表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/19

第1章 故郷への帰還


 第1章 故郷への帰還



 1機の民間シャトルがワープで亜空間の中を飛んでいた。

このシャトルは今、ガルア星系第5番惑星、ガーベラ帝国の所属する開拓星、惑星ペペに向かっている。

そのシャトルの乗客の中に、ガーベラ帝国第576兵器技術開発部主任、キャシー・アローという女性がいた。

 年齢は23歳。身長173センチ。カールのかかった栗色の髪が特徴の中々の美人である。

 キャシーはシャトルの中でアイマスクを付けて寝ていた。しかし、途中で目が覚め、彼女は時計を見る。

(まだこんな時間か……)

 少し寝ても結局直ぐに目が覚めてしまう。ぐっすりと眠ることが出来ない。

 シャトルがワープから開け、惑星ペペに到着するまでにはまだ時間がある。キャシーはアイマスクを付け直し、眠りにつこうとしたが、やはり眠ることはできない。

 中々寝付けないでいると。隣にいる同じ技術開発部の副主任ミサワが気づき、キャシーに話しかけてきた。

「寝付けないんですか、主任」

「……ええ」

「無理もありません。ペペは主任の生まれ故郷だと聞いています。いろいろと思う所があるのでしょう」

「まあ……ね」

 キャシーは仕方がなく起きることにした。どうせ眠れないのならこのまま目を閉じても仕方がない。

彼女はCAを呼ぶとお酒とつまみを注文した。何か食べれば自分の気持ちを落ち着かせることができるかもしれない。そう考えたからだ。



ここで、キャシー・アローという女性について簡単な紹介をしておこう。

キャシー・アローは地球人だ。ゆえに、彼女の本当の故郷は太陽系第3惑星、地球といえるかもしれない。

しかし、彼女が生まれ育ったのはこのシャトルが向かっているペペという星である。なぜ彼女が地球ではなく、ペペで生まれ育ったのか、それには理由がある。


地球は今から100年ほど前に、銀河を征服せんと企むガーベラ帝国の侵略を受け、その支配下に置かれた。

 当時の地球は宇宙開発が進み、火星にも人が住めるほど開発が進んだ。そこで火星に移住計画が建てられ、その式典が行われようとしたとき、彼らは現れた。

ガーベラ帝国の艦隊である。

地球以外の生命体を初めて確認できたことに地球は混乱したが、それでも地球はガーベラ帝国に対し、対話を試みようとした。

しかし、彼らガーベラ帝国はその対話を一蹴した。彼らが地球に来た目的は武力による支配が目的だったからである。地球はその攻撃を受けた。

地球人類は一致団結しガーベラ帝国と戦った。だが圧倒的ともいえるその戦力差の前に、人類は1週間で約総人口30億の人々が僅か7万人にまで激減した。

世に言う「死の1週間」である。

やむなく地球はガーベラ帝国に完全降伏し、奴隷として、ガーベラ帝国の支配下に置かれる事になったのである。


 地球を侵略したガーベラ帝国とは、150年ほど前に、突如として銀河の様々な星に対し、侵略を開始した新興国家である。

初めこそ小さな国家だったが、その圧倒的ともいえる軍事力を武器に瞬く間に周辺の星々を制圧。そして今や銀河の約半分を占める巨大な軍事国家として君臨している。

そのガーベラ帝国の躍進を支えたのは3つの要素だと言われ、まずその一つはクロノスエンジンといわれる高出力のエンジンである。

今や、帝国の大規模な艦船にこのエンジンが使われていない船は無いほどにポピュラーなエンジンとなったが、そのエンジンには、宇宙の至る所で発見される鉱石、アダマンタイトと呼ばれる、エネルギーを無尽蔵に放出する鉱石がその動力源として使われている。

このアダマンタイトという鉱石は、昔からそのエネルギーの利用が研究されてきたそうだが、その鉱石は非常に壊れやすく、しかも些細なことで簡単に爆発を起こし、扱いが極めて難しい。

しかもこの鉱石は有機物の接近を許さない。どういった原理なのかは今なお不明なのだが、その鉱石の半径10メートル以内に有機物が近づくと、その有機物は消滅してしまうのである。つまり人間をはじめ生物は近づけないのだ。

