16話 出発とストロングホールド号
今回の更新で100話になりました。皆様に読んで頂けたおかげで辿り着く事が出来ました。
途中で長い修正期間を頂く、第零章の資料も含めての100話等、色々有りますが本当にありがとうございます。
完結まで頑張りますので、これからもお付き合い頂けたら本当に幸せです。よろしくお願い致します。
朝か、日課をじっくりと済まし、フードを被りサロンに向かう。また演技の1日が始まる。いい加減面倒になるが平穏な生活の為だ、しっかり意識して頑張ろう。
でも自分の船で誰に見せるでもない演技って虚しいよね。まあ演技が役立つ場面って僕が苦手な場面だろうから、今の状況は有難いか。
「おはようございます、アレシアさん、ドロテアさん」
「「おはようございます」」
朝食を取りながら今後の予定を話し合う。
「お2人はこの後どうされるんですか?」
「はい、私達は朝食のあと実家に顔を出して、メンバーと話し合って組分けをします。その後、城に向かい、フォートレス号の説明をして戻って来ます」
「うーん、それじゃあ、僕に付いて来る事になったら、ご家族とゆっくり話せませんね。出発時間を遅らせましょうか?」
「私は侯爵様との繋ぎで残る事になると思いますので大丈夫ですが、ドロテアはどう?」
「大丈夫です。顔を合わせる事は出来ますし、食料の輸入後にも会う機会はあると思いますので」
「そうですか。分かりました。では付いて来てくれるメンバーが集まったら出発しますね。急がなくても良いのでゆっくり戻って来てください」
「「はい」」
アレシアさん、ドロテアさんを港に送って行き、元の位置に戻る。
「ご主人様、お昼までどうされますか?」
「僕は120白金貨でどの船を買うのか、しっかり考えようかな。2人は自由にしていて」
「「はい」」
うーん、買うならフェリーだよね。使用目的で言えば貨物船なんだけど、フェリーの方が、新しい食事メニュー、漫画、お菓子、色々増えるからな。
……フェリーを買うのを止めて、120白金貨を貯めれば豪華客船が近くなるんだけど。フェリーで食料を運ぶって言っちゃったしな。素直にフェリーを買っておこう。
気になるフェリーをピックアップして慎重に見比べてみる。20白金貨分グレードが上がった船が買えるし悩むんだけど……買うならこれだな。
部屋もロイヤルスイートが使えるようになるし、食事も和、洋、中のバイキングで豪華になる。それに嬉しいのがシアタールームが大きくなり、スクリーンも何倍にもなる事だな。
女性陣もリムもふうちゃんも映画、ドラマが大好きだし、より迫力がある大きなスクリーンには大喜びするはずだ。
「ネス、シア、リム、買う船が決まったよ。画面を見てみる?」
「私は止めておきます。最初に実物を見た方が楽しそうですから」
「ネスの意見に賛成です。ハイダウェイ号の時もとても驚いて楽しかったので我慢します」
「まあ、フェリーはフェリーなんだから、豪華にはなったけどそこまで大きな違いは無いんだけどね。リムはどうする?」
『みる』
「じゃあこっちにおいで」
ポヨンと飛び付いて来たリムを抱きかかえ、画面をみせる。
「これが、今から買うお船だよ。色々見てみようね」
『うん』
「ほらここがシアタールームだよ。おっきくなったから映画ももっと楽しく見れるよ」
『おっきい』
「ここはレストランだよ。今度のレストランはメニューが沢山増えて色んな種類が沢山食べられるんだよ。楽しみだね」
『りむ、たくさんたべる』
新しいレストランメニューにリムは大興奮だ。部屋の中をポヨンポヨンと跳ね回る。
「ご主人様、そんなにメニューが増えたんですか?」
「うん、ネスも見てみる?」
「……ここまで我慢したので最後まで我慢します」
ネスもシアも興味はあるので、リムの喜んでいる姿を見て気になってしょうがないみたいだ。
