21話 開戦前の話し合いと嫌な奴
帝国艦隊と戦って疲れきって仮眠を取った。目が覚めてリビングに向かうと、ドロテア、マリーナ、カーラがお茶を飲んでいる。
「3人とも帰って来たのね。お帰りなさい」
「「「ただいま」」」
「問題は起こらなかった?」
「ええ、ちょっと侵入者が居た位で他は何事も無く終わったわ。アレシアの方は色々あったんでしょ?」
「ドロテア、侵入者も気になるから後で聞かせてね。こっちは帝国艦隊が攻めて来ているわ。時間稼ぎに攻撃しに行って、小型魔導船は大体沈める事が出来たけど、力が足りなくて、大型、中型の魔導船には手が出せなかったわ」
「そうだったの。あとどの位で来るの?」
「夜になると思うわ。食料の運搬は終わったの?」
「いいえ、まだ到着してないわ。こちらもたぶん夜になるわね。魔導士様がガレット号が動き出したって言って、私達を先行させてくれたの。全部終わってなくて良かったわ」
「ああ、魔導士様は自分の船の位置が分かるんだったわね。大型、中型の魔導船を相手にするには、人数が足りなかったの。とっても助かるわ。来てくれてありがとう」
「お礼なら、魔導士様にお願いね。私達は、先に行きますか? って聞かれて、頷いただけだから」
「そうなの、後でしっかりお礼を言っておくわ」
「ええ、お願いね。それでアレシア、帝国海軍にはどう対抗するの?」
「ドロテア達が戻って来てくれたから、大型、中型の魔導船も何とかなるのよね。今から行けば全部沈められるかしら?」
「アレシア、それは駄目よ。全部私達で撃退してしまうと、準備されている侯爵様の顔を潰す事になるわ。魔導士様も言ってたでしょう、目立ち過ぎるのは良くないって」
「あっ、イルマ、起きたのね。おはよう」
「ええ、おはよう、皆もお帰りなさい」
「「「ただいま」」」
「それでなんだけど、イルマ、あの艦隊がルッカまで来たら、被害がでるわよ? 私達が戦えば被害も出ないから、侯爵様も分かって下さると思うけど……」
「侯爵様が分かって下さっても、他の家臣の方達はどう思うのかしら? もちろん今は厳しい状況だから、文句は言われないでしょう。
でも無事に戦争を乗り切った時に、大きすぎる手柄をAランクとは言え、ただの冒険者が持って行くのよ、危ないと思わない?」
「……後で足を引っ張られるって魔導士様が言ってたわね。分かったわ、侯爵様達と協力して戦いましょう。……でも、魔導士様と帝国艦隊が鉢合わせしたらどうするの? 到着は同じ夜なんでしょ?」
「そうだったわね……ドロテア、何か聞いてる?」
「いいえ、ただ先行しただけで、細かい事は何も決まってないわ。直ぐに帝国艦隊が来ないのなら、知らせに行ってくるわ。状況を詳しく教えてちょうだい」
「ええ」
「…………レーザービーム? ユニークスキルを使う相手がいるのね。必ず伝えておくわ」
「ええ、お願いね」
~ワタル視点~
仮眠から目覚めてボーっとする。
「ん? ドロテアさん達かな? ガレット2号がこっちに向かって来てる」
「戦いが終わってたんでしょうか? でもあと数時間で到着するのにわざわざ戻って来るのも変ですよね?」
「どうだろう? ネスが言ってたように、大型、中型の魔導船がいたら、まだ終わってないと思うんだけど。まあもう直ぐ到着するから、聞いたらわかるよ。タラップに出迎えに行こう」
「「はい」」
ドロテアさん、マリーナさん、カーラさんの3人が戻って来たので、食堂に向かいお茶を飲みながら話を聞く。
「大型魔導船2艘に中型魔導船5艘、他多数ですか。先制攻撃で小型魔導船を沈められたのは良かったと思います。それで、ドロテアさん、その艦隊とルッカで鉢合わせになりそうなんですよね」
「はい。時間的にストロングホールド号の方が後に着きそうです。どうされますか?」
「無理して急いでも僕は戦えませんし、どうしましょう? フォートレス号を動かして欲しい等の要請はありましたか?」
「いえ、そういう要請はありませんでした」
「うーん、じゃあ、暫く此処で待機しますか。海戦が終わってから入港したら怒られますかね?」
「問題は無いと思います。食料を安全に運ぶのは当然ですので」
「あー、そういう言い訳がありますね。フォートレス号とガレット号が2艘あれば、海戦では負けませんよね?」
「はい、問題無いと思います。あっ、ですが帝国海軍にレーザービームと言うユニークスキルを使う人物がいるそうです」
「れ、レーザービームですか……」
