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唯一の契り  作者: イチハヤ
第一章
6/11

間.揺りかご

「……眠ったか」


天照は窓の外に流れる景色に目もくれず、自身の右腕に体を凭せかけて目を閉じる少女を見下ろした。

恐らく、色々あって疲れてしまったのだろう。先程までぽつりぽつりと言葉を紡いでいた愛らしい唇からは、規則正しく寝息が吐き出されている。


――動いたら、起こしてしまうだろうか。


長い睫毛が陰を落とすその滑らかな頬や、車の振動によりさらさらと揺れる黒髪に不意に触れてみたい衝動に駆られるが、彼女を起こしてしまうかもしれないと、天照はぐっと堪えた。


(難しいものだな)


ずっとずっと、彼女を見つめてきた。そして今日、漸く彼女の瞳に己を映し、彼女にこの手で触れることが出来た。



本来なら、こうして温もりを感じられる距離に彼女がいるというだけで、天照にとっては至福の筈なのだが――欲望というものは、尽きることを知らないものだ。


「――刀千」


そんな煩悩から気を逸らす為にもと、天照は運転席の男に声をかけた。低い声で応じる刀千に、天照は以前より『こうなった時』の為に備えて考えていた対処法を命ずる。日菜子を起こさないよう、若干抑えた声で。


「屋敷に着いたら、柘蔓つづるに連絡をして高岡の家に行くように伝えてくれ」

「分かった。他には」

「他の奴らにも日菜子が来たことを伝えて……いや、これは落ち着いてからでいい」


一族の顔を思い浮かべ、天照は首を横に振った。

彼女が来たことを知らせれば、彼らは一も二もなく駆けつけるだろう。だが、車に乗り込む前刀千の視線に頬を赤らめていた日菜子の様子を思えば、いきなり大勢と対面させるのはよくない気がした。

なのでとりあえずその辺りは後回しにして、まず考えるべきは日菜子のことだ。

彼女が過ごしやすいように屋敷を整えてやらねば――と、あれこれ考えを巡らせた時、天照に寄りかかって眠っていた日菜子が不意に身じろぎした。


「ん………」


むずかるように顔をしかめて、しばらく天照の肩辺りに頭をぐりぐりと押し付けていた彼女だが、やがて落ち着く場所を見つけたのか再び大人しくなる。



まるで幼子のようなその仕草に、愛おしさが募り――天照は堪えきれず、日菜子を支えるのとは反対側の手で、彼女に触れた。

親指で、ぷっくりとした唇をそっとなぞる。ついさっき、天照の名を紡いだ唇。


「日菜子……」


――目が覚めたら、また私の名を呼んでくれるだろうか?


その目に私を映して、その声で私を呼んで、その手で、私に触れて――――それは、ずっと待ち焦がれた未来。


天照は徐に、日菜子の唇をなぞった親指を自らの唇へ当て、吐息のような声で囁いた。


「私の、唯一ゆいつ


もう、絶対に離さない。誰にも傷付けさせない。

私の、私達の――ただひとりの、ひと。


天照視点。まだ出しちゃいけない情報が多いので短めになってしまいました。

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