一緒に歩む道
「部活、なんにするか決まった?」
桜の花もそろそろ終わりが見え始めた四月の半ば、昼休みに弁当を広げるなり向かいの席に着いた親友がそう問いかけてきた。
「部活、ねえ」
曖昧にそう呟き、私も自分の弁当を広げる。
この春私たちが入学した高校では、必ず何かしらの部に所属しなければならないというどうにも理解し難い決まりがあった。
まあ適当にやっている文化系の部もたくさんあるので、それほどキツイ訳でもないらしいのだが、それでも放課後の貴重な時間を縛られたり、クラス以外でのコミュニティ参加には抵抗を感じてしまう。
「提出期限、今週末だよ。早めに出しとかないと、担任がうるさいと思うけど」
その言い分は分かるし、私のことを心配してくれているのはありがたいのだが、目の前で紙パックのお茶を啜っている当の本人は市内でも有数の陸上選手であり、もちろん入部先も陸上部で決まっている。
一方私はと言えば、スポーツは苦手ではないものの取り立てて得意な分野があるわけでもなく、熱中できるような競技もない。文化系の方にしても、料理だとか芸術とかにもそれほど惹かれなかったりする。
「いいよねー、行き先に迷わない人はさー」
八つ当たりだとは分かっていたが、恨みがましい言葉を親友に投げかける。
「これが私の人生ですから」
彼女は気を悪くした風もなく、胸を張ってそう答えた。
……いいなあ。
今に始まったことではなく、私はずっと親友を羨ましいと思っていた。
自身の青春を投げ出しても構わないと思えるものをひとつ持っている彼女が、とても輝いて見えていた。
そして、そういったものがなにもない自分自身がコンプレックスだった。
はあ…………
「どうしたのよ、そんなに悩むこと?」
どうやら知らぬ間に溜息をついていたらしく、それを指摘されてしまった。
「まあね、色々とねー」
「…………あのさ」
やる気無く箸を動かす私をじっと見ていたが、彼女は唐突に真剣な顔でこちらに向き直り、口を開いた。
「うん?」
「いやなら断ってもいいんだけど」
「どうしたのよ急に」
「陸上部のマネージャー、お願いできないかな」
マネージャー?
ああ、そうか、そういう手もあったか。
「どうかな、ダメ?」
私の沈黙を迷いと取ったらしく、少し心配そうな顔で重ねて問いかけてくる。
驚くほど自然と、私はうなずいていた。
「マネージャーか。うん、やってみようかな」
「ほんとに!?」
「うん、自分じゃなくても、がんばっている人の助けになれれば、それはそれで嬉しいなあって」
本当は、あなたの助けに、と言いたかったが、照れくさくてとてもじゃないけど無理。
それに一生懸命な彼女の姿を近くで応援し続けられるのは、とても素敵なことだと思った。
「じゃあさ、すぐに入部届出しに行こうよ!」
まだほとんど手を付けてない弁当箱の蓋に手をかけて、彼女は立ち上がろうとする。
「ちょ、ちょっとまってよ、大丈夫、心変わりなんかしないから」
「だって、私もう嬉しくて! 本当は、ずっと一番近くで応援していてもらいたかったから」
おおう。
私が恥ずかしくて口にできなかったことをなんの臆面もなく…………。
やっぱりすごいな、この子は。
「心配しなくてもご飯食べたらちゃんと行くから、ね?」
そう諭すと、彼女は渋々席に戻って食事を再開した。
その顔はなんというか、もうクリスマス前の子供のようで、見ているこっちの顔が赤くなってきそうだ。
嬉しそうな様子の彼女を見て、これからの高校生活が楽しくなるであろうことを予感しながら、同時に少しの不安も覚える。
私のこの気持ちが、いつか彼女に届くのか、もし仮に届いたとしても、その先はどうなるのか。
でもまあ、今はそんなこと関係ない。
短い青春だ、楽しめるだけ楽しまなければ損というものだ。
彼女に微笑みかけながら、私も再び箸を手に取った。




