25話 閑話 アントニーノ
私の名はアントニーノ、栄えある侯爵家の次男であり、帝国にも4人しかいないユニークスキルを所持している。家柄、才能ともに恵まれている真なるエリートだ。
今回のブレシア王国への侵攻作戦では、ブレシア王国の海軍本部の襲撃を手伝ってやる事になった。本来なら王都攻撃に参加するべきだろうが、大型魔導船と大型魔導船では潰し合いになると泣きつかれてしまった。
まあ、連射は利かないが、私のレーザービームは抜群の貫通力だ。大型魔導船にどんなに優秀な結界師が乗っていようと無意味だからな、頼られてもしょうがないだろう。
特別に協力してやる事にして、大型魔導船に乗ってやる。案内された部屋は当然、一番良い部屋だ。船長の挨拶も寛容に受けてやり、寛大さを示してやった。
出航準備が整い、暫くの船の旅だ。私の為に用意された食事も酒も悪くはない。まあ、私を歓待するのだ。一流の物を用意するのは当然だがな。
しかし、この船にはむさくるしい男しかおらんな。私の為に美しい女性士官をサポートに付ける事も考えられぬとは、船長の実力も疑問を覚えるな。
……ああ、なるほど、その程度の船長では私がいないと不安でしょうがないか。無能者の尻拭いにエリートである私を頼るか、少しは頭の回る者も居るようだな。
退屈な船旅を続け、無礼にも深夜に呼び出しを受けた。私の眠りを邪魔するとは、本当にこの船長は使えぬな。後で罰をくれてやろう、名前は何だったかな?
……ふむ、自己紹介は受けたと思うが、船長程度では私が覚える必要もないしな。まあ、船長程度を真なるエリートの私が罰するのも大人げないか、許してやろう。
「それで、何のようなのだ? くだらぬ事で私の手を煩わせたのであれば承知せんからな」
「はっ、アントニーノ様には作戦通りお力をお貸し頂きたく、よろしくお願い致します」
作戦? ……そんなものがあったか? まあ、部屋に来てペラペラしゃべっていた事があったな、あの時か。
「どのような作戦だ?」
「昼間ご説明に上がらせて頂いたのですが……」
「もう一度説明しろ」
「はっ、アントニーノ様には、小舟の魔導船でブレシア王国の海軍本部周辺で潜んで頂き、私共が接近して敵の大型魔導船が姿を現したら、沈めて頂く作戦です」
「なんだと? 私にコソコソと隠れろと言うのか? そのような事をせずとも、堂々と正面から向かえばよかろう。私が居るのだから」
まったく、大型魔導船等相手にもならぬのに、この無能が。
「アントニーノ様のお力は私共もよく存じております。ですが私共は凡才ですので、作戦を立てねばアントニーノ様の足を引っ張ってしまうのであります。
私共の愚かさで、アントニーノ様の素晴らしい経歴に傷を付けてしまったらと思うと夜も眠れません。何卒、愚かな私共にお力をお貸しくださいませ」
おお、こやつらは自分の無能を、自分で気が付いているのか、少しはまともな者だったのだな、であれば必死の願いだ叶えてやるか。
「分かった、力を貸してやろう」
「「「「「ありがとうございます。アントニーノ様」」」」」
「うむ」
私には似合わぬが、必死の頼みだ、我慢して小舟の魔導船に乗ってやる。王国海軍の巡回艇をすり抜け、船が通るであろう位置に身を潜める。
しっかりと準備がしてあったようで、穴が掘られ、少し狭いが問題無く休める準備が整えてある。無能者だと思っていたが、少しは使えるのかもしれぬな。私は真なるエリートだ。使えぬ者でも良い所を見つければ、評価してやる寛大さは持っている。
作戦通り帝国海軍が近づいて来る。王国海軍の巡回艇が発見王国海軍本部が騒がしくなる。もう暫くすれば大型魔導船も通るだろう。
「アントニーノ様、王国海軍の大型魔導船3艘、中型魔導船5艘、他多数が、こちらに向かって来ます」
「まかせておけ」
暗い夜の海を明かりを灯して大型魔導船が通って行く。あの程度の距離なら楽勝だな。まあ他の魔導士ふぜいでは届かぬだろうがな。自分の素晴らしさが怖くなる。
私のレーザービームは強力だが、強力故に3分ほどの時間が掛かる。だがこの距離なら、射程を外れる前に2艘の大型魔導船は確実に沈められるだろう。
レーザービームを大型船魔導船に向かって放つ。ん? 大型魔導船を貫いて、中型魔導船にも大穴が開いたな。まあ私のレーザービームだその位当然であろう。
再度準備をして、2艘目の大型魔導船に打ち込む。私のレーザービームをかわせるはずもなく、あっさりと撃沈する。
つまらんな、ブレシア王国にもユニークスキルを使える者が居たはずだが、出て来ないのか? 出てくれば少しは楽しめるのだがな。もしや、もう沈めてしまったかな?
