第五話 天使への気持ち
「『堕天使は執念深い』?」
ルーシュの開いた本のページを見て、ミシェルは眉間に皺を寄せた。
ミシェルの昔の話があらかた終わり、二人は床に座って、ハクマはその側で寝転びくつろいでいる。ルーシュが持っている本がやけに古めかしいのが気になったミシェルが、中身を見せろと言ったのだ。
「そうさせたのは誰だって話だ」
「じゃあこれって嘘なの?」
「半分本当だ。本来天使が堕天使になるのは目的を果たした時だ。相手を殺して満足してるから執着もしない。ただ、大戦争の時は執念深くならざるを得なかったという方が正しい。人間に使われ殺されて、数え切れない程の命が失われた。僕達が平穏に生きていくには、人間を殺す以外なかったと思う。だから最終手段に出たんだ」
「……ごめんなさい。ぼくの先祖がひどいことをして」
ミシェルは隣に座るルーシュを見て少し驚いた後、一つ小さく息を吐く。
「よくこんな本読んでそんな純粋に謝れるもんだ。天使なんて道具か、恐怖の対象だろ」
けれどルーシュは
「ううん、違う。ぼくにとって天使は尊い命の一つだよ。それにこの本を読んだからちゃんと謝れる。この本はぼく達人間が天使に何をしたかが書いてある。それにこれは、天使のことを悪者にしたくて、人間のことをヒーローにしたかった人が書いた本だよ。ぼく分かる。ただの歴史書じゃないんだ、これは」
強く信念を灯した瞳をしたルーシュに、ミシェルは少し驚いた。彼のことをただの馬鹿だと思っていた訳ではないが、そんなに頭が回る訳でもないと思っていたのだろう。しかし今のルーシュの話は核心を突いていた。
「……もし本と同じに僕がお前に襲い掛かってたら、お前はがっかりしたか? 怖かったか?」
「襲われたら……怖かったかも。でもがっかりしたかは分かんない。本がちゃんと真実だったって分かったんなら嬉しかったと思う」
「お前は……」
ミシェルは頭を抱えると溜め息を吐く。ルーシュの純粋さには敵わないといった様子だ。
「初めに僕を見て何も思わなかったのか? 天使だぞ。一瞬でお前の命を奪えるような」
それに瞬き一つして、ルーシュは
「綺麗だと思ったよ」
真っ直ぐにミシェルの目を見て言った。それにミシェルは少し固まる。
「絵しか知らなかったから、本当の天使を見て『会えた』って思った。あぁ本当に生きていたんだって。きみのことがもっと知りたくなった」
笑顔を向けられ、ミシェルは少しだけ気恥ずかしそうに後ろ頭を掻く。ルーシュは話を続けた。
「だからさ、暫く一緒に暮らしていい?」
「……はぁあ⁉︎」




