第20話 私のことを可愛いと絶賛してる育児日記ブログとやらを見てやろうじゃないか
「この頃のマイとっても可愛くて外に出歩く度に可愛い可愛いって褒めてもらえてね、お母さん鼻が高かったんだから」
そういうお母さんに”この頃のマイ”ってなに、今は違うとでもいうわけ? と少しモヤモヤしたけれど可愛いと言われるのはまんざらでもなかった。
大晦日を目前に、大掃除中の我が家で昔のアルバムが発掘された。
掃除の手を止め昔語りをしはじめたお母さんが、
「そういえばブログで育児日記書いてたっけなぁ。毎回投稿する度にマイちゃん可愛いですねってコメント沢山ついたんだよ」
「なにそれ私のこと勝手にネットに書いてたの?!」
「だって自慢だったんだもん。それにお母さんの友達しか見ない所でダイジョウブな所だから」
「ふーん」
私はソファーにどかっと腰掛ける。
掃除する気が失せた。
どんなこと書いてたんだろう、そのブログ。
私はズボンのポケットから携帯を取りだした。
買ってもらったばっかりの最新機種の携帯。
はじめての携帯だから用が無くても事あるごとに触りたくなる。
だって念願叶ったんだもん。
早い子だと小学生の頃には買っもらってるのに、私はねだってねだってやっと買ってもらえたのが一週間前。
もう中一の冬だよ、遅すぎでしょ。
だから今の私は携帯をいじりたくてしかたがないのだ。
「ねえ、それどこで見れるの? URL教えて」
なおもアルバムを見続けていたお母さんは顔をあげ、
「なにマイ、見たいの?」とクスクス笑った。
「当たり前じゃん私のこと書いてんでしょ? そりゃチェックするよ。それとももう消した?」
「ちゃんと残してあるわよ。思い出だもん。ちょっと待ってね、削除されてないといいんだけど」
そういうとお母さんは自分の携帯を取り出し過去を掘り起こしはじめた。
しばらくしてお母さんからメールが届いてそこにURLがはられていた。
ワクワクしてきた。
私のことを可愛いと絶賛してるブログとやらを見てやろうじゃないか。
それは無料レンタルサーバーのブログだった。
デザインが時代を感じさせる。
全体的にピンクの色合いでリボンやティアラのデザインが所々にあしらわれていた。
現代のデザインに比べてイラストのドットが荒くてちゃっちい。
お母さんは自分のことを『マイママ』と名乗っていた。
最後の投稿は私が小三の頃のもので、家族で初詣にいったときのことが書いてあった。
『おみくじみんなで引いたよo(^▽^)o わたしは吉、マイは小吉、パパは中吉でしたぁ!! 吉と小吉はどっちがイイんだっけぇ? 毎回忘れちゃいます(´▽`)トホホ』
お母さんのブログは顔文字や絵文字が乱発していて写真も一つの記事に最低三枚は載せてあった。
この初詣の記事の写真だと、引いたおみくじの写真に、神社で誰か通行人に撮ってもらったのか家族三人で撮ってる写真、神社近くの食事処で私がソバをもくもくと啜ってるところを撮った写真。
見ているうちに顔がほころんでいく。
他人が見たらたいしたことじゃないけどさ、こんな小さなことをひとつひとつ大切に綴ってくれてるお母さんの優しさに触れた気分だった。
それから一番楽しみにしていたコメント欄も見た。
ママ友らしき人のコメントがいくつもあって、お母さんと同じように顔文字&絵文字もりもりのコメントで、
『家族みんなでお出かけイイナ~!(⌒▽⌒)うちゎ寝正月だよ太るぅ~』
『マイちゃんママ今年もよろしくね( ´艸`)また今年もダンナのグチ聞いてね(^▽^)』
『おそば美味しいよね(´∇`艸)マイちゃん相変わらずママに似て美人さんだねぇ(*^▽^*)』
顔がニヤけた。
絶賛まではいかないし画面の向こうにいる誰かもわからない人だけど、好意を向けられるのは嬉しかった。
他にも褒められてるコメントはないかとブログを遡っていく。
懐かしいな。
思い出は美化されるって言うけど、これはお母さんの目を通した思い出だから温かで優しく包まれた思い出ばかりだ。
ふと、一つの記事に目がとまった。
この記事だけコメント数がやけに多い。
きっとこれが私が絶賛されてるっていう記事だ。
見る前からニヤニヤが止まらない。
その記事は夏休みにうちの家族と親戚との大所帯で遊園地に行った時のことが書いてあった。
この遊園地は何度も行ったことがあるし、親戚とも仲がよくしょっちゅう会っているので特別なことは書いてなかった。
なので文章は読み飛ばし、写真をメインに見ていく。
この遊園地の無名マスコットキャラの着ぐるみに私や親戚がまとわりついてる写真。
みんなでご飯食べてる写真に、ソフトクリームを食べてる写真。
お父さんも一緒に行ったはずなのにお父さんの写真が一枚もなかった。
てことは、お父さんが写真係になってたのかもしれない。
最後は、子供達が疲れて眠りこけてる写真が貼られ『寝顔かわいい天使v(*´∀`*)v』の文章でしめくくられていた。
ようやくお目当てのコメント欄だ。
ざっと目を通すと、大多数が『寝顔可愛い』と褒めてくれていた。
そうか寝顔写真が珍しいからコメント数が多かったのか
――――と答えがわかった気になっていた時だった。
お母さんやママ友界隈とは雰囲気の違うコメントをちらほら見つけた。
『聖地巡礼にきました』
『ネットリテラシー無い親の元に生まれて可哀想』
『次の会場はコチラです→』
『やめてやれよw』
なんだろう。なにかよくないことが起きてるんじゃないかと漠然と不安になった。
『次の会場はコチラです→』にはURLが貼ってある。
怪しいサイトに繋がってる可能性が高いし見ない方がいいに決まってる。
だけど……確認したかった。
確認してこの不安を拭い去りたかった。
私は勢いにまかせてそのURLを開いた。
そこは掲示板だった。
掲示板のタイトルは『【ちっぱい】乳首お目見え【発育途上】』
全身に悪寒が走った。
怖くて体が萎縮していくが、携帯を操作する指は動かし続けてしまう。
違う。これ間違いだ。
私は関係ない。
無関係だという証拠が欲しくて探してしまう。
あ――――見なきゃよかった。
『マイちゃん』
という文字を掲示板で見つけてしまい、もう逃げられないとわかってしまった。