3艘目の大型魔導船は射程を外れたが、中型魔導船にレーザービームを放つ。その後は小舟の魔導船に乗り帰還する。途中で目についた魔導船にはレーザービームを放ち、帝国海軍の圧勝で幕を閉じた。
王国海軍本部にもレーザービームを打ち込み帝国海兵を送り込めばあっさりと勝ってしまう。結局相手のユニークスキル持ちは出て来なかったか。実力の差を思い知らせてやりたかったのだが。
王国海軍本部に移り、3分の1の船がルッカを占領に向かうそうだ。傷を付けずに占領したいらしく、私はこの場で待っているようにお願いされた。私のレーザービームは破壊力が大きすぎるからな、天才故の苦悩と言った所か。
私の力が必要だろうと帝都に連絡をだすと、その場で待機だそうだ。ブレシア王国は私を必要とする程の強敵はいないらしい。のんびりと休暇を楽しむか。
………………
暫くするとルッカを封鎖していた帝国海軍の全滅という報告が届いた。いくら無能とは言え貧弱なルッカの海軍に敗れるとは、情けない限りだな。
その後の続報でルッカは巨大な船を浮かべ、帝国海軍を警戒しているようだ。愚かな、私にとって巨大な船など的でしかない。まあ暫くすれば私に泣きついてくるだろう。さっさと沈めて私の素晴らしさをこの世に知らしめるとしようか。
ルッカに向かい出航すると暫くして騒ぎが起こった。小舟の魔導船1艘で奇襲を仕掛けて来たそうだ。情けない事にその小舟の魔導船1艘すら帝国海軍は沈める事が出来ない。
しょうがない私が始末してやろう。
「何故だ、何故当たらぬ。ちょこまかと動き回りおって、不愉快な虫め」
私の攻撃をことごとく避け、小舟の魔導船は去って行った。
「アントニーノ様、あの船は異常です。一度引き返し情報を集めましょう」
「くだらぬ事を言うな。あの船では大型、中型の魔導船を沈める事等出来ぬであろうが。ルッカに行けば、私が巨大な船も城壁も簡単に破壊してやる。その後であの小舟の魔導船を沈めれば問題無いだろう。さっさとルッカに向かえ」
「はっ」
まったく、無能の相手は疲れる。一泊してルッカに到着する。私がいれば問題は無いだろうに、無能な船長が有利な時に開戦するべきだと珍しく抗う。度し難い愚か者だが、寛大な私は意見を受け入れてやろう。帝国に戻ったら罰は与えるがな。
暫く待ち海戦が始まる。あの馬鹿デカイ船をさっさと沈めて、帝国に歯向かう愚かさを教えてやるか。船など穴を開ければ沈む物だ。
準備していたレーザービームを巨大な船に放つ。終わったな。
「アントニーノ様。敵船にダメージがありません」
「何を言っている……」
目の前の巨大な船は何事も無かったように浮かんでいる。
「バカな、なぜだ。こんな事はあり得ん」
直ぐにレーザービームの準備を始める。
「アントニーノ様、昨日の船が来ます」
「煩い、お前達で対処しておけ」
準備をしている間に何度か攻撃を受け船が揺れる。小舟の魔導船すら仕留められんのか、無能め。準備が出来たレーザービームを今度こそ巨大な船に叩き込む。
「バカな……何故だ、何故効かない」
呆然としていると船が揺れ沈み始めた。必死で逃げて海に飛び込む。まるで悪夢を見ているようだ。次に気が付いた時、私はブレシア王国の捕虜になっていた。
~船長視点~
ある日、私は、帝国艦隊を率いて、ブレシア王国海軍本部と貿易都市ルッカを占領するように命じられた。
ユニークスキル持ちを派遣してくださるそうだが。侯爵家の次男で、プライドが高く面倒な人物らしい。
ユニークスキルは強力だが、弱点も多く、完全な砲台らしい。ただひたすらにへりくだって望みの場所にレーザービームを放って貰うのが、一番上手な使い方だと教えられた。
確かにこちらがへりくだれば気持ち良く働いてくれた。王国海軍の本拠地を攻撃した際には目覚ましい功績を立てた。ある意味簡単な人物かもしれない。
だがルッカに派遣していた帝国艦隊の壊滅を聞いてから様子が変わった。ルッカに着いて巨大な船を見てから嫌な予感を抱いたが、レーザービームがあると不安を押し殺した。
不安は現実のものとなり、レーザービームの直撃を受けたにも拘らず、巨大な船は無傷でたたずんでいた。
沈みゆく船の中で私はこの船と運命を共にする事を決めた。
誤字脱字、文面におかしな所があればアドバイスを頂ければ大変助かります。
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