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第4章 カイトの秘密とユリコの不安


第4章 カイトの秘密とユリコの不安



カイトとユリコが病院を出て、学校に着いたのはもう2時限目の半分以上が過ぎた頃だった。

カイトは教室の後ろのドアをゆっくりと開け、ほふく前進で教師にばれないように自分の席に向かう。

「カイト、いいから早く席につけ」

先生から声がかかる。どうやらバレていたらしい。

「はい」

カイトは立ち上がると、クラスメイトの笑い声がする中急いで席に着いた。

「あのー先生、遅刻の理由は……」

「妹のお見舞いだろ、分かっている。ユリコ会長もいっしょだろ」

「はい」

「ならいい、遅刻は無かった事にしておいてやる」

「ありがとうございます」

そう言うとカイトは鞄から教科書を取り出す。すると後ろからカイトの背中を誰かがつついた。

「カイトさん。今日は特に遅かったですね」

「ああ、ちょっと想定外の人と会ってな、話しこんでしまったのさ」

「え、カイトさんの知り合いですか」

「違う、会長だよ」

「そうなんですか?」

 カイトに話しかけてきたのはルル・アンダーソン。同じ生徒会に所属している生徒で、彼はすごく礼儀正しく、どんな人に対しても敬語を使う。だから同級生であるカイトに対してもさん付けで名前を呼ぶのだ。

「会長の知り合いって誰ですか」

「それは秘密」

「えー、教えてくださいよ」

「駄目だよ、俺と会長だけの秘密」

 そう言ってカイトは会長のお姉さんであるキャシーと出会った事を話さなかった。これには理由がある。

カイトは会長とキャシーの話を聞いていて、会長のお姉さんであるキャシーが何かの極秘任務でこの星にいる事を知った。

まあルルに話した所で問題になるとは思えなかったが、一応この事は伏せておく事にした。それに会長と2人だけの秘密を共有できたことが意外に嬉しかったりもする。

「カイト、あまり無駄口叩いているとやはり遅刻扱いにするぞ、ルル、お前もだ」

 ルルと話をしていたら先生に注意された。カイトは慌てて教科書を開く。カイトにとってはこの日もいつも通りの一日の始まりだった。


 

そのカイトのいる教室より1つ上の階、3年の教室のA組にユリコはいた。

ユリコの場合はカイトと違い、こっそりと教室に入ってくるようなことはしない。堂々と教室に入り席に着いた。

もちろん教室にいた先生も含め、誰もがユリコが遅刻して教室に入って来た事は気づいていたが、それでも誰も何も言わない。

ユリコも誰も自分をとがめる者がいないとわかっていたため、堂々と教室に入って来たのである。

なぜならユリコのアロー家は、この惑星において一番の権力者であるため、誰も何も言えないのだ。

 ユリコの父親であるキャメロン・アローはこの惑星ペペの星知事を務めている。母親のメイア・アローはその秘書だ。

アロー家はエリーターの家系で、この惑星ペペの星知事を代々務めてきた家系なのである。

故にこの星でアロー家に対し、強くものを言える者は存在しない。それは娘であるユリコに対してもそうであった。

彼女はこの学園で一年前から生徒会長を務めているが、選ばれた際に、選挙という形式はとられたが、中身は明らかな出来レースだった。

他に立候補する者は誰もおらず、はじめから生徒会長はユリコになるものと決まっていた選挙だった。

結果、この学園に置いて、ユリコに対しては先生も含め、誰もが何も言えないのである。まともに口を聞いた者さえいなかった。

そう、ただ1人を除いて……



今から約半年前、この学園に1人の生徒が転入してきた。

転入自体はそれほどめずらしいことでもないのだが、その生徒は他の生徒とは少し毛並みが違っていた。

それがカイトである。

カイトは他の生徒とは明らかに違っていた。

ユリコに対しては生徒だけでなく、先生まで敬語を使い、そしてユリコ自身も気軽に話しかけられるような雰囲気を持った女性では当時無かったのであるが、そんな彼女に対し、出会った瞬間から気軽に話しかけてきたのがカイトだったのである。

ユリコは当時、生徒会長という役職にはついていたが、プライドの塊の様な人物で、友人など誰もいなかった。

ユリコが先ほどキャシーと再会した際に、キャシーはユリコが変わったと言っていたが、まさにその通りで、当時のユリコは周りの人を全て見下していた。 

そんな彼女に対し、出会った瞬間から気軽に話しかけてきたのがカイトだったのである。それでも、会った時、ユリコはカイトを全く相手にしなかった。

ただ他の人と違い、気軽に話しかけられたため、記憶に残った程度である。

この学校の生徒は全てエリーターである。故に誰もがそれなりにプライドが高く、ユリコの様に、人を全く寄せ付けない雰囲気を持つ生徒となれば流石に稀ではあるが、それでもこの学校に通う生徒全員が凡人とは違うという意識を持っていた。

