17話 オーフス到着と高速プルプル
久しぶりのバイキングを満喫した翌朝、日課を済ましてフードを被り……朝集まる場所を決めてなかったな。
「ネス、シア、皆は何処に集まると思う?」
「そうですね、フォートレス号の習慣ではレストラン横の自販機コーナーですから、レストラン前に集まってるかもしれませんね」
「私もネスと同意見です」
「じゃあ、レストランに行ってみよう」
「「はい」」
レストランに着くとネスとシアの予想通りみんなが集まっていた。僕が鈍いのか、彼女達が鋭いのか……残念ながら前者のような気がする。
「みなさん、おはようございます」
「「「おはようございます」」」
「朝食バイキングで構いませんか? もう一つお店がありますし、きついなら出来合いの物を出しますが」
「朝食バイキングが食べたいです」
素早く宣言したカーラさん。他の人も問題無いそうなのでレストランに入る。
今朝の気分は和食なので、サケの切り身と厚焼き玉子、味噌汁にお漬物。シンプルだけど美味しそうだ。リムには同じ物にソーセージをプラスする。
なんか異世界に来てからの方がきちんと朝食を取っている事が不思議だよな。体を動かすようになったからか、朝食をきちんと食べないと力が出ない。異世界に来る前は夜中まで起きていて、朝食も取らず、今考えると不健康な生活をおくっていたな。
和食を食べ終え、次は洋食でメニューを揃えゆっくりと食べる。普通に食べるとバイキングの魔力で食べ過ぎで動けなくなるからな。朝からそれは不味い。
朝食を食べ終え、自販機の前のソファーで缶コーヒーを飲みながら今日の予定を話し合う。
「おそらくですが、普通の魔導船で4日の距離なら今日の夜には目的地周辺には着くと思うんです。そこから夜中も街を探しながら進むか、朝まで停泊して明るくなってから探すか、どっちがいいんでしょう? ドロテアさん達はオーフスには行った事が無いんですよね?」
「ええ、陸路で旅をしていましたから、オーフスには行ったことがありません。夜中でも明かりぐらいは点いているでしょうし、大体の場所は聞いてきましたが通り過ぎてしまう可能性を考えると、朝まで待って探した方が確実ですね」
「そうですね、では明日の朝まで殆どやる事は無いので自由行動です。何かしたい事があれば言ってみてください。ちなみに僕は軽く訓練した後に映画を観る予定です」
『りむもみる』
「分かったよ、訓練が終わってから一緒に見ようね」
『うん』
女性陣も映画を観るそうで、全員で訓練をしてから映画を観る事にした。何の映画を観ようかな……船繋がりでタイ〇ニック……氷山に激突しようとも傷ひとつ付かないだろうけど、縁起が悪いな。
カリビアンでパイレーツな奴を見ようか……今はまだコメディの方が受け入れられるし、音楽があると楽しめるんだよな……マ〇クにしよう。あれならコメディだし音楽も楽しい。喜んでくれるだろう。
訓練が終わり、お風呂で汗を流した後、お菓子やジュースを買い込み、シアタールームに向かう。
フォートレス号より圧倒的に広い。ステージがあり、ピアノも置いてある。ステージでショーが出来るようになっているが、ピアノってこの世界にあるのかな? 僕は弾けないし、無用の長物になる気がする。
ピアノの事は後にして映画を観る。予想通りマ〇クは受け入れられ、みんな楽しそうに観ている。スクリーンが大きくなると迫力も増すし、楽しい。
食事や休憩を挟み、映画三昧で1日を過ごした。
朝、日課を済まして、フードを被り意識を切り替える。レストラン前に向い、ドロテアさん達と合流する。
「おはようございます」
「「「おはようございます」」」
今日はオーフスに到着予定なので、もう一つのお店……うーん食堂って呼ぼう。食堂でモーニングを置いてあるメニューから注文すると、メニューの横にコイン投入口が現れる。
お金を払うと、テーブルに魔法陣が現れ、注文したモーニングセットが出て来た……不気味でしょうがないんですけど……
「ドロテアさん、これは食べる事が出来るんでしょうか?」
「そう言われましても、魔導士様のスキルの事は、私には分かりません」
「……食べてみるしか無いですよね。創造神様、信じています」
恐る恐るサラダを食べてみると、普通のサラダだった。これで問題無いのか?