創造神様の悪ふざけの匂いがする。何となくカッコいいからユニークスキルにした、とか言いそうだな。レーザービームか、乗船拒否で防げるのかな? ……乗船拒否を何とか出来るのは神様位だって言ってたし、大丈夫か。
「創造神様が、乗船拒否を何とか出来るのは神様位だって言ってましたから、ユニークスキル相手でも大丈夫だと思いますよ」
「そうなんですか。ですが、いきなり創造神様の話が出ると、心臓に悪いですね。気軽に私達に話して大丈夫なんですか?」
「あはは、今更ですよ。ドロテアさんだって、僕の話したら駄目な事、沢山知ってますよね。僕の秘密はだいたい話してしまいましたから。ですので安心して、戦って来てください」
本当に、大体の事は知られているよね。イルマさんなんか、僕の性癖まで理解してそうだよね。
「「「はい」」」
ルッカに戻る3人を見送り部屋に戻り、フードを外す。
「ご主人様、安心して戦って来てなんて言って良かったの?」
「うん、防衛戦だしね。まあ、本当ならあまり戦わずに、ルッカの人達で何とかして欲しいんだけど。隠れてるだけだと何時まで経っても終わらなさそうだし、ジラソーレに頑張って貰おうと思ってね。いい加減フードも演技も面倒になって来たんだ」
「うふふ、まだ10日も経ってないのにもう飽きたの?」
「まだその位しか経ってないんだ。慣れる為にと思って魔導士で通してるけど、他に誰も居ないのに演技してる事が物凄く虚しいんだ」
「ご主人様の気持ちも分かりますが、うっかりワタルさんとか呼ばれると、結構致命的ですよ?」
「そうなんだよね。僕も偶に、イネス、フェリシアって呼びそうになるし。人と会った時の為って分かってるんだよ。だから魔導士の演技は続けるんだけど、一刻も早く解放されたいんだ」
「ふふ、分かったわ、頑張りましょうね」
「頑張ってお手伝いします」
「ありがとう2人とも」
『りむ、おてつだい』
「リムも手伝ってくれるんだ。ありがとうね」
『うん』
リムを撫で繰り回して感謝する。偶に言われるリムの言葉に心が打ち抜かれるのは、親バカなのだろうか?
「まあ、仮眠まで取っちゃったけど、暫くここで待機だから、夕食を食べたら、自由行動だね。のんびりしよう」
「「はい」」
~ワタル視点終了~
「3人ともお帰りなさい」
「「「ただいま」」」
「ドロテア、魔導士様はどう行動されるのか仰ってた?」
「ええ、自分が行っても役に立たないだろうし、海戦が終わるまで待機されるそうよ。あと、レーザービームは船に乗ってたら問題無いそうよ」
「そうなの。じゃあ、私達がガレット号で海戦に出るのは問題無いのよね?」
「ええ、問題無いわ。ルッカの軍との話し合いは済んだの?」
「ええ、済んだわ。ルッカの海軍がフォートレス号の陰に布陣して、私達は遊撃ね。開戦になったら大型の魔導船を狙って、後は強い順番に沈めて行けば良いそうよ。ドロテア、何か問題はないかしら?」
しかし、魔導士様も、相変わらずよね。あれだけの力を持っているのに、戦闘に出ても役に立たないだなんて……もしかして、冗談なのかしら? ……違うわね、戦い自体が苦手みたいだし、異世界人ってみんなそうなのかしら?
でも、勇者、賢者、英雄、異世界人の噂がある方は、戦闘でも大きな功績を残してらっしゃるわよね。魔導士様がそういう気質だと思っておきましょうか。
「うーん、ルッカの海軍はどう動くのかしら。私達が魔導船ばかりを沈めても問題無いの? 昼間に言ったみたいに手柄の独り占めにならない?」
「ええ、その事は、コッソリ、海軍の偉い人に聞いてみたの。私達の功績は大きくなるけど、ルッカの海軍にもチャンスがあるなら、大丈夫みたいよ。
魔導船を沈めたらサポートに回って貰えると助かるって言われたわ。大型、中型の魔導船は、手に余るって理解しているみたいね」
「アレシア、直接聞くのは、如何なのかしら?」
「ドロテアの言いたい事は分かるけど、きちんと聞いておいた方が、後々問題にならないわよ。戦争の後は関わることも無いでしょうし」
「ふー、それで良いのかしら? まあ終わった事を気にしてもしょうがないわね。いつ頃海に出るの?」
「海軍の布陣が終わってからだから、まだ時間はあるわね。お茶でも飲んでゆっくりしましょう」
「分かったわ」
レーザービームが唯一の懸念だったけど、問題無いのなら何とかなりそうね。後は出来るだけ味方の損害を減らせるように動ければ、ルッカの港側は安全になるわ。
