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第1話

そんなわけで、連載版にしました。

基本的には短編のと内容は変わりありませんが、ちょこちょこ改訂しています。

 基本、異世界召喚というのは大まかに二種類存在する。

 1,承諾無しに無理矢理召喚されるもの。この場合、召喚された人間の扱いは悪い。

 2,こちらとコンタクトを取り、承諾を得て召喚するもの。やはり中には扱いが悪いものもあるが、紳士的な対応のものも多い。

 こんなことを冷静に考えられる俺、三波宏一は2年前、勇者として異世界に召喚された経験を持つ。それも最悪な形で。

 いきなり召喚されたと思ったら「勇者として我が国のために力を振るえ」と来たもんだ。何が何だか分からない内に勇者に祭り上げられ、最終的には魔王を倒すまで元の世界には還さないと来た。だから世界中駆け巡って、異世界召喚と同系列の魔法探して、地力で元の世界に返った。

 魔王? んなもん知ったことか。テメーの世界の問題なんだから、自分でなんとかしろっての。


 で、今回はどうやら前者の方らしい。などと思いつつ、光が収まるのを待つ。

 ………広がった視界に映っていたのは、どこかの大広間。俺の足下には巨大な魔法陣が描かれている。そんな眼前には、ゴスロリ服の美少女の姿があった。


(………これもよくあるよな。召喚主がお姫様とか)


 実際、前の時もそうだったから。

 どんな言葉が飛び出すか分からないが、とりあえず反撃する用意だけはある。

 向こうがこちらに何かしらの危害を加えるというのなら、可能な限り反撃してやる。ぐっと拳を握りしめ、相手の出方を窺う。


「………そなたが、召喚されし人間か?」


 美声だ。見た目も悪くない。と言うより、間違いなく美少女の上に「絶世の」という形容詞が付くだろう。

 透き通った銀髪に、赤い瞳。まるで最高級の芸術品のような美しさがそこにはある。


「そうだと言ったら?」


「ならば、話が早い」


 彼女は計り知れない威圧感を放ちながら、こちらへと歩いてくる。

 これでも勇者として召喚された経験のある身だ。少しくらいなら度胸はある。だが、彼女が近づく度に、そのプレッシャーが俺を貫く。

 ………ケタが違いすぎる。

 本能でそれを理解してしまっている。故に、動けない。


「ふふ、見込み通りの男のようだな」


 ゆっくりと、近づいてくる。

 その手にはどこから取り出したのか、首輪が握られている。犬とか猫とか、そういった愛玩動物(ペット)の首に装着するものだ。やはり俺にそれを付けるつもりか。


「さあ、受け取るがいい」


 と、そこで彼女は首輪を俺に手渡した。

 ………あれ? この流れって、俺に首輪を付けるとか、そういうのじゃないの?

 そして、何故か上を向くお姫様。まるでその首輪を付けろと言っているかのように。


「妾にその首輪を! そして妾を飼ってくれ! 妾はそなたのためならばどのような恥辱でも耐えてみせよう。ああ、全裸で鎖に繋がれた妾、露出プレイ、羞恥プレイ………快っ感!!」


 思いっきりズッコけた。











「えー、話を纏めると………あれが魔王?」


 くねくねして身悶えてるドM美少女の痴態に、ドン引きしてると他の奴らがやって来た。

 さすがに関わり合いになりたくなかったので(色んな意味で)、さっさと逃げようとしたら「どうか話を聞いてくださいっ!」と土下座された。さすがに土下座までされて、無視するのも心が痛む。とりあえず話だけでも聞いてみることにしたのだが………。


「はい。イース姫様はリュスターシク帝国第二十五代皇帝……すなわち、魔王であらせられます」


 さっきからしきりに何度も汗を拭きながら、そう答える小太りの初老の男。魔神種らしく頭には二本角。そしてよく見ると身体はごつい。ついでに言うと、頭が寂しい。………気持ちは分かる。

 この国の宰相を名乗る男は、この国の成り立ちについても説明してくれた。

 曰く、王族の中で最も高い魔力を持つ者が帝位に就くということ。基本世襲制だが。

 曰く、高い魔力を持つ者は、総じて被虐体質……いわゆるマゾヒズムに傾倒する割合が高いということ………ちょっと待て、ドMな魔王ってなんなんだ、おい。


「…………………………」


 ちら、とよそ見する。

 視線の先には、まだくねくね身悶えてる魔王の姿があった。

 間違いなくノクターン行きになる規制音ばっかでうるさかったので、何故か用意されていた荒縄で拘束して、口には猿轡……はなかったからボールギャグを噛ませてある。だが、これはどう見てもご褒美にしかなってないような………。