「分かったよ。楽しみにしててね」
リムも喜んでるし、この船に決めた。貯金船を召喚して120白金貨を取り出し投入口に入れる。毎回思うが自販機にコインを入れるような感覚で、1枚1億円の白金貨が投入される事に違和感が凄い。
購入ボタンをポチれば120億……購入画面には沢山情報が載ってはいる。でも普通、高価な買い物を現物も見ないで買わないよね。
違和感を覚えながらも購入ボタンを押してフェリーを購入する。船召喚画面を確認すると、購入したフェリーは記載されているが、レベルが上がっていない。
120白金貨でレベルが上がらないんだ……豪華客船を買わないと次のレベルにはなりそうにないな。召喚は出航してから試そう。
「ご主人様、ガッカリされているようですが、どうかしましたか?」
「たいした事じゃないよ。船を購入したけど、船召喚のレベルが上がらなかったから、少しガッカリしただけなんだ」
「そうだったんですか。前回のフェリーを買った時に上がっていましたから、次は豪華客船を買えば上がるのかもしれませんね」
「うん、僕もシアの言う通りだと思うよ。豪華客船を買ってもレベルが上がらなかったら、どうしていいのか分からなくなるよね」
「そうですね。あっジラソーレの皆さんがお戻りです」
「分かった。迎えに行こうか」
「「はい」」
ルト号を港に寄せてジラソーレを迎え入れる。
「魔導士様、ただいま戻りました」
「皆さんお帰りなさい。取り敢えずサロンでお茶でも飲みながら、話を聞かせてください」
「はい」
「それで、アレシアさん、どんな感じでしたか?」
「はい、侯爵様はフォートレス号に非常にお喜びでした。チケットの数、船の位置は確認してから頼むかもしれないそうです。さっそくフォートレス号に人員と物資を配置してみると仰っていました」
「問題が無かったなら良かったです。戦争の方は帝国軍にあまり動きが無いのですが、何か情報はありますか?」
「はい、捕虜からの情報ですが、利用価値が高い貿易都市なので、最初から兵糧攻めを考えていたらしいです。港の封鎖を解かれたので、これから帝国軍が積極的に攻撃してくる可能性があるそうです」
「そのままルッカを再利用したかったんですね。ですが兵糧攻めが失敗しそうになっているので、作戦が力攻めに変更される可能性も高まったんですか」
「はい、ですが籠城で時間はたっぷりあったので、防衛の準備は万全だと仰っていました」
籠城の間、しっかり準備してたんだね。ただでさえ防御は固いらしいのに、そこに時間があるからとしっかりした準備が加わったのか。攻める帝国兵は悲惨な目に遭いそうだな。
「分かりました。出来るだけ早く買い物して来ますが、何かあった時の為にガレット号を1艘置いて行きます。都市内に運んで、必要になったら使ってください」
「良いのですか? フォートレス号と合わせて2艘を常に召喚している状態になってしまいますが」
「ええ、買い物に行くだけですから、十分です」
「分かりました。有難く使わせて頂きます」
「では、そろそろ出発しますが、一緒に行ってくれるのは誰ですか?」
「はい、ドロテア、マリーナ、カーラがご一緒します」
「分かりました。お願いします」
「「「はい」」」
ルト号の陰にガレット号を召喚する。まあ何処から船が現れたのかで能力はバレそうだけど、直接見せるよりはマシだろう。
アレシアさん、イルマさん、クラレッタさんはガレット号でルッカに戻り、僕達はオーフスに向かって出発する。
「魔導士様、そのままオーフスに向かわずに外海に出るんですか?」
「あっ、ドロテアさんには言ってませんでしたね。新しく船を買ったんで、外海に出て偽装を済ましてからオーフスに向かいます」
「ああ、そう言えば新しい船を買うんでしたね。どんな船を買ったんですか?」
「フォートレス号と同じフェリーですね。ちょっと大きく豪華になって……まあ、見てからのお楽しみですね」