このように極めて危険な鉱石ではあるが、それを初めて船のエンジンの動力源として活用する事に帝国は成功したのである。それにより船の航行時間は半永久的に可能となり、ワープ航法などでもより多くの距離を飛ぶ事が出来るようになった。

もちろんそれだけではない。軍事目的以外にも使われ、エネルギー不足の開拓星などでも、電力供給のエネルギー源として使われる事もある。

そして2番目の要素がガーベラ帝国の主力となって戦場で活躍する人型万能機動兵器スターナイトである。

宇宙空間の戦闘、及び地上戦、あらゆる状況下において凡庸性が高いガーベラ帝国の所有する人型兵器である。

これがガーベラ帝国の躍進を支えた一番大きな要素と言ってもいい。帝国はこの兵器の開発に成功した事で、僅か150年そこそこで銀河の半分を占める巨大な軍事国家に成りえたと言われている。

そして最後の要素は、人事面における帝国の徹底した完全能力主義である。

帝国に属する人間は、全員生まれた時に遺伝子スキャンにかけられ、その才能値を調べられる。そして才能値の高い人間は英才教育が施され、帝国のために適正な部署につかされ、帝国のために働かされる。もちろんそれなりの報酬は約束されてだ。

その才能値が高く、英才教育を受ける事となった人達は「エリーター」、つまり、「選ばれた種」と呼ばれ、才能値の低い人間は「ノンエリーター」と呼ばれ、奴隷として働かされる。

これは帝国に属している者なら誰に対しても同じ事で、そこに貴賤の差は無い。

例え皇帝の子供だろうと、才能値が低ければ奴隷として働かされるのだ。ただし、実質そう言った例は無い。

遺伝子レベルで才能が調べられるので、どうしても家系的に能力の高い家系にはそれなりの能力の高い子が生まれるのは必然であるからだ。

ちなみにキャシーはエリーターであり、地球人でありながら帝国の英才教育を受けた人物の1人である。隣に座っているミサワもそうだ。それで彼らは帝国の技術開発部に所属しているのである。

この上記3つの要素が、帝国が僅か150年という年月で、銀河の半分を占める巨大な軍事国家に成し得た理由だと言われている。



キャシーは運ばれてきた酒を一杯飲んだ。これで少しは心を落ちつかせることが出来るかと思ったが無理だった。

キャシー別に数年ぶりに故郷に帰るという理由で心が落ち着かないわけではない。キャシーは今回の任務の内容に心が落ち着かないでいるのだ。

何故なら、今キャシーの双肩には組織の命運が託されていると言っても過言ではないのだから。それほど重大な任務なのだ。


キャシーはこれらの事を考えていると、突然シャトルの機内が明るくなり、音楽が鳴り響くと共に、アナウンスが流れた。

「ご搭乗の皆さま、大変長らくお待たせいたしました。当機はあと1時間ほどで惑星ペペに到着します。なお、あと15分後にワープ開けいたします。ワープ開けするときには多少の衝撃がございますので……」

 アナウンスが続く。見ると前方の掲示板に15分前からのカウントダウンの表示がなされる。

ワープ開けするまでのカウントダウンだ。CAは眠っている客を起こしてシートベルトを付けさせている。

結局キャシーはほとんど眠れなかった。キャシーは酒とつまみを無重力ボックスにしまうとシートベルトを締めた。

「大丈夫ですか」

ミサワから声がかかった。

「何が?」

「いえ、どうやらあまり眠れなかったようですから……」

「心配しなくていいわ、そんなにやわな体じゃないから」

「そうですか、まあ気持ちは分かります。私があなたの立場だったらやはり眠れないでしょうから」

 そう言うと、ミサワも自分のシートベルトを締める。

「私の事よりあなたはどうなの、自分でこういうのもなんだけど、ペペに着いたら忙しくなってあまり睡眠をとる時間は無くなるわ。あなたは少しくらい眠ったの」

「ご心配なく。主任同様私もそれほどやわじゃありません」

「そう」

「私だって今回の任務に対して思う所もあるのです。とてもじゃないですが興奮して眠れませんよ」

 ミサワも今回の任務の重要性は分かっているようだ。

そう、キャシーとミサワはバカンスのためにペペに行くのではない。ある重要な任務のためにペペに向かっているのだ。それも極秘の。

 前方の掲示板に表示されているカウントダウンは5分を切る。もう少しでワープ開けし、この亜空間からはオサラバする。

CAも客ももう全員席についてシートベルトを締め、軽い衝撃防御態勢をとっている。衝撃防御態勢などと聞けば大層な姿勢を想像するかもしれないが、なんてことはない。ただ背中をシートに預けて楽な姿勢を取っていれば良いだけだ。

