23話 スタッフ任命と王族の旗
荷運びの監督をジラソーレに任せて、食堂でコーヒーを飲みながらゆったりする。
「ふー、海側の問題はだいたい片付いたらしいんだけど、陸でルッカを包囲している帝国軍はどうするんだろう?」
「どうしようも無いんじゃないでしょうか。城壁がありますので、防衛は可能ですが、攻めて勝てる兵力は無いと思います」
ネスの意見にシアも頷いている、簡単に帝国軍撤退とかにはなりそうにないか。
「やっぱりそうだよね。当分の間、ルッカに掛かりきりになるのかー、演技は勘弁して欲しいんだけど……」
「まあ、しょうがないですよ。また食料の買い出しは頼まれると思いますから、その時にハイダウェイ号でのんびり楽しみませんか?」
「良いアイデアだね。シアの言う通り、ハイダウェイ号でジャグジーに浸かろう」
ハイダウェイ号の出番が少なくなって来てるけど、ジラソーレとお風呂に入れる貴重な船だ。機会を見つけて積極的に活用しないとね。
少し気分が上向いて来た。あっ、ジラソーレが戻って来た。
「皆さんお疲れ様でした。荷下ろしで問題は起こりませんでしたか?」
「はい、暗くなって来ましたので今日は終わらせました。明日の早朝から作業がしたいと頼まれたのですがよろしいですか?」
「はい、当分は此処に停泊します。すべてアレシアさんにお任せしますので、よろしくお願いします」
「分かりました」
「皆さんお疲れでしょうから、お風呂をどうぞ、その後レストランで夕食にしましょう。この船のご飯も美味しいですよ」
「ふふ、凄く楽しみです。ではお風呂を頂きます」
「ええ」
「魔導士様、この船にはユー〇ォーキャッチャーはありますか?」
「ええ、ありますよ。クラレッタさんも後で見て来て下さい」
「はい」
クラレッタさん、ワクワクしてるな。今から確認しに行きそうだ。
「クラレッタ、今はお風呂とご飯よ。その後で船を見学させて貰いましょう。魔導士様、見学は大丈夫ですか?」
「ええ、自由にして貰って大丈夫です。フォートレス号との違いもあるので、色々確認してください」
「はい、ありがとうございます」
ゆっくりお風呂に浸かった後、レストランに向かう。いつまで経ってもTシャツ姿で出て来るジラソーレから視線を逸らすのに苦労するな。
夕食は食べた事が無いメニューが増えていて、みんな大盛り上がりだ。既に食べた事があるメンバーも一緒に盛り上がって楽しそうだ。
夕食後は散歩がてら、クラレッタさんをゲームコーナーに案内すると、3台のユー〇ォーキャッチャーの前で飛び上がって喜んでいる。
たゆんたゆん、ぶるんぶるんで僕もとても嬉しいです。
「ワタルさん3台もありますよ。持ってないぬいぐるみが沢山です」
「クラレッタさん、一応、フードを被っている時は魔導士でお願いします」
「あっ、すみません、魔導士様」
「いえ、今は慣れる為の時間ですから良いですよ。でも、人前では名前で呼ばないように気を付けてくださいね」
「はい」
「じゃあ、ぬいぐるみを取りましょうか」
「はい!」
「どれから、取りますか?」
「全部欲しいので、左端の台から挑戦します」
やっぱり全部取るんだね。素晴らしい光景が見れるから僕は大歓迎だけど、そう言えば前のぬいぐるみはフォートレス号に置いたままだよな。まあ封鎖してるから大丈夫か。
3台のユー〇ォーキャッチャーを前に気合十分で銅貨を入れる。側に居たカーラさんが言われるまでもなく、奥行きのサポートをしている。コンビネーションが確立してるね。
前屈みになって、たゆんたゆんと揺れる幸せな光景を頭に刻み付ける。本当に全部取るつもりで、1回目の両替で大量の銅貨を持って戻って来た。これは2銀貨まとめて両替して来たな。
何度も全力でユー〇ォーキャッチャーに取り組んで来たからか、時間は掛かったが、きっちり全種類のぬいぐるみをゲットしてホクホク顔だ。いずれはテレビ番組に出ていたユー〇ォーキャッチャーの達人クラスまでのぼりつめそうだよね。
「魔導士様、全部取れました」
眩しいほどの笑顔だ。
「おめでとうございます。フォートレス号の部屋は封鎖してありますから、ストロングホールド号の部屋に置いておくと良いですよ」
「あっ、そうでしたね。一緒に並べるつもりでしたけど、次の楽しみに取っておきます。ありがとうございます、魔導士様」
「いえいえ、じゃあ、僕達はそろそろ部屋に戻りますね。おやすみなさい」
「「おやすみなさい」」
大量のぬいぐるみを抱えてご満悦なクラレッタさん、カーラさんと別れ部屋に戻りフードを脱ぐ。
「うふふ、やっぱりクラレッタさん、大喜びだったわね」
「まあ、予想は出来てたけどね。イネスもフェリシアも分かってたでしょ?」
「「はい」」
自室でリムと戯れていると、ノックがあった。誰だろう?
