5話 王太子様と進む作戦
アルノルフ殿下の見事な土下座の後、アレシアさんに封鎖解除を伝えに行って貰った。後でアレシアさんに聞いたら、都市の中は訳の分からない興奮に包まれ異様な雰囲気だったようだ。
王子様達は手紙で封鎖解除の知らせを受けて、そのままルッカを出て行った。港には一緒に付いて行くつもりだったヤコポ子爵が取り残され、そのまま兵士に捕らえられ城へ連行されていった。
「アレシアさん、港で黄昏ていた人がヤコポ子爵なんですか?」
「はい、そうなんです。出来れば王子様に連れて行って欲しかったのですが、牢屋に入っていれば問題無いので安心ですね。王子様に牢屋から出して貰ってから相当増長していたらしいので、悲しい牢生活になりそうですし」
いや、結構重い話をそんなにニコニコしながら話されても困るんですけど。アレシアさんよっぽど嫌いだったんだな。僕的には良い命令を出してくれた人なので好印象なんだが。
食堂に行ってコーヒーを飲みながら、この後の事を話し合う。
「それで、みなさん、何となく一仕事終わった感じになってますけど、王族が来る前に戻っただけなんですよね。これからどうしたら良いんでしょう?」
「あっ、そうでしたね。帝国軍が居るんですよね……」
ドロテアさんも終わった気になってたんだね。僕もやっと終わったーって思ってたら、帝国軍が目に入って軽くブルーになったからな。
「そうなんですよ。苦労した割に報われない感じです。まあ僕はストロングホールド号に引き籠っていただけなんですがね。ジラソーレの皆さんは何度も城に行ったり、護衛に監視、お疲れさまでした」
「いえ、自分達の事ですから。ワタルさんこそ、お力をお貸し頂けて本当に助かりました。ありがとうございます」
アレシアさんのお礼と同時に、ジラソーレの残りの5人からも、息の揃ったありがとうございますを頂戴しました。完全に揃ってたよ、練習とかしてるのか?
「いえいえ、途中から本気で逃げ出そうって思ってましたからね。皆さんの頑張りが引き寄せた結果ですよ」
今、凄く良い事を言った気がする。期待して全員を見渡すが誰もが普通の顔をしている……そうでもなかったのか? 結構良い事を言った気になってたから、地味にショックだな。
「まあ、ルッカを包囲している帝国軍を何とか出来れば、大体の問題は解決するんですが、ルッカ単独では包囲している帝国軍には勝てないんですよね?」
「ええ、城壁があるので、耐えられてはいますが、こちらから攻めるのは無理ですね」
「港側以外は完全に囲まれてますし、防衛で精一杯ですね」
アレシアさん、ドロテアさんも無理だと感じているのならそうなんだろうな……ならどうするか……まあ、僕の場合、兵士を運んで来るぐらいしか出来ないんだよね。シンプルに考えよう。
人数をどっかから借りて来る……今更だけど王子様を利用すれば良かったかな? 嫌がらせに全力を尽くしちゃったけど、協力関係を築いていれば人が集められたかも……駄目だよね、無理やり従わせようとするだけだろうし。
「仮にルッカから帝国軍を撤退させる事が出来ても、補充が来たらまた撃退しないと駄目なんですよね。うーん、例えばですけどテッサロニキ王国と獣王国に援軍を貰って、帝国に運んだらどうなりますか?」
「帝国にですか? ……帝国は軍をブレシア王国に出兵しています。獣王国側にも守備の兵力が割かれていますね。帝国海軍は大損害を受けています。海から兵を運ばれたら帝国は大混乱になるかと……ワタルさん、成功すると思います」
「ええ、帝国はブレシア王国に専念できなくなるわ。ブレシア王国からの撤退もありえるわね」
アレシアさんとイルマさんが賛成してくれたのなら大丈夫っぽいな。特にイルマさんは僕の中で信用力が絶大だ。
ストロングホールド号なら、部屋だけじゃなくて、駐車場、デッキ、スペースを全部使えば、1万人は運べると思う。すし詰め状態は厳しいから、半分の5千人位だな。
「良さそうなら、侯爵様に丸投げしましょうか。僕が出来るのは5千の兵士を運ぶのと、帝国の残りの艦隊が出て来て、アレシアさん達が戦うのなら、ガレット号を貸す位ですね。そう侯爵様に伝えて貰えますか?」
「はい、勿論構わないのですが、ワタルさんは良いんですか? ルッカの契約に無い事までして貰ってますが」
「はは、僕は操舵室に引き籠って誰にも会いませんから大丈夫です。このままだと、長期間ルッカに関りそうですので、それなら兵士を運んで、さっさとルッカから帝国軍が撤退してくれる方がマシです」
「申し訳ありません。本当にありがとうございます」
「いえいえ、出来るだけ早く気楽な生活に戻りたいので、頑張ってくださいね」
「はい、さっそく侯爵様に伝えに行ってきます」
「お願いします」
~アレシア視点~
「侯爵様、度々申し訳ありません」
「いや、よい。それで魔導士殿より何か伝言があるとか?」
侯爵様、物凄く緊張してるわね。……考えてみたらそうよね。王子様が来てから、碌な事を伝えていないわ。早く済ませましょう。
「はい、船で帝国まで5千の兵を運ぶ事が可能だそうです。後の事は侯爵様にお任せするそうです」
「……そういう事か、帝国艦隊は残り少ない。海側から帝国に攻め入れば、帝国側も混乱するか。魔導士殿のお力はお借りできるのかな?」
「いえ、魔導士様は運ぶ事だけだそうです。ジラソーレが戦いに出る場合は少しだけお力をお貸しくださるそうです」
「そうか……では、帝国の艦隊が出て来たら、君達は戦ってくれるのかな?」
「はい」
「……分かった、私では力不足だな。王太子殿下に使いをだす。時間を頂きたいと伝えてくれ」
王太子殿下? 第2王子様の兄上様よね? 大丈夫なの?
