第5章 悪夢の序曲
第5章 悪夢の序曲
「あれが我々の標的か」
ブリッジのメインスクリーンに写った星を見てある男はそう呟いた。その男の名はギルバート・グレイソン。この帝国軍強襲用宇宙戦艦リズリーの艦長である。
ギルバートはメインスクリーンに写っている星を凝視し続けている。そこへ傍らにいる女性がギルバートに声をかけた。
「帝国軍所属第364番開拓星、惑星ペペです。主に地球人が中心となって開拓に従事している星です」
その女性がその星の詳細を説明する。その女性の名はセシル・クリーミー。この艦の副官で、青髪の眼鏡をかけた女性だ。
「一応確認しておこう、この星に配備してある戦力は?」
「惑星ペペは辺境に位置する星です。スターナイトは一応配備されておりますが、全て旧式であるとの報告を受けています。それでもそれなりの数は配備されておりますが、我々のスターナイトとの性能差は歴然です。ゆえに我々の力だけでもこの星を制圧する事は可能と考えられます」
ギルバートの問いにテキパキとセシルは答える。これだけでセシルが有能な副官である事が伺える。
「そうか……、一方的な戦いになるかもしれないな」
「はい……おそらく」
ギルバートは今回の作戦に対しある抵抗を感じていた。その理由は襲うべき対象の星が、我が帝国の属領の星であるからである。
任務の内容はこの星を襲い、この星に潜伏しているテロリスト達が所有し、隠し持っている何かを手に入れる事。それが今回の任務の内容だ。
そのテロリストが隠し持っている何かの詳細は不明なのだが、遥か昔、銀河に覇を唱えた神聖アルメリア神皇国の遺産であるという報告は受けている。
なんでも50年ほど前にある遺跡から発見され、その後テロリストの手に渡ったということだ。
それを手に入れる事が今回のギルバート達の任務であったが、その命令内容に対し、彼は疑問を感じていた。
今回、ギルバート達が襲う星は惑星ペペ。そしてこの星に住む人たちの多くは地球人で民間人も多く住んでいる。
この星を襲うという事は当然民間人にも犠牲が出る。しかも任務の内容は民間人への攻撃も許されている内容なのである。地球人は帝国の属民、つまり味方であるのはずなのに……
要は今回の任務は、標的は飽くまでもテロリストだが、その過程で無関係の民間人、それも味方を撃てという任務も含まれている内容なのである。その内容にギルバートは抵抗を感じずにはいられなかった。
「艦長、心中はお察ししますが……」
セシルが心配して声をかけてきた。どうやら考えていた事が顔に出ていたらしい。心配した様子でセシルがギルバートの顔を覗きこんでいる。
「心配しなくていいセシル君。私は軍人だ。与えられた任務は確実にこなすよ」
しかしそう言ったギルバートの顔には明らかに困惑の色がうかがえた。だがセシルはそれ以上何も言えなかった。彼女もまた今回の任務に対し、思う所があるという意味ではギルバートと同じ心境だったからである。
メインスクリーンに映し出される惑星ペペの姿がだんだんと大きくなってくる。あと数時間もすれば到着するだろう。
「あの星がターゲットですか」
突然ギルバートとセシルに話しかけてきた者がいる。いつのまにかボディアーマーを着こんだ兵士がブリッジに来ていた。
精悍な顔つきで、大きな傷が顔にある。その傷がこの兵士がそれなりの修羅場をくぐって来た事を物語っている。
「バルサローム、来ていたのか」
「ああ、ちょっと今回のターゲットとなる星を見たくてな。で、なあ艦長さん、あとどれくらいであの星に着くんだ」
「バルサローム!艦長に向かって「艦長さん」とはなんだ、敬語を使え」
バルサロームという男の態度にセシルは怒り、叱りつける。しかし、バルサロームは全く動じる様子も無かった。
「そう固い事言うなよ副長。どうだ、これから一杯付きあわねえか」
「作戦前だ、酒など飲むわけはないだろう」
「へ、お固いこって、そんなんだから結婚も出来ずにいつまでもこんな戦艦の副長なんてやっているんだよ」
「きさまあ、私は愚弄するのか!」
セシルは激昂したが、艦長のギルバートはセシルの方をポンポンと叩くと彼女を宥めた。
