第16話 どこに隠してたのよ、その上昇志向と自分の価値を信じてるキラメキ。一緒に堕落してくれると思ってたのに。
終電に乗ろうと駅にかけこむ人たちを眺めながら私はなにを買うでもなくコンビニで時間を潰していた。
九月に入って三週間になる。
気が沈んでいた。
秋だからメランコリックになってるのかな。
色々とよくないことを考えてしまう。
普段考えないように向き合わないように避けてたことがふつふつと浮上してくる。
両親が弟のために用意していた学費で私はFラン大学に行った。
両親はなにも言わないけれど、視線やため息からいい大学に入るために用意した金をドブに捨てたって思ってるのが空気で伝わってくる。
毎日申し訳なさを感じながら大学に通っていた。
それもあと半年で終わる。
卒業すればこの漠然とした生きることへの申し訳なさから解放されるのかな。
そうは思えなかった。
さらに泥に沈んでいくような気さえする。
就活も思うようにいってない。
はじめ、いいとこに就職して親からの評価を挽回しようと躍起になっていた時期もあったけれど今はもうどうでもよくなっていた。
だって、私だよ。
私に何が出来るって言うの。
無理だよ。
人様に選んでいただけるような人間じゃないもん。
虚しくなってしまうのはそれだけじゃなくて、自分と同じように目標もなくバカやってた友人達がガラりとかわってしまって社会人に孵化しようとしてることだ。
驚いた。
どこに隠してたのよ、その上昇志向と自分の価値を信じてるキラメキ。
一緒に堕落してくれると思ってたのに。
私は家族だけじゃなくて友人にも置いていかれたというわけだ。
がんばらなきゃとは思うよ。
だけど、なにもする気がおきない。
それどころかもうなにもしたくない。
いっそのこと消えてなくなりたい。
それは男との関係も同じだった。
寂しそうな目をしてる人がいると、つい近づいてしまう。
ひとりぼっちなのかな、突然消えちゃうんじゃないかな、支えが必要なんじゃないかな、と頭のなかで膨らんでいく。
凸凹がぴたりと合ってお互い必要な者同士に思えた。
出会うべくして出会ったみたな運命さえ感じる。
その関係はお互いを支えるようなとてもいい関係に思えるが、全くだった。
どれも最初だけはいい。
人を警戒していた彼がやっと私に心を開いてくれたと嬉しくなるも、その後ワガママがはじまる。
被害者意識が強いせいか白か黒しかない。
やんわりでも否定の姿勢を見せると「お前に俺の気持ちわかるわけない」「やっぱお前も皆と同じか」とキレ出す。
そうなるとイエスマンに徹するしかこの関係を維持できなくて、やがて疲弊して潰れる。
これは恋愛なのかな。
純愛だとさえ思ってたのに。
わからなくなる。
そう悩んでると「同情だ」と言われたことを思い出す。
そこで我に返って、私のこの思考と行動は同情なのか。
私がやってるこれって高校の時彼にした酷いことと同じなのか。
また弟への罪悪感があらわれたんだ。
それを解消するためにこの人に近づいたんだ。
ああ、これは恋愛なんかじゃない。
そう認識すると世界の見え方が変わり、相手に申し訳なくなって逃げるようにして姿をくらました。
私がもう構わないとわかるとすぐ次に行く人もいれば、実家まで探しに来る人もいた。
もうこんな恋愛もどきをしてはいけないと、その反省で今度はそっけない人と付き合うも物足りなくなってすぐ別れ、また寂しそうな目をしてる人に惹かれ付き合うをくり返す。ちなみに今はそっけない人。
高校の時に、私の弟への罪悪感に付き合わせてしまった彼に「同情」と言われた時はすごくショックだったし、相手に悪いことをしたと後悔した。
でもあの時にそうはっきり言ってくれたことに今は感謝している。
言われなければ私はどうして上手くかないのかわからないままずっと同じ失敗をつづけてただろうから。
はやくに気づけてよかった。
失敗ばかりでも、失敗から学んで少しずつ軌道修正していけば最後には正解に辿り着くはずだから。
私に気づきを与えられるぐらいだから彼の人生は上手くいってるんだろうな。
あの時仲直りできていればもっといいアドバイスもらえたんだろうな。
傷つけといて都合いい頭してるな私。
自分でも呆れるよ。
そうこうしているうちに彼氏が来た。
ネカフェのバイト上がりの彼がTシャツ姿であらわれた。
顔が疲れてるけど長時間拘束から解放されて目に柔らかさがあった。
彼は私をみつけると『よぉ』と視線で合図してきた。私もオーバーな笑顔で『ここにいるよ。お疲れ様』って手振りで伝える。
いつもこうやって彼のバイト近くのコンビニで彼のバイトが終わる時間にやってきては合流している。
私は雑誌を戻すと、彼と一緒にコンビニを出た。
「さむっ」
コンビニを出ると肌寒かった。
ワンピースとサンダルじゃもう寒いな。
羽織るもの持ってくればよかった。
私は露出してる二の腕をさすった。
いつも行く店が決まってるから私達は会話せず歩く。
電飾でピカピカ明るいけど人気が無くて世界が半分死んじゃったみたいだった。
彼との出会いはネカフェだ。
前の彼氏と別れた時に強引な別れ方をしたせいで実家まで来られたのでしばらくネカフェ生活していた。
その時に顔見知りになった店員が彼だ。
彼を選んだのは、干からびて生きる力がなさそうだったから。
木にひっかかってかろうじて世界と繋がってる風船のような人だった。
誰かに生きる力を吸い取られちゃったのかな。
いつか飛んでいってしまいそう。
そんなたよりなさが私の心をくすぐった。
だから私は彼をつなぎ止めようと風船に手を伸ばし、今にいたる。
歳は私の一つ上で、去年まで大学生だったけど就活せず卒業して今はフリーターをしている。
居酒屋の暖簾をくぐるとガヤガヤしていた。
店の半分はまだ客で埋まってて、終電と無縁な人たちは元気だった。
席につき、店員さんがいるうちにすぐ注文した。
だって彼はいつも「まかせる」しか言わないから。
私はレモンサワーで、彼は生ビール。
焼き鳥の盛り合わせはマストで、あと野菜系をいくつか。
すぐきたお酒で乾杯して、
「バイトどうだった?」
「いつもどおり、かな」
「へー。でも代わり映えのしない日常っていいことだよ」
「だな」
沈黙。
「今日大学でさ――――」
「うん」
沈黙
「友達がさ――――」
「うん」
沈黙。
過去の会話をリピートしたとしても彼は初めて聞いたように「うん」と言うんだろうな。
やまびこみたいな会話だ。
やはり物足りない。
今までの経験を反映させてそっけない人を選んだのに。
いい選択をしてるはずなのに。
ここに私の居場所はない気がする。
凸凹がぴたっとはまらないんだ。
前回のハードな恋愛のせいで物足りなさを感じるだけかな。
そうだといいんだけど。
このまま続けていけばこの関係性に慣れて身を任せることができるのかな。
きっとまた寂しい目をしてる人を見つけたらまたそっちに流れるんだろうな私。
100賭けていい。
「行こっか」
私がレモンサワーを飲み終わったのを見計らい彼は言った。
私は「うん」と了承した。