「ふふ、分かりました」
ドロテアさんもだいぶ緊張感が取れたな。ルッカの無事を確認してもまだ硬かったのに、家族に会えてホッとしたんだろうな。
マリーナさん、カーラさんもルッカに向かう時に比べれば、断然明るくなっている。家族は偉大だね。
あっ、リムとふうちゃんがプルプルお相撲みたいな事してる……和む。
外海に出て、新しいフェリーに乗る為に全員でデッキに出る。
「どうします? いちど外観を見てから、もう一度召喚して乗り込むで良いですか?」
「ええ、大丈夫です」
「じゃあ召喚しますね。船召喚」
目の前に大きな魔法陣が現れ、フェリーが召喚される。
「改めて見るとフェリーってとても大きいですよね。この船の方がフォートレス号より少し大きいんですよね?」
「ええ、まあ僕には両方とも大き過ぎて、大きさの違いがよく分からないです。ドロテアさんは分かりますか?」
「いえ、私にも分かりません。これだけ大きいと比べるのも大変でしょうね」
「はは、そうですね」
ルト号で船の周りを一周する。そういえばこの船にも名前を付けないとな。どんな名前にしようフォートレス号が要塞だから、似た感じのストロングホールド号にしよう。
「皆さん、この船の名前はストロングホールド号にします」
「ご主人様、どんな意味があるんですか?」
「砦とか要塞とかそんな意味だね」
「……ご主人様、フォートレス号も要塞って意味ではありませんでしたか?」
「うん、でも意味が似ていても、呼び方が違えば認識は出来るんだから大丈夫だよ」
心なしかシアの目が冷たい気がするけど気のせいだ。
「じゃ、じゃあ、そろそろ乗り込みます。乗船許可は出しましたから、魔法陣が出たら飛び乗ってください」
「「「「「はい」」」」」
魔法陣に飛び乗りエントランスホールに移動する。
「ここがストロングホールド号の中ですか……フォートレス号とは雰囲気が違いますね」
「マリーナの言う通りね。様式自体が違うのかしら?」
「そうですね、作られた年代が違うので、色々な所に違いが出てますね。一通り探索してからレストランで晩御飯を食べましょう」
「魔導士様、レストランはフォートレス号と違うのが食べられますか?」
「あはは、カーラさん、メニューはフォートレス号より沢山ですので、楽しみにしていてください」
「はい」
カーラさんも元気になって、食欲が戻って来てる、良い事だよね。
あっ、自動操縦を設定しておかないと、普通の魔導船がだいたい4日で進む距離の少し手前に設定して、後は目視で探すか。
フォートレス号で使っていなかった施設は飛ばして、よく使っていた施設を重点的に回る。
売店では、見た事が無い商品を探し、気になる物はすかさず購入していく……完全にシステムを理解してるな。
おっ、バター醤油味のポップコーンがある。これ好きなんだよね。買っておこう。リムは食べた事が無いチョコレートを持って来た。しっかり食べた事のないチョコレートを選ぶリムって天才だと思う。
買い物を済ませ、次はゲームコーナーだ……
「これは……クラレッタさんが大喜びしそうですね」
「間違いなく大喜びしますね」
「間違いなく全部取るって言いますね」
ネスもシアも同意見だ。目の前には3台のユー〇ォーキャッチャーが設置されている。大はしゃぎするクラレッタさんが想像出来るな。
他にはスロットとパチンコにアーケードゲーム、テ〇リスは後でやりたいな。
ロイヤルスイートルームを見学して騒ぎ、シアタールームの大きさに驚く。スクリーンが大きいから映画が楽しみだな。
「皆さん、夕食の前に展望浴場でお風呂に入りませんか?」
「いいですね、急いでルッカに向かいましたし、ずいぶんお湯に浸かっていません」
「ドロテアさんも頑張ってましたからね。今は何も分からなかった時よりも余裕があります。ゆっくりお風呂に入って、美味しいご飯を食べる位は大丈夫ですよ」
