第25話 だったら、一緒に文化祭回らない?
だって文化祭真っ最中の今でさえ、今日子は悪口を言っている。
さすがにこういう日は浮かれるべきだよ。
たとえ嫌なことが目についたとしても目をつむってあげれないの?
「山田さんってわざと小さいエプロン着て可愛い子ぶってるのかな。図体デカいから似合ってないよね」
「小さいサイズしかなかったんだよ」
「嘘だーぁ。絶対わざとだよ。髪型いつもと違うし、気合い入れすぎ」
さっきからひそひそと今日子が話しかけてきていた。
私はすぐ山田さんの姿を探す。
聞かれてませんようにと。
姿が見当たらなくて
――――そうだ、
山田さんは在庫が少なくなったサンドイッチとホットケーキの補充で調理室に取りに行ってるから今教室にいないんだった。
けれど、もしタイミング悪く帰ってきてたら?
本当こういうのやめてほしい。ヒヤヒヤする。
うちのクラスは喫茶店をひらいていた。
午前二枠・午後二枠と時間帯を四つにわけて生徒がバトンタッチしていく流れだ。
私と今日子の担当時間はわかれてしまった。
私が午前の二枠目の時間帯で、今日子は午後の三枠目の時間帯。
ちなみに三崎君は最初の時間帯の担当だった。
私が来た時にはもう引き継ぎが終わっていて教室に姿はなかった。
文化祭中に彼の顔を見ることは無さそうだ。
なにかあるわけではないけど寂しく感じた。
だけど私には今日子がいる。
今日子は今自由時間なわけだけど、ずっとこの喫茶店にいた。
紅茶一杯でね。
私は喫茶店の仕事をしなければならないのに今日子が「私の近くにいてよ」「ねえねえ聞いて」と頻繁に絡んできた。
これ傍目からみたら私がサボって今日子とつるんでるように見えるから困るんだよね。
客がまばらでよかった。
それにペアの山田さんは「大丈夫。なんとかなるって」って感じのカラッとしてる性格の子だったから救われた。
「ただいまー!」
丁度山田さんが大きなお盆を抱えて戻ってきた。
ホットケーキとサンドイッチがどっさり山盛りだった。
ニコニコしてる山田さんを見て、よかった聞かれてないと心をなで下ろす。
その山田さんは紙皿をふたつ持って私達のところにやってきた。
「これ食べなー。お客さん少ないし食べるなら今だよ。お昼近いし食べて食べて」
そう言ってホットケーキをくれた。
「でも――」と私がうろたえていると、
「これ失敗作なの。でも味は美味しいよ。私もさっき調理室で食べてきたんだ。はい、バターが溶ける温かいうちにね」
確かにホットケーキの表面は焦げている。
「今日子ちゃん次の時間担当でしょ? お昼どきで混むかもしれないから今のうちに食べておいたほうがいいよ」
そう言うと山田さんは喫茶店の中央本部であるドリンクカウンターに戻っていった。
山田さんはこの時間帯を仕切ってる裏のボスなのだ。
「仕切り屋ウザい」
今日子は不服そうだったけど、プラスチックのフォークを手に取り食べはじめた。
私達が食べ終わった頃、次の時間帯のメンバーがぞろぞろと教室に入ってきた。
「お疲れ様」と山田さんは自分のエプロンを外し、次の子に渡した。
もう終わりか。
私もエプロンはずそう。
「やだなぁ」とぼやく今日子にエプロンを渡すと、はぁと大きいため息をつき、しぶしぶエプロンを身につけた。
「ねえ、一緒にいてくんない? お願い!」
弱々しい顔で縋りついてくる今日子に、まぁ一人で見に行きたいところもないしここで待っててもいいかなと了承した。
今日子はほっとした顔になり「ありがとう!」と今まで見たことないほど素直に感謝してきた。
「ちょっとトレイ行ってきてもいい?」
「うん。私が座ってたこの席キープしとくね」
「わかった」
私はこった肩を揉みほぐすような気分で教室を出ていく。
廊下は活気に満ちあふれていた。
***
私が女子トイレから出た時、同じタイミングで男子トイレからも誰か出てきた。
それに驚いた私は相手とぶつからないよう立ち止まると、彼だった。
――――三崎君。
こんなところでバッタリ会うなんて。
しかも三崎君は一人きりみたい。
私に気づいた三崎君はニコッと笑いかけてくれた。
ドキッとした。
私のことちゃんと覚えててくれてるんだ。
しかも、三崎君のほうから話しかけてくれた!
