一
「嘘を吐くんじゃない!」
ぱんっ、と。
頬を叩かれると本当にこんな音がするのだな、とどこか他人事のように思いながら、高岡日菜子は熱をもって痛む頬を手で押さえた。
そして、強制的に外させられた視線を、日菜子を叩いた人間――日菜子にとっての伯父にあたる壮年の男へと戻す。
すると、顔を真っ赤にして鬼のような形相だった伯父の顔に、一瞬の動揺が走った。
けれど、それは本当に一瞬のことで。伯父の瞳はすぐに憎々しげな光を取り戻して日菜子を睨みつけていた。
「今まで育ててやった恩も忘れて……本当にお前は志津子に瓜二つだな」
伯父の口から出てきた母親の名に、日菜子は黙って目を伏せる。
多分、自分が何を言ったところで、今の伯父の耳には届かないのだろう。頬の痛みが、その何よりの証拠。
だから、どれだけ弁解したところでなんの意味も無いのだ。
「しばらく自分の部屋で、反省していなさい」
――伯父はひとしきり怒鳴り散らすと、最後に吐き捨てるようにそう言って、日菜子に背を向けた。
日菜子は、そんな伯父をぼんやりと目で追った。ソファに座る伯母と、伯母の膝にすがりつくようにして泣き伏す従姉妹のところへと向かう伯父の背中を。
「美華」
従姉妹の名を呼ぶ伯父の声は、先程までとは打って変わって優しい、父親の声だった。まあ、実の親子なのだから当たり前なのだけれど――
(……遠い)
美華を慰める伯父夫婦の声が、遠くに聞こえる。――まるで、日菜子だけ水の中にいるみたいに。
いつだってそうだった。家でも、学校でも。日菜子はずっと居場所がないと感じていた。どこにいても、誰と話していても、ふとした時に感じる違和感。
(――此処は、ちがう)
しばらくそうして伯父の『家族』を眺めていた日菜子だが、やがて徐にそこから目をそらして、リビングを出て行った。
滅茶苦茶な逆ハーが書きたくて始めてみました。よろしくお願いします。