19話 乗船拒否の確認と動き出した帝国軍?
「荷物も積み込み終わりましたし、商会長にも挨拶はしました。もう夜ですが自動操縦でルッカに戻りますか?」
「魔導士様、はやくルッカに戻れるのは嬉しいのですが、外に潜んだままの侵入者はどうしますか?」
「ああ、それは出航前にチケットを取り消して、乗船拒否で弾き出す予定です。陸も近いので大丈夫だと思うんですが。ドロテアさんはどう思いますか?」
「そうでしたか、それなら大丈夫だと思います」
「じゃあ、侵入者を弾き出してからルッカに向かいましょう。それでいいですか?」
「「「「「はい」」」」」
「チケットの取り消しは初めてなので、どうなるのか見たいのですが、様子が見える位置にいる侵入者はいますか?」
「私が分かります。後方のデッキに居る侵入者は見づらいですが、前方のデッキに居る侵入者は上からよく見えます。後は積み荷の間に隠れているのが3人です」
「えっ? 駐車場にも居るんですか?」
「はい、報告が遅くなって申し訳ありません」
「いえ、大丈夫です。積み込みが終わったばかりで、報告する時間なんてありませんでしたよね」
「ありがとうございます」
「そうなんですか。マリーナさん、取り合えず前方デッキの方の侵入者が見える場所に案内をお願いします」
「はい」
マリーナさん斥候職だけあって侵入者の位置を把握しているのか、凄く優秀なんだよね。でも頭の上にふうちゃんを乗せて歩いて行く姿は、優秀な斥候には見えないな。
「ここからよく見えます。あそこの物陰にいますね」
「えーっと、ああ、分かりました。あの2人ですね」
「はい」
「じゃあ、あの2人のチケットを取り消してみますね」
「はい」
女性陣がワクワクした顔で侵入者を観察している。完全に楽しんでるな。えーっと、メニューのチケット発行画面で……あの2人のチケットが……どれか分からないな……どうしよう?
2人に目を向けるとチケット覧の2枚が点滅した。……便利だな。取り合えず取り消してみるか。ん? 別にチケットを取り消さなくても乗船拒否をすればいいだけなんじゃ……まあいいか。
2人が持っているチケットを消去すると、乗船許可が取り消され2人の体が何かに放り投げられたように海に飛んで行った。
「……生きてるでしょうか?」
「斥候職で鍛えている者達でしょうから死んではいないと思います」
よく考えなくてもフェリーの上から放り出されたら危険だよね。
「ああ、2人ともあそこで泳いでいます。生きてますね」
良かった。戦争に協力して、僕が召喚した船が人を殺したのは理解しているけど。殺すつもりも無くてうっかり人を殺しちゃったら、侵入者といえど罪悪感がハンパない。
「あんな感じで船から放り出されるんですね。船内にいる人間はどうなるんでしょう?」
ドロテアさんは全く気にしないで、状況を分析している。
「さあ、そう言えばどうなるんでしょうね」
試しておくべきか? でも実験で人が死んだらさすがに気まずい。スピーカーで帰るように促すか。
「思った以上に危なそうなので侵入者に帰るように言いましょうか。領主様から派遣されているのなら、死んじゃったら関係が悪化するかもしれませんし」
「そうですか? 侵入者なのですから、どうなっても問題は無いと思いますが」
ドロテアさん、意外と怖い考え方をするな。驚いて周りを見ると、他の皆も当然だよねって顔をしてる。これが文化の違いか。まあ僕の心の平穏の為に一度ぐらいはアナウンスしておこう。
それでも帰らなかったら実験に付き合ってもらおう。そこまでは責任持てないよね、自業自得だ。
「まあ、スピーカーで注意だけしておきます。帰らなかったら放り出すだけですね。マリーナさん、駐車場にいる侵入者を見張って貰えますか? 出て行かなければ船内からどう放り出されるのか確認したいんで」
「分かりました」
ブリッジに行ってマイクのスイッチをオンにする。
