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Record 1 『式神の儀』

それは、俺がその人に出会って間もない頃の記憶だ。

その人が俺の前を歩き、俺がその後ろをついて行く。

傾いた陽は夕日となり、眩しいくらいの輝きで世界を橙色に染め上げ、俺はその眩しさと鮮やかさに思わず目を伏せたことを覚えている。


何も話さず歩き続けることに痺れを切らした彼女はこんな問いを投げかけてきた。


「なぜ、生き物というものは争い続けるのだと思う?」


白く長い髪を揺らし、振り返ることも、その歩みを止めることもしないままの突然の問い。

俺はその問いに


「……個々に意思があるからだろ」


そう答えて目線を落とした。


「正解だ、個々に意思がある故人々の思いはすれ違い、それがやがて争いにまで発展するのじゃな」


簡単な問題だった。

これでも普通の倍以上は生きてきた身だ。

嫌でもその様な場面に出くわしては目の当たりにしてきたのだから。


「それでも尚、人は平和を求める」


ため息をもらしたその人は小さく呟いた。


「……生き物とは、傲慢な生き物じゃの」


そうだ、生き物……人は傲慢な生き物だ。

平和を求める癖に、結局は平和を力で勝ち取りに行く。

強い者はが平和を手にし、弱い者は歴史から消えてゆく。

自分さえ良ければいい、自己主義で自己中心的。

だから世界はこんなにも醜い。


「……ヌシは、この世界は好きか……?」


足を止め、振り返り問われる。


「嫌いだ」


伏せていた顔を上げて俺はその人の目を真っ直ぐに見て言った。

彼女は一瞬驚いた顔をして見せたが、直ぐにその表情は変化する。


「……すまぬ」


何故、彼女は謝ったりしたのか、その時の俺は理解できなかった。

彼女は何もしていないのに、悪いのはこの世界だっていうのに。

どうしてこの人はこんなにも申し訳なさそうな顔をしたのだ。


「なんで貴女が謝るんだ?」


風が凪いで、彼女の白い髪がなびいた。


「こんな、なり損ないの出来損ないが神になってしまった……だから世界はこんなにも汚れてしまったのじゃ」


空を仰いだ彼女の顔が夕日の逆光により表情が伺えなくなる。


「……結局、ワシは無力じゃった……」


言い終えたと同時に一層強い風が吹き付けた。

そして、俺は確信した。


「貴女は無力なんかじゃない!」


気づいたら叫んでいた。

勿論、彼女は驚いていた。


「現に、貴女は俺を救ってくれた、そんな貴女が無力なんて事はないっ」


一度息を飲んで、


「世界中が貴女を無力だというのならば、俺が貴女の刃となり、力となってみせる!」



クリエイション・オブ・ザ・ワールド


Record 1 『式神の儀』


紅く色付いた木々が空を覆っている。

川の水は冷たく澄んでいる。

木々の隙間から溢れた日差しは眩しく、水面に反射してはキラキラと輝かせた。


「……」


川の幅はそんなに広くはない。

その真ん中に俺は立って空を見上げていた。


「……空、高いな」


流れの穏やかなお陰で、こうしてボーッとしていてもフラつく事はない。


「もうすぐ、……もうすぐで俺はあの方の式に…」


口角をニィッと上げ、拳を握り締めた。

胸にこみ上げて来る高揚感が抑えられそうに無い。

抑えるどころか溢れるばかりだ。


待ちに待った運命の日は明日。


あの日、あの方に誓った約束を果たす時。

それがようやく訪れようとしていた。







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