「ふふ、そうかもしれませんね」
ジラソーレ組は女湯に、僕とネス、シア、リムは男湯に入る。
「ご主人様、みんな随分明るくなりましたね」
「そうだよね、家族に会えて少し落ち着いたんだと思うよ」
「ふふ、良かったです」
久しぶりのお湯に浸かりながら、久しぶりにイチャイチャする。なんか緊迫した雰囲気が船の中を漂ってたから、全然いちゃつけてなかったから、凄く楽しい。
たっぷり楽しんでお風呂を出る。先にジラソーレ組はお風呂からあがっていた……いちゃつき過ぎたかも。
「おまたせしました」
久しぶりのノーブラTシャツ姿、最高です。
「いえ、私達も今上がったところです。今はフードを被っていないから、ワタルさんで良いのかしら?」
「はい、習慣付けるのは大事ですが、お風呂と夕食位は演技無しで食べたいですからね」
「ふふ、そうね」
「皆さんまだビールは飲んでないんですか?」
「えっ? ええ、さすがにこんな時にお酒を飲むのもどうかと思って」
「ドロテアさん、今は自動操縦で船が進んでいます。目的地に着くまでお酒を飲んでいようと、飲んでいまいと何も変わりません。美味しいお酒はリラックス出来ます。少しぐらい楽しみましょう。マリーナさんとカーラさんも良いですね」
「ええ」
「のむ」
自販機でビールを買ってみんなでグビグビっとやる。
「ふー美味しいわ」
「ええ」
「おいしい」
「じゃあ、次はレストランです。たっぷり食べて力をつけましょう」
「「「「「はい」」」」」
レストランに入ると和、洋、中の料理が沢山並べられている。料理面ではストロングホールド号の方が上だな。沢山の料理にテンションが上がる。
「ここもバイキングですから、好きに食べましょう」
思い思いに散らばり、好きな料理を取っていく。僕は何から食べよう。まずはお寿司か……いや肉が食べたいな。ガーリックステーキにパエリアとサラダ、コーンスープ、リムにも同じ物を取って食べる。
肉が隠れるほどに乗せたガーリックチップとステーキソースがたまらない。匂いが気になるが、皆にも勧めて食べて貰えば大丈夫だ。
「リム、お肉がおいしいね」
『ん、おにく、すき』
「沢山食べようね」
『たべる』
「イネス、フェリシア、何か気に入ったの見つけた?」
「私はタンタンメンと餃子が好きですね」
「私はやっぱりステーキかしら。オムレツも美味しかったわね」
「タンタンメンと餃子にしてみようかな。次はオムレツと、バターロールもいいね」
「うふふ、食べ過ぎると動けなくなるわよ」
「久しぶりだしね。イネスとフェリシアも沢山食べるといいよ」
「「はい」」
寿司、タンタンメン、餃子、オムレツ、ベーコン、バターロール目についた食べたい物をひたすら食べる。最後にもう一回ステーキだな。
「カーラさん、この船のバイキングは気に入りましたか?」
「うん、凄くおいしい。沢山あるし嬉しい」
「はは、そうですか。もう直ぐ時間ですから、デザートも食べておいた方が良いですよ」
「うん、ありがとう」
やっぱりカーラさんは、沢山食べてる方が安心するな。
「マリーナさんは、もう食べ終わったんですか?」
「ええ、お腹いっぱいよ。ふうちゃんはまだまだ食べるって言ってるけど」
「あはは、リムもまだまだ食べるそうです。羨ましいですね」
「ふふ、そうね」
最後にもう一度ステーキをおかわりして、限界をむかえた……どうしてもバイキングだと頑張ってしまう。
「御馳走様でした。ふう、僕はもう部屋で休みます。皆さんも気に入った部屋で自由に休んで下さい。おやすみなさい」
「「「おやすみなさい」」」
せっかくのロイヤルスイートは苦しくて楽しめなかった。明日は満喫しよう。お休みなさい。
誤字脱字、文面におかしな所があればアドバイスを頂ければ大変助かります。
読んで頂いてありがとうございます。