第18章 ⅩⅢ委員会
第18章 ⅩⅢ委員会
惑星グリフィス、ここはガーベラ帝国の母星である。
人口は約20億、この星に住む者は全てエリーターの中でもさらに選ばれたエリーターであり、当然警戒も最高レベル、帝国の行政府もこの星の首都ミュアースにあり、現ガーベラ帝国第14代皇帝、フロイト・タナトルもこの星に在住している。
この星の首都ミュアースの中央に位置する所に、帝国の行政府である星庁の建物がある。
その星庁の奥に、帝国の皇帝意外決して入ることの許されない場所がその星庁にはあった。
皇帝以外の人が近づけば、有無を言わさず処刑される。そんな場所だ。
人はそこを聖域、エンペラー・サンクチュアリと呼んでいた。
ガーベラ帝国現皇帝であるフロイトは、従者もボディガードも付けず、たった1人でそのエンペラー・サンクチュアリへ向かっていた。
そこへ入るにはボディガードすら付けることは許されないのである。だから彼は1人で歩いていたのだ。
皇帝フロイトは、着飾ったりっぱな皇帝服というものを身に纏っているが、表情自体はまだ幼く見える。
それも当然である。帝国の現皇帝であるフロイト・タナトルはまだ若干17歳の少年なのだから。
ちなみに帝国の歴代皇帝には血の繋がりはない。
つまり、13代皇帝と、14代皇帝のフロイトとの間には血の繋がりはないのである。
これは帝国が、遺伝子レベルでの絶対才能主義を貫いている国家であることに起因する。
代々の帝国の皇帝はエリーターの中でも実績を上げ、エリーターの中でも最高のエリーターと呼ばれる数人の中から、コンピューターの指名により、最もふさわしいと考えられた者に決められる。
全てコンピューターによる選出のため、そこには人の意思が反映されることは全くない。しかし、それでも候補に挙げられるのはそれなりの実績を残さなければ選出されないため、若干16歳の人物が皇帝になるのは、過去と照らし合わせてみても、異例中の異例だった。
さらに、フロイトはパイロット出身だ。それも非常にめずらしいことだった。皇帝は文官タイプから選ばれる事が非常に多かったからである。
フロイトは帝国大学を首席で卒業、自分の意思でパイロットの道を選んだ。
通常は遺伝子レベルで才能を分析され、その人の未来は生まれた時から大筋において、ほぼ決められているが彼は違ったのである。
その類まれなる才能からパイロットとして武人の道を進む事も、また、その頭脳を生かして文官の道を選ぶことも出来た。そして彼が選んだのはパイロットとして戦場の最前線で戦うことだった。
とはいっても彼がパイロットとして戦った期間は約一年である。
彼は15歳という若さで対シャルリナ連邦との戦争の最前線で初陣を飾り、ラバンダ宙域での戦いに置いて、1人で100機以上もの敵機を撃墜し味方を勝利に導き、フロイトという名は帝国軍、及びシェルリナ連邦でも知らぬものはないほどになった。
その後も彼はパイロットと兼任しながら指揮官としても活躍し、数々の戦いを勝利に導いた。
そして彼が16歳になった時、先代の13代皇帝が早世し、次にコンピューターが指名した第14代ガーベラ帝国皇帝は彼だったのである。
これには多くの者が驚いた。
そして彼は若干16歳という、帝国歴代最年少で皇帝となったのである。
フロイトは星庁の中を、聖域へと向かって歩いていた。皇帝意外誰も入ることの許されない場所である
彼は入り口で生体認証により、皇帝である事がコンピューターに認証されると聖域の中に通される。
そしてしばらく歩いて行くと、1つの扉が見えて来た。この扉の向こうの部屋が聖域の中枢なのである。
ここに何があるのかは皇帝になった者しか知ることはできない。彼は扉を開けるとその部屋に入った。
「遅かったじゃないか」
「すまない、公務に追われていてね」
フロイトが部屋に入るや否や、なんと他の誰かから声がかかった。しかも、皇帝であるフロイトに対して、同等の話し方である。
「ならフロイトも早く席についてくれ、10分少々の遅れだ、早く会議をはじめよう」
「ああ」
今度は別の誰かから声がかかる。
なんとその皇帝意外入ることの許されない聖域に、皇帝であるフロイト以外に十数人の人影が見えた。