「侯爵様、魔導士様はアルノルフ殿下と揉めております、問題になりませんか?」
「確かに問題が無いとは言えんが、王太子殿下は聡明なお方だ。母親も違いアルノルフ殿下とも仲が良いとは聞いた事が無い。大丈夫だろう。
ただアルノルフ殿下と同じく、貴族を纏め王都防衛に動いておられるから、今回の事もご承知だろう、そこで問題が起こるかもしれんな」
「……侯爵様、申し訳ありませんが魔導士様にお伺いしてからでお願いします」
王太子様が出て来るなら、魔導士様が嫌がるかもしれないわ。確認しておかないと。
「うむ、当然だな。王太子殿下は聡明な方で、アルノルフ殿下とは違うと伝えてくれ」
「はい」
~アレシア視点終了~
アルノルフ殿下の見事な土下座から1ヶ月が経った。王太子様には不安もあったが聡明だという事なので許可した。
そうしたら、トントン拍子で話が進み、大規模な話になってしまった、聡明すぎる。元々、テッサロニキ王国と獣王国に協力を要請していたらしく、その半数をこの作戦に回し、艦隊を組織して帝国に乗り込む計画だそうだ。
同時期に獣王国は帝国に攻撃を加えるらしく、帝国の混乱は凄い物になるだろうとの事だ。大規模になり過ぎて、僕の心が大混乱だ。
王太子様自らが指揮を執られると自らルッカに乗り込んでこられた。帝国まで行く気らしく更に大袈裟な事になっている。王太子様が戦場に行くのはありなのか? 今の状況なら効果的なのかもな、聡明なんだし考えてるよね。
ちなみに第2王子様が乗って来た中型魔導船と小型魔導船5艘でやって来た。兵士は帆船、ガレー船で後から来るそうだ。
第2王子様は謹慎中だそうだ、王太子様の陣営からの話によると、第2王子様はブレシア王国の危機をチャンスととらえた周りの重臣に担がれたそうだ。王様になりたかったんだね。
僕の役目は海が無い獣王国の援軍の内、5千を運ぶことだそうだ。王太子様に面会を希望されたが、断った。断ると、迷惑料として10白金貨とお詫びの手紙が送られて来た。出来た人だよね。逆に怖いのは気のせいなのか?
あと半月もすれば準備も終わるそうなので、そこから出航らしい。僕は決められた場所まで獣王国の兵を運ぶだけで良いそうだ。
操舵室に籠って、一歩も出ない覚悟でDVDを大量レンタルして、売店や自販機、食堂から食べ物を購入しては船に送還する。バイキングの料理も皿に盛って送還しようかと考えたが、嫌な予感がしたので止めておいた。
僕が知らない変な罰則を創造神様が用意している気がしたからだ。余計なリスクは回避するのが無難だと思います。
船の偽装は僕達とジラソーレの部屋以外は、完全に木造の魔導船に偽装する事を決めた。兵を乗せる前に偽装すれば良いだろう。
僕達は偶にルト号で外海にでて気分転換をしながら過ごした。ハイダウェイ号を召喚してジャグジーに入り、お酒を飲みリムと戯れる。女性陣の湯着姿を完璧に脳裏に刻みリラックスする。
操船大好き組とお目付け役のフェリシアは、ルト号で爆走して久々の逃走ゲームを楽しんでいる。みんなストレスが溜まっていたのか、テンション高く、大いに飲み食いして騒いだ。
ルッカに大量の船が出入りし、人や物がドンドンルッカに運び込まれる。それに刺激されて、帝国軍の陣地も活発になっている。これって、艦隊で出航したら、帝国に向かったってモロバレなんじゃ? いいのかな?