しかし彼は違った。全くそんなプライドを持ち合わせてはいなかったのである。少なくともユリコにはそう思えた。

そんな中、偶然であったが、この学校のコンピューターを覗く機会があった。そこでユリコはカイトの事を調べたのである。

これは別に彼に興味があったからではない。ただ単にたまたま気が向いて調べる気になったのである。

いや、それは間違いか、少しではあるが、彼に興味があった事は確かであろう。だから調べてみる気になったのだ。

とにかくユリコは学校のコンピューターからカイトの個人情報を覗いてみた。そして彼のある秘密を知ったのである。

彼、カイトはエリーターではなかった。いや、それは語弊がある言い方だ。カイトはエリーターではあるが、純粋たるエリーターではなかったのだ。

帝国に属し、征服された地球の人々は、帝国の絶対能力主義により、徹底した能力主義でその人の人生が決められる事となった。

生まれてすぐに遺伝子レベルでその才能を調べられ、その能力値の高い者が、英才教育を受け、帝国のために働かされた。もちろんそれなりの待遇は用意されている。それがエリーターだ。

 そして能力値の低い者はノンエリーターと呼ばれ、ほぼ奴隷としての過酷な日々が待っている。

事実、この惑星ペペの鉱山区はノンエリーターの住んでいる地区であり、生活環境は、今ユリコたちが住んでいる地区とは雲泥の差だ。

そしてカイトはそのノンエリーターでありながらエリーターとなった数少ない人物なのでる。

 つまり、例えノンエリーターとして、奴隷として生きる運命を背負った者でも、わずかではあるが、エリーターとして生きる道があるのだ。

そのためには帝国の定めた、極めて難解な試験に頭脳、体力、共にパスしなければならない。それは合格率0,001パーセントとも言われている試験だ。

カイトはそれをパスしたのである。

この合格率の低さは当然と言えば当然である。理論上、自分の能力以上の力を出さなければその試験にパスすることは出来ないのだから……、

 ユリコはカイトが元ノンエリーターである事を知って、彼を生徒会に推薦した。

推薦は簡単に通った。この学校で彼女の意見に反対する者など、先生も含めて誰ひとりいないのだから当然である。

しかし、カイトを生徒会へ推薦したのは別に彼を買ってのことではない。

この学園の生徒会といえば、この学園に通うエリーターの生徒達の中でも特に優秀な者が所属している。

そこにノンエリーター出身のカイトを所属させ、笑いものにしようというのが彼女の魂胆だったのである。

彼女は自分の通う学園にノンエリーター出身のカイトがいることに我慢ならなかったのである。つまり、彼をこの学園から追い出そうとしたのだ。

 ユリコのこの計画は、はじめは思惑通りに進んだ。

カイトがノンエリーター出身である事は、この学園の個人情報が記録してあるコンピューターを覗き見る事が出来るものでなければ、知り得ない事実のため、生徒会のメンバーでも知る由も無いのだが、カイトは明らかにエリーターとは違う雰囲気を持っていたため、生徒会のメンバーの中では明らかに浮いていて、生徒会のメンバーはカイトをどことなく嫌っていた。

しかし、カイト自身は全くそんなことを気にしなかったのである。

 生徒会の誰もがカイトを無視しても、彼は気さくに話しかけてきた。

朝、全員に挨拶を交わし、気軽に話しかけ、そして夕方になるとまた全員に挨拶を交わして帰宅する。

これはよく考えれば当たり前の事ではあるが、生徒会のメンバーは事務的に作業をこなすだけで挨拶など誰ひとり交わした事も無いのが普通だった。

そして、カイトが生徒会に所属してから数ヶ月、次第に生徒会のメンバーも彼に感化されたのか、自然と挨拶を交わし、雑談などもするようになってきた。

ただ、それでもユリコは最後まで彼の事を毛嫌いし、挨拶を交わさなかった。彼女のプライドがそれを許さなかったのである。

そして彼女は、さらにある計画を試みることにする。

 彼女が新たに建てた計画は、カイトのプライベートを監視して、彼の弱みを握り、この学園から追い出す算段である。

特にカイトにはどうも不審な行動があった。

彼は夕方になると、どんなに生徒会の仕事がおしていようと、仕事を切り上げ帰ってしまうのである。

噂では早朝も学校に来る前に、何処かに寄っているという話があった。それをユリコは確かめ、それが彼にとって都合の悪いことならそれをネタに学園を辞めてもらう気でいたのだ。