「えー、現在、無許可で乗船されている皆様にお伝えします。10分後にチケットを取り消しますので、強制的に船外に弾き出される事になります。危険ですので自分で出ていく事をお勧め致します。積み荷の間に隠れている方達も、乗車口を開けておきますのでそこからお帰り下さい」
「ご主人様、侵入者にそこまで気を使う必要がありますか?」
「気を使う必要は無いんだけど、僕の心の平穏の為には必要なんだ。ネスは甘いと思う?」
「そうですね、少しでも情報を多く持ち帰らせる事になるので、問答無用で放り出しても良かったと思います」
「うーん、確かにチケットが取り消せる事を話したけど、チケットが消えてれば気が付くと思うよ?」
「それだけでなく、船内放送や、侵入者に対する対応が甘い事が向こうに分かります」
「あー侵入者に甘いって分かると、相手も人を送り込みやすくなるね」
「はい」
そうか、甘い事言ってたら危険が増えるだけか。今度からは問答無用で放り出そう。自分の危険を増やしてまで侵入者を助けるのは割に合わない。
無理してこの世界に染まるつもりも無いけど、命の危険が増えるのなら、出来るだけ慣れておこう。しっかり稼いで豪華客船を買って、美人メイドさんも雇って、淫らで堕落した引き籠り豪華客船ライフを送る為なら、侵入者の命など犠牲に出来る。
「今度からは問答無用で放り出すよ」
「はい、そうした方が良いと思います」
雑談しながら時間を潰す。そろそろ10分経つな。何人かは帰ったかな? 駐車場に向かい、マリーナさんと合流する。
「侵入者は帰りましたか?」
「いえ、全員残っています」
「そうですか確認できる場所はありますか?」
「いえ、あの辺りに潜んでいますが、障害物が多くて姿は確認できません」
マリーナさんが指をさす方向を見ても真っ暗で何も見えない。大体の位置が分かっていればチケットを取り消せば何が起きるか少しは分かるだろう。
「じゃあチケットを取り消しますね」
「「「「「はい」」」」」
今度は指定してチケットを取り消すのではなく、今回発行した60枚のチケットの残り58枚を全部消去する。
チケットを消去すると同時に隠れている場所が淡く光り、女性陣が確認に向かう。どうなったんだろう?
戻って来たシアに話を聞くと、魔法陣が出ていて、侵入者が吸い込まれていったそうだ。
「えーっと、船内の場合は魔法陣で吸い込まれるって事だよね……なんで統一されてないんだろう?」
「どうしてでしょう?」
「うーん、魔法陣に吸い込まれて、何処に出て来るの?」
「出て来るんですか?」
「え? ……出て来ると思うけど……」
出て来るよね? 吸い込んで出てこないとか怖すぎる。
「まあ考えても分からないか。レストランの封鎖を解いて夕食にしよう」
「はい」
乗車口を閉じて、レストランに戻る。
「あそこで泳いでいる人が居ますね。泳いでいる人数を数えれば、魔法陣に吸い込まれた侵入者がどうなったのか分かるかもしれません」
「あっ、そうですね。マリーナさん、お願いしても良いですか?」
「分かりました」
レストランで夕食を取っていると。マリーナさんが戻って来て、6人の泳いでいる侵入者を確認したそうだ。うん魔法陣に吸い込まれても外に放り出されるだけみたいだ。ちょっと安心したよ。
「ルッカに向かって自動操縦を設定しました。明後日の夜中にはルッカに到着します。何処か使いたい施設があれば開放しますので言ってください」
「ご主人様。展望浴場の開放をお願いします」
「私は売店を開放して欲しいです」
「分かりました。ネスは展望浴場、カーラさんは売店ですね。夕食後開放しておきます」
「「ありがとうございます」」
食事を終えて、ゆっくりお風呂に入り部屋に戻る。フードを外してのんびりするとやっぱり落ち着くな。
「ご主人様、質問があるんだけどいい?」
「ん? いいよ」
「ルッカの防衛と脱出、今の状況なら防衛が選択されるわよね?」