着々と準備が整い、いよいよ出航の日になった。予定より少し増えたが、5600人の獣王国の軍人が、帆船を何往復もさせながらストロングホールドに乗り込んでくる。
少し人数が増えたのは、帝国に海側から攻め込むという、今まで体験した事がない戦闘に獣王国の軍人がテンションを上げ、希望者が殺到したんだそうだ。
基本的に攻めて来る帝国軍を撃退するスタイルの獣王国で、一部の血の気の多い獣人達は不満が溜まっていたようで、帝国に攻め込む話に、彼ら一部の者達のテンションはMAXらしい。
帝国側に拠点が築けたら再度、何往復かして兵士を運んで欲しいそうだ。ブレシア王国、テッサロニキ王国、獣王国、3ヵ国で連合軍を結成して、本気で帝国を攻めるらしい。
獣王国の偉い人も、挨拶をと言ってきたらしいが、遠慮させてもらい、もし船内で魔導士を見かけても、接触しないように通達も出してもらった。
時間が掛かりながらもなんとか全員の乗船が終わり、出航する。ちなみに艦隊の規模は、大型魔導船2艘、中型魔導船6艘、小型魔導船36艘、帆船とガレー船は沢山らしい。
ブレシア王国は海軍本部がやられて、魔導船は少なく、途中にあるブレシア王国海軍本部は今回は無視で攻めて来たら撃退だそうだ。
帆船の足に合わせる為、予想より時間が掛かったが21日で帝国の帝国海軍本部に到着した。大騒ぎしながら出発したので、当然のように情報は漏れて帝国にも伝わっていた。
帝国側も準備万端らしく。大型魔導船2艘、中型魔導船3艘、小型魔導船18艘、帆船とガレー船多数で待ち構えていた。
「んー、アレシアさん、あんなに帝国軍の魔導船が残っているんですね。僕は帝国海軍の船は殆どが壊滅したと聞いていたのですが」
「ええ、海軍は殆どが壊滅したはずよ。偵察した所、防衛用の船団は殆んどの大型、中型の魔導船には煌びやかな装飾が付いていて、小型魔導船にも装飾や家紋が付いていたりと不揃いだそうよ。おそらく皇族の船や、貴族の船を搔き集めたんでしょうね」
「あーなるほど、軍以外の船を調達したんですか。アレシアさん達も戦うのならガレット号を召喚しますが、どうします?」
「はい、お願いします」
「あー、そう言えば操舵室から出ないと、タラップにガレット号を召喚できないですね……海が見えればそこに召喚出来るんですが……どうしましょう?」
「困りましたね、外は獣人さんがいっぱいですし、接触禁止の通達を出して貰ってますが、戦争を前にテンションが高いです。魔導士様は絡まれそうですね」
「あー、やっぱりですか……うーん」
「はい」
いや、マリーナさん、別に手を上げなくても良いんだけど。
「何でしょう?」
「魔導士様に見えているデッキ部分にガレット号を2艘召喚して貰えば、後は人力で運べると思う」
「……なるほど、盲点でした」
「凄いわマリーナ、偉いわ」
褒められてもマリーナさんって表情が変わらないよね。操船している時とふうちゃん、リムと触れ合ってる時は比較的表情が動くけど。
見えているデッキにガレット号を2艘召喚する。運ぶお手伝いの為に、ガレット号に触れられるように10枚のチケットを発行してアレシアさんに渡す。
準備に出かけるジラソーレを見送り、のんびりする。
「ご主人様、ジラソーレを送り出す時、何時も心配そうだったのに、今回はあんまり心配してないわよね? どうしたの?」
「ん? そう? あー、そろそろ船召喚の力に慣れて来たのかも。どうやったってガレット号を沈めるのは無理だよってやっと気づいたのかもね」
「ふふ、そうですね。どうやったらガレット号を沈められるのか、考えてみても分かりませんね」
「そう言えばそうね。私も思い浮かばないわ、囲まれて脱出出来ないのが危険と言えば危険なのかしら?」
「そうですね、後は、はしゃいで海に落ちるぐらいでしょうか?」
イネスとフェリシアの言う通りだな。他にはなんか危険な事ってあったかな?
資金 手持ち 62金貨 82銀貨 86銅貨 ギルド口座 33白金貨 70金貨 貯金船 85白金貨 胡椒船 485艘
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