「そう興奮するなセシル。軍人はいかなるときでも冷静さを失ってはいかん」
「しかし……」
「なんだ、艦長の言う事が聞こえなかったのか、冷静さを失ってはいかんとさ」
「貴様に言われたくはない!」
ギルバートのもの言いにさらにセシルは激昂した。明らかにこの二人は相性が悪い。というよりもセシルがバルサロームを一方的に嫌っているのだ。
彼女の生真面目な性格からしてこういうタイプは嫌いらしい。
セシルはそれが欠点なのだ。バルサロームの上官に対する態度に全く問題が無いわけではないが、えてして兵士の中にはバルサロームのようなタイプは特に珍しくはない。
しかしセシルにはそれがどうも許せないのだ。彼女は副官としては優秀なのだが、頭が硬い。融通がきかない性格なのである。それが彼女の欠点だった。
「ところで艦長、再度聞くがペペには後どれくらいで到着するんだ」
「そうだな、あとどれくらいだミヒロ君」
「あと4時間ほどです」
ギルバートがミヒロというブリッジ要員の1人に聞くと直ぐに答えが返ってきた。ミヒロは情報処理担当の女性兵士だ。
「―――だそうだ。作戦開始はその1時間後、まあ5時間後に作戦開始というところだな」
「了解、それじゃあ俺は装備の点検でもしてくるよ」
「スターナイトの整備もちゃんとしておけ、今回は楽な任務になる予想できるとはいえ戦争をすることにはかわりはない。命の危険はいつも付きまとう。それに戦場では何が起きるかわからんぞ。整備は万全にな」
「はいはい」
そう言うとバルサロームは手を振りブリッジから出て行った。その姿を憎々しげにセシルは見つめていた。
「君も今の内に休んでおいたほうがいいセシル。少し自室で寝ているといい」
ギルバートはバルサロームがブリッジを出て行ったあとセシルに声をかけた。
「いえ艦長、私なら大丈夫です」
「これは命令だ、セシル。自室にて3時間ほど休息を命じる」
「……はい」
セシルは少し残念そうな顔をしたが、命令なら仕方がない。セシルはギルバートに敬礼すると静かにブリッジを出て行った。
ギルバートはセシルがブリッジを出て行ったあと、今回の任務について少し考えてみることにした。
今回の任務は惑星ペペを強襲し、そこで、テロリスト達が潜伏し、彼らが隠している何かを手に入れる事にある。
その何かの詳細が実は不明なのだが、神聖アルメリアの遺産であるという事は分かっている。
詳細が分からないということで不安はある。何を奪取すればいいのか厳密にいえばわからないままなのだから。
だがテロリストはそれを必死で守るだろう。意外にもそれを特定することは案外容易かもしれない。
ちなみに今回の任務による惑星ペペへの襲撃は、表向きには帝国は関与せず、シャルリナ連邦による襲撃として報道される事になっている。
それが民間人を攻撃してよいという今回の作戦の伏線になっている。
狡猾と思われるかもしれないが、戦争ではこういうことはよくあることだ。情報を操作して真実を隠すという事は……
ギルバートは艦長席に座る。先も書いたが彼は今回の任務に対してあまり乗り気ではない。はっきり言えば嫌な任務だ。
惑星ペペは、その住人のほとんどが地球人とはいえ、正式に帝国に属している星だ。
情報からテロリスト達が潜伏していることが確実とはいえ、そのテロリストとは全く関係ない人達も大勢暮らしている。
そして戦闘行為となれば、関係の無い人達に被害が及ぶ。むしろ今回の作戦では、襲った艦隊がシャルリナ連邦だということを事実として発表をするために、わざと住民への攻撃を容認する作戦なのだ。
汚いようだが、これは戦争における作戦の1つであり、実際戦争は綺麗事ではすまされない。汚れ仕事は必ずあるものだ。
しかし、頭でそう理解していてもなかなか割り切れるものではない。理解はできても納得できないのだ。
(!……いかん、私は何を考えているんだ)
ギルバートは被りを振った。
艦長ともあろうものが作戦前にこの任務に乗り気ではないなどと考えているとは何事だ。ギルバートは自分を叱咤した。
ギルバートは軍人でそれなりに経験も積んでいるベテランだ。任務には汚れ仕事もある事はもう重々承知しているはずである。
