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白い堕天使  作者: いとい・ひだまり
出会い編

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第四話 天使との食事

「――いただきま〜す!」

「パン硬いからスープに漬けて食べろ」

「うん」

 ハクマに果物をあげ終わってから、二人は食卓――と言っても適当な家の壁を持ってきて作られた椅子もなく低い机――に着いた。メニューは二つ。数日前にミシェルが焼いたパンの残りと、彼が王国の側の草原で作った畑からとってきた、根野菜と葉物野菜を使った簡素なスープだ。味もあまりしない。

「っはぁ〜、あったかくて美味しいね」

「そうか、ならよかった」

「ありがとう、ご馳走してくれて」

「……あぁ」

 ご馳走とは程遠いが、とちらりとミシェルはルーシュの身なりを確認する。特に裕福な訳でも貧しい訳でもなく、普通に生きていけていそうな格好だ。どこもボロくないし、ここまで来れているということは旅費もあったのだろう。絶対にいつも彼が食べているものの方が美味しい筈なのに、ルーシュは嘘のない笑顔で伝えてくる。

「ミシェルはずっと一人で野菜とかを育てて料理して暮らしてるの?」

「そうだ。昔……習ったからやり方は分かる」

「誰に?」

「……両親。本で読んだなら知ってると思うが、一番高所に城が、その下に街がある。そして街の中や外周に畑があった。昔は穀物を使ったクッキーもよく食べた。パンも美味しかった。グラタンやパイもあったし、何より、ひとの声がいつも温かい場所だった」

 遠い過去を思うミシェルの瞳は少し憂いを帯びていた。全てなくなり一人ぼっちとなったこの場所で、彼はずっと生きてきたのだ。遠くを見つめる瞳は、ふいにルーシュを捉えた。噴水で彼がメモしていたのに気付いていたらしく

「メモしなくていいのか?」

「っす、する!」

 慌ててバッグからノートとペンを出したルーシュを見て彼は僅かに頬を緩めた。

「家の内装も外装も綺麗で、角の丸い四角い民家が立ち並んでた。外は白く、中にはタイルがよく使われてた。黄色や水色が多かったな。ここにも、ほら」

 ミシェルは壁の一面を指した。オレンジのそれは所々削れたり割れたりしているが、時々植物のツタのような柔らかい曲線を描きながら横に続いている。

「城の内装は分からないが、外は所々丸い出っ張りが塔に付いてた。僕達は毎日畑や牛の世話をして、布を作って……そんな風に暮らしてた」

「空って、飛んでた?」

「飛んでた。王国の高い所から下の方へ滑空するのが好きだった。よくそうやって友達と遊んだんだ。でも一人怖がりなやつがいてさ。高い高いって騒ぐから、みんなで手を繋いで飛んで……。それでも『ぎゃー』とかって悲鳴を上げるもんだからうるさくてさ」

 話している内にミシェルはいつの間にか笑っていた。本当はルーシュのこともすぐ帰すつもりだったのに、彼の無邪気な性格に幼い可愛さを感じてか、冷たくあしらうことが出来なかったのだ。

「……悪い、ちょっとうるさかったか」

 自分がルーシュに気を許していたこと、そして彼が嬉しそうな顔で見つめてきていたことに気付いたミシェルは咳払いすると静かになる。けれど先程までのミシェルの声量の倍くらいでルーシュは

「ううんっ、全っ然うるさくなかったよ! もっと聞かせて、ミシェルの話!」

 食卓に身を乗り出してねだった。それにミシェルは少し面倒くさそうながらも、年の離れた兄のような優しさの混じった感じで息を吐く。

「飯が冷めるから、食べながらでいいならな」

「あ、うん。ぼくはご馳走さま。美味しかったよ、ありがとう」

「はぁ? お前もう食べたのか?」

 今度はミシェルが身を乗り出す番だった。確認したルーシュの皿は真っさらで、とても綺麗に食べられていた。ミシェルが驚いた様子でルーシュの顔を見つめるので、少し恥ずかしげにルーシュは頭を掻く。

「お腹空いてて……。最近ぼく、干した何か……携帯食料くらいしか食べてなかったからさ。あとその辺の実とか。だからすごく美味しかった!」

「『ご馳走』って本心だったのかよ……」

「……? うん、ぼく嘘吐かないもん」

 きょとんとした様子の彼にミシェルはまた「はぁ」と息を吐く。振り回されてばかりで、やっぱりひどいお人好しだと思いながらも、ミシェルはその純粋さが少し羨ましいのだった。

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