4話 王子の憔悴と王子の決断
沢山の感想ありがとうございます。その日の内に返信させて頂きたいのですが、間に合わなくなってしまいました。
これからも少しずつですが返信させて頂こうと思っていますが、聞かれた内容が返信が遅れてしまって、話に出ているような事があります。本当に申し訳ありません。
アレシアさんに手紙を届けて貰って10日が経った。
あれから何度も手紙を届けて来たが、女性陣の意見で全て黙殺する事になった。アレシアさん達も城に行くと憔悴した王子様に、返事はあったかと必死な顔で聞かれるらしい。
王子の立場が悪くなった事でヤコポ子爵の元気もなくなり、アレシアさんはニコニコだ。でも家族を狙われる可能性もあるので、警戒は厳重にしているらしい。
何度かクレマン大隊長も返事を受け取りに船まで来ていたが、大きく偉そうな声で受け取りに来ていたのが、どんどんと小さな声になり、最近では来なくなった。
可哀想なのが侯爵様で、港の封鎖と王子様に送った、1人で死ぬか、ルッカと共に滅ぶか選べ。の手紙にルッカが滅ぶ可能性と、その為に王子様を裏切るのではと疑われて、大変らしい。
この辺りも見越して書いていたみたいで、イネスの恐ろしさにちょっとビビっている。
城と都市内でも王子様が、ルッカを助けに来た魔導士様を、下僕にしようとして怒りを買ったとの噂が広まり、王子様に付いて来た人達は肩身の狭い思いをしているようだ。
ちなみにジラソーレは、怒った魔導士様と城の関係を必死に修復しようとして走り回っていると高評価らしい。
マッチポンプを疑って聞いてみたが、イネスとイルマさん以外はきょとんとしていた。イネスとイルマさんは視線を逸らしていたので、疑惑が確信に変わる。情報操作までやってたよ。
あと、帝国軍も王子様と僕の揉め事をキャッチしたみたいで。堂々とストロングホールド号に近づいて来て、大声で勧誘しだした。
爵位、領地、金銀財宝、沢山の美女などと大盤振る舞いだ。沢山の美女に反応してしまって、真剣に帝国軍には勧誘されないでくださいと頼まれた。
ジラソーレのメンバーも必死で止めて来たので、僕が美人に弱い事は皆にもバレているんだろう。複雑な心境だ。
僕が帝国軍にも勧誘されている事が城にも伝わり、王子様は半狂乱だそうだ。しかし、ルッカの食料はまだ余裕があるらしいので、もう少し痛めつけるそうだ。
ちなみに、王子様からの手紙はこんな感じで変化していった。
利益で釣ろうとする⇒もっと大きな利益で釣ろうとする⇒部下にする事を諦め、言い訳を始める⇒謝りだす⇒ルッカから出て行くので許してくれと頼みだす。こんな感じで変わっている。
謝っている所でもう良いんじゃないかと提案したら、まだまだ余裕がありそうなので駄目らしい。徹底的に追い込むつもりみたいだ。
ルッカからの脱出を警戒して、女性陣は24時間体制で見張っている。見つけたらイネスとフェリシアがガレット号で近寄り、小さな穴を開けている。監視はジラソーレが請け負ってくれた。
ちなみに演技は僕だけ止めさせて貰った。完全に引き籠る事を決めたので必要ないからだ。女性陣には申し訳ないがそのまま続けて貰っている。
僕は船内でリムと戯れながら、イネス、フェリシアとお風呂に入ったり、イチャイチャしたり、映画を観たり、結構充実した毎日を送っている。申し訳ないが王子様の手紙も娯楽の一つになっている。
それから更に5日が経った。
城でも食料はまだあるが、少なくなっていく食料に不安が募り、雰囲気が悪くなっているそうだ。王子様からの手紙も、もはや哀願に近い。
「ねえイネス、これ以上は不味いんじゃないかな? 暴発して、怪我人が出たら寝覚めが悪いよ」
「もう少し行けそうな気もするけど。ご主人様がそう言うのならもう止めましょうか」
「うん、それでこれからどうするの? 何か考えがあるみたいだったけど」
「ええ、ちゃんと考えてあるわ。これを読んでみて」
手渡された手紙に目を通すと、結構酷い事が書いてある。僕なら悔しいで済むけど、王子様がするには色々問題がありそうだ。大丈夫なのか?
「これは、王子様の立場でやるには問題があるんじゃ? 一生恨まれそうで嫌なんだけど」
「ご主人様、もう一生恨まれてるから同じよ。しかもこれなら、ご主人様の恐ろしさが大陸中に轟くわ。手出しもされづらくなってお得なのよ?」
一生恨まれるのは既に確定なんだ……まあ分からないでもないな。これ位で大陸中に恐ろしさが伝わるのなら得なのか?