これも最終的には宿敵であるシャルリナ連邦に勝利し、銀河にガーベラ帝国の統一国家を築きあげるために必要なことだ。彼は自分にそう言いきかせた。
バルサロームはブリッジを出た後、スターナイトの収められている格納庫にいた。彼の部下の兵士たちも皆ここに集められている。今回の作戦に対する最終確認を行っているのだ。
「―――というのが今回の作戦の内容だ」
バルサロームが作戦の概要を話し終えた。
「ということはまずは俺達スターナイト部隊が派手に暴れればいいわけですね、隊長」
パイロットスーツを着込んだ兵士の1人が質問をしてくる。彼の名前はデニム。この部隊の副長を務めている男だ。
「そうだデニム。スターナイトの部隊はお前にまかせる。好きなように暴れて来い」
「了解です、しかし基地にスターナイトが配備されているとはいえ20年以上も前の機体ですか。それでは相手にはならないですね」
「そういうことだ。なめてかかって釣りがくる」
バルサロームがそう言うと皆が笑った。今回の作戦に対してみんな余裕があるのだろう。楽勝だと誰もが思っているのだ。
さらにデニムは質問を続ける。
「―――で、ペペのスターナイトをはじめとする防衛部隊を沈黙させた後、隊長の率いる別働隊がテロリストの秘密基地に潜入、目的である何かを奪取すると……」
「そういうことだ」
「その秘密基地とやらの場所は分かっているのですか」
「報告は受けている。何でも病院にあるらしい」
「病院?」
「そうだ」
「それならケガをしても大丈夫ですな。直ぐに治療できる」
「そうだ」
皆がまた笑い出す。すると今度は後ろの方にいた別の兵士がバルサロームに質問してきた。
「そのテロリスト達から奪取するという目的の物。それが何なのかは私達には教えてくれないのですか」
「残念ながら詳細を説明する事は出来ない。これにはレベル7の秘匿義務が課せられていてな。詳細を説明する事は職務上出来ないんだ。はっきりいってしまえば私もよく知らない」
「レベル7!国家最高レベルの機密事項じゃないですか」
「そうだ」
レベル7と聞いて皆がざわめく。
「しかしそれでは例え目的のものがあっても、それが回収すべきものなのかわからない可能性があります。何か分かること、なんでもいいので教えていただけませんか」
「当然の質問だ。しかし残念ながらそれは無理だ」
「しかしそれでは……」
「とりあえず何か不審なものを発見したら私に連絡しろ。確認するために私が直ぐに向かう。だがおそらくある程度の予測はたてられるのではないか。病院にテロリストのアジトがあり、そこに隠されている事は判明している。それもレベル7の機密事項だ。おそらくテロリスト達はそれを必死に守ろうとするはずだ。つまりテロリストが必死に守るもの。それこそが我々が回収すべきターゲットだ」
「納得できたわけではありませんが……一応わかりました」
「まあそう気張るな、わからなかったらとにかく何でも回収してくればいいんだ」
「了解です」
「他には何か質問は無いか」
「私からも1つ質問してよろしいでしょうか」
今度は別の兵士が手を上げた。この特殊部隊の中で一番若い兵士で、今回この部隊に新しく配属されたばかりの男だ。
「なんだ」
「今回の作戦では市街地への攻撃も作戦の1つとあります。これはどういうことでしょう。民間人も殺してもいいということでしょうか」
「そうだ」
「!……」
その兵士は絶句した。いや、彼だけではない。バルサロームの迷いのない肯定の言葉に他の者達も少しざわついた。
「なぜですか、地球人とはいえ彼らは帝国に属している人たちです。テロリストだけを標的にするのなら分かりますが、民間人も標的にするなどと……」
「納得できないか……まあそうだろうな」
「はい」
「お前は確か新人で特殊部隊に配属して任務を遂行するのは今回が初めてのはずだな」
「そうです」
「では逆に聞こう。何故今回の作戦に民間人への攻撃が許可されていると思う」
「それは……」
「わからないか、お前も特殊部隊に配属されるなら、兵士として優秀なのだろう」