 そうこうしているうちにカウントダウンは1分を切った。そこで再び時間を知らせるアナウンスが入り、今度は音声でカウントダウンが開始される。

「45……44……43……42……」

 私は窓の外を見てみる。すると亜空間の中で虹色の奇妙な景色しか見えなかった景色がかすかに揺らぎ始めた。亜空間を脱出する前兆だ。

「10……9……8……7……」

 さらにカウントダウンは進む。私は窓の外を見るのを止めて、他の皆と同じように衝撃防御姿勢をとり、シートに体を預けた。

「5……4……3……2……1……0」

 アナウンスがゼロと言った瞬間、わずかに目の前が霞み視界がぼやける。そして背中に押しつけられるようなGを軽く感じる。だがそれも一瞬の事だ。

気がついた時にはもう視界ははっきりしており、窓の外を見るとそこは亜空間ではなく、闇の中に星が瞬く世界、どこまでも続く宇宙が無限に広がっていた。

 するとまたアナウンスが流れる。

「当機は無事にワープ開けしました。あと45分ほどで惑星ペペに到着します。お降りの際は忘れ物の無いよう、周りをよくお確かめになって……」

 アナウンスが続く。すると周りがどたばたと騒がしくなってきた。みんな降りる準備をはじめたのだ。

 キャシーはまだ降りる準備をしなかった。彼女は何故かそんな気分になれなかったのだ。

忙しく動いている皆をしり目にキャシーはまた窓から宇宙空間を見る。彼女は宇宙を見るのが好きだった。

彼女はどの星に行っても夜になると、外に出て夜空を見上げる。これは彼女の趣味だ。

どこまでも続く宇宙空間を眺めていると、自分がちっぽけな存在であると感じると共に、自分の抱えている仕事などの悩みが、取るに足らない小さな事だと感じて気持ちがリフレッシュできるのだ。

いわば彼女にとって宇宙を見る事は趣味であることと同時に、気分転換の1つなのだ。シャトルの中からでは当然宇宙は一部しか見えないが、それでも宇宙である事には変わりは無い。

そんな彼女の目に、我々の向かう惑星ペペが目に入る。

 惑星ペペ、先にも書いたがガーベラ帝国の開拓星である。星の質量は大体地球の3分の2。それほど大きな星ではない。

海は3割ほどで後は陸地で占められている。この星は元々鉱山としての価値が高く、貴重な資源であるアダマンタイトが良く取れる星である。住んでいる人の人口は約10万人。ほとんど地球人だ。

 星に住んでいる人口が10万人と言えば、かなり少ない部類に入る。ただそれでもキャシーは思う。

150年前、地球が帝国の攻撃を受けた時は地球人の大半は殺され、30億という人口が僅か7万人にまで減ったという。

それに比べればこの星の人口は多い。少なくとも壊滅に瀕した150年前の人口よりは多くの地球人がこの星に住んでいる訳だからものは考えようだ。

ちなみに今現在、この宇宙に散らばっている地球人の人口は大体約30万人と言われている。その3分の1がここ惑星ペペで暮らしているのだ。

残りの3分の1は未だ地球に住み、後の3分の1は銀河中に散らばっている。

 この惑星ペペは鉱山としての価値が高い星であるから、当然ここに住んでいる人達の大半は鉱山で働く鉱員である。

事実人口10万人の内の9割以上はその関係者だ。しかし、この星は開拓星としての側面もあり、そのために地球人のエリーターも、僅か6000人と言う少数ではあるが、開拓に従事するということでこの星に住んでいる。

