第七話 天使の国への侵入者
「ミ、ミシェル〜?」
言われた通りハクマに夕飯はあげたものの、帰ってくるのが遅い気がしてルーシュはハクマと共に外へ出た。雨なのに何故かほんのりと明るくて、ランタンがなくても知っている道は分かる。
ハクマが棚の一つを鼻で押し「開けて」と言うので、そこからハクマ用のと、予備で置いてあったミシェルのレインコートを着て二人は民家の間を縫い彼を探していた。時折「ボォー……」という不気味な音がしてルーシュは怖がったが、ハクマは大丈夫なようで、怯えるルーシュに寄り添って進んだ。
「――ぃ、撤退だ! 退くぞ!」
「うわぁ⁉︎」
ドンッと角から飛び出してきた大柄な男とぶつかって、ルーシュはその場に尻もちをついた。ランタンの光に目を細めて、ルーシュはぶつかった男を見上げる。よく見るような上下に分かれたシャツとズボンで、強面のリーダーらしき男の後ろには同じような服装の男達が複数いた。男達はいくつかの小さな袋を持ち、何人かは仲間を背負っている。
「なんだ、お前も宝目当てか? 立ち入り禁止が解除されてから、とうとうこんな子どもまでやってくるようになったのか」
「宝目当て……?」
ルーシュは自分の後ろに隠れようとするハクマを守るようにして立ち上がる。
「おじさん達、お宝ハンターなの?」
「まあ……似たようなもんだ」
リーダーらしい男はジロリとルーシュとその後ろのハクマを見る。子どもと恐らくそのペット、もしくは荷運び用に連れられている動物。ルーシュ程大きくなると流石に無理だが、ガフは三十キロ程の重さなら乗せて移動出来るのだ。
「迷い込んだか何だか知らねえが、忠告しとく。すぐにここから出た方がいい。暫く近付くな。亡霊が出てる。それと盗賊が」
「亡霊?」
「うちのも何人かやられてるんだ」
ちらりとルーシュは彼の後ろの男達を見る。確かに何人か背負われているが、全く動いていない。そしてまたどこからか「ボォー」と気味の悪い音が聞こえた。
「俺達ゃもう用は済んでる。お前も襲われない内にとっとと帰れ」
「ぁ……」
歩いていく男達にルーシュは道を開けたが……
「ま、待って!」
「何だ……? 急いでるんだ」
「何を取ったの? お宝。もうこの国に宝はないって聞いたよ」
必死な様子のルーシュに、男達は少し迷ったようだが
「歩きながら教えてやるよ」
彼らがさっさと歩いていくので、ルーシュは置いていかれないように小走りで隣に付いた。
「確かに、金塊やアクセサリー……その他の分かりやすい宝はとうに持ち出されてる。ただ、土の中には埋まってんだよ」
「土の中?」
「見てみろ」
リーダーは言うとランタンを地面に近付けた。するとそこにはきらきらと輝く、白い石の粒のようなものが見える。ほんのりと辺りが明るかったのはこの石のおかげだったようだ。
「雨が降ると地下から浮いてくるんだ。綺麗だろ」
ルーシュは黙って頷いた。
「通称『天使の素』。まあ、ただの光るだけの石なんだけどよ。集めりゃ明かりとして使えるし、砕けば染料になる。普通に装飾として使ってもいい。万能だ」
「この石って、天使の国にしかないの?」
「いいや。世界各地にこういう場所は点在してる。だが俺達が手に入れるにはここが一番近いんだ。だから雨が降るとこうして集まって石を取らせてもらう。亡霊に怒られるから長くはいられないけどな」
リーダーが立ち上がって再び進もうとした時、後ろで「ぐあっ!」という仲間の声が複数した。
「どうした!」
「矢が……っ。さっきの盗賊が攻撃してきやがった! 早くここを離れよう!」
「クソッ。おいお前、行くぞ!」
「ぅえっ?」
ひょいとリーダーに持ち上げられたルーシュの体。続いて近くにいたハクマも仲間に担がれて、二人はどんどんと天使の国を下りていく。
「あ、ま、待って。ぼくまだ天使の国に用が……っ」
「数日後でいいだろッ、今は危険なんだ」
男達に抱えられ天使の国を離れていくルーシュとハクマ。遠ざかる二人を民家の陰からミシェルは静かに見つめていた。




