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女の髪の毛を集めるカルマ君と、親がブログにあげた写真のせいでネットのおもちゃにされたマイちゃん  作者: 津山 まこと
第1章 女の髪の毛を集めるカルマ君

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第1話 解決の兆しを見つけたような気がした

 席に案内され担当美容師が来るのを待っていると、ふと、床に散乱している髪の毛が目についた。

 長い髪をばっさり切ったのか、それは十センチ程の長さで黒く艶やかだった。

 俺はそれに惹きつけられていた。

 解決の兆しを見つけたような気がしたから。



 あの髪の毛は女の体から切り離されたものだよな。

 ならそれはもう女じゃないわけで。

 仮に性欲をぶつけたとしてもそれは加害行為に当たらないんじゃないか。

 それに気づくと、頭がくらりとした。




 俺は不審がられないよう視線だけで周囲をうかがい見た。

 担当美容師は俺の前の客の会計をしているところで、暫くこちらに来る様子はない。

 アシスタントはシャンプー台で客の頭を洗っている。

 あとの奴らは休憩か裏で作業しているのか姿はなかった。

 俺だけ一人ぽつんとカットする場所に取り残されていた。

 やるなら今しか無いだろう。

 



 頭で考えて動いたというよりも体が勝手に動き出していた。

 俺はあたかもスマホを床に落としてしまいましたってフリして散乱している髪の毛を鷲づかみした。



 手に触れたそれは柔らかくさらさらで、それなのに何故かしっとりしていた。

 女ってこんな触り心地なのか思うと、体の芯がぶるりと震えた。

 そしてそのままポケットにつっこんで持ち帰った。





 ***





「夕飯は?」

 家に帰ると、台所から母さんの声がした。


 台所を覗くと、母さんも今仕事から帰ってきたばかりらしく事務員の制服姿のままだった。 

 テーブルには買ってきた惣菜が広げられている。今日は買ってきた惣菜ですますらしい。

 手作りなら機嫌を損ねないようすぐ食べないとだけど、買った奴なら――――。



「今はいいや。あとで勝手に食べる」


「そう」


 もともとお互い口数が少ないから、すぐ会話を切り上げても怪しまれはしないだろう。

 早く自分の部屋に引きこもりたかった俺は普段通りを装って台所から立ち去ろうとした時だった。

 にわかに母さんに呼び止められたんだ。





「髪切ったの?」





「うん」


「お父さんそっくりになってきたわね」


 だしぬけにビルの屋上から突き落とされた気分だった。

 落下したままのような浮遊感が続き足元がおぼつかなくなる。

 母さんは今どんな顔で俺を見ているのか。

 知るのが怖くて振り向けない。

 背を向けたままの俺は「……そんなことないよ」と答えるのが精一杯だった。


「そうだといいけどね」


 母さんはそっけなくそう言うと台所にひっこんだ。






 たちまち頭上に汚物が乗っかってるような不愉快さに襲われる。

 もう2度とこの髪型にするもんか。

 そこそこイケてんじゃねって浮かれてた自分死ねよ。

 もはや切らなきゃよかったんだ。

 今すぐ髪を揉みくちゃにしてハサミで切り刻みたい衝動にかられる。



 俺は逃げるようにして自分の部屋に入ると、ハサミを探すよりまず先にベッドに突っ伏した。

 顔を枕に押しつけ抱え込んだ衝動を吐き出す。

 もしやさっきの母さんの言葉はやましいことをしようとしている俺の心を見透かし遠回しに釘を刺さしてきたってことなんじゃ。

 いや、床にぶちまけたわけじゃないんだから気づかれているわけは……。

 でも――――罰が当たったのか。






 やめておくべきか。

 家のゴミ箱に普通に捨てるわけにはいかない。

 外で捨てないと。

 コンビニか駅のゴミ箱にでも。

 あ、なにか他のゴミに紛れ込ませて捨てないとな。

 油で汚れたポテチの袋に入れて捨てるか、ガムテープに貼り付けて捨てるのもいいかもしれない。

 捨てるため、ポケットから取り出した。






 はらりはらりと数本の髪の毛が床に落ちていく。






 それを見て俺はワナワナと震えだした。

 まずい。

 俺でも母さんでもない長い髪の毛が落ちてるなんて不自然すぎる。

 一本でも見落とすわけには――。



 最初は焦りを覚えながら真剣にこぼれ落ちる髪を拾っていたんだ。

 拾っても拾ってもあちこち落ちていく髪の毛をもうこうかったら一つの固まりに纏めてしまおうとこねくり回した。

 すると今度は俺の指に絡みついてきて離れない。

 俺は髪の毛を外そうと触っていただけのつもりが

 ――――髪の毛の感触を楽しんでいる自分がいることに気がついた。




 この感触を失うのが惜しくなる。

 俺はドアがしっかり閉まってるのを確認した。

 一人部屋が与えられているだけ有り難いが、1LDKのアパートに完全なプライベートはない。

 ドアが突然開けられた場合を考え、死角になるベッドの背に体を隠す。

 何か言われたらベッドの下に物が落ちてしまい、それを取ろうと格闘しているんだとでも言おうか。




 俺は両手で水を掬うように髪の毛をたいそう大事に持った。

 ドクドクと鼓動が早くなり頭が熱に浮かされる。

 もしかして、これって、俺は興奮しているのか?

 いいのか、いいんだろうか。

 とてもよくない気がする。

 犯罪している気分だ。

 いやでもこれは生身の人間じゃない。

 女でもない。

 女から切り離された『ただの物』じゃないか。

 女じゃない。

 女じゃない。

 女じゃないんだから

 ――――いいだろ、こんぐらい。

 





 ごめんなさい、ごめんなさい。

 ごめんなさい――――

 ああ――――。

 俺はそれに顔をうずめた。




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