若い兵士は何も答えられない。彼はこの作戦の意図するところがまだ分かっていないのだ。
「答えられないか、では教えてやろう。今回の作戦でペペを攻撃したのは表向きには帝国の敵国であるシェルリナ連邦による攻撃を受けた事と報道されることになるからだ。つまり今回の作戦に帝国の関与は無いということになる。何故だかわかるか?」
「奪取するものがランク7の機密事項だからですか……」
「そうだ。今回の作戦の目的は、テロリストの所有している何かを奪取する事にある。そしてそれはランク7の機密事項だ。故に、その任務の内容を公には出来ないし、まがりなりにも惑星ペペは帝国領に属している星だ。ただテロリストが潜伏しているというだけでこの星を襲うというのは世論の反発は必至だ。星を攻撃すれば、民間人にはどうしても犠牲が出るからな」
「……」
「そこでこの作戦だ。星を襲ったのはシェルリナ連邦ということにして発表するんだ。そうすれば帝国への世論の反発はなくなる。つまり、シェルリナの攻撃である事を世に知らしめるため、民間人への攻撃をしなければならないのだ。そうすれば逆に世論はシェルリナへの怒りを覚え、味方の兵の士気は高まり帝国への批判はない」
バルサロームの説明を聞き、質問をしたこの若い兵士は押し黙っている。その説明の意図している事がわかったのだ。今回の作戦が非公式の汚れ仕事であることを。
「理解できたようだな。そうだ、はっきり言えば我々の今回の任務は汚れ仕事だ。公に事実を発表出来ることではない。味方を撃ち、それをあろうことか敵の仕業として発表し、世論を欺くのだからな。汚れ仕事は嫌か?」
バルサロームは若い兵士に聞く。その兵士はまた何も答えない。
「まあ、汚れ仕事が好きな奴はいないだろう。お前の気持ちも良く分かる。だがな、戦争は綺麗事だけでやっていけるものではない。最終的に勝つためにはそれがどんな卑怯で狡猾な作戦だろうがやらなければならないことはある。そしてそれが公には出来ない、正規の軍を動かす事の出来ないような汚れ仕事ならば、我々の様な特殊部隊がそれを行わなければならないのだ。そのために我々がいる。お前もこの部隊に配属になったのなら、そのようなことは事前に聞かされてきただろう。だが忘れるな、それも全て戦いを終わらせるために必要な事だ。そう割り切ることが重要だ」
「……」
「だが、心に迷いがあるのなら戦いに参加する事はこの部隊の隊長として、そして皆の命を預かる者として今回の作戦にお前を参加させるわけにはいかない。迷いは必ずスキが生まれる。そのスキがお前を、または味方を殺すかもしれない。だから今回の作戦はお前を外すことにする」
「……!」
「他の者は武器の最終チェックをしろ。スターナイト隊は特に機体のチェックは念入りにしておけ、その後は体を各自休めておくように、それでは解散する。以上だ」
そう言うと皆バラバラと各自の自分の作業についた。バルサロームは控室に行こうとする。それを若い兵士は呼びとめた。
「待ってください!隊長」
「ん……」
「私も出撃させてください」
「戦えるのか?」
「……はい」
「もう一度言うが、迷いは自分を殺すだけでなく、周りも巻き込みかねない。敵が誰であろうと撃つ事に躊躇いがあるようなら作戦には参加しない方がいい」
「……」
「勘違いするな、俺はお前を責めているわけじゃない。今回の作戦に疑問を持つのは人間としては当たり前の事だ。迷って当然だ。しかし、それでも我々はやらなければならない。それは分かるな」
「はい」
「無理にとは言わん。迷いがあるのなら今回の作戦には参加しない方がいい。それにお前はまだ若い。正直、我々の部隊に配属されて初めての任務がこれではきついだろう。どうだ、それでもいけるか」
「いけます」
「そうか、なら作戦への参加を許可する」
「ありがとうざます」
若い兵士はバルサロームに敬礼をすると、彼もまた武器のチェックをはじめた。バルサロームはそれを見て笑うと控室に向かう。
その様子を格納庫の片隅で副長のセシルが見つめていた。
セシルはギルバートに部屋で作戦まで休むようにと言われていたが、結局目が冴えてしまい、暇を持て余し、艦内を巡回していたのだ。それでこの場に出くわして、陰でひっそりと様子を見ていたのだ。
