
『できる』
「我慢出来て、リムはとっても偉いね」
『いいこ?』
「うん、とってもいい子だよ」
夢中でリムを撫で繰り回す。
「ご主人様、ちゃんと作らないと駄目よ」
「えっ? あー、そうだね」
リムを頭に乗せて再開する。何処までやってたんだっけ? ああ、組み上げだったな。火事は怖いが、ちょっと大きめに作る。大体肩位の高さまで木材を組んでいく。まあ、素人作品としては立派な物だろう。大きくしすぎると本気で火事が怖いからね。
「ワタルにーちゃん、それなんなのー?」
「なにー」
「すごいー」
「どうするの? どうするの?」
おうふ、村のお子様たちの襲来だ。6人とも元気そうだな。
「これは明日のお祭りで使うんだ、暗くなってからだけどね。どうなるのかは明日のお楽しみだよ」
「えー」
「でもたのしそう」
「たのしみー」
「おまつり、おまつり」
「ねーワタルにーちゃん、明日はご馳走沢山ってほんと?」
「うん、ご馳走沢山だよ。明日は3時位からかな? 美味しい物を食べながら騒ぐんだ。夜まで食べ放題だよ」
「うわー、うわー、ずっとたべるの?」
「ごちそうたくさん」
「うん、だからみんなも怪我したり風邪を引かないように、過ごすんだよ。明日が本番だからね」
「うん」
「もうかえる」
「ねるー」
いや、まだ流石に寝るのは早いよ。走って去っていく子供達を見送りどうするつもりなのか少し気になる。帰って今から寝るのか……単なるお昼寝だな、問題無い。
よし、木組は完成したけど中に薪を入れる前に、リムとの約束を守らないとね。
「リム、少し休憩するから遊んで良いよ」
『あそぶ』
大きくなった木組みの間をプルンと通り抜け、上に登ったり、下に降りたり遊びまわる。可愛い。反対側にポヨンと飛び移ったり、木と木の隙間を進んでみたりと楽しそうだ。
「リムちゃん、楽しそうね」
「うん、驚きの大興奮だよね」
「ふふ、そうね」
暫くリムの遊ぶのを眺めていたが興奮が収まりそうにないので、頭の上に戻って貰う。今度、ドニーノさんに頼んで遊具でも作って貰おうかな?
そう言えばフェリーにキッズルームがあったな。リムを連れて行けば喜んでくれそうだ。今度試して見よう。
完成した木組みの中に燃えやすい小枝と乾燥させた麦藁を詰めて、その上に薪を積んでいく。さてキャンプファイヤーは準備出来たし、料理は明日運ぶとしてお酒は先に運んでおくか。
運搬役に3人の村人を借りて、ルト号に向かう。ワインと蒸留酒を多めに出して船から降ろす。待機していた3人が村まで運んでいく。
「これ位でいいかな?」
「ふふ、多すぎるかも」
「まあ、余ったら余った時だよ。足りないよりは良いよね」
「そうね。お祭りですものね」
「うん」
僕達もお酒を持ち、村に運び、広場に置いていく。大量のお酒に村人のテンションも上がり更に作業に身が入る。ダークエルフもお酒に釣られるんだな、美男美女でも同じ人類って事かな?
