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白い堕天使  作者: いとい・ひだまり
過去編

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第十六話 天使のお墓

 大戦争から一年後。軍は撤退し、天使の捜索も緩くなった。ミシェルは厚着をしリュックを背負うと、村人達と共に天使の王国へと向かった。そのままだろう天使達の亡骸を、しっかり埋葬する為だった。

 訪れたそこは土地や建物が削れておりミシェルに嫌なことを思い出させたが、新たに芽吹いた植物がちらほらあり、風に揺れている。

 王国の下の方には骨はないからと、真っ直ぐに城を目指した彼らは頂上で驚くことになる。

「……墓?」

 一面とまではいかないが、城の東側にずらりと並ぶのは王国のあちらこちらから拾ってきたのだろう石や建物の一部。そしてその石達の前には一段と大きな城の外壁が置かれ『天使、堕天使、ここに眠る』と文字が刻まれていた。

「一体誰が……」

 村人の一人が呟いた時、ミシェルの目がある人物を捉えた。反対側の斜面から登ってきたのは一人の男。金のようなブラウンの髪を風に揺らす深い緑の瞳の男。その目が、ミシェルの金の瞳と合った。

 村人達は外の人間である男から咄嗟にミシェルを隠そうとしたが、彼はそれを退け駆け出した。

「お前、生きてたのか!」

「君も、生きていたんだな……!」

「下手やって殺されたかと思った」

 抱きつきはしなかったが、二人とも嬉しくないと言ったら嘘になるような顔をしていた。

「何だ、知り合いだったのか?」

「ああ、その……大戦争の時に……」

「僕を森に逃した兵隊だ」

「あぁ、あなたが」


 そこからの話は早かった。元兵隊だった彼は大戦争の後天使の王国に訪れては一人一人に墓を作っていったという。そして今はそれは終わり、見逃してしまった天使がいないかを確認しながら、ちょくちょく墓参りに来ているということだった。

「大変だっただろ」

「いや、まあ……違うと言ったら嘘にはなるが」

 墓から少し離れた地面に座った男に続いて、ミシェルもそうする。男はそれを見てから、どこでもなくずっと遠くを見つめた。

「あの日、君は来なかっただろう? すごく心配したんだ。でも見つけられなかった。本来なら私のような者が天使の王国に入るのはやめるべきだと思ったが……彼らのことを、放っておけなくて。……彼らは、名前どころか顔も分からなかったから、墓石には何も書けなかった」

「そうか」

「勝手にすまない」

 ミシェルは男の方を見る。

「何でそんなことを言う?」

「だって、嫌だろう……?」

「……分からない。ただ、僕一人じゃ出来なかったし、今から始めてたらもっと遅くなってた。だから、それはありがとう」

「……そうか」

 男は眉尻を下げると少しだけ笑った。そして一瞬躊躇ったような素振りをして、けれど

「この先も、墓参りに来ていいだろうか」

「勝手にしろ。でも大勢で来るなよ。お前だけでいい」

「ありがとう」


 そよ風が吹く。そっと優しい花の香りが漂って、それぞれ墓参りをしている村人達を横目にミシェルは視線を男に流した。きっちりとした軍服に身を包んでいたあの頃と違い、ゆったりとした白シャツに薄い茶のズボンを履いている。柔らかい雰囲気で今にも小鳥が木と間違えて止まりそうだ。あの日、ミシェルを助けた彼の人柄がよく現れている。

「集合場所、行けなくて悪かった」

「気にしてない。厳しい状況だった。今も……街に行けば同じようなものかもしれないが……」

「街には行かない」

「そうか」

 暫く座って、鳥の声と村人達の小さく聞こえる話し声を聞いていた二人だったが、不意に男が立ち上がった。もう帰るらしい。

 持ってきていたリュックを背負って、国を下りていこうとした時。ミシェルが呼び止めた。

「お前、名前は?」

「……リューだ」

「……僕は、ミシェルだ」

「ミシェル……。ありがとう」

 リューは柔らかく微笑んだ。それにミシェルは首を傾げる。

「何がありがとうなんだ」

「名前を教えてくれただろう?」

 そのリューの言葉にどこかむず痒くなったミシェルは目を逸らすと「さっさと行け」と彼を去らせた。


 リューとミシェルはお互いに友人だとは言わなかったし、リューはあまり自分の話はしなかった。人間の街の話を聞きたくはないだろうと思ったからだ。ミシェルが元気にしているか、それだけを確認するような会話だった。二人の間には何とも言えない奇妙な空気が流れていたが、深い憎悪でも愛情でも憐れみでもない、そのどれもが入り混じったようで、しかしそれとも違う何かだった。

 リューは自らミシェルの元へ出向くこともあれば、墓参りだけして帰ることもあった。ミシェルの方はと言えば、リューがやってきた時は何か食事を出して、適当に近況報告をして、聞いて……。ずっとそんな関係だった。リューが死んだと村人から聞いた時、彼は特に涙しなかったが、リューに連れられ訪れたあの滝に行き花を投げた。それからも、命日には気が向けば花を投げるか思い出すかしたという。

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