「先代の皇帝陛下……姫様のお父上様も強い被虐体質でして、我々も酷く手を焼かれました」


「そりゃあ大変だろうな」


 心底そう思った。

 事ある毎に発情されちゃあ、おちおち仕事も片付かない。一国の主がああだったら、大変だろう。


「我々もどうにかしようとしましたが、臣下の中にもそれを解消できる者はおりませんでした」


「やっぱり、王様を殴ったりっていうのは恐れ多いというか?」


「はい………が、ある日。とてつもない魔力反応を確認し、我々が向かった先には………」


 先代の魔王を踏んづけている、見知らぬ女性の姿が。

 要するに、余所の世界から自分のドMな性欲を満たしてくれる相手を探してたってわけか。なんちゅう傍迷惑な………。

 で、どうなったんだ、それから。


「召喚されたのはあなた様と同じ世界の人間でした。我らが事情を説明したところ、とてもお怒りになりまして「こんなバカを放っておけるか」と一念発起されまして、先代陛下をコントロールし、うまく国を纏め上げてくださりました」


「………もしかしてその人、あの姫様の?」


「はい。現在の皇后……姫様のお母上様でございます。今は先代陛下共々、隠居しておられますが」


 そう言って、取り出したのは1枚の写真。

 そこに映っていたのは、金髪の美形男子を踏みつけている黒髪の女性の姿。踏まれている男は何故か恍惚という表情を浮かべている。………無駄にイケメンなのが残念で悔やまれる。

 ………いや、ちょっと待て。つまりあの姫様が俺を召喚したってことは………。

 嫌々ながらそう尋ねると、宰相はすご~く言い辛そうな顔になりつつも、教えてくれた。


「お、おそらくは………姫様の欲求を満たしてくれる相手を探し、召喚魔法で強引に喚び寄せたのかと」


「アホかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


 思わず、絶叫した。

 何だそれは。いい迷惑だ。

 本当なら殴りつけたいところだが、今までの話からだと、殴ったところで「ご褒美」にしかならない。

 目の前の宰相にしても、今回のことに責任を感じているらしく、しきりに申し訳なさそうな顔をしている。

 ………最初に俺召喚した国の連中も、これくらい真摯な対応してくれてたらなあ。


「で、俺は戻れるのか?」


「は、はい。先代陛下が開発した召喚魔法は、行き来自在です。ただ………」


 そこで、宰相は俺に向かって土下座した。それはもう、床が砕けるんじゃないかという勢いで、だ。


「どうか、どうか姫様を制御してくださりませんか!?」


「はぁ!? なんで俺が」


「おそらく、あなた様が召喚されたのは、姫様の好みに直球ど真ん中だったからかと思われます。ならば、姫様の溢れんばかりの性欲を抑え込むことが出来るはず!」


 おい待て。

 意義を申し立てようと思いっきり睨み付けるも、手で制される。


「分かっております。ですが、無理を承知でお願い致します」


 そう言って、また頭を下げた。

 仮にも高位職に就いている者が、俺みたいな若造に頭下げていいのか?


「国の有事でございます故、私程度の頭ならばいくらでも下げます」


「…………………………」


 ………1年前も、こういう風に真摯な対応をしてくれていたら、また違った結果になっていたかもしれないんだがな。

 ため息を吐きつつ、顔を上げてくれと、頼んだ。


「………条件がいくつか。それが呑めるなら、考える」











「仕事しろやゴラァァァァァァァァァァ!!」


 城内に響き渡るその怒声に、使用人達の大半は「またか」という顔を浮かべる。中でも古参の者は懐かしいと言わんばかりに苦笑している。

 その声の主は、遠慮無くげしげしと美少女を足蹴にしている。………最初の方は遠慮しがちだったが、その必要がないと分かってからは、こうして問答無用にやっている。

 一方、踏まれている少女は恍惚の表情を浮かべているが、突然蹴りが止んで、物足りなさそうに宏一を見ている。


「も、もっと………」


「仕事が終わってからだ」


「くっ………ほ、放置プレイか」


 正確に言うならば、飴と鞭を使い分けているだけだ。

 蹴られたり嬲られたりするのがイースにとってのご褒美。

 逆に、何もされない事は苦痛にも等しい。しかし、その放置プレイが続けば、その分快楽の振り幅が大きくなる。


「さっさと仕事終わらせろ。続きはその後だ」


「ぐ………わ、わかった」


 渋々と言った様子で、机に向かうイース。

 能力的にはすこぶる優秀なので、山のように積まれた書類でも一時間もあれば全て処理が終わるだろう。その辺り、宏一もよく分かっているので、しばらくすればまた相手をしなくてはならない。

 自分自身、美少女を嬲る事になるとは思っていなかったが、これはこれで面白い。自分はどうやら潜在的なSなのかもしれない。支給されてる栄養ドリンクを飲みつつ、そんな事を考えていた。


(どうにか慣れてきたってところか)