「明日は飲み放題だー」と叫んでみると村の至る所から歓声があがる。女性の声も結構多かった。僕も叫ぶとか祭りの前の雰囲気にあてられてるな。
広場にテーブルや椅子を運んで来て、七輪を設置する。僕のだけじゃ足りないので、村の人達にも持ってきてもらう。準備が大体整った。今日はルト号で休む事にして、イネス、フェリシアと引き上げる。
明日は午前中に仕事を済ませ、昼から祭りの準備の詰めを行い3時頃から祭りの開催予定だ。ワクワクする。
夕食を取り今日はシャワーで済ませて少しのんびりする。
「ねえ、ご主人様、明日のお祭りが終わったらフェリシアとするんでしょ?」
「ぶはっ、イネス、いきなり生々しい事言わないでよ」
突然の話に紅茶を吹いてしまった。確かに明日するんだけど何故言葉に出す。
「そうですよ」
「ふふ、ごめんね。でもお祭りだから、きちんと釘をさしておかないとフェリシアはともかくご主人様が潰れちゃいそうでしょ?」
「確かに、ご主人様はその場の雰囲気に流されやすい所がありますからね」
いや、そんな目で見られても、そんな事は無いよ。どんだけ生殺しだったと思ってるの。お祭りは楽しむけど、一番大事なのは夜だと決まってる。
その為なら祭りでお酒を飲まない事すら可能だ。夜の事を考えればダークエルフの酔っ払いよりハイテンションを維持する自信があるよ。
「大丈夫だよ。お酒も少ししか飲まないつもり。きちんと考えているからね」
「うふふ、安心したわ」
「ふふ、そうですね」
うーん、何か違う気がする。こういう場合僕が、フェリシアは大丈夫なのか? とかお金で女を自由にするなんてとか今更な罪悪感と欲望がせめぎ合うものなんじゃないの? 潰れる心配をされちゃったよ?
まあ、ドロドロした感じにならないのなら良いか。明日は楽しみがいっぱいだ。しっかり体調を整えないとね。
本番に備えて軽めのイチャイチャで眠りにつく。
翌朝、イネスとフェリシアと朝のキスをしっかりと楽しみ、朝食を取る。うーん、気合が入っているんだけど、村の皆は午前中に仕事を済ませる為に頑張っている。僕達だけで出来る事は大抵済ませたし、ここで待機だな。
「いよいよなんだけど、僕達が村に行くと邪魔になりそうだし、午前中はルト号で待機して、午後から頑張ろうか」
「「はい」」
気合が空回りしてもなんだから、紅茶を飲みながら雑談する。どんな祭りになるのかを楽しく考える。
「そう言えば、食べる、飲む、以外は何かする事あるかな?」
「ダークエルフは歌と踊りが好きですね。もっとも狙われるようになってから、殆ど機会を無くしてしまいましたが……」
美男美女の歌と踊りかー……美男は要らないな。美女達の歌と踊りか……期待大だ。この村に居るダークエルフの女性陣も皆美人で巨乳だ、ワクワクが止まらない。
「これからは皆も幾らでも歌って踊れるんだから楽しみだね」
歌って踊れる美女ダークエルフのグループ……日本ならお金の匂いしかしないな。フェリーにステージがあるし、作っちゃうか? ……無理だなやめておこう。そもそもフェリーに観客とか入れたくないし。
「そうですね。この島では自由に楽しく歌って、踊れるんですよね」
うん、でも歌ってと踊れるがつながると、芸能界が思い浮かぶよね。さっき諦めた事が再び頭をもたげて来る。
「うん、あっ、リバーシとジェ〇ガも持って行こうか。1つずつしか無いけどね。気に入ってくれたら次に来る時に買ってこよう。あっ、でもドニーノさんとの契約もあるから、勝手に作らないようには言っておかないとね」
「あら、いいわね。娯楽が増えれば、生活に張りも出るわ」
「うん、次は南方都市に戻るんだし、ドニーノさんも商売にしてるし、直ぐ沢山手に入るから、僕達のは村に置いて行こうか」
「ありがとうございます。皆も喜びます」
雑談をしながら午前中の時間を潰し少しだけ食事を取って村に向かう。村では既に祭りの準備が始まっていた、のんびりしてたら出遅れちゃったな。
「村長さん、こんにちは。遅くなってすみません」
「いえいえ、村の者達も張り切ってしまって、早々に仕事を終わらせてしまったものですから」
「あはは、そうなんですか。でも夜まで騒ぐんですから、頑張り過ぎると持ちませんよ?」
「なるほど、そうですな。せっかくの祭りです長く楽しめないのは勿体ないですな」
「ええ、蒸留酒も出すんですが、昼間からだと夜までもたない人が出て来そうですね」
さすがに暗くなる前に潰れるのは可哀想だ、それに頑張って作ったキャンプファイヤーも見て欲しいしね。
「そうかもしれませんな、昼間はワインをメインにしましょうか」
村長さんも同じ意見らしい。
「その方が良さそうですね。皆テンションが上がっています。抑えも効きそうにありませんし」
「このような楽しみなど、何十年ぶりなのでしょうか。恥ずかしながら私も気持ちが抑えきれませんな」
「村長さんもですか、でもさすがに村長さんが暗くなる前に潰れるのは問題ですよ。昼間は頑張って自制してくださいね」
「そうですな。せめて昼間は自制しましょう」
うわーこの人、村長なのに夜は自制しないつもりだ。良いのか?