「うーん、何だか不安だから、皆に集まって貰って検討しようか。イネス、フェリシア、皆にも食堂に集まって貰うように言って来て。僕は先に食堂に行くね」
「「はい」」
食堂に行くと、おやつを食べているカーラさん、マリーナさん、ふうちゃんが居た。リムもおやつを欲しがったので、注文してふうちゃんの隣に並べる。2つのプルプルがおやつに夢中になる。可愛い。
全員が集まったので、手紙の文面を見て貰い話し合う事にする。
『お前に慈悲をくれてやろう。
明日の昼、港に出て来て土下座をしながら、大声で許しを請え。
民の為などの偽りは許さん。お前が生き残りたい気持ちを込めろよ。
上手に出来たなら、港の封鎖を解除してやろう。
くだらぬ保身やウソがあればやり直しだ。
それと都市内にお前がする事を大々的に告知をしておけ。
明日の昼、港が見える城壁の上に民衆を招待しろ。
観客が少なくてもやり直しだぞ』
「王子様が土下座とか歴史に名前が残りそうですよね。さすがに厳しいかと思うんですが、どうですか?」
「プライドの問題もあるでしょうけど、土下座をすれば、自分の命とルッカが救えるんだから安い物だと思うわよ。
どうせ後でルッカを救うためにとか言って美談にするでしょうし。まあ帝国兵にも見られるでしょうから、大陸中に話が広まって一生の恥には違いが無いわね」
「イルマさんは問題無いと思うんですね。他の皆さんはどうですか?」
ワイワイと話し合うが、ルッカに邪魔しに来たとしか思えない王子様の行動に、憤慨している女性陣は容赦がなく、この手紙は送られる事が決まった。
どうなんだ? 僕は正直土下座も恥ずかしいだけで平気だけど、王子様が土下座はしないと思うんだけど……これで収まらなかったらどう決着をつけるんだろう?
なんか王子様って此処までされる程の事をしたのかな? ただ、僕を駒にして船を取り上げて、従属させようとしただけ……敵だな、冷静に考えると完全に敵だ。ルッカにも邪魔しに来てるし、しょうがない気がして来た。
イネスにジラソーレを港まで送って貰う。
~アレシア視点~
今回は荒れるでしょうね。今更緊張して来たわ。
「今日はどうだったのだ?」
うん、目つきが危ないわ。王子様だし、こんな状況を経験したことが無いんでしょうね……私もこんな状況は体験した事は無いわね。
気持ち的には、ほぼ全員が敵なんでしょうし、辛いわよね、同情はしないけど。
「はい、返事を頂けました」
「何! 見せよ」
血走った目で手紙を受け取り、読む。
「なんだコレは、なんなんだコレは」
「殿下、何と書いてあったのですか?」
「みよ」
「こ、これは、何とも無礼な。このような事、受け入れる必要などございませんぞ。アレシア、魔導士は狂っているのではないか?」
「私には分かりかねます」
狂ってるとしたら魔導士様以外よね。特にイネスが中心だからあの子ね。
「これを断ったらどうなるのだ?」
「私は手紙を預かっただけですので、お答えしかねます」
「殿下、おそらくですが、ルッカの封鎖が続くだけです。断っても問題ありません」
「クレマンはそう言うが、侯爵は私が邪魔なのだ、私が居たらルッカも共に滅びるからな。暗殺の可能性もある。
それに封鎖がこのまま続けば暴動が起きるぞ、食料はまだあるとはいえ、不安が広がっているのだ。暴動が起こらなくても食料が無ければ飢え死にだ。いや、その前に帝国軍に攻撃されたら飢えたままでは勝ち目がないぞ」
「殿下、大丈夫です。ジラソーレの家「黙れ、貴様の意見を聞いた結果が今のありさまだ。ヤコポ子爵、これ以上私の気を逆なでするな。よいな」」
「は、はい」
ヤコポ子爵、良い感じに疎んじられてるわね。でも王子様、意見を取り上げた自分の事は責めないのね。でもヤコポ子爵ジラソーレの家族って言おうとしなかった? もしそうなら面倒なんだけど。
「殿下、この提案は拒否して、粘り強く交渉する事が大事です。アレシア、貴様は魔導士とは親しいのであろう、何か話せる事は無いのか?」
……ここは、魔導士様に頼まれた事を広めるチャンスね。
「いえ、魔導士様とは殆ど接点がありません。ルッカが帝国軍に包囲されたと聞いて困っていたところ、南方都市で仲良くしている商人が紹介してくれただけですので」
「その商人は、ここにはおらんのか? そ奴ならば魔導士を宥められるのではないか?」
「いえ、パレルモに商売に行くと言っていました。それに商人も魔導士様の正体は知らないと言っていましたので、宥める程の信頼関係があるのかは疑問です」
「くっ、如何すれば良いのだ」
本当に、この人達、頭が回らなくなっているのね。私達の家族がまだルッカに居る事で、大丈夫かもしれないとは思わないのかしら?