「この前はジャージ有り難うね。わざわざクリーニングまでしてくれたんだよね。そんなに気を遣う必要なかったのに」
有り難うなのはこっちだよ。
でも緊張してあんま声がでなくて、
「そんな……当然だよ」
もっと良いこと言えたはずなのにこんな言葉しか出てこない。
ああ、また二人だけで会話してる。あの日のように。夢みたいだ。
私がじっと見つめていたせいか三崎君が、
「ん? なにか付いてる?」と言った。
私は咄嗟に「あ、いや、髪の毛が……少しはねてるから」
本当はずっと顔を見つめていましたなんて言えないよ。
「ああ、ずっと寝ていたから。それでかな」
寝癖をなでつける三崎君はとてもさわやかだった。
可愛いなと思いながら気になったことを質問する。
「寝てた?」
「うん。昨日徹夜でゲームしちゃってさ。あそこの教室、今空いてるから勝手に使わせてもらってるんだ」
「そう、なんだ」
「伊藤さんは?」
「え?」
自分の名前を呼ばれてまたドキッとしてしまった。
三崎君のなかに私の存在があるような感じ。
カーッと熱くなって頭が落ち着かないよ。
「なにしてるのかなって思って」
「――――なにも、してないよ」
「だったら、一緒に文化祭回らない?」
ハッと息をのむ。
えっと、どういうこと?
理解が追いつかないよ。
私がすぐ返事を出さないから三崎君は、
「あ、そっか。いつも一緒にいる彼女がいるもんね」
「う――ううん! あの子はいま仕事中だから。今は私ひとりだよ」
そう答えると、私を覗ってた三崎君の表情が明るくなった気がする。
「なら、よければ一緒に回らない?」
胸がぎゅってしめつけられて息が止まりそう。
これ現実?
三崎君が私と一緒に文化祭を回る?
行きたいに決まってる!
しかし、今日子は許さないだろう。
さっき今日子と一緒にいるよって約束したばかりだし……。
だからって、この機会を逃していいの?
こんなの次があるわけない。
今この瞬間だけ。
私が休憩でトイレに来たタイミングと、三崎君が起きてトイレに行ったタイミングが奇跡的に合ったからこの状況が作り出されたわけで。
てかこれってチャンスだよね。
今日子はこれから仕事があって一時間半は拘束される。
これは神様がくれたチャンスだよ。
今日子には先生に呼ばれたとか言って断ろう。
説得できなくたって今日子は喫茶店から離れることはできないんだし。
そもそもこの時間は私の自由時間なんだし当然の権利だよね。
私、間違ったことしてないよね。
「うん。いいよ」
そう答えると三崎君が喜んでくれた。
……私と一緒にいれるのが嬉しいってこと?
これは私の自惚れた考え?
他の子に盗られないように早く一緒にならなくちゃ。
早く今日子のことなんとかしないと。
「ちょっとだけ待っててくれる? 教室に忘れ物を取りにいかないといけなくて。すぐ戻ってくるから」
「わかった。僕はずっとここで待ってるから。急がなくて大丈夫だよ」
「ありがとう」
やっぱり三崎君は相手のことをすごく配慮してくれる優しい人だ。
それが言葉の節々に現れてる。
心が浮かれてスキップしたい衝動にかられたけれど、できるだけお淑やかに歩いて教室を目指した。




