「異音」
私にはある疾患がある、いわゆる心の病というやつだ。正直、そのせいでこれまで相当振り回されてきたし、いらぬ努力も強制されてきた。でも、いつかは「これで良かったのだ」と納得できるような自分になりたい。そのために必要な努力は誰よりもしてきたし、スキルも身につけて普通の技術者としてのキャリアを歩むようになってきたのだ。
自宅までの帰り道の途中、異音がした。それはこれまでに何度も経験してきた類のものとすぐに理解できた。やがてそれはだんだんと大きくなっていき私という存在を塗り潰していった。
「さすがにこれ以上は無理そうだ。」
職場に連絡し、多くの人の引き留めにあったが迷惑をかけるわけにはいかない。細かい理由を説明できなかったのは心苦しかったが、辞めることになった。
「何でこうなっちゃうかな。」
せっかく積み上げてきた実績をつまらない理由で崩された気分になった。軽く泣きたくなったが、そうは言っても仕事を辞めてしまった以上、今の家でも生活していくことも厳しいだろう。この病との付き合い方はよくわかっているので、実家に連絡し、入院か実家で療養か、の件で相談し、通院している医師の判断を仰ぐことにした。
「君はしばらく実家で療養した方がいいね。まずはよく寝て休み、疲れを取りなさい。」
こうして私は実家にて療養することになった。
夢を見た。これまでに何度も見ている夢だ。みんな私のことを笑っている。何がおかしいのだろう。私は普通のことをやっているだけなのに。
、、、社会人になってから、ふとしたきっかけで検査を受け、「自閉症」の診断がついた。「ああ、そうなんだ。」と思った。私にとっての普通は普通じゃなかったんだ。それからは「私はカメレオン」と考えるようにした。
擬態するしかない、擬態していかないと生き残れない。私の思考や努力は全て生き残るためだけに身につけたものだ。たとえ自閉症と診断がついたからといってその事実は変わらないし、これからも変えられない。
追い詰められる度に私は努力し、教えを乞い、自分の思考を磨いていった。やがて、それはだんだん目に見える結果として現れるようになっていった。異常者扱いはこれまでに何度もされてきたが、次第に実力で認めざるを得ないように周囲もなっていった。
私には心があるのだろうか?と思うことはある。とうの昔に置いてきたのか、それとも凍ってしまったのかわからないが、唯一私に残っているのは「人として正しいかどうか」ということだけだった。
「でもなんか疲れたな。何でなんだろうな。」
とりあえず休もう。医者も言っていたし。
今日も一ミリだけ世界は回った。