「うん、イネスの言う通りだね。それがどうしたの?」
「防衛だと、かなり時間が掛かりそうで終わりが見えないけど、何か考えはあるの?」
「いや、考えてる事は無いよ。状況に流されただけだもん。やっぱり時間が掛かるかな?」
「ルッカは重要な貿易都市よ。なかなか諦めないでしょうし、王都が落ちたりしたら、もっと兵士が送られてくるわ。ブレシア王国が逆転しないと、防衛のままでずっと時間が過ぎちゃうわよ。ルッカが落とされたら早く終わるでしょうけど」
「あー、そうだよね。帝国が自分の国に帰って貰わないと、どうしようも無いんだ……面倒だよね。何か方法は無いのかな?」
「私は思いつかないわ。フェリシアは何かない?」
「ブレシア王国単独では厳しいですよね。耐えて獣王国やテッサロニキ王国の援軍を待つしか無いと思います」
「それはそれで、結果が出るまで時間が掛かりそうだね。……分かってた事だけど面倒な事に首を突っ込んじゃったよね」
「うふふ、そうね。でも断れなかったのよね」
「断れなかったね。しょうがないから、少しでも元が取れるように行動しよう。2人とも協力してね」
「「はい」」
取り合えず、難しい事は先送りにしてイネス、フェリシアと戯れながら眠りにつく。帝国に隕石でも落ちたら良いのになー。
朝、日課を熟して、何の予定も無いのんびりした時間を満喫する。ダラダラと過ごしながら、昼風呂に入ってお酒でも飲むかと考えていたら。アレシアさん達に預けていたガレット号が動き出した。
……ん? ルッカの港を出て北に向かっている……ただのお使いか、ストレス発散の可能性もあるんだけど……どうなんだろう? 取り合えず全員を集めて相談してみるか。
「魔導士様、どうしたんですか?」
「ドロテアさん、ガレット号が動き出して、ルッカを出て北に向かっています。帝国軍が動いた可能性もあるんですが。どう思いますか?」
「城門内に運び込んだはずのガレット号をわざわざ動かしたのなら、相応の理由があると思います。帝国軍が動いたのかもしれません。北には王国の海軍本部がありましたが、ルッカに帝国海軍が来た事で壊滅の噂も出ていました」
「その可能性がありますよね。ガレット2号の全力なら今日の夕方には到着出来ると思います。ドロテアさん、マリーナさん、カーラさんで先行しますか? 何も無かったら無駄になりますが、何かあった時に間に合わないよりマシでしょうし」
「……そうですね。ガレット2号をお願い出来ますか?」
「分かりました。準備が出来たらタラップ前に集合してください」
「「「はい」」」
ガレット2号を召喚して先行していく3人を見送る。僕達もガレット3号で行けば一緒に行けるんだけど、わざわざ戦いに巻き込まれたくないので止めておいた。
「ご主人様、大丈夫でしょうか」
「うーん、多分大丈夫だと思うよ。ガレット号に乗ってるって事は海戦なんだろうし。ガレット号なら負ける方が難しいよね」
ネスって言葉では心配してるけど、戦いに付いて行けなくて残念そうに見えるのは気のせいかな?
「確かにそうですね。ですがそれならドロテアさん達を援軍に出したのは無駄になりませんか?」
「うん、シアの言う通りだけど、前回の戦いで大型魔導船を沈める時は、みんなで何回も攻撃したんでしょ? 一応援軍が居た方が良いと思ったんだ」
「私とジラソーレ全員の攻撃を3回も耐えましたから。少人数だと時間が掛かりますね」
「うん、大型魔導船は希少って聞いたけど、国なら何艘か持ってるだろうし。それがルッカに投入されると面倒だよね。まあガレット号は今の所真っすぐ走ってるだけだから、戦ってはいないと思うけど。ドロテアさん達が間に合うかな?」
これで実際には何も起こっていなかったらちょっと恥ずかしいな。
誤字脱字、文面におかしな所があればアドバイスを頂ければ大変助かります。
読んで頂いてありがとうございます。