まあ、そう思われたら脱出するように言われてるんだけどね。だいぶ前から準備してるのに誰も何も言わないから、このまま脱出しないで済みそうなのかしら?
でもさっきヤコポ子爵が言いかけた言葉が気になるわね。これからは、最低でも2人は家族の側で待機させておきましょう。
「もうよい、少し考えるから、下がっておれ」
私達は侯爵様が借りてくれた一軒家に戻り、ヤコポ子爵が言いかけた事を話し合い、家族の側に待機する順番を決めた。
私と、イルマは此処で待機、ドロテアとカーラは魔導士様に報告、マリーナとクラレッタは家族の側で待機する事にしてそれぞれが行動に移る。
「ねえイルマ、王子様はどうすると思う?」
「そうね、分からないわ。結構追い込まれているみたいだし、冷静な判断が出来るのかも疑問ね」
「それが不思議なのよね。第2王子様は軍事に熱心だって聞いた事があるんだけど、それにしては脆過ぎない?」
「そうね、軍事に熱心だけど優秀ではなかったのか、優秀ではあったのだけど、王子様という身分で周りから大切にされて打たれ弱かったのかもね」
「あー、そうかもね。大隊長も王子様絶対主義みたいだったし」
「まあ、結果は明日の昼には分かるわよ。発表があれば今日中に分かるかもしれないわね」
「そうね」
雑談をしながら、偶に広場に明日の事が布告されたかを確認しに行く。夕方、広場に行くと明日の昼12時に第2王子様が、魔導士様に謝罪する事が布告された……
王族が魔導士に謝る事自体が異常なのに、それが広場で布告されるなんて前代未聞よね。噂が流れていて、王子様と魔導士様の確執を知っている民衆は、明日、港の封鎖が終わるかもしれないと、喜んでいる中、私とイルマはストロングホールド号に戻った。
~アレシア視点終了~
「ワタルさん、王子様が明日の昼、謝罪する事を発表しました」
「……そうですか……本当にするんですか。僕は流石に王子様が土下座とかありえないと思っていたんですが。するんですね。アレシアさんはすると思ってました?」
「私も驚いてはいます。ですが、かなり追い詰められた様子でしたので、現状に耐えられなかったのかもしれません」
……まだ手紙を送って15日だよ。それぐらいで人ってそんなに追い詰められるんだ。
暗殺に怯え、魔導士に無視され、ルッカの人間は全員信用できない、食料危機、帝国兵の攻撃、暴動、ついでにブレシア王国自体の危機……うん、僕ならその日に諦めるな。逃れられるのなら何度でも土下座する。
「そうですね。厳しい状況でしたから、無理もないのかもしれません。明日の謝罪が終われば、ひとまず王族の問題は片が付くでしょう」
「そうですね。ですが、帝国の問題は何も解決してないんですよね」
「ええ、僕への勧誘も全く諦めませんからね。毎日、少しずつ違った褒美を用意して来ますし、侮れませんね」
「ふふ、おかげで、揉めているルッカに攻撃がありませんでしたから、感謝しています」
「僕のおかげなんですか?」
「ええ、決定的にルッカとの仲が壊れるのを待っていたんだと思いますよ。今攻撃すると仲直りされてしまう可能性もありますから攻撃を控えていたんだと思います」
「へー、知らない所で役に立ってる事もあるんですね。まあ明日は何が起こるか分かりません。しっかり夕食をとって、しっかり休みましょう」
「はい」
翌日の昼12時、港側の城壁には入りきれないほどの民衆が詰めかけ、僕と、ジラソーレの全員、ルッカの民衆、帝国軍の前でアルノルフ殿下は跪き、ストロングホールドに向かって見事な土下座を披露した。
「死にたくないんです。申し訳ありませんでした」
見事な土下座の話と共に、王子を土下座させた謎の魔導士として、大陸中に知られるようになった。
もう絶対に身元を明かせないよね。
誤字脱字、文面におかしな所があればアドバイスを頂ければ大変助かります。
読んで頂いてありがとうございます。