ある程度の予定を決めて、祭りの準備を手伝う。ついでにテーブルと椅子を2セット借りて、ジェ〇ガコーナーとリバーシコーナーも作った。
ルールを書いた紙も置いておいたけど最初の内は側に居た方が良さそうだな。
「あー、ワタルにーちゃん、それなにー?」
「なにー?」
「おなかすいたー」
「これはおもちゃだよ。簡単だからやってみる?」
「やるー」
「おもしろいの?」
「おなかすいたー」
「うん、面白いよ。やってごらん」
簡単にルールを説明してジェ〇ガをやらせてみる。ワーキャー言いながら板を抜いて行くグラグラとしたら焦り、倒れたら大笑いする。
周りの大人たちも興味深そうに見ている。この分なら村でも流行りそうだな。あとお腹すいたーしか言ってない奴がいるな。食べ放題の為に気合を入れているのなら。気が合いそうだ。
でも食べ放題の前に、軽く物を食べて胃の動きを活発にしておいた方が良いらしい事を知らないらしいな。未熟者め。
リバーシのルールも教え、子供たちが楽しそうに遊んでいる。これで祭りの準備も捗るだろう。興味深そうに見ている大人達が働きさえすれば……
こまごまとした祭りの準備を手伝いながら、時間をはかる。そろそろかな?
「村長さん、料理を用意して来ます。量があるので祭りの開始20分前位に船へ10人程よこして貰えますか?」
「分かりました」
イネス、フェリシア、リムと共に船に戻る。ルト号に到着して料理が詰まっているゴムボートを召喚する。
「ゴムボートから出すと冷めちゃうけど、しょうがないか。昼の分と夜の分、2回に分けて出せばいいよね」
「ええ、冷めても美味しいですし大丈夫ですよ。バーベキューもありますし、でも夜の分がお腹いっぱいで食べられない可能性もありますね」
「そうだねちょっと作り過ぎたかもね。じゃあ人が来たら料理を運んでいよいよお祭りだね」
約束通りにやって来た10人に料理を持てるだけ持って村に運んでもらう。重さ的にはそうでもないが、何しろかさばるので僕達を含めて13人でもギリギリ持てる量だった。
テンションが上がっていたとはいえ、相当な量を作っていたな。出来上がったら送還していたからどの位作ったのか分からなくなっていたよ。
落とさないように慎重に村まで運びテーブルの上に並べる。他の村人達も料理を持ち寄り3台のテーブルいっぱいに料理が並んでいる。豪華だよねー。
村人達も全員集まっているようで、祭りの開始を今か今かと待ちわびている。特に子供たちの目つきが危ない、その中でも1人の少年が飢えた獣のような目をしている。
ずーっとおなかすいたーって言ってた子だよね。あの子普通にのんびりした雰囲気の子供だったはずなんだけど……なにがあった?
「ワタルさん、そろそろ開始の時間なので挨拶をお願い出来ますかな?」
「え? それって村長さんがするんじゃないんですか?」
「まあ、そうかもしれませんが、今回の場合は村の完成を祝うお祭りです。一番村の移住に力を貸して下されたワタルさんの挨拶が一番かと今思いつきましてな」
……楽しいはずのお祭りが、村長の思いつきで罰ゲームのようなスタートになった。すかさずコップを渡されて、皆の前に押し出される……どうしよう。
誤字脱字、文面におかしな所があればアドバイスを頂ければ大変助かります。
読んで頂いてありがとうございます。