表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/8

Record1 『式神の儀4』

「おや、オオカミ様は今起床かな?」


そこは白狼山の麓にある神社。

その境内で祭典の準備を進める人物がいた。

この神社の巫女である『ミウ』だ。

黒髪で、長さもミディアム位のボブ。

紅白のコントラストが目を引く巫女服を着ている。


「今日も派手にぶちかましたねぇ」


山を見上げながらミウはニヤニヤしていた。

どうやら爆発音は麓の町まで聞こえていた様で。


「今日はいつに無く音が大きかった気もするがのぅ」


ミウの側で同じく山を見上げるのは町の町長『シラサギ』。

腰も曲り、髪も殆ど無く、残った髪も白くなっている。

今年で90を迎えるおじいさんだ。


「そりゃーそうでしょ、こんな日に寝坊されてちゃイライラして当然だと思いますよ」

「それもそうかの」


今、ミウと町長は今日の祭典の段取りや出店などの最終確認をしている。

今日はなんといっても、数十年に一度の『式神の儀』の日である。

それは、この世に存在する2柱の神のうちの1柱、オオカミ様の式神が決まる日。


当然だが、神はそっとやちょっとじゃ死なない。

故に何百、何千年と生き続ける。

しかし、式神は式"神"で有れど神では無い。

その寿命は遥かに短い。

そして、式神には任期がある。

それは、2人いる式神のうちのどちらかの死亡。

もう一つが、巫女である式神の年が25を迎えた時。

白狼神社の巫女は、25になるとその町で一番霊力が高い者と結婚をしなければならない。

そうなると、巫女は式神という役割から外されることになる。


神の式神は、その特異な役目を担うため、2人でなければならない。

今までもその度に式神が入れ替わってきた。


そして、今日がその着任式、というわけだ。

この町にとっても、この世界にとっても、大事な日なのである。


「お母様」

「ん?」


後ろから少女の声がした。

ミウの娘、『カイリ』だ。

歳は16。

ミウ譲りの黒い髪、しかしミウと違い髪は長い。

髪型はハーフアップにされており、緩い編み込みで後ろまで持って行っている。

しかし、彼女の服装は巫女服ではない、白いシャツに赤い膝上位の丈のスカート。

巫女、というよりは女子高生の様な感じだ。

それ以外に特筆する事があるとするならば、袖から見える腕に巻かれた包帯だろうか。

包帯は手首迄巻かれており、それも両腕。


式神となる巫女は、その儀式の前日に別の儀式をもう一つする。

それは、今日の様に人々が集まって行う様なモノでは無く、関係者のみで行われる。


式神になる巫女は『式神の儀』前日、『魂魄継承の儀』をする。

それは、ミウを含むそれまでの先代の巫女達の魂と、カイリの魂の一部の記憶をリンクさせるという儀式だ。

その記憶というのは、先代達の智慧と術だ。

リンク、とはいえ先代達の持っていた力は人智を超えたものだった。

それをまだ未熟な魂のカイリに無理矢理刻み込むというのは中々負担のかかるものである。

そして、その儀式が終わると、受け継がれた証が印となって身体の何処かに浮き出てくる。

ミウは背中だったが、カイリは両腕に出たようだった。

……まだ年頃な女の子にしてみれば気になるものだったのだろう。

それ故その印を包帯で覆い隠しているという訳だ。


「賢者の皆様がみえたので呼びに来ました!」

「あれ、……もうそんな時間だったか」


ミウは少ししまった…、とでも言いたげな表情を浮かべた。

時刻はもう午前8時半前。

祭典は9時からである。


「賢者の方々はもう全員お揃いか?」

「いえ、今の所はアルヴァ様と、シャルロ様、テナトス様にランドルフ様がお見えになってます」

「わかった、すぐ向かうよ」


ミウはそうカイリに告げて背を向けようとした時だった。


「おぉーいっ!そこにいるのはミウじゃん!」

「……」


後ろから飛んできた大きな女性の声。

ミウはあからさまに嫌そうな顔をしてゆっくり振り返った。

そこには、手を大きく振りながら駆け寄って来る人物。

水色の短い髪がぴょこぴょこと跳ね、黄色い瞳はキラキラと輝いている。

その体は少し短めのローブで隠されてはいるが、魚竜の鱗で造られたという軽装な鎧が見えておりただの村人ではない事が伺えた。

……そもそもただの村人がこんな親しげに白狼神社の巫女に声はかけたりしないが。


「ちょっとー、無視しないでよさぁー?」


楽しそうな表情を浮かべた少女に対し、明らか機嫌の悪そうなミウ。


「ミウとあたしの視線はもうバッチリ合っちゃってんのにさっ!それでも尚だんまりを決め込むなんて……って聞いてる?」

「……」


少女はミウを下から覗き込んで無理矢理視界に入り込もうとしてくる。


「……お言葉ですがアルヴァ様」

「おん?なになに?」


反応が返ってきたのが嬉しかったのか、胸を張って次の言葉を待つアルヴァ。

彼女はオオカミの弟子であり、この世界では一般的に『賢者』と呼ばれる者である。


『賢者』とは、オオカミがまだこの地に縛られるよりも前に弟子入りした8人の者達の事だ。

それは、守護者とはまた違い特殊な立場である。

『守護者』とは、オオカミの側に常に控え、指示あらばオオカミの手足となって世界中を飛び回るが、『賢者』は、主人の側にとどまらず、オオカミによって与えられた世界の管理を任せられる。

神は全てを見渡す力を持ってはいるが、完璧ではない。

故に賢者を置き、更に目を配らす事をしている。


現在確認出来ているだけで『世界』に広がった『世界』というものは全てで46。

それを8人の賢者達で割り振り管理しているという訳だ。


そして、アルヴァもその一人であり、オオカミの一番弟子でもある。


「もう時間が差し迫っております故、邪魔をしに来たのであれば早急に母屋の方にお戻り願えますか?」


笑顔だったが、どうみても引きつっている。


「じゃっ、邪魔だなんて……ミウ、これでもあたし賢者なんだよ?」


予想外な返答だったからなのか、軽く泣きそうな声でなんとかこの場に残りたいという思いをちらつかせる。


「以前、私が式神になったあの日も同じ事を母に言い、手伝うと言いながら出店を5件程ダメにしたのは何処のどの賢者様でしたっけ?」


輝かしい位の笑顔で問うミウ。


「……確かイグリード兄……?」


一方、冷や汗が止まらない賢者アルヴァ。


「なにとぼけてるんですかっ、貴女ですよ!」

「あれは不可抗力さ」


賢者アルヴァは開き直ってみせた!


「とりあえず邪魔なので戻って下さい」


しかし見事にスルーされた!

そしてミウの指示により、カイリに連れられて母屋に強制連行された。


「愉快じゃのぅ」


町長はその光景を眺めていた様で、ほほっと笑っていた。

ミウは溜息を一つ漏らしてから、


「まぁ、退屈しない人ではありますね……」

「よきかな、よきかな」


笑う町長の隣で連れて行かれるアルヴァを見ながら、ミウも少し笑みを浮かべた。


ミウも、カイリが生まれるまでは式神として戦いに身を投じていた身だ。

毎日毎日、来る日も来る日も戦いとお役目に追われていた。

故にこのありふれた日常というものが、何気無いこの日常がとても幸せに思えた。


「ところでミウ殿」

「はい?」

「時間はええのかの?」

「……」


現在午前8時45分。

式典開始時刻は午前9時。

残り15分だった。


懐中時計で時間を確認したミウは、数秒固まり、暫くして町長に会釈をしてから神楽殿の方へと急いで走っていった。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