22話 海戦の開戦と海戦の終戦
「ドロテア、なんの話をしてたかしら?」
「ヤコポ子爵の話と……小型魔導船を借りて来てないのはどうして? って話だったわね」
「そうだったわね……ヤコポ子爵の話を続ける?」
「戦争前に、これ以上不安を抱えるのは嫌よ。ヤコポ子爵の事は後で考えましょう。アレシアは続けたいの?」
「私も遠慮しておくわ。小型魔導船を借りて来ないのは、帝国海軍が攻めて来るって聞いて、商船を避難させたらしいから、小型魔導船は戻って来てないんじゃない?
最初に攻めて来た帝国の艦隊にも大型、中型の魔導船も居たんだし、侯爵様も海戦では勝ち目がないから船を引き上げたらしいわ。商船の小型魔導船が何艘か増えた位じゃ勝ち目も無かったんじゃないかしら」
「なるほどね。この戦争を切り抜ければ、侯爵様って商会から感謝されそうね」
「ええ、王国の海軍本部は占領されてるみたいだし、ルッカを防衛しただけでも、かなりの功績よね。そのうえ逃がしてあげて商人にも恩を売ってるもの。名声は間違いなく上がるわね」
「まあ、ブレシア王国が滅んじゃったら意味が無いでしょうね」
「ドロテア、不吉な事言わないでよ」
「ごめんなさい。でもアレシア、考えておくべき事よ。魔導士様の協力でルッカは大丈夫そうだけど。ブレシア王国全体が危ないんですもの。ブレシア王国が滅んだら、ルッカだけではいずれ限界が来るわ」
「そうね。でもドロテアが戦争前に不安を抱えるのが嫌って言ったのよ。更に不安を増やしてどうするのよ」
「そうね、ごめんなさい」
気分転換にたわいのない会話をしながら帝国艦隊を待つ。予想より少し遅れて帝国艦隊が見えて来た。
「来たわね」
「ええ、ガレット2号に戻るわ」
さて、帝国艦隊は直ぐに攻めて来るのかしら? フォートレス号の存在は伝わっているはずだし、向こうも対策はしてるはずよね。慎重にいかないと。
「……攻めて来ないわね。アレシア、まだ食料も運び込まれてないし、兵糧攻めもありえるの?」
「それは無いらしいわ、大型魔導船2艘、中型魔導船5艘をルッカに釘付けはもったいないし。ましてやユニークスキルの使い手も居るわ、早めにルッカを落として別の戦場に向かわせたいでしょうね」
「そう、じゃあ、気が抜けないわね……長時間の待機は疲れるから、見張りをおいて交代で休憩しましょうか」
「そうねイルマの言う通り、交代で休みましょう。3人全員で疲れる事も無いわ」
休憩しながら様子を見ていると、小舟の魔導船で伝令が来た。午後からは帝国海軍に有利な風向きになりそうで、来るならその時の可能性が高いそうだ。
午後になり、伝令通りに帝国艦隊に追い風が吹き始め、帝国艦隊が距離を詰めて来た。
「いよいよ始まるわね。狙うのは大型魔導船からよ。良いわね」
「「「「「はい」」」」」
大型魔導船を先頭に段々と距離を詰めて来る帝国艦隊。ジリジリとした時間の中で先手は帝国艦隊からユニークスキルのレーザービームをフォートレス号に叩き込んで来た。
帝国側に歓声があがる。魔導士様が言うには効かないはずだ、問題無い。
「狙いはレーザービームを放った大型魔導船。行くわよ」
結果も確認せずに、大型魔導船に向かってガレット号2艘で急接近して、タイミングを合わせて全員の全力攻撃を集中して叩き込む。こちらにも攻撃が飛んできたが無視して、タイミングを合わせて攻撃を続ける。
相手の結界師が凄腕なのか、シアがいない分威力が弱まったのか、船体に傷をつけられたのは5度目の全力攻撃だった。
少しの焦りと共に、6度目の全力攻撃で大型魔導船に大穴を開け、ダメ押しで7度目の攻撃を叩き込む。更に広がった大穴から海水が流れ込む。もう持たないだろう。
「やっとね、次の大型魔導船に行くわよ」
「ええ」
次の大型魔導船に横付けして、再度全力攻撃を叩き込む。帝国艦隊からも苛烈な攻撃が飛んでくるが、全て乗船拒否に弾かれる。これだけの攻撃を受けて、衝撃すらも感じないのは凄いを通り越して狡く感じるわね。