「あっ、マリーナさん、どうしました?」
「ワタルさん、この船に侵入しようとしている人達がいます。どうしますか?」
「うーん、侵入者ですか、今回のチケットは駐車場以外に入れないので、どうしようもないはずですが、何処にいますか?」
「6人が船に泳いで近づいて来て、船に取り付こうとしています」
「うーん、たぶん大丈夫なんですが、一応、様子を見ておきましょうか。案内をお願いします」
「はい」
フードを被り、マリーナさんの後ろをついて行く。何度も思うけど、頭の上にふうちゃんが乗っていると、凄腕の冒険者には見えないよね。僕も頭の上にリムが乗っているから、凄腕の商人には見えないんだろうな。元々凄腕じゃないけど。
「魔導士様、ここから見えます」
マリーナさんの指す方向を見ると、何か道具のような物を船体に取り付けようとしている。あれが前にマリーナさんが言っていた、登る為の道具なんだろう。
「やっぱり、船には触れられないみたいですね。マリーナさん、ここから見ただけで、何処からの偵察か分かったりしますか?」
「いいえ、無理です。捕まえて来ましょうか?」
「うーん、情報を吐かせるのも大変でしょうし放っておきましょうか」
「良いのですか?」
あっ……でも、こんな時って捕まえたら、凄い美人だったりするのかも。捕まえたからって何かしようって訳じゃないんだけど……捕まえておこうかな?
「うーん、やっぱり捕まえておきましょうか。僕が乗船許可を出しますので登って来たところを捕まえてください。1人ずつなら問題無いですよね?」
「はい、用心の為に他のメンバーも呼びますが、問題は無いと思います」
「えーっと、ご主人様、船内での殺傷行為は出来ないんじゃないですか?」
「シア、解決方法はあるんだ。前々から考えてたんだけど、試す機会がなかったんだ。丁度良いから試してみよう。マリーナさん、他の皆さんを集めて貰えますか? あっ、一応装備もお願いします」
「分かりました」
「ネスとシアも装備を身に付けに行ってきて。僕は見張ってるから」
「私が結界は掛けますけど、もしもの為にご主人様も防具をつけられた方が良いのでは?」
「大丈夫だよ。取り押さえる時は船内で隠れてるから」
「分かりました、では行ってきます」
10分もしないで全員が集まった。相変わらず早いよね。
「じゃあ、スタッフ任命で皆さんを警備員にしますね。これで船内でも、敵を捕らえられるはずです」
「スタッフ任命? よく分からないですが、戦える様になるんですか?」
「ええ、そうなるはずです。任命して構いませんか?」
自信満々に解決方法が有るって言ったけど、自分もよく分からない事にアレシアさんの言葉で気付いた。……大丈夫かな?
「分かりました」
「じゃあ、任命しますね」
メニューからスタッフ任命を選ぶと、乗船者の名前が出て来た。警備員を選択して決定。これで良いのかな?
