20話 海戦とレーザービーム
~アレシア視点~
帝国海軍が再びルッカに向かっている。発見した偵察の報告では、大型魔導船2艘、中型魔導船5艘、小型魔導船、ガレー船、帆船、多数だそうだ。
海上封鎖から解放され、ルッカは各地に情報収集の為の人員を派遣した。一番早く戻って来たのはルッカから北に1日の所にある王国海軍の本部に向かった船だ。
予想通り、王国海軍本部は帝国海軍に落とされ、港は帝国の物になっているようだった。
ワタルさんが食料を仕入れに行ってから、まず私達はガレット号を都市内に運び入れる事に苦労したわ。私たち以外触る事すら出来ない船を運ぶ為に、帝国軍からも注目される中、ロープを船体に何本も結び付けて、呼んで来た兵士に荷車まで引っ張り上げて貰ったわ。
その後、私達は家族を集め、もしもの時に脱出する準備と、私達が目立った分、私達の家族が狙われる可能性を伝え、慎重に行動するように促した。
本来なら護衛を雇いたかったけど、戦争状態のルッカでは雇う事が出来なかった。侯爵様に頼めば何とかなったかもしれないんだけど、兵士に守られたら目立つし、腕利きは派遣できないだろう。かえって害になりそうなので止めた。
私達も実家に居ると、家族を巻き込む事になりそうなので、侯爵様が用意してくれた、一軒家で生活している。
侯爵様はフォートレス号に積極的に武器と兵士を配置している。帝国軍からも散発的な攻撃はあり、小競り合いは起こるけど、本格的に攻めては来ない。あちらもルッカを封鎖していた海軍が全滅した事に動揺しているみたいね。
制海権を得た事で、海側に配置されていた帝国陸軍を引かせ少しだけルッカの包囲が緩んだ。好転の兆しに少しホッとした雰囲気が流れた時、帝国海軍発見の一報が届けられた。
「アレシア、帝国海軍が発見されたって聞いたのだけど、侯爵様からの呼び出しはその件なの?」
「ええ、イルマ、その通りよ。大型魔導船2艘、中型魔導船5艘、他多数だそうよ」
「多いわね。大丈夫なのかしら?」
「分からないわ。私達もガレット号で戦いに出る事を考えないとね」
「何かあった時の為に置いて行ってくれたんだから、戦うのは問題無いと思うんだけど、その間のルッカが心配ね」
「ふー、イルマの言う通りね、難しいわ。ルッカも迎撃準備は出来ているんだから、大丈夫だとは思うんだけど……」
「アレシア、魔導士様から頂いたチケットで避難はしないの? フォートレス号なら安全でしょ?」
「クラレッタの言いたい事も分かるけど。追い込まれてもいない状況で、軽々しくチケットを使う訳にはいかないわ。所持している事がバレたら、何とか入手しようと揉め事が起こるわ」
「あー、そうですね。最後の切り札として取っておかないと駄目ですね」
「ええ、使う事が無いのが一番ね。今の状況だとルッカの守りを信じて、ガレット号で帝国海軍と対峙するのがルッカの為になると思うけどどうかしら?」
「でも大型、中型の魔導船は私達だけでは手に余るわよ」
「うーん、そうだったわね。前に戦った時より4人少ないし、沈めるのは厳しいわね」
イルマの指摘はもっともなんだけど、都市内で引き籠ってるのも不味い気がするのよね。どうしたらいいのかしら?