 宰相との交渉の際、宏一が出した条件は1つ。

 まず、活動拠点は自宅にして、向こうからこちらへ通う形にするというもの。

 転移魔法が存在するため、行き来は自由自在。特に問題なく受け入れられた。

 宏一自身、かつての召喚で行方不明になっていたため、これ以上家族に心配や迷惑はかけたくない。さらに出席日数もギリギリだった。最低でも高校ぐらいは卒業しておきたい。


「………む、これは」


 イースの呟きが、宏一の耳に入る。

 何やら困惑しているというか、どう反応していいか分からないという様子だ。

 何となく興味を覚えたので、横から彼女が見ていた書類を覗き込む。


「………なんて書いてあるんだ、これ」


 以前にも召喚経験のある上、旅をする必要があったため、人間達の間で使われている文字なら読める。しかし、交流が皆無であった魔族の文字は読めない。

 文字だけではなく、宏一とそう変わらない年頃の青年の写真が添付されているが………。

 宏一の問いに、イースは苦い顔で答える。


「大国に勇者が召喚された、らしい」


「はぁっ!?」


 それに対して、宏一はかなり思うところはあるし、物申したい気分でもある。


「調べたところ、向こうの勇者召喚は適性のある者をランダムで召喚するタイプじゃし、そなた以外が召喚されてもおかしくはないじゃろう」


 既に、イースや側近の者には事情は説明してある。自分はかつて勇者としてこの世界に召喚された事がある、と。無論、魔族と戦う事はなく、異世界転移系統の魔法を探し出し、半年ほどでおさらばしたのだが。そのため魔族達からも好意的に受け止められているため、現在の宏一に敵意を向けるのはイースの側にいるのをやっかむ者ぐらいだ。

 それはさておき、それならば宏一以外の人間が勇者として召喚されてもおかしくはない。だがしかし、現在の彼は魔王の庇護下にある。強制召喚が行使されたとしても、キャンセルされる可能性が高い。


「だがなぁ、俺と同じ方法だったらまた裏切られるんじゃないか?」


「いや、どうやらやり方を改めたようじゃ」


 そう言って、イースが差し出したのは別の書類。

 相変わらず文字は読めないが、写真多めに掲載されている。

 さっきの写真と同一の青年が接待を受けているかのような描写だ。他の写真には訓練したり勉強したり………少なくとも、宏一はこういう待遇を受けた事はない。

 文字は読めなくとも、写真だけで大体の状況は理解出来た。


「………つまり、待遇を良くして気に入られよう、と」


「そう言う事じゃ。それにこの新しい勇者、色々と都合のいい情報だけをすり込まれておるようじゃし」


 宏一には読めないが、彼が教えられた情報というのも偏っている。よくあるファンタジーな世界にある、魔族が人間を虐げており、人間の殲滅を企んでいると。

 確かに魔族の中には食人の性質を持つ者もいるし、人間を襲う者もいる。しかし、それで言ったら野生生物もそれに当たる。凶暴な肉食獣もいるし、大人しい草食獣もいる。それと同じだ。人間も魔族全てを敵を認識する者もいるだろうし、中には魔族との融和を訴える者もいる。………後者は大抵、異端者呼ばわりされているのだが。

 ともかく、勇者には魔族全てが敵であるという教育がされている。それが現状だ。


「早めに片付けるというのも手じゃが、それをすると色々と厄介になるからのう」


 勇者を暗殺するのは簡単だ。隠密性能に優れた魔族を送り込めば、簡単に殺せる。ハニートラップ………色仕掛けで誑し込み、グサッと行く方法もあるが、どちらにせよ今は得策でもない。今、勇者を殺せば、確実にそれは魔族の所為にされる。勇者を殺して特をするのは魔族くらいだからである。そうなれば魔族殲滅の大義名分を立てられてしまう。

 穏健派であるイースとしては、人間との全面戦争は望まない。ある程度の緊張を保った状態こそ、現状に相応しいと考えている。


「じゃあ、しばらくは様子見か?」


「そうなるの。間者を送り込む事にしよう」


 ただの魔族では感づかれる恐れというのもある。

 対魔族の結界が張ってある可能性もある。故に、送り込むのは人間だ。

 魔族の統治領内には人間も暮らしている。その大半が国を追われ、行き場を無くしていた者達。城にも何人か人間の使用人も仕えている。

 送り込むのはそれなりに優秀なメイドがいいだろう。女相手では勇者も油断する。


「さて、全部片付いたぞ」


「早っ!」


 いくら何でも早すぎる。まだ10分も経っていない。

 しかし、確かに彼女の机に判子の押された書類がいくつも分けられており………。


「というわけで続きじゃ」


 イースは宏一を引っ張り、寝室へ行こうとする。

 宏一もそれを防ごうと、ぐいぐい抗うが、見た目は少女でもイースは魔族。身体能力一つ取っても人間より上だ。なので抵抗しても無駄。引っ張られるがままに寝室へと連れ込まれていった。

 ………寝室で何があったかは、宏一の名誉のために控えておこう。

 ただ、翌日の宏一は立っているのも辛いと言わんばかりに、腰をさすっていたが。

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