決定と同時に、みんなの前に魔法陣が現れ、額に吸い込まれていく。
「きゃ、何……なにこれ、船内の状況が分かるわ。警備のやり方? 巡回ルート? ああ、そういう事なのね」
「アレシアさん、何か分かったんですか?」
「はい、魔導士様。いきなり知らない知識が増えたので驚きましたが、警備に関する知識が増えたみたいです。戦闘行為では、捕縛行為だけが可能みたいですね。ただ、取り押さえる時は相手も反撃できるみたいです」
えっ? 頭の中にあの魔法陣で知識がインストールされたって事? 危険なんじゃ……なんか怖いから、どうしても必要な時以外は使うのを止めておこう。
「相手からの攻撃も可能なんですか、それなら、捕縛しないといけない時以外は、警備員じゃない方が安全なんですね」
「そうですね。戦闘行為が出来ない船内で警備員は例外扱いなので、守られる事も無いみたいです」
そうなんだ、警備員もしっかり守られると思ってたんだけどな。それなら危険を冒す必要もないか。美人が捕まえられるって決まった訳じゃないしな。
「んー、じゃあ、捕縛は止めておきましょうか。反撃の危険を冒してまで捕まえる必要も感じませんし」
「ご主人様、相手を一人に限定できるのなら、試しておいた方が良いと思います。私が全員に結界を掛ければ安全は増しますし、何より8対1です。今、試しておけば、緊急時にぶっつけ本番にならなくて済みます」
「緊急時が想像出来ないけど、試しておいた方が良いのかな? 皆さん危険ですがご協力願えますか?」
「「「「「「「「はい」」」」」」」」
取り合えず試してみる事にして、シアに結界を張って貰い。未だに諦めずに悪戦苦闘している侵入者に、乗船許可を出す。
突然、船に触れられるようになった事を怪しみ、警戒している。僕が見ているのがバレたら、上がって来ないよね、隠れておこう。
暫く時間をおいて警戒しながら登って来た侵入者は、あっさりマリーナさんに殴られて気絶した。捕縛行為ってナイフの柄で後頭部を強打するのもありなの? 死んでない?
取り合えず縛り上げて、猿轡を咬ませる。覆面を外したらおっさんだった。萎える。
しょうがないので次に行く、3人を捕まえた所で、残りの3人も気が付いたのか上がって来なくなった。連絡を取り合ってる様子も無かったんだけど、スキルか何かかな?
捕まえた3人は全員男だった。残りの3人に女性が居たのか聞きたかったが、さすがに聞けなかった。凄く気になる。
「魔導士様、やはり何もしゃべりませんね。拷問してみますか? 私達もやった事は無いんですが」
「いえ、アレシアさん、捕まえただけで十分です。後はルッカに引き渡せば良いでしょう」
「ですが魔導士様、ルッカから送られて来ている可能性もありますよ?」
「そうかもしれませんが、素人が拷問しても、騙される事になりそうですし、ルッカ側から送られて来たのなら諦めますよ。明朝引き渡してきてくれますか?」
「分かりました」
「お願いします」
自分のくだらない欲望で、皆に余計な手間を掛けさせてしまったな。でも女スパイ……なんか憧れるよね。
ガッカリしながら部屋に戻り。軽く戯れてから眠りにつく。お休みなさい。
侵入者を捕縛してから数日。積み荷をルッカに運び込んでいると、帝国軍が妨害してきたが、城壁と船から一斉に攻撃され、大きな被害を受けて撤退していった。
侵入者は、帝国側の人間だったらしく、色々と調べられているようだ。侵入者を引き渡した後、警備員の任命を解いてみた。何となくの仕事内容は覚えているらしいが、あやふやらしい。怖い能力だよね。
それと侯爵様から積み荷の運搬で5白金貨とジラソーレに出された10白金貨で、あわせて15白金貨を貰った。積み荷を運んだだけで5白金貨、ぼろ儲けだ。
帝国軍も海軍の全滅にショックを受けたのか、大きな動きも無く。僕はストロングホールド号に引き籠ってイチャイチャしたり映画を観たりと、フードと演技が無ければ、結構幸せな時間だった。
何となくこのままでもいいなって思いながら自堕落な生活を送っていると、ルッカに中型魔導船と小型魔導船2艘が入港して来た。
アレシアさんが言うには、ブレシア王国の王族の旗が掲げられていたそうだ……面倒な事になるんだろうな。
資金 手持ち62金貨87銀貨66銅貨 ギルド口座33白金貨70金貨 貯金船75白金貨 胡椒船 485艘
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