キャシーのアロー家はその少数のエリーターの家系であり、しかもキャシーの父親であるキャメロン・アローはこの惑星ペペの星知事を務めている。

いわば最高責任者で、母はその秘書だ。

ゆえにアロー家は惑星ペペでは知らない者はいないほど有名だ。そしてアロー家にはもう一人、キャシーと5歳年の離れた妹がいる。名前はユリコだ。

 キャシーは数年前、帝国の技術部に配属される事に決まり、ペペを離れる際、このユリコの事がすごく心配だった。

なぜならユリコはプライドの塊のような女性だったからだ。

 我がアロー家はエリーターの家系であるが、父も、そして母もいわゆるエリーターではない人達、つまり「ノンエリーター」と呼ばれる人達に対してそれほど差別意識は持っていない。

私もそうだ。しかし妹は違う。

ユリコは自分がエリーターである事に誇りを持ち過ぎるあまり、ノンエリーターに対し強い差別意識を持っていた。

つまり端的に言えば馬鹿にしていたのだ。

エリーターである自分が選ばれた存在だと信じ、ノンエリーターを見下していた。

彼女は今頃どうしているだろう。私とは5つほど年が離れているから、今はちょうど高校生のはずだ。少しは性格が丸くなっただろうか。

 だが、キャシーは今回の帰郷に関して家族とは連絡をとっていない。つまり帰ると家族に伝えていないのだ。

もちろんこれは、今回の彼女のペペに行く目的が飽くまで極秘の任務であるというのが理由だ。任務で帰るのであって里帰りが目的ではないからだ。

それに彼女は今回の任務の危険性をよく熟知していた。もし万が一今回の任務の内容が帝国にバレたら、一族全て皆殺しにあってもおかしくない。

それほど今回の任務は危険な任務なのだ。それに帝国ならそれくらいのことはしてもおかしくはない。だから彼女は今回の帰郷を家族の誰にも伝えていなかった。

 しかし、いざここまでペペに近づいてみると、家族に会いたいという気持ちが募ってくる。

彼女は数年前にペペを出てから一度も帰郷していない。つまり家族とはそれ以来会っていない。

父はどうしているだろう。相変わらずせわしなく働いているだろうか。母は父をちゃんと支えているだろうか。妹は少しくらい性格が丸くなっただろうか。友達は出来ただろうかなど、会って色々と話をしてみたい。

でも会うわけにはいかない。今回の任務は危険すぎる。帝国の監視の目がどこにあるのか分からない以上、家族と会うわけにはいかない。

万一が起きた時、家族にも危険が及ぶ。キャシーは頭を振りその思いを絶ち切った。


「――-主任、主任!」

「……あ、何」

「何じゃありませんよ、我々もそろそろ降りる準備をしないと」

 ミサワは棚上のボックスから荷物を取り出しながらそう答えた。そして彼はキャシーの荷物も取り出し彼女に渡す。

「ありがと」

「珍しいですね、主任がボーとするなんて、やはり今回ペペに行く事になって思う所があるんですか」

 否定は出来ない。事実今彼女はペペにいる家族のことを思っていたのだから……

「そうね、ごめんなさい」

「謝る事はないです。私が主任の立場だったらやはり複雑な気分ですよ。それにさっきの主任の言葉じゃありませんが、ペペについたら忙しくて嫌でも他の事は考えられなくなります。物思いにふけるなら今の内ですよ」

 そう言うと彼はにっこりと笑った。

キャシーはまた窓の外からペペを見る。先ほど見た時と比べるともうずいぶん星が大きく見える。

 ミサワの言う通り、ペペに着いたらもう物思いにふける時間などない。私は気合いを入れ直した。

今回の任務の重さはキャシーも重々承知している。もし今回の任務が上手く行けば、彼女の所属している組織の今後の行動は大幅に変わってくるだろう。

帝国も我々には迂闊に手は出せなくなるはずだ。

 キャシーは時計を見た。あと5分もすればシャトルはペペの宇宙港に着くだろう。もう後戻りは出来ない。我が組織の命運はキャシーの双肩にかかっている。

 シャトルはゆっくりと惑星ペペへと降りて行った。

 

しかしこの時、彼女はこの星で起こる惨劇をまだ知る由も無かった。

キャシー達の行動はすでに帝国に察知されていたのである……


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