いや、厳密には違う。よく見ればフロイト意外、みんなホログラムでここにはいない。
この部屋は円を描くような会議室の形をしており、そこに、ホログラムにより10数人の人達が席に座っているのだ。
彼らの通称はⅩⅢ委員会、誰も知ることのない帝国を影で支配する人達なのだ。
そう、これがガーベラ帝国の秘密であった。
帝国では皇帝が絶大な権力を握っていると一般ではいわれている。
エリーターのみで構成された議会もあるにはあるのだが、政策の決定権は全て時の皇帝に委ねられている。
議会は意見を言うだけで、あくまでも政策を決める全権は皇帝にあるというわけである。だから帝国は皇帝の専横政治と言われていたが、実態は違った。
帝国の実権はこのⅩⅢ委員会が握っているのである。
つまり、その委員会は13人いる訳だが、皇帝はその内の1人にしかすぎないのである。しかも、彼らの立場は同等だ。
一応議長役の者もいるが、その13人の中では上下関係は存在しない。飽くまでも彼らの立場は同等なのでる。
それはこの部屋に入ってきた際に、皇帝であるフロイトに対し他の者が普通に話しかけてきたことからも明らかである。
フロイトは10分少々遅れていたので急いで席に着く。そして議長役を務めている人物が話を始めた。
「それでは皇帝も席に着いたので、これから定例会議を始めようと思う。よろしいかな」
「……」
「では始める。まずはケルマルディー惑星宙域におけるシャルリナ連邦との戦争の報告だが……」
「ちょっと待ってくれ」
報告の途中で誰かがそれを止めた。
「マロリー卿、報告の途中で話を割るのはルール違反ですぞ」
「すまない、ちょっと火急の報告があるのでね」
マロリー卿と呼ばれた人物は話を始めた。
「ほんの1時間前に受けた報告なのだが、惑星ペペに派遣した特殊部隊が全滅したという知らせが入った。まだ詳しい事は確認中だが、部隊が全滅したということは間違いなく事実だということだ。確かな筋からの情報だ」
「ペペに……なぜあんな辺境の星に特殊部隊を?それにペペは確か地球人が住んでいる星だ。地球は我等の属星の1つだ。味方のはずではないのか」
「妖精の羽根が潜んでいるという報告があった」
「テロリストの?」
「ああ」
「なるほど、それで部隊を派遣した訳ですか、そして全滅したと……」
「そうだ」
「ただ単に敵の戦力を読み違えただけではないのかね?」
「それがそうでもないのだ」
マロリー卿は周りを見渡すとゆっくりと話し始めた。
「調べてみると、ペペにはそれほどの部隊は駐屯していない。配備されているスターナイトも20年以上も前の旧式ばかりだ。妖精の羽根の連中もこの星にはそれほどの戦力を隠し持っているという報告は受けていない。多少抵抗が激しく、苦戦をした所で特殊部隊が全滅するとは思えない」
「では全滅した原因は何だと?」
「一応これは私の推測に過ぎない。それを前提に話を聞いてもらいたいが、部隊が全滅した原因はおそらく……」
「遺産……」
マロリー卿が話すよりも早く別の誰かがその答えを言った。
皇帝フロイトだった。
「そう言いたいのではないかな」
「さすがは皇帝陛下、その通りです」
「遺産だと……アルメリアのか?」
「そうです。アルメリアの遺産です。しかも……」
マロリー卿は少し間を開けて、周りを見渡してから言う。
「おそらく女神が目覚めたのではないかと……」
「なんだと!」
ⅩⅢ委員会の人達は、女神が目覚めたと言うマロリー卿の言葉を聞き、ガヤガヤと騒ぎ始めた。
「静粛に!皆さん静粛に!」
議長役の人物がみんなを静かにさせる。そしてマロリー卿に対して言う。
「マロリー卿、女神が目覚めたという話、確かなことなのですかな」
「先ほども言ったであろう。これは推測だと、特殊部隊の中で生き残った者がおれば詳しく話を聞きたい所だが、まだそこまでの確認は出来ておらん」
「そうですか……」
「しかしそう考えなければ部隊が全滅したという原因が他に思いつかん。飽くまでも可能性としての話だけになるが」
「……」
みんな何も言えない。
マロリー卿の話もわかるが、まだ確認がとれていない可能性だけの話をおいそれと信じる訳にはいかないからだ。
するとそのⅩⅢ委員会の奥にいた人物が口を開いた。
「……おそらく、マロリー卿の話に間違いはないであろう……」
