「砂濾過」
私は一般人ではない。一般人のフリをして生きているカメレオンだ。一般人ではない、だからこそ譲れない、譲りたくないものがあるのだ。それが誇りなのかなんなのかわからないが、カメレオンでも大切にしているものくらいはあるらしい。
「三木元さん、スケールの装置の件で相談があります。」
三木元課長は怪訝な顔をして振り向いた。
「なんだい、葛木さん。スケールの装置は既に導入が決まっているよ。」
私は少し驚き、動揺したが勤めて冷静に言った。伝えなくてはなるまい、たとえどうなったとしても。私は技術者として正しくあらねばならない。
「実は前任者が既に同様の装置を別の場所に導入していたのですが、運用が上手くいかず、そのままになっているようです。」
三木元課長は少し驚いたようだが、平然とした顔だった。
「そうか。まあダメでもともとだからな。上手くいかなくても別のやり方を試すまでさ。」
「それでなんですが、私の中に代替案がありまして。」
「ほう、それはなんだい?」
「1つは冷却塔の下のドレーン(排出口)で適宜ブローして水の入れ替えを行い、導電率を管理値まで下げる運用をすることです。」
「なるほどね。でもさ、それって手間も時間もかかるよね?装置が導入されるまでの一時的な運用ならいいよ。」
「わかりました。ご理解いただきありがとうございます。」
とりあえず許可は得られた。あとはやりながら効率よく・安全な運用ができるように調整していけばいいだろう。
「もう一つですが、装置の運用実績で信頼できるものがなく、テキスト、論文まで調査したのですが、装置の設計の根拠となる理論ようなものは見つかりませんでした。」
「、、、何が言いたい。」
「装置を導入しても効果がない可能性が高いので、私としては導入実績の多い砂濾過装置のご検討をお願いしたく、ご相談に乗っていただきたい次第です。」
三木元課長は大きなため息を吐いて私を見た。
「あのねえ、既に決まったことって言ったでしょ。君の言うことも一理あるかもしれないけど、その提案を呑む訳にはいかないよ。」
「ですが、わざわざお金をかけて設備を導入し、効果が出なかった場合は会社の損失につながります。」
「それでもいいの。ダメでもともとって言ったでしょ。」
「ですが、そうなると失敗した三木元さんの立場も危うくなりますよ。」
三木元課長は眉をしかめ不機嫌になりつつ言った。
「君に何がわかるんだよ。君は中小企業出身だったからコスト意識が高いのかもしれないけど大手には大手の論理があるんだよ。」
これ以上は話せなさそうだな、と判断し、私は話を切り上げることにした。
「ご相談に乗っていただきありがとうございました。失礼致します。」
ちょっと言い過ぎたかもな。
「葛木さん、また熱くなってたね。話題になってるよ。」
「橋木さん、すみません。やっぱりまだ私はこの職場に慣れていないみたいです。」
「いいっていいって、気持ちはわかるから。で、何か進展あった?」
「実はスケール除去の件で原因がわかって、溶解度というのがあって、、、。」
私はこれまでの話の経緯とスケール発生の原因について橋木さんに説明した。
「なるほどね。葛木さんの話は最もだけど、まず冷却塔の下のドレーンからブローするのは意外と大変だよ。作業スペース悪いし、何より上手くやらないとエアー(空気)が配管や冷却水設備に入る危険性があるからね。」
「そうだったんですか。教えていただきありがとうございます。」
「それと砂濾過だけど設置スペースはどうするんだい?たしかに砂濾過ならブローと合わせて使えば、配管内に溜まっているスケールが取れて、かつスケールが生じにくくなるようにはできるだろうけど。あとは逆洗浄とかのタイミングと水の使用量とかも気になるよね。」
「ごもっともです。まだそこまでは検討できていませんでした。」
「でもブローの件はできると思うよ。よかったら協力しようか?」
「いいんですか?ありがとうございます。」
「代わりに昼飯奢れよ。今月キツいんだわ。」
「またパチンコですか。でもありがとうございます。では橋木さんの都合のつく時間でご協力お願いします。」
「おう。」
今日も一ミリだけ世界は回った。