「魔導士様、大丈夫ですか?」
「……はい、味も普通ですし、今の所、問題はありません」
まあ、創造神様が施設も使えるって言ってたし大丈夫なんだけど、魔法陣から食べ物が出て来るのは微妙だな。まあ、召喚した船から食べ物を取り出す時点で今更か。今後は気にしない事にしよう。
女性陣も注文して、出て来たモーニングセットを恐る恐る食べ始める。今日の予定を話しておくか。
「今日は出航後、オーフスを探しながら進みます。船の出入りもあると思うので、直ぐに分かるでしょうが皆さんも注意しておいてください」
「私達もデッキに出て確認した方が良いですよね?」
ドロテアさん気合が入ってるな。
「うーん、街を見逃すとは考え辛いのでデッキでの確認は大丈夫ですよ。それよりはオーフスに着いてからですね。ストロングホールド号では座礁してしまって、港の中には入れないでしょうし……」
「大型船も入港するらしいですから、中まで入れませんか?」
「大型船の倍位の大きさですし、ルッカでも、港近くは無理そうでした。オーフスでも厳しいと思います」
「そうですか。色々とゴッフレード商会と話し合わないといけませんね」
「ええ、食料の代金として預けられたお金も20白金貨と大金でした。買えるだけ買って来いって事なんでしょうね」
「20白金貨分の食料ですか……ルッカの住人は2万人弱ですから、必要なんでしょうね。それ程大量に仕入れられるのでしょうか?」
「それもお店に相談でしょうね。まあここで話していても分かりませんし、出発しましょうか」
「はい」
「ご主人様、ルト号で先に見てきましょうか? 見つけてそこで停泊していればご主人様なら位置も分かりますし」
「それは良いね。オーフスに着いてからルト号を召喚するのも目立つし、ネス、お願いね」
「はい」
「では、私もご一緒します。港に着いたらゴッフレード商会に魔導士様の事を言付けてから、領主様に手紙を届けに行ってきます」
「んー、それなら人数が居た方がいいですね。僕の方にはシアに付いてもらって、マリーナさんとカーラさんにもルト号で先に行って貰いましょうか?」
「魔導士様に従者が1人では違和感が出ます。カーラは残して魔導士様の護衛で、私が領主様の所に、マリーナがゴッフレード商会に、ネスさんがルト号で待機が良いと思います」
「分かりました、ではマリーナさんに侯爵様の手紙を渡しておきますね」
「いえ、それは魔導士様からお願いします。手紙に魔導士様の事が書かれている場合もありますので」
「そ、そうですか」
あー、僕が頼まれたんだから、僕の事を書いてあるか。怪しい魔導士が店に行くって書いてあるのに、マリーナさんが来たら違和感があるな。
「分かりました。では準備が出来たらタラップ前に集合でお願いします」
「「「はい」」」
「あっちょっと待ってください。先にチケットを新しくします」
ストロングホールドを加えたチケットを、全員分発行して渡し、準備の為に散会する。
ふー、ルト号で先行するのは考えてなかったな。先に行って準備をしてもらえれば、僕はずいぶん楽になるんだけど、任せっきりだと申し訳なく感じるな。
まあ、必要な所は頼って貰えるだろうし、出来る事はしっかりやって行こう。
「ネス、停泊料とかお金が掛かるだろうから、これを持って行って」
「分かりました」
10銀貨ともしもの為に1金貨を渡しておく。準備を整え、タラップに向かうと全員揃っている。冒険者って準備が早いよね。先行するメンバーを見送り、食堂に戻りコーヒーを飲みながら話し合う。
「ルト号で先行してもらったので、船の位置は分かります。のんびりしていて問題無いので、自由行動にしましょう。ルト号が近づいたら呼び出しますね」
「「はい」」
予定が変わり、ポッカリ時間が空いたな……マッサージチェアでまったりしよう。何となく居場所が分かる3艘の船を確認しながら……おお、ガレット号が動けばルッカに何かが起きてるって分かるんだ。偶然だけど、ガレット号を置いて来たのは正解だったね。
もしガレット号が高速で動き回れば戦闘中って事だし……アレシアさんがストレス発散の為にガレット号で爆走したりしなければね。……戦争中にそんな事はしないと信じたい。
『わたる』
「ん? リム、どうしたの?」
目を開けると、リムと、シアがいた。お菓子を食べるからってシアに付いて行ったんだけど、食べ終わったのかな?
