第7話 俺はそれに応えなければいけないと思った
母さんが一心不乱に俺の部屋を引っかき回している。
まず学校の鞄の中身をぶちまけ勉強机の引き出しをすべてひっくり返し、今はクローゼットのなかを片っ端から引きずり出していた。
恐ろしい剣幕の母さんの瞳には時たま悲しみが混じっていた。
そんな目をするなら探すのやめればいいのに。
いや、本当は見つけたくないのかもしれない。
あって欲しくない、あるはずはないと願っているのかも。
何かの間違いだと思いたいのかもしれない。
俺はそれをただ傍観しているだけだった。
捕まった時もそうだった。
あれから人だかりができて逃げるに逃げられず駅員も来てそのまま事務室に連れて行かれた。
警察官が来て、相手の保護者も来て
…………母さんも仕事を早退して来た。
罵倒される張り倒されるんじゃないかってビクビクしていたのに、予想と違い母さんは終始泣きそうな顔で「……申し訳ございません」と頭を下げ続けていた。
とても小さく見えた。
怒られるよりもこっちの方がショックがでかかった。
いっそのこと殴るなり蹴るなりしてくれたほうがよっぽどマシだった。
それからどうやって帰ってきたのか、なんだか記憶がふわふわしていて曖昧だ。今も現実感がない。
それ以降、母さんは俺と目を合わそうとしない。
いないものとして扱われている。
クローゼットの中身も全部外に出した母さんは一段落ついたのか作業の手を止めた。
何も言ってこないけれど、探してたものが見つからなくて安心しているように見えた。
物で溢れかえった部屋をそのままに母さんは出て行こうとする。
気が済んだらしい。
俺の前を素通りする。
未だ目を合わせてくれない。
そんな時だった。
不意に母さんは俺の枕を踏んづけたんだ。
床に転がっていたからな。
どうして、そこにあんだよ。
全身が震え上がった。
それに母さんが気づいてないか気が気じゃ無かった。
やはり――――
母さんは踏んづけた枕に違和感を覚えたようで
…………感触を確かめるように二、三度踏んだ。
母さんは顔をあげ――――俺を見た。
まじまじと、そんなはずないわよねと否定して欲しがってる顔だった。
…………ごめん。
うるさく騒いでいた心臓が止まったかと思った。
世界が無音になる。
母さんは枕を拾い上げる。
ゆっくりと枕カバーをはずしていく。
そして、雑な縫い目に気づいてしまった。
母さんは
――――――思いっきり引き裂いた。
さらっ。
さらり。
さら、さら。
人間の頭一個分ぐらいある髪の毛が床に落ちていく。
「………………ひいぃっ」
恐怖に引きつった母さんは声を出せず口をぱくぱくしている。よろよろと髪の毛から距離をとってから床にしゃがみこんだ。
震える両手で顔を覆うと、
「そんな…………なんてこと」
しばらく母さんの嗚咽がつづいた。
俺は幽体離脱したみたいな感覚に陥っていてこの場を取り繕うことも謝ることもせず、ただ眺めていた。
にわかに母さんの声がした。
「お父さんの異常な遺伝子のせいよ。――――あの人おかしいもの」
そう結論づけたようだった。
母さんは散乱したガラクタのなかから何か見つけたようだった。
それを手に捕るとふらりと立ち上がる。
カチカチカチ……と音がした。
手にしていたのはカッターだった。
母さんは俺を見た。
真剣な目つきだった。
俺はそれに応えなければいけないと思った。