攻撃も、直撃より、それて海に落ちた余波の方が船が揺れて面倒な位だし。2艘目の大型魔導船に大穴を開け、冷静になって周りを見渡すと随分戦場がフォートレス号に接近している。
中型魔導船はフォートレス号に攻撃を集中しているが、傷ひとつ付いていない、本当に狡いわよね。逆にフォートレス号からは、バリスタ、弓、魔法を1艘の中型魔導船に集中させて、沈めている。
しかし、帝国の帆船、ガレー船はフォートレス号の横に回り、ルッカ海軍との戦闘になっている。急がないと余計な犠牲が増えそうね。
「次に行くわよ」
「「「「「はい」」」」」
フォートレス号は中型魔導船を2艘、私達は中型魔導船を3艘沈め、ルッカ海軍のサポートに回る。
「ねえ、アレシア、帆船の体当たり攻撃って効果があるのかしら?」
「……イルマ、聞かなくても見たら分かるわよね?」
「私の目が悪くなったのかと思って」
「残念ながらあなたの目は正常よ。しっかり沈められるか、回避されているわね。擦ったり進路を変更させてたりもしているから、まるっきり無駄ではないと思いたいわね。
でも、あれなら前回の作戦で使った、ロープで繋いで火を放った方が何倍も役に立ったでしょうね。それた帆船は再利用できるから良いのかしら?」
「アレシア、イルマ、嫌みを言ってないで、フォローに回りますよ」
「クラレッタの言う通りね。バカな作戦を立てた海軍隊長の犠牲者を助けに行きましょう」
「「はい」」
ルッカの海軍と協力して、降伏を促し、拒否された場合は沈める。船から脱出して泳いでいる帝国兵も捕縛し、ルッカ側の圧勝で幕を閉じた。
ドロテア達は魔導士様に海戦が済んだ事を報告しに行って貰い、私達は侯爵様に報告に向かった。
「皆の者、ご苦労であった。今回の海戦で、帝国は多くの魔導船を失った。これ以上ルッカに船を出す余裕は無いだろう。海側の安全は確保できたと言って良い。後は陸の帝国軍だ、厳しい状況が続くが頼んだぞ」
「「「「「「「「「「はっ」」」」」」」」」」
「報告は上がって来ている。ジラソーレの功績は素晴らしい。デュムン騎士団長もよく兵を指揮し中型魔導船2艘の撃沈見事であった」
「「ありがとうございます」」
「ジラソーレよ、褒美は爵位、土地などは望まぬと聞いたが相違ないか?」
「はい、私達は冒険者ですので、爵位、土地は管理が出来ません」
何より、私達の功績の殆どは魔導士様の功績だしね。そこを押したら、魔導士様は嫌がるだろうから、押さないけど。
「そうか、褒美は考えておく」
「ありがとうございます」
ヤコポ子爵が物凄い目で見て来るわね。……魔導士様に会ったら本気で家族の事をお願いしないと。でもここでヤコポ子爵の話題にならないのは自業自得なのよ。こちらに恨みを向けないで欲しいのだけど……
「さてヤコポ隊長、お主は謹慎しておれ。罰は後日言い渡す」
「おっ、お待ちください。今回の作戦の失敗は部下どもが私の作戦通りに行動しなかったのが原因なのです」
「ふー、周りが止めるのも聞かず、無謀な作戦を強行したのはお主であろう。お主はあの時何と言った? 確実に帝国海軍にダメージを与える、自分の部下達ならば難なく熟すと言っていたではないか」
「そ、それは」
えっ? なんでここで私が睨まれるの? 関係ないわよ。
「こ、侯爵様、お待ちください。この度の失態を覆す作戦があります。ぜひお聞き頂きたいのです」
「……ふむ、言ってみよ」
「はい、ジラソーレの活躍は、魔導士の船の力が殆どです。表舞台に出て来るのを拒むくせに、ジラソーレに力を貸すのは、奴が女好きだからでしょう。ジラソーレに命じて、魔導士を取り込んでしまえば良いのです。
おい、ジラソーレ、故郷であるルッカを守る為ならば、その身を差し出す覚悟ぐらい持っているだろう。籠絡して身元を明かさせ、この場に連れ来るのだ。女が足りぬと言うのなら、私が用意してやると伝えろ」
「もうよい。その者を捕らえて牢に入れておけ」
「なっ、お待ちください侯爵様。魔導士を手中に出来ればルッカは」
叫びながら兵士に連れ去られていった……これって問題事が一つ片付いたのかしら?