みんなその人物の方を驚いて見る。
そこにいる人物はチャオ老師、年齢100歳の老人で、このⅩⅢ委員会1番の年長者でもある人物である。
みんなが驚いているのはこの人が口を開くことなどめったにないからだ。
「老師、あなたがそう思う根拠はなんです」
「空気がざわついておるからじゃ」
老師は即答した。
だが、その答えは抽象的なもので、みんなを納得させるには無理がある。しかし老師は話を続ける。
「うまく言葉では言えぬが、そう感じるのじゃ。妙に空気がざわついておる。何かが起こった事をこれは示唆している。時を考えれば女神が目覚めたと考えるのが一番自然じゃろう」
しかしそれだけでは周りは納得しない。当然である。全て憶測で証拠がないからだ。そこへ皇帝であるフロイトが話に割って入る。
「とりあえずここにいる皆はまだ納得できないという人が大勢いるようだ。確かに憶測だけで根拠が薄すぎます」
「皇帝陛下、あなたはどうなんです。マロリー卿や老師の言葉を信じますか」
「私ですか?信じます」
フロイトは即答した。何の迷いもなく信じると言ったフロイトの言葉に皆驚きを隠せない。
「信じる確たる根拠があるわけではありません、ただ強いて挙げれば、マロリー卿や老師の話にこれまでウソだったことは一度もありません。その彼らが言うのです。それに私も感じるんです。妙な胸騒ぎをね」
みんな黙りこくってしまった。まさか皇帝まで信じるとは言わなかったからだ。すると他のⅩⅢ委員会のメンバーが口を開く。
「ならこれはゆゆしき事態ですぞ。女神は遺産の中でも特Aの機密事項で兵器としての危険度も高い。それが目覚めテロリストの味方だとなると、これはとてつもない脅威になります。早急に対策を練らなければ」
「当然です。ですが私としては暫くこのまま様子を見るべきではないかと、言い方を変えれば泳がせてみてはどうかと思うのですが」
意外にもそう提案したのは、この話を持ち込んだマロリー卿だった。
「なぜです?」
「理由は3つあります。まず1つは女神がまだテロリストの味方であり、我等の敵だと断定が出来ないからです」
「しかし我等の送り込んだ特殊部隊は全滅したのであろう。先ほどのマロリー卿の話だとその全滅の原因は女神にあるのだと断定しているように聞こえた。なら女神はテロリストに組みし、我等の敵だと考えるのが自然ではないか」
「ところがそうだと言いきれないのです。もしかしたらただ単に女神は自己防衛のために我等の送り込んだ部隊を全滅しただけかもしれない。私が下した命令は女神の回収であったのだが、その特殊部隊の現場の指揮官というのがバルサロームという男で、この男は優秀なのだが、独断専行で命令違反も度々犯す。この男が女神を脅威と感じ、命令を無視して攻撃を加えたために、敵とみなされ返り討ちにあったという可能性は非常に高い。つまり女神は、攻撃されたから反撃をしただけであり、だからといってテロリストに組みし。我等の敵だとは断定できないという事です」
「ふむ……」
「それと2つ目は 女神の体に関しての事です。テロリストが女神の体を調べてあげ、その超科学を奴らの力の糧とすることはほぼ不可能だからです。女神は古代アルメリアの遺産、そしてブラックテクノロジーの塊です。我等帝国の最先端の科学力を持ってしても、女神の体を完全に調べ上げることはできない。つまりその超科学を奴らも分析することは出来ないということです。ゆえに直ぐに我等の脅威になるとは思えません」
「……」
「そして3つ目、実はこれが一番の理由なのだが……」
「なぜ女神が目覚めたか……その理由だな」
「さすがは皇帝陛下、その通りです」
マロリー卿は周りを見渡して話し出す。
「私の受けていた報告によると女神は約50年前、ある遺跡のクロノスボックスから偶然発見されたものだそうです。そして半世紀もの間、彼女を目覚めさせるために、様々な実験がテロリストの中で行われたが、一度たりとも成功した事はなかったそうです。それが今になって突然成功した……」
マロリー卿は一呼吸置いてまた話しだす。
「もちろん今回、惑星ペペに置いて実験した事がうまく行き、女神を目覚めさせることに奴らが偶然成功したのかもしれないが、私にはどうも合点がいかない。女神が目覚めたことには何か別の要素があったように思えてならないのです」
