第27話 お互いのことなんも知らないのに好きとかありえなくない? 頭イカれてんじゃないの。動物かよ。
「好きだー! 俺と付き合ってくれー!」
「ごめんなさーい」
周りがゲラゲラと笑い出し
「付き合ってやれよ可哀想だろ」
「当たって砕け散ったな」
「この子もう彼氏いるんで無理でーす」
「なんだよそれ告り損じゃん」
隣の三崎君の様子を覗うと、三崎君も私のこと見てきて、二人でクスクス笑い合った。
私達はグランドに出て、屋上から青春を叫ぶ人達を見上げていた。
屋上では不満や暴露、目標を叫んだり、墓場に持って行くのをやめた話、今みたいな告白もある。
叫びたい人は終了時間までに屋上に行けば叫ばせてもらえるらしい。
ついに文化祭も終了間近で、私達みたいに出し物を全部見終わった生徒達がグランドに出て最後の余韻に浸っていた。
たくさんの吐露を聞いてると、心のガードが緩くなり私も吐露したくなってきた。
「さっきは今日子がごめんね……」
ん? と三崎君が聞き直してくる。
周りがうるさいからかき消されたんだ。
「あんなことにつきあわせてごめん。今日子が酷い言葉を三崎君にあびせたり、ケンカの仲裁させたり……」
「そんなこといいのに」
そうなのだ。
三崎君は今日子が立ち去ってから何も無かったように接して空気を変える努力をしてくれた。
私もそれに乗って今日子のことは触れないようにしてた。
でもここでちゃんと謝っておかないと綺麗に終われないと思った。
この三崎君との思い出を美しいものとして終わらせたい。
あの時ああすればよかったとか後悔を残したくないんだ。
三崎君は言う。
「僕は平気だよ。それに今日子ちゃんは君のことをとても大事にしてるんだってことはよくわかるから」
「そうかな……」
三崎君は軽く愛想笑いをしてから、
「うん。僕にも今日子ちゃんに似た人が身近にいてね。母さんと姉さんなんだけど。二人の感情にはどうしても負けてしまって、断ることができないんだ。だから君の気持ちがよくわかる」
はじめて三崎君の奥に触れた気がした。
私が黙っていると、
「あ、気持ちが分かるとか勝手に決めつけてごめん。失礼だったよね」
「そんなことない! 私、すごく嬉しいよ」
私が前のめりでそう言ったからか、三崎君も改まった感じになり、言ってくれたんだ。
「やっぱり君は他の女性とは違うね。だから僕は惹かれたんだと思う」
心臓が止まるかと思った。
周囲の喧騒が遠くに感じる。
たくさんの人に囲まれているはずなのに、この場には二人だけのような錯覚に陥った。
今なら私のこと伝えてもいいかもしれない。
もともと三崎君ならきっと引いたり否定せず聞いてくれるとは思うけれど、私はこういう状況下じゃなきゃ、これを逃したら言えずに終わってしまいそうだから。
「私…………男の人が怖くって…………」
「うん」
私達は人目なんか気にせず向き合った。
三崎君が私の耳元で囁く。
「僕はそんな奴らとは違う。君が嫌がることは絶対にしないよ」
自分の内側から感情がこみ上げてきて「うん」って頷くのが精一杯だった。
その時、屋上からの叫び声が飛び込んできた。
『好きだああああああああぁ!!』
誰かも知らない告白の声。
そして――――三崎君の声。
「好きだよ」
呼吸が出来なくなるかと思った。
でもちゃんと答えなきゃ。
「私も――――――す――好きです」
きっと今の私は泣き出しそうなクシャクシャな顔をしている。
***
「ばっかじゃないの!?」
休み明け、教室に入るとすぐに今日子に絡まれた。
「あれはなんだったの!? あんたのせいで私はひとりになったんだよ。わかってんの?」とネチネチ絡まれた。
100%八つ当たりしてくるだろうなってわかってたけど、やっぱりだ。
「なにって、だから――」と説明したら、お前はバカだと否定されところだった。
やっぱり今日子はわかってくれない。
猜疑心の塊だもんね。
今日子はいつものように私の机の上に座り、イスに座ってる私を見下ろしながら文句を続ける。
「お互いのことなんも知らないのに好きとかありえなくない? 頭イカれてんじゃないの。動物かよ。少女マンガじゃないんだからさ、ヤリ捨て決定だよそれ。やめなやめな」
今日子はスラスラと否定的な言葉を吐き出し続ける。
どうして祝福してくれないの。
それって自分が一人になりたくないからだよね。
自己中すぎない?
はっきり言って苛立たしい。
いつもこういうのは聞き流してて、今日子が落ち着くのを待つのが一番いい方法だと思ってたけど、もう我慢ならない。
私達を否定する怨念の籠もった言葉、三崎君を傷つけるこんな酷い言葉を聞き流すことなんか出来ない。
「やめない」
ぴくっと今日子が止まった。
じろりと私を見下ろしてくる。
私も負けじと睨みかえした。
今日子は恨みがましく言う。
「あっそ。私のこと見捨てるの? 裏切るの?」
「なんでそういう話になるの?」
またこれ?
なんなの本当に。
会話になんない。
今日子は語気を強める。
「だってそういう話だから」
ああ、もう……。
「いい加減にして!!」
私は大声で叫び、思いきり机を叩いた。
クラスのみんなが驚いて私の様子を覗ってくるけれど、そんなのどうでもいい。
怯むもんか。
「もう今日子と付き合いきれない。そんなふうに言うんだったら今日子の言うとおりそうするね。いままでありがとう。それじゃ」
私は席を立つと、トイレに逃げだした。
背後から今日子の声がする。
「彼氏が出来たからって調子のんなし。あとで後悔しても知らないからね」
静かな呪詛だった。
***
あれから今日子は大人しくなった。
予想外だ。
ついに反省してくれたのかな。
あんなにツンツントゲトゲしていた今日子が大人しくなると逆に可哀想になってくる。
言いすぎちゃったかな。
長年一緒にいて気づいたのは、あの子のあの態度はすべて弱さからくるものだということだ。
攻撃は最大の防御を地で行ってる。
ある日のことだ。
そんなふうに今日子を思いやっていた私がバカを見る事態がおきた。
朝、教室に入るとクラスメイトたちが一斉に私を見てきたんだ。
恐怖を感じた。私なにかした?
誰も私に話しかけてこない。
でも私をずっと見続ける。
なんだこれ。
ちなみに今日子は席に座り肘をついて外を眺めていた。
事態が飲み込めずにいた私はそろそろと教室に入り、自分の席に辿り着いた。
そこでふと、黒板に目がいく。
黒板に――――プリントが十枚ほど貼られていた。
自分の席から黒板まではだいぶ距離があったけれど、字面や写真はいやでも認識できた。
【ちっぱい】乳首お目見え【発育途上】
突如、全身に鳥肌が立った。