「すまぬな、あ奴には十分な罰を与える。魔導士殿にも私が詫びていたと伝えておいてくれ」
「はい」
不愉快な事を言われたけど、牢に入ったなら当分は安全でしょうし、結果的には良かったわよね。
~アレシア視点終了~
「ん? 戦争が始まったかな? フォートレス号の側に行ってからが長かったけど、激しく動き出したよ」
「始まりましたか。大丈夫ですよね?」
「大丈夫だと思うよ。シアは何か不安があるの?」
「いえ、ただ心配なだけなのですが」
「あー、まあそうだよね。何が起こるかなんて誰にも分からないんだから。でも、よっぽどのことが無い限り大丈夫なんだから、応援だけしておけば良いと思うよ」
「はい」
余裕ぶってても僕もちょっと不安なんだよね。特にレーザービームが……創造神様を信じよう。あはははは、ごめんね、あれは例外っとか言われる可能性があるから、完全には安心できないんだよな。
「ご主人様も、シアも表情が暗いですよ。ご主人様の船の性能は凄いんですから、自信を持ってください」
「うん、そうだよね。心配していても何も出来ないんだし、昼食にしようか」
「「はい」」
昼食を食べてのんびりお茶を飲んでいると。ガレット号は停泊して、ガレット2号は此方に向かって走行しだした。
「終わったみたいだ。ガレット2号がこっちに向かってるよ」
「思ったより時間が掛かりましたね。2時間位ですか?」
「その位だね。戦後のお手伝いもしたんだろうね。ストロングホールド号も、ルッカに向かって出発させようか」
「「はい」」
ルッカに向かい出航して、途中でドロテアさん達と合流する。
「そうですか、問題無くレーザービームも跳ね返して、海戦も勝利したんですね。ジラソーレの方達にけが人は出ませんでしたか?」
「はい。誰も傷一つ負いませんでした」
「良かったです。それでドロテアさん達はこのまま一緒にルッカに向かいますか?」
「そうですね……私だけ先にルッカに向かい、受け入れ態勢を整えておこうと思います。物資も沢山ありますし」
「そうですね。チケットを発行しますので持って行ってください。後はルッカにギリギリまで近づけて停泊しますね」
「分かりました」
えーっと、チケットは、この前みたいに侵入者が入って来たら面倒だよな。駐車場限定とか出来るかな? ……おー出来るんだ、さすがユニークスキル。駐車場限定で、期限は、今日を入れて4日もあれば十分だよね。人数は50枚で良いか。
「これがチケットです。期限は4日間だけの限定にしてあります。駐車場以外は入れない事も伝えておいてくださいね」
「分かりました。行ってきます」
ドロテアさんを見送り、食堂に戻る。
「マリーナさん、カーラさん、疲れたでしょうし、お風呂にでも入りますか?」
「……いえ、みんなで揃って来ますので、その時にお願い出来ますか?」
「分かりました」
リムとふうちゃんの戯れを見ながらのんびりコーヒーを飲んでいると、ルッカに到着した。ストロングホールド号を座礁ギリギリまで港に寄せる。
乗車口とタラップを下ろして、暫く待つと、ガレット号2艘と港に停泊していた船が次々と集まって来た。ジラソーレの残りのメンバー全員に食堂まで上がって来て貰い話をする。
「ジラソーレの皆さん、申し訳ありませんが、積み荷の運び出しはジラソーレの皆さんで手配してもらえますか? 僕達が下りて行くと余計な事を話しかけられそうなので、お願いします」
「分かりました、全部お任せください」
「よろしくお願いします」
この海戦で、今後は海側から狙われる可能性はずいぶん減ったらしいので、当分のんびりできるだろう。実際は船に乗ってのんびりしていたような気もするけど、頑張った事にしておこう。
誤字脱字、文面におかしな所があればアドバイスを頂ければ大変助かります。
読んで頂いてありがとうございます。