「別の要素とは?」
「わかりません。ですから様子を見るべきだと言っているのです。女神が脅威になるかもしれないという危惧は私も当然持っておりますが、だからといって、今早々に手を出すことは、暗闇で相手が見えないのに攻撃するようなものです。その方が遥かに危険です」
「ならマロリー卿はどうすべきだと?様子を見ると言っても、いつまでも手をこまねいているわけにはいかないぞ」
「妖精の羽根にも我らが忍び込ませているスパイはいます。とりあえずそのスパイからの報告を待つべきで、まずは敵の状況を知ることから始めるべきです。上手くいけばなぜ女神が目覚めたのか、その理由も知る事ができる。女神の強奪を含めた作戦を決行するのはそれからでも遅くない。どうでしょう」
「……」
みんな何も言わない。とりあえずマロリー卿の意見に反対する者はいないようだ。
「わかった。なら今回のこの一件、とりあえずマロリー卿に任せるというのはどうだろう。反対意見がなければそうしたいのだが」
フロイトが皆に同意を求める。これも特にみんな反対する者はいないようだ。
「反対する者はいないようだな、ならばそうすることにしよう、マロリー卿、この件はあなたに任せる。ただ何かあったら連絡するように」
「わかりました、皇帝陛下」
「それでは通常の会議に戻るとしよう」
「わかりました。それではシェルリナ連邦との戦争についてですが……」
会議の話の内容はその後、シェルリナ連邦との戦争の話がメインとなり、話し合いが続けられた。
ケルマルディー宙域での戦い、他ダンゲ宙域、バサラ星団宙域での戦いの報告が成されていく。どの戦いに置いても今の戦線は膠着状態だということだ。
それからも今後の方針についての話し合いが続けられていく。会議が終わったのはおよそ4時間が経過してのことだった。
「それでは今回のⅩⅢ委員会の定例会議は終了する」
議長がそう言うと、また一人、また一人とホログラフがⅩⅢ委員会のメンバーが消えて退席していく。そんな中、皇帝はマロリー卿に話しかけた。
「マロリー卿、女神の件だが慎重にことに当たってくれ」
「まかせてください皇帝陛下、次の定例会議には何か情報が掴めるようにしてみせます」
「頼む」
「では……」
そう言うと、マロリー卿もホログラフが消えてこの場から去った。残されたのは皇帝陛下であるフロイトだけとなる。
フロイトは立ち上がり、この部屋から退席しようとすると後ろから声がかかった。
「皇帝陛下……」
皇帝以外、決して入ることの許されないこの部屋にその男はいた。黒いフードを被り、黒い服に身を包んだ謎の男が……
「なんだ、おまえか、来ていたのか」
「私の言った通りになったでしょう」
「……ああ、お前の言う事が正しかったと認めざるをえないな」
フロイトはこの自分以外に立ち入ることの許されないこの聖域に、自分以外の男がいる事に何も驚いた様子はなく。その男と話を始めた。
「貴様が言った今回の定例会議、マロリー卿が女神の件を報告するという話は本当だった。一応聞いてみるが、なぜそれが事前に貴様に分かったのかは教えてはくれないのだろうな」
「はい」
「ふ……即答か」
「ふふ」
その男は不気味に笑う。
「貴様は確か自らをゼフと名乗ったがそれも偽名なのだろう。本名は教えてはくれぬのか」
「御意」
「変わった奴だ。自分の正体は不明ですなどと普通は言わんぞ」
「しかしこれだけは確かです。私は帝国の敵ではありません。私はクロノスの眼、時を見つめ人類を正しい方向に導く存在です」
「ふむ……そういえば貴様はこう言っていたな、女神はエデンへの扉を開く鍵であり、道標でもあると」
「御意」
「つまりエデンへと向かうその時が来たと考えてよいのか」
「御意、ですが鍵は1つではありません。後3つ、エデンに向かうためには合計4つの鍵が必要になるのです」
「それは前にも貴様から聞いた。しかし少なくとも我ら帝国の宿願であるエデンへの扉が開かれる時が近づいている事は確かなのだな……」
「御意」
「そうか、わかった。では残り3つの鍵の在処を教えてはくれぬか」
ゼフは頭を振った
「その必要はございませぬ」
「?……なぜだ」