『りむもぶるぶるする』
「……リムもマッサージチェアに座りたいの?」
『うん』
……スライムにマッサージチェアは大丈夫なのか? それ以前にマッサージが必要なの?
「んー、レベルも上がってるし大丈夫だとは思うけど、危険そうだったら直ぐにどくんだよ」
『わかった』
ちょっと不安だけどリムをマッサージチェアの上に乗せてみる。……肩とか背中が無意味だな。お尻部分の振動で、リムが今までに無いほど高速でプルプルしている。
「リ、リム、だ、大丈夫? 凄いプルプルしてるよ。気持ち悪くなってない?」
『たのしい』
たのしいのなら良いのか? 不安だけど楽しいのなら止め辛い……
「ご主人様、リムちゃん大丈夫なんですか?」
シアも不安そうにしている。そうだよね、あの高速プルプルは不安になるよね。
「僕も不安なんだけど、リムは楽しいらしいんだ。どうしよう?」
「楽しんでるんですか……危険を感じていないのなら大丈夫……なんでしょうか?」
「判断できないよね」
「はい」
レベルはそこらへんの冒険者よりも高いし、過保護すぎるのも駄目なんだけど、スライムのマッサージチェアとか状況が不思議過ぎて心配してしまう。
オロオロしている僕達をしりめに、リムは楽しそうな意思を伝えて来る。暫くハラハラしながら見守っていると、マッサージチェアが止まった。
ふー、やっと終わった。自分がマッサージチェアに座っていると物足りないのに、今回はかなり長く感じた。
『おわり?』
「うん、時間が来たからこれで終わりだね」
『もっと』
もっと? それは無理だ。心配で心が持たない。
「うーん、リム、今回はこれで終わりだよ。初めてだから、様子を見ようね」
『……うん』
悲しい意思が伝わってきたが、リムは我慢してくれた。リム、本当に良い子だ。
「我慢出来て、リムは偉いね」
『えらい?』
「うん、リムはとってもいい子だよ。食堂に戻っておやつを食べようか」
『うん』
ここぞとばかりにリムを褒め上げお菓子で気をそらす。なんかおやつで釣るとかリムに申し訳ないが、続けての高速プルプルは阻止したい。
食堂に戻りリムの為にホットケーキを注文する。魔法陣から出て来たホットケーキに、リムは喜びながら飛び付く。躊躇いの無い所が可愛い。
カーラさんも合流して、まったりと雑談する。
「魔導士様、この船に自販機コーナーが無いのが悲しい」
「そうですね。自販機コーナーは僕も好きです。まあ、この船には自販機コーナーが付いていない分食堂があるので、ここで楽しんで下さい。フォートレス号も、戦争が終われば戻って来ます。その時は自販機コーナーで騒ぎましょうか」
「はい」
カーラさんって不安が減ると、減った分の興味が食べ物に向かうな。美味しい食べ物を供給し続ければ、いつの日にか恋人に……無理だな。美味しい食べ物に夢中になっている姿しか見えない。
ん……ルト号が止まって暫く動いてない。オーフスに着いたっぽいな。1時間も掛からない距離だし、下船の準備をするか。
「カーラさん、シア、ルト号が停泊しました。1時間も掛かりませんので下船の準備をお願いします」
「「はい」」
ゆっくりと装備を整え、デッキに出て街を探す……ルト号の向こう側に結構大きめの街が見える。ルト号の横を通り抜けて、座礁しないギリギリまで港に近づく。やっぱり港に横付けは出来ないか。ちょっと距離があるから物資を積むのが大変そうだな。
タラップを下し、寄って来たルト号に乗り移る。
「ネス、お疲れ様。問題はなかった?」
「はい、問題ありません。大きな船が港に来る事も、警備隊に伝えておきましたので、大丈夫だと思います」
……警備隊に知らせるの? ……ああ、いきなり見知らぬ巨大な船が近づいて来たら騒ぎになるか。なんか最近、自分の鈍さを自覚する事が多い……鈍感系主人公だね。
恋愛方面も自分が気が付いていないだけで、沢山の女性から好意を寄せられているはずだ。そうだったらいいなー。
誤字脱字、文面におかしな所があればアドバイスを頂ければ大変助かります。
読んで頂いてありがとうございます。