 そしてある日、ユリコは彼を尾行した。結果彼が毎日通っている場所は直ぐに分かった。カイトは毎日この星の星立病院に通っていたのである。

ユリコはその病院で、彼が毎日来る理由を受付で聞くと、カイトはある少女の見舞いをするために、毎日早朝と夕方この病院に来るということだ。

カイトが毎日見舞う相手の少女の名はミル・クラスト、11歳。

ミドルネームがカイトと同じだ。それだけでこの少女がカイトの妹だということは察しがついた。

話を聞くと、彼女は生まれつき目と足が不自由だという。ただ、長期にはなるがそれなりの治療を施せば完治する可能性はあるのだということだ。

ユリコはそこで、ミルが1人の際に、カイトの友人ということでミルと会い、話をした。そこでユリコはカイトという人物の事を詳しく知る事が出来た。

 カイトとミルは、元は地球に住んでいたらしい。

地球といっても遥か昔のように青い地球というわけではない。死の7日間の後の地球はそれ以前の地球とは見る影も無く、ほとんどが荒野となり、住むにはあまり適していない。

現に地球に残されたもの達は、ほとんどが捨てられたノンエリーターで占められている。

カイトとミルは半年前まで、両親と共にその地球に住んでいた。そして、カイトがエリーターとなったのはミルのためだったという。

 ミルは生まれつき目と足が不自由だ。しかし、先にも言ったがそれなりの最先端の医療を受けさえすれば、時間はかかっても決して治らない病気ではない。

その治療を受けさせるために、カイトは必死に努力を重ね、エリーターへの試験をパスしてきたのだ。

エリーターになれば、家族には準エリーターとしての恩赦が与えられる。ただ、カイトとミルの両親は、例え酷い所とはいえ地球を離れるのは忍びないというという事で地球に残ったらしい。

結果、カイトとミルだけがこの星に来たのだという。

 その話を聞き、ユリコは自分を初めて恥じた。

ユリコが弱みを握り、学園から追い出そうとしていたのは、不自由な妹のために必死に努力して、僅か0,001パーセントという試験をパスしてエリーターとなった妹思いの兄だったのである。

その優しい兄を、あろうことか、ただ個人的に気にいらないという理由で追い出そうとしていたのである。

カイトと比べ自分のなんと愚かなことか。ユリコは自分がいかに小さな人間であったのかをミルの話を聞いて思い知らされた。

カイトのあの屈託の無い笑顔の裏に、このような過酷な物語がある事を知ってユリコはそう感じたのだ。

 それ以後ユリコは変わった。

ミルと話した翌朝、初めてユリコはカイトと挨拶を交わした。カイトがこの学園に来てから数カ月、初めてユリコはカイトと挨拶を交わしたのである。

それからカイトと共に、生徒会で仕事をするようになってから少しずつ、ユリコの性格も変わっていった。

生徒会のメンバーだけでなく、気軽に誰とでも話をするようになった。ユリコ自身も自分が変わっていく事をなんとなく自覚していた。

でもそれを悪い気はしなかった。

今日の朝、ユリコをよく知る姉のキャシーにも、変わったと言われたのだから、ユリコが変わったことは誰もが認める所であった。

しかしそれでも、今日のように大幅に遅刻しても先生はユリコに対して何も言えない。ユリコにはそれが今は、逆に不愉快に感じていた。自分だけ特別扱いされることに今は嫌気がさしていたのだ。

 そんなことを考えていたユリコもあることで不安な気持ちになった。それは今日、姉のキャシーと再会した事からである。


本来なら偶然とはいえ、姉と再会した事は喜ぶべきことなのであるが、今日の姉の様子を見て、それが今日に限っては良くない事である事は明白だった。

キャシーは妹のユリコと再会した事を喜ぶどころか困惑した様子だった。これは姉の性格上、妹との再会はまさに想定外の事で、おそらくあってはならないことだったに違いない。

 キャシーがこの星に来た理由は、何かの極秘の任務であることは間違いないだろう。

キャシーは帝国の技術部に所属しており、まがりなりにも軍属に属しているのだから、極秘任務自体は特に珍しくもない。

しかし、妹との再会を喜べない姉の姿に、ジェシーは違和感を覚えずにはいられなかった。

それはつまり、私と会う事で何か任務に不都合があるという事。

それはおそらく、姉の性格からすれば、家族に会う事で、何か家族に迷惑がかかる事を恐れてのことだという事はなんとなくだが想像できた。

今日の朝、数日後に姉と会う約束を交わしたが、それは便宜上の事でキャシーが承諾したので、実際に会うことは無理なのではないかという事もユリコも薄々は感じていた。

 姉は一体何の任務でこの星に帰って来たのだろうか。

この星はまだ開発途中の開拓星であり、アダマンタイトと呼ばれるエネルギー鉱石が採れる鉱山星としての側面も持っている。

おそらく姉の目的はそのアダマンタイトに関係する事なのではないか。しかし、それなら何故、わざわざこの星まで来なければならなかったのだろうか。

姉のいた星でもアダマンタイトは貴重なレア鉱石であるとはいえ存在するはずだ。しかも、姉は帝国の技術部に所属している人間なのだから、もし無ければ取り寄せればいいだけである。わざわざ彼女自身がこの星まで来る理由はない。

しかも、今日姉と出会った場所は不思議な事に病院だ。

姉は軍の人間なのだから軍事施設にいて然るべきはずである。それが病院にいたということ自体妙な話だ。その事実が、ユリコをより一層不安にさせた。

姉は帝国に内緒で何かをしており、この星に来たのも、軍として正式な任務で来たのではないのではないか

 結局ユリコは授業中、姉の事が気にかかり、そんなことばかり考えていた。


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