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女の髪の毛を集めるカルマ君と、親がブログにあげた写真のせいでネットのおもちゃにされたマイちゃん  作者: 津山 まこと
第1章 女の髪の毛を集めるカルマ君

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第6話 小さなハサミを見た瞬間、その手があったかってアイディアが閃いてしまった

 今年も残すところあと三日となった今日、東京駅は帰省客でごった返していた。

 俺は土産を買った。

 黒糖まんじゅう。

 別にまんじゅうは好きじゃないし、あげる相手もいない。

 手提げの紙袋が欲しかっただけだ。

 持ってても不自然じゃなく中身が目に付かない紙袋をくれるのならどの土産でもよかった。





 今からやろうとしていることは、冬休み前たまたま行った100均で裁縫セットを見つけたことからはじまる。

 ぶらぶらと100均のフロアをうろついていると偶然その裁縫セットが目についた。

 とくにそのセットの中に入っている手の平に収まるほど小さなハサミを見た瞬間、その手があったかってアイディアが閃いてしまった。

 興奮と渇望と罪悪感。



 どうしてそんなアイディアが自分の頭から生まれてしまったのか。

 恐ろしさも勿論ある。

 だけど、気づけばそれをレジに持って行き会計を済ませていた。

 だってただの裁縫セットじゃないか。

 ボタンぐらい誰だって取れるし、取り付けるだろう。

 買ってなにが悪いんだ。

 そう自分に言い聞かせていた。






 その日から――やるか、いや止めとこう、別に怪我させるわけじゃないし少し分けて貰うだけじゃないか、ダメだダメだを繰り返し、今朝ニュースで「帰省ラッシュにより新幹線の乗車率は100%を越えました」ってのを聞いた瞬間、やるなら今日しか無いとその場のノリで家を出てきてしまった。




 それでも地元から電車に乗って東京駅に向かっている間に高ぶった感情は徐々に落ち着きを取り戻していき、そんなことはするなと理性が働いてきた。

 こういう『やるぞ』っていう衝動と『止めた方がいい』という理性の狭間で揺れ動き、その度に実行しないけれど一応現地に行ってみるか、実行しないけれど一応髪を入れる用の紙袋を見繕うか、実行しないけれど一応いい場所がないか調べるだけはしておくか、実行しないけれど一応狙いやすい女がいないか物色してみるか

 ――――でここまで来てしまった。






 俺はエスカレーター近くの壁に寄りかかり、親や友人との待ち合わせを装って目の前を流れていく人波を眺めていた。


 染めてない黒髪がよかった。

 染めてる髪はパサパサして痛いから。

 それにくらべて黒髪は手に吸い付いてくるような独特な艶がある。

 目当ての髪を持つ女をみつけても、たいていは親子連れだったり友人連ればかりで一人客はなかなか通らない。

 でも心のどっかでそういう女は目の前を通らないでくれと願ってたりもする。




 寒さで指がかじかんできたのでコートのポケットに手を突っ込むと、小さなハサミに触れた。

 ハサミを握りしめていると次第に手の平が汗ばんできて熱をもつ。

 俺はなにをしてるんだ。

 今引き返せば馬鹿なことしたなって笑い話にできるのに。

 一歩進む覚悟はなかなか持てないが、帰る一歩を踏み出すのも気が進まなかった。

 分岐点に立っている気分だった。

 ふと、目の前を通りかかる一人の女が気になった。






 黒髪じゃなかったけれど、栗色に染まった髪の毛で背中まである。

 俺より年下か。

 中学生が冬休みの間だけ髪を染めて大人ぶったような感じだった。

 小柄な女でオーバーサイズのコートにすっぽりと着られてるような格好だった。

 帰省客にしては身軽で肩からさげたトートバックのみ。

 トートバックの絵柄がなにかしらのグッズのようで、これからコンサート会場かイベントにでも行くのかもしれない。



 誰だっけな。

 誰かに似てる。






 そうだ、中学ん時に同じクラスだった女だ。

 そいつとどうにかなったわけじゃない。

 ほとんどまともに口を利いたこともなかった。

 だけど思春期の気まぐれか俺はそいつのことが気になってしょうがなかった。

 ある一時期は教室でのそいつの姿を視線で追いかけるのが癖になるほどに。

 丁度その頃、母さんの俺への干渉が増えた時期でもあった。

 思春期で俺が道を踏み外さないようにという母心なんだろう。



 そんなわけで思春期の俺は、学校でその女を視線で追いかけては、家でその行為を反省するという葛藤の日々が続いた。

 そういう頭のなかの葛藤が酷くなると、もういっそのことあいつごと消え去って欲しいと考えるまでに至っていた頃、あいつに彼氏ができたという噂を聞いた。

 ホッとしたけれど同時に怒りも覚えた。

 なんだか自分一人取り残されたような気分になったんだ。

 こんな考えは変だと自分でもわかってはいるけれど、裏切られた気分だったんだ。

 俺一人こんな葛藤して苦しんでいたのにあいつは暢気で楽しそうだな、幸せそうだなって。

 俺は一歩踏み出していた。






 あいつでいいや。

 





 あいつなら罪悪感抱かずに済みそうだし。

 似てるだけで本人じゃないけど。

 それは分かってる。

 だけど同じ顔の系統ってだけで同じ精神構造してそうに思えたんだ。

 同じよう奴は同じような思考で同じような行動してそうじゃん。

 だって俺は今まさに中学の頃の女を彷彿とさせる目の前の女に同じ怒りを感じていたから。

 だったらいいじゃん。

 俺の怒りをかき立てる奴ならもうそれ同じ奴って扱いで、いいよな。

 



 スーツケースやパンパンに詰まった旅行鞄をさげた奴らは歩くのが遅く、すぐに追い越せた。エスカレーターに乗り込む頃には、目的の女の後ろに張り付くことができた。







 そして、エスカレーターに乗った。

 鼓動が高鳴る。

 俺はたまたま荷物がぶつかったフリをして目の前の髪に触れた。



 染めた髪にしては潤いがあった。

 毛量があってこの髪の中にあれを埋めたいと思った。

 女が着てるコートの厚みのお陰か、触れてもたいして本人に伝わらないらしく女は振り向いて文句を言ってくる様子はなかった。

 早くしないとエスカレーターはすぐ終わってしまう。



 スマホを取り出すような素振りでコートのポケットからハサミを取り出した。

 後ろの奴に気づかれないようハサミ全体を握り拳のなかに隠して手前に持ってくる。

 土産の紙袋の口をできるだけ開き、受け入れ態勢を整えた。

 あとは切るだけ――。




 息が荒くなり、そのせいで女が振り返ってくるんじゃないかって怖くなる。

 早く。

 早く。

 女に紙袋や自分の手が触れないよう気をつけながら、ハサミの刃だけをそっと女の髪に差し込み





 ――――ザクッ。





 さらりと髪の毛が落ちて、紙袋の中に吸い込まれていった。

 女の背中に、切れたものの静電気で張り付いてしまった毛。

 それも手で掻き集めたかったが我慢し、次のハサミの刃を差し込んだ。

 ザクッ。

 寒さか興奮か。

 膝が震え出す。

 ザクッ。

 ザクッ。

 エスカレーターの着地点はもうすぐそこだ。

 でもあともう一回だけ。

 女の襟足にハサミの刃を差し込んだ時だった。




「何してるんだ君」




 背後から中年男の声がした。

 叩かれたかと思うほど強くがっしりと俺は肩を掴まれた。


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