いくら帝国海軍でも、全部で、大型魔導船3艘、中型魔導船7艘、小型魔導船30艘以上を失ったら、海軍の力は大幅減になるわ。海から迂闊に攻められなくなったら、最低でも退路は確保できる。頑張らないと。
気合を入れて出発しようとしたやさき、兵士が伝令に来た。帝国艦隊は停泊して夜を明かすそうだ。おそらく来るのは明朝らしい。緊急事態が起きたらまた伝令に来るそうだ。気合を入れた分、ちょっとショックだ。
「みんな、帝国艦隊が来るのは明朝らしいわ。しっかり休んで明朝に備えましょう」
「「「「「はい」」」」」
しっかり休んで、朝食を食べ、帝国艦隊がルッカに向かって出発した報告を受けとって、今度こそ気合十分で出航した。
フォートレス号の陰に小型魔導船3艘、小舟の魔導船20、ルッカのガレー船6艘、投降した帝国のガレー船2艘、帆船6艘が停泊している。
私達は小型魔導船に近づき船長に声を掛ける。
「船長、帝国艦隊はどの位で来ますか?」
「報告では、あと1時間もせずに敵影が確認できるはずです」
「では、作戦通り、最初は様子見をして、敵が近づいて来たら大型魔導船を狙いますね。敵が近づいて来なかった場合は、夜まで待機します」
「頼みます」
フォートレス号の陰に2艘並んで停泊し、帝国艦隊を待つ。ドロテアがこちらに乗り移って来た。
「どうしたの?」
「アレシア、小型魔導船と小舟の魔導船はともかく、帆船やガレー船で大丈夫なのかしら?」
「ドロテア、私が知ってると思うの?」
「軍議には出たんでしょ。何か聞いていないの?」
「えーっと、帆船は狭い場所で戦うのは向いていないらしいわ」
「……それだけなの?」
「いろいろ聞いたんだけど、よく分からなかったのよ。ただ、風向きが重要だから、攻めて来る帝国側が有利な風向きで攻めて来るだろうから、不利だって言ってたわね」
「じゃあ、なんで帆船を出してきてるのかしら? 沈められるだけよね?」
「だから帝国から奪った帆船しか来てないでしょ。なんか無茶な使い方を言ってたわ。その為に小舟の魔導船を商会からも借りて来てるみたいよ」
「無茶って何よ。それに借りて来られるのなら、小型魔導船を借りてくればよかったじゃない。ルッカなら所有している商会もあるでしょ?」
「帆船を小舟の魔導船何艘かで引っ張って、抜けて来た船にぶつけるらしいわ。小舟の魔導船は引っ張るのとぶつかる寸前に飛びおりた兵士の回収係だそうよ」
「……無茶ね。可能なの?」
「さあ? 作戦を立てていた海軍のトップは自信満々だったけど、他の人達は止めていたわね」
「なんか嫌ね」
「ええ、魔導士様の船にもちょっかいを出そうとしてきたわ。侯爵様が止めてくれたけど、嫌な目つきで見て来たわ」
魔導士様にちょっかいを出して見捨てられたら如何するつもりなのかしら。私達に協力してるのだから女に弱いって言ってるけど……あながち的外れとは言えない所が不安ね。
「絶対に面倒事が起こるじゃない……家族の避難を魔導士様にお願いした方が良いかしら?」
「そこまでするかしら? 魔導士様に見捨てられたら、ルッカはかなり危険になるわよ」
「今回の海戦で帝国艦隊に勝てば、船でルッカを攻めて来れなくなるわね。聞いているだけで、余裕が出来たら余計な事をしそうな人に思えるわ。魔導士様を利用してブレシア王国を救うとか言い出すんじゃない?」
「……確かにそうね。傲慢で貪欲な人間に見えたわ。権力欲も強そうだったし、関わりたくないわね」
「関わり合いになりたくなくても、向こうから来るわよ。私達以外は魔導士様と接点が無いもの。初めは誘ってくるだけでしょうけど、誘いを断ったら危ないわ、ろくでもない事をしてくる可能性があるわね」
「……本気で家族の避難も考えておきましょうか」
「ええ、そうした方が良さそうね。そういえば、なんて人なの?」
「ヤコポ子爵って言ってたわね。ルッカ海軍の隊長だったかしら?」
「なんでルッカ海軍のトップなのに隊長なのよ」
「ルッカ海軍は規模が小さいのよ。近くに海軍本部があるし、城壁も立派だから、ある程度の自衛が出来れば問題無かったみたいね」
「権力欲が強いなら、そこら辺でも不満を溜め込んでそうね。アレシア、魔導士様に会ったら必ず家族の事を頼むのよ」
「ええ、分かったわ」
ルッカと家族の事だけで精一杯なのに、貴族との揉め事に巻き込まれそうなんて、無かった事にならないかしら?
誤字脱字、文面におかしな所があればアドバイスを頂ければ大変助かります。
読んで頂いてありがとうございます。