6.いつもの日常
はい、続きをどうぞ。
「おい、夜ご飯前にはログアウトしていろとメールしたろ」
リビングには食事が並んでおり、兎神と楓が向かい合っていた。
「ゴメン! 宿を取るお金が足りないことに気付いて、フィールドで3戦してカードを売ってからログアウトしたの」
「ったく、宿は200エニだろうが」
「えへへっ、カード屋で何枚か売ったけど、いいカードを見つけて全財産を叩いちゃった~」
カード屋ではたまにいいカードが売られることがあり、楓は運良く手に入れることが出来たようだ。だが、全財産を叩いたせいで、宿を取れなかったのは少し計画性がないと言える。ちなみに、宿はセーブが出来る機能があり、誰も必ず200エニは残す。
だが、この妹はそれを知っても全財産を叩く程のアホであった。
「アホだと思っていたが、ここまでアホだったとは……」
「むぅ、アホと言わないでよ」
「はぁっ」
兎神は楓の成績を知っている。もちろん、学校でのことだ。知的そうな姿をしていて、見た目から馬鹿であることは誰にも想像出来ないだろう。
まさに、見た目に騙される。その見本がこれだった。
「今度のテストは大丈夫なんだよな?」
楓はテストと口から出た瞬間に眼を逸らしていた。自信はないと言っているようだった。
「あの学校は赤点を取ったら、追試があるんだったな……」
「お願い! ヤマになる当てを教えてぇぇぇぇぇ!!」
「ったく……」
楓が通っている学校は、前に兎神が行っていた学校なので、担任が同じで授業のやり方が変わっていなければ、大体のヤマは教えてやれる。
仕方がないと思いつつ、準備しておいた夜ご飯を食べることに。
「いつも美味しいね~」
「少しはこっちを手伝ってくれば、助かるんだがな?」
「無理~、私は料理は駄目なんだよぅ……、皿洗いぐらいならやるから~」
因みに、両親は共働きで帰るのも遅いから、殆どの夜は兎神と楓だけで食べているのだ。準備しているのは兄のこと、兎神である。楓も昔に一度だけ手伝って貰ったこともあるが…………、結果は足手纏い、台所破壊者と名付けられる程に酷かった。この時から料理の禁止と両親から言われる程にだ。
見た目と性格は良いが、スペックがゲーム以外で最低までに酷いのが難点である。
「ね~、一生、私を養って~」
「馬鹿言うな。お断りだ」
「む~」
馬鹿妹は、いつも兄に養ってと言ってくる。なんとかしないと駄目だと思いつつ、御飯をもぐもぐしていたら電話が来た。
「誰だよ…………孝?」
『よう! 何処まで進んだー?』
「はぁ? こんなことで電話をしてくんなよ」
『いいーじゃねぇか。レア以上のカードを1枚でも手に入れたか?』
「はぁ、あっさりとレアカードを手に入られるわけねぇだろ」
『それが、あるんだよな~』
「ほぅ?」
孝の言い方から、既に手に入れたのだろう。この情報は気になるので、どうやって手に入るか聞いてみる。
「それは気になるな」
『だったら、詳しいことは妹さんに聞くといいぞー』
「ん、あいつも手に入れたってわけか?」
『おう、β版からあったから、β版をやっている奴なら誰でも知っているんじゃねえかな』
β版をやっていた人なら誰でも知っているなら、レアカードの格が落ちるなと思いつつ、わざわざ電話をして教えてくれていることから、有用なカードだと予測出来た。
「わかった。楓に聞いておこう」
『おう、じゃあな!』
通話が切れ、聞いた情報のことを楓に聞いてみる。
「ん、アレだね。装備カードを貰えるクエストだね」
「ふむ、やった方がいいか?」
「うん、やっても損はないね。カード屋前にいる帽子を被った青年に話しかけるといいよ。クエストを失敗しても損はないから~」
どんな装備カードなのか聞いてみても、★ランクが4個あるとしか教えてくれなかった。後は自分で手に入れてこいという事だろう。
話は聞いたので、家事を終わらせたらすぐログインする兎神であった。
「こいつか?」
カード屋にいる帽子を被った青年は1人しかいなかった。他にいないのを確認して、話しかけることにする。
「あの……?」
「あれ、君は……、冒険者でしょうか?」
「あ、はい」
このゲームでは、プレイヤーは職業を持たず、全員が冒険者として扱われている。トガが冒険者だと知り、眼を輝かせる。
「そうなんですか! お願いがありますが、聞いていただけますか?」
「ああ」
「ありがとうございます! 実は、ここから北にある洞窟にリーダ・アリゲイツの住処が出来てしまい、鉱石が取れず困っています!」
お願いされ、クエストの受理版が目の前に現れた。
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クエスト
★★
『風穴の暴君』
条件:プレイヤーのレベルが5以上
内容:ボスであるリーダ・アリゲイツの討伐。
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★が2個のクエストは、そんなに難しいクエストではない。条件も付いているので、そのレベルに合わされているのが良く分かる。
因みに、トガはもうレベル5になっているので、クエスト受理は出来る。
これが今のトガである。
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プレイヤー名:トガ
レベル:5
装備:無し
コスト30/38
HP:1080/1080
MP:180/180
ATK:50
DEF:50
SPD:50
スキル:無し
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少しは強くなっているが、ATKはモンスターに攻撃するにはまだ低い。今回の装備カードでいくつか強くなれれば良いなと思っている。
表示されていたYESを押し、クエストを受理した。
「ありがとうございます! では、洞窟は北にありますので、宜しくお願いします」
「ああ」
初のクエスト、何処までやれるか楽しみになるトガであった。
次は明日の0時に載せます。