「私が使わないのが一番って言ったけど、チケットを使って、腕利きに乗船してもらう?」
「それは……魔導士様は避難の為にチケットをくれたわ。それを使って戦力強化は止めておいた方が良いわね。どうしようもない状況なら納得してくれるでしょうけど、今の状況でガレット号の力を実力者に見せるのは怖いわ」
「でも、アレシアが言った方法なら大型船も対処できますよね。結局フォートレス号で力を見せる事になるんですから、怒られないんじゃ?」
「魔導士様が自分で納得して力を見せるのと、私達が勝手に見せるのでは意味が違うわ」
「確かにそうね、イルマの言う通りだわ。私達は魔導士様を怒らせる事は絶対に駄目なの。自分達で出来る事を考えましょう」
そうだったわ、ワタルさんは目立つのを酷く嫌うわ。今の状況で見捨てられたらルッカは耐えられない。簡単に怒って見捨てるような人ではないんだけど。絶対でもないんだから、注意しないと。
「「はい」」
「小型魔導船と、帆船、ガレー船は沈められるから、そちらを沈めながら、大型、中型の魔導船を牽制出来れば良いのだけど、数が多いのよね」
「おそらく全部は防げないわよね」
「ええ」
「アレシアもイルマも沈める事を考え過ぎじゃないかな、時間稼ぎして、魔導士様達が戻って来るまで耐えられれば、海戦で負ける事は無いと思うんだけど」
「時間稼ぎ……そうね、時間稼ぎなら出来るわ。クラレッタ、素晴らしいアイデアよ、ありがとう」
「ふふ、どういたしまして」
「それで、アレシア、時間稼ぎの方法は思いついたの?」
「ええ、思いついたわ、イルマ、クラレッタ、今から話す事が可能かどうか判断してちょうだい」
「「わかったわ」」
「まず、このまま帝国海軍を待っているのは駄目だと思うの。数が違い過ぎるから、フォートレス号とガレット号があっても、港の奥まで侵入される可能性は高いわ。それに合わせて帝国陸軍が攻めて来たら手が回らなくなるわ。
だから、私達は此方に向かってくる帝国海軍に、こちらから攻撃を仕掛けるの。ガレット号ならやられる事はないわ、艦隊の中に突入して、引っ掻き回せるだけ引っ掻き回せば、混乱して船足は落ちるはずよ。
小型魔導船、ガレー船、帆船なら私達だけでも沈められるわ。特に小型魔導船を減らしておけば、ルッカに帝国海軍が到着した時、かなり楽になるはずよ。どうかしら?」
「そうね……出来そうね。最初から大型、中型の魔導船は無視して、沈められる船をドンドン沈めて行きましょう。そうしたら大型、中型の魔導船は、守る為に行動を起こさなきゃならなくなるわ」
「うーん、やられている船を見捨てて、大型、中型の魔導船だけで先行する、なんてことはありませんか?」
「クラレッタ、さすがにそれは無いわよ。それで勝っても罰を受けるはずだわ。仮に先行したとしても、小型魔導船やガレー船、帆船を壊滅出来ればかなり守りやすくなるわね」
「じゃあ2人とも、この方法で問題無いかしら? 無いのなら2人は準備とガレット号を運ぶ人数を集めておいて。私は侯爵様と話してくるわ」
「「はい」」
城に向かい侯爵様との面会を要請する。こんなに何度も侯爵様と会うなんて考えた事も無かったわ。魔導士様の後ろ盾? 効果か侯爵様は、私達に情報を流してくれるし、便宜も図ってくれる。
有難い事だけど冒険者としては息苦しく感じるわね。出来るだけ侯爵様に行動の許可を得るように言われちゃったし。まあ、知りたいのは私達の行動じゃなくて、魔導士様の行動なんでしょうけど。
「ご案内します」
「ありがとうございます」
案内されて侯爵様の執務室に通される。
「先ほど軍議で会ったばかりだが、何用かね」
「お忙しい中、申し訳ありません。帝国海軍の足止め方法を思いつきましたので、許可を頂きに参りました」
「それは助かる話だな。どのような作戦か聞かせて貰おう」
「はい、敵船の数が多い為、ルッカの側での防衛は不利だと考えました。魔導士様からお預かりした船で、こちらに向かって来ている艦隊に攻撃をしかけ、足止めするつもりです」
「……それは、無謀な話だと思うのだが、勝算はあるのかね?」
「はい、十分に御座います。ただ、大型、中型の魔導船は手に余ります。小型魔導船を重点的に減らす予定です」
「ふむ……それは、私達には説明できないが、何かがあると考えても良いのだな」
「はい」
「分かった、よろしく頼む」
「はい」
侯爵様の許可を取り、イルマ、クラレッタと合流してガレット号を運び海面に下す。
「ふー、じゃあ行くわよ」
「「はい」」
全速で北に向かって走行する。相手は艦隊を組んで、足の遅い船に合わせて走行している。少しでもルッカから離れた位置で捕捉出来れば、その分、攻撃が出来る。……全速で飛ばす事2時間、帝国艦隊を捕捉する。