「時が来れば女神は自然と目覚め、我等の前に姿を現します。逆に言えば時が来なければ何をしても彼女等は目覚めない。例え自らが破壊されようとも目覚めることはありません。つまり我らが鍵を見つけても何もできないのです」
「まるで鍵に意思があるかのような物言いだな」
「まさにその通りです」
「……」
「皇帝陛下、急ぐ必要はございませぬ。すでに鍵の1つは目覚めて運命は動き出しております。残りの鍵が目覚めるのにそれほど時間がかかる事はありません」
「わかった。気に入らないがしばらくは貴様の言う通りにしよう」
「御意」
そう言うとゼフは闇の中に消え、この部屋から気配が消えた。
ゼフ。
この男が皇帝であるフロイトの前に姿を現したのは約1カ月前の事だった。どうやったのかわからないが、厳重の警備をすり抜け、突然彼の執務室に姿を現したのだ。
当然フロイトは最初、このゼフという男を捉えようとした。しかし、ゼフの口から思いもよらぬ言葉が発せられたのだ。
その言葉は「エデン」である。
これは時の歴代皇帝しか知らない機密事項である。
ガーベラ帝国の目的は、この銀河を統一し、帝国の統一政府をこの銀河に築きあげること、そう一般には言われている。
もちろんそれ自体は本当の事で、統一政府を作り上げる事も目的として間違いはないのであるが、帝国の真の目的は違う。
帝国の真の目的は幻と言われる伝説の星、エデンを探し出すことであった。
エデンはかつてこの銀河を統一していたアルメリア神聖国の母星といわれる星である。しかし、その所在は謎とされていた。
帝国はすでに銀河の約半分を征服しているが、エデンと思しき星はまだ見つかっていないのだ。
ただ、いくつかのアルメリアの遺跡に残されていた資料によれば、エデンに行くためには鍵が必要だという事がわかってきた。
問題はその鍵が何のかだ……
実はその鍵が何なのかすらこれまで何も判明していなかった。
そう……目の前にゼフという男が現れるまでは
執務室に現れたゼフは皇帝にこう言った。
「鍵とは女神の事です。あなた方の言うアルメリアの遺産の1つです。この世にその女神は4体います。つまり鍵は4つあるという事です。それらを全て集めなければエデンへの扉は開きません。そしてその女神の1体は、今は妖精の羽根なるテロリストが所持しています。今から約1カ月後、惑星ペペといわれる開拓星でその女神の1人が目覚めます。その話はⅩⅢ委員会の1人、マロリー卿なる人物が定例会議で報告するでしょう」
帝国がエデンを目指している事を知っていた上、その扉を開ける鍵が女神である事も知り、さらにその女神が目覚める日までゼフは指定してきた。
それでフロイトはゼフを捉えるのを止めた。
顔も見せず、正体すら不明の男だが、この男の言葉に偽りがあるとは思えなかったのである。
そして、運命はこのゼフという男の話した通りに動いた……
フロイトはその聖域を出た。そして彼は早歩きで廊下を歩く。そしてフロイトはゼフという男に思いを巡らせた。
あの男の正体は全く分からない。だが奴は帝国の敵ではないと言う。
確かにゼフは私にエデンの鍵の情報を与え、そしてその鍵が目覚めることを私に告げた。それはこの帝国にとって益となる情報であることは間違いない。
数百年、時の皇帝が探し求めていたものがついに見つかる可能性がでてきたのだ。
しかし油断はならない。ゼフという男の正体は何も分かっていないのだ。
何故歴代皇帝しか知らぬエデンの事を知っていたのか。さらに奴はいつ女神が目覚めるかも知っていた……
そこまで考えてフロイトは考えるのを止めた。なぜなら答えなど出ないからだ。
奴が何者なのか、いくら考えても推測の域を出ず正確な答えなど出やしない。気にはかかるが考えるだけ無駄なことだ。
それにもし、奴が我ら帝国の敵となり、害を及ぼす存在だとわかればその時点で奴を消すつもりだ。
それまでは奴の提供する情報を利用しようと皇帝は考えた。
皇帝が廊下を歩いていくと、ボディガードが待機している所まで来た。聖域を抜けたのだ。
(いずれにしろ運命の歯車は動き出した……ステラ・ソングが謳われる日が来るか?……忙しくなる)
フロイトは静かに笑う。そして両脇にボディガードを従えると、ゆっくりと執務室に歩いて行った。