セシルは少し驚いた。バルサロームが部下達から人望があるからだ。
先ほど、部下達に対して言っていたことも部隊を束ねる隊長として当然の事を言ったまでだ。
新人の兵士の迷いに対するマインドコントロールも見事だ。どうやら彼は上官に対して言葉遣いが悪いだけで、部隊の隊長としては優秀なようだ。よくまとめあげている。
セシルはバルサロームの評価を改めた。それと同時にバルサロームのある言葉が彼女の脳裏に突き刺さる。
「迷いは自分を、そして味方をも殺す」という言葉である。
迷いがあるのは自分も同じだからだ。
今回の作戦ではテロリスト達が相手とはいえ帝国に属する星を攻撃する事になる。しかも、その事実を帝国の敵国であるシャルリナになすりつけようというのだ。
その作戦内容に対して迷いが生じるのはバルサロームの言っていた通り、人間としては当然の感情だろう。
しかし、戦争にはこういう作戦は時としてある。セシルも今までに何回かこのような非公式扱いの作戦に従事した経験もある。
でも、いくら経験があるからといっても、このような作戦に携わる事は中々慣れるものじゃない。
しかしバルサロームが言った通り割り切らなければならない。それが軍人としての自分の立場であるからだ。
セシルは時計を見る。作戦開始時間が近づいている。もうこの格納庫にいる必要もないだろう。彼女はその場を離れた。
かといって、もう艦内の巡回もほとんど終わっている。セシルは艦長に言われたとおり、自室に戻る事にした。
作戦前で気が立って、ゆっくり休むことはできないかもしれないが、それでも部屋で少し休むことにした。
ブリッジでは艦長席に座って、ギルバートはメインモニターに写っている惑星ペペをずっと凝視していた。
彼はベテランの軍人だ。作戦内容がどんな卑劣なものであっても、それが帝国のためと割り切る事のできる人物だ。自分の私情を任務に挟む事はしない。
だから今回の任務に、その責任者として彼が抜擢された。しかし、そうは言っても彼もまた人間。心の中では今回の作戦に反発していた。
もちろんそれを表に出す事はしない……、いや、そういえばセシルには心情を察しられてしまった。そのことを思い出し、ギルバートは気を引き締める。
部下に心の迷いを察知され、ねぎらいの言葉を掛けられるなど上官として失格だからだ。
「ミヒロ君。惑星への到着時刻は?」
「あと3時間ほどです」
「よし、そろそろいいだろう。ミラージュシステム展開!」
「了解、ミラージュシステム、展開します」
ミヒロが復唱して彼女がある操作を行うと、彼らの乗っている艦はある特殊な粒子に包まれた。
そしてその粒子に艦が全て包まれると、彼らの乗っている艦は宇宙から消えた。いや、消えたのではない、見えなくなったのだ。
このミラージュシステムは可視光線や赤外線、果ては電磁波に至るまで、その全てを遮断する特殊な粒子で戦艦を覆い、ほぼ完ぺきともいえるステルス機能を発揮できるシステムである。
主に電撃作戦に使わる機能で、この艦のように特殊な作戦に従事する特別艦にはこの機能が設置してあることが多い。
ただ、この機能にも弱点はあり、ある特殊なセンサーを用いることで、レーダーに捉えることは可能だ。
しかし、惑星ペペにはそのような装置は設置されていない。つまりこちらの動きは全く相手に察知される事はないのである。
「ミラージュシステム、展開完了しました。何も問題はありません」
「よし」
ミヒロの言葉にギルバートは頷いた。これで外からはこの艦が見えない。ただ宇宙が広がっているようにしか見えないだろう。
艦は静かに惑星ペペに近づいていく。ブリッジから肉眼でも、それなりに大きく惑星ペペが確認出来る位置まで来た。
ペペ到着まで後3時間。それはペペが業火に包まれるまで後3時間である事を意味する。戦力差は明らかだ。戦争と呼ぶには相応しくない一方的な虐殺になるだろう。
カイトやユリコ、そしてキャシーはまだこの時、帝国の艦がペペに近づいていることなど知る由もなかった。
そしてこの日が彼らにとって運命の日となる事も……