「艦隊を見つけたわ。突っ込んだら小型魔導船を狙うわ。暫くしたら離脱、少し休憩したら再突入、後はこれの繰り返しよ。沈められるだけ沈めるわよ。良いわね」
「うふふ、準備万端よ」
「はい、頑張ります」
帝国の艦隊に一気に突っ込み、小型魔導船に横付けして、魔法を叩き込む。大きな穴を開けると、次の目標に向かって船を走らせる。
艦隊もガレット号に攻撃を打ち込んでくる。
「この前より断然攻撃が激しいわね」
「アレシア、昼間だもの当たり前でしょ。明るくて簡単に狙われるわ」
「それもそうね」
4艘目の小型魔導船に大穴を開けて、次の目標に向い発進した後ろを、太い光の柱が通り抜けて行った。
「な、なに今の、小型魔導船を貫いて行ったわよ。光魔法なの?」
「分からないわ、でも考えてる暇は無いわ、アレシア、次に行きなさい。出来れば船が何艘か重なってる場所を狙って」
「え、ええ」
「クラレッタ、多分あの大型魔導船から撃たれた魔法よ。あなたも注意していて」
「分かったわ」
……暫く走り回り、小型魔導船7艘、帆船2艘を沈めた後、離脱する。
「ふー、さすがに疲れたわね」
「ええ」
「私も疲れました」
「あの光の魔法、あの後一度も撃って来なかったわね。何回も撃てないのか、イルマの指示で船が重なっている場所を狙ったのが良かったのかしら?」
「どうかしら? あんな魔法を見た事がないから判断が出来ないわ。クラレッタはどう?」
「私も見た事ありません。ただ、普通の光魔法とは違うと思います。もしかしたらユニークスキルかもしれません」
「この船の結界ってユニークスキルを弾けるのかしら?」
「試すのは怖いわね。アレシア、つづける?」
「私は大丈夫だと思います。ドラゴンブレスを弾き返すそうですし。何より、神様から賜ったユニークスキルは特別です」
「そうね、このまま引き返しても、ルッカに来たら戦わないといけないわ。作戦通りここで数を減らしましょう。弾けるのかをわざわざ試すのは怖いから、なるべく重なった船を狙うわね。
クラレッタが言った通り大丈夫かもしれないけど、避けられる危険は出来るだけ避けましょう。クラレッタは大型魔導船に注意を払って。当たったらその時はその時よ。良いわね」
「「はい」」
船が重なっている場所、もしくは大型魔導船から陰になっている場所を狙い、何度も艦隊に突入する。偶に放たれる太い光の柱を何とかやり過ごし、船を沈めていく。
「かなりキツイわね。でもあの光の魔法は、船が重なっていない場所でも撃って来ないわよね?」
「ええ、アレシアの言う通りね。魔力の問題か、制限があるみたいね」
「私達もそろそろ魔力がキツクなって来ました。小型魔導船は殆ど沈めましたし、ルッカに戻りますか?」
「……そうね、魔導船じゃなければルッカでも対応出来るし、光の魔法の事も報告しておきたいわ。戻りましょうか」
「「はい」」
「でも、あれだけやられたんですから、帝国艦隊も引き返しても良いと思うんですけど」
「そうね、私達が大型、中型の魔導船に手を出せなかったし。ルッカを落とせば関係ないと考えてるのかもね。まあ、戻って出来るだけ体を休めましょう。イルマもクラレッタも寝ていても良いわよ」
「アレシア、眠れるような操船をしてくれるの?」
「全速で戻るから無理かしら?」
「じゃあ、眠れないわね」
「ふふ、そうね、じゃあ戻るわよ」
「「はい」」
ルッカに戻り、疲れた体に鞭を打ち、ガレット号を都市内に運び込む。小型の魔導船を殆ど沈めた事、特殊な光の魔法の事を報告する。魔法の詳細を話すと、軍では有名らしく、レーザービームと言うユニークスキルだそうだ。
連射は出来ないが、威力はかなりの物で、港側に凄腕の結界師を配置する事になった。
~アレシア視点終了~
「あー、完全に戦ってるね」
「アレシアさん達がですか? ご主人様」
「うん、急停止、急発進、蛇行、逆走してる。シアはどう思う?」
「完全に戦ってますね」
「うん」
「ご主人様、ドロテアさん達はまだ着いていないですよね?」
「うん、まだまだ掛かるね」
暫く、リムと戯れたりしながら、ガレット号に注意を払う。
「あっ、ルッカの方に戻ってる。だいぶ長い事戦ってたよね。全滅させたのかな?」
「それだけ時間が掛かったのなら、大型、中型の魔導船もいますよね。全滅は厳しいと思います」
「あー、そうだね。ドロテアさん達も無駄足にならずに良かったのかな?」
「どうでしょう? マリーナは喜ぶかもしれませんね」
「あはは、ネスだったら喜んだ?」
「秘密です」
「秘密ならしょうがないね。あとでマリーナさんに聞いてみよう。ルッカに到着したら忙しくなるかもしれないから仮眠しておこうか」
「「はい」」
誤字脱字、文面におかしな所があればアドバイスを頂ければ大変助かります。
読んで頂いてありがとうございます。