第十五話 天使と嫌われ者一族
サクサクと音を立ててミシェルがクッキーを食べているのを、子ども達はじっと見つめる。
「……何。欲しいの?」
「……くれるなら、欲しいなぁというか」
「ばか。これはこの子の。あたし達は村でもう食べたでしょ」
「だってぇ……」
物欲しそうな顔で見つめてくる子が何人かいるので、少し呆れてミシェルは袋を渡した。
「食べろよ。僕はもういいから」
「いいの⁉︎ やったぁ!」
嬉しそうにクッキーを食べる子ども達。ミシェルより年下の子の方が多い。はしゃいでいるその姿に、ミシェルは自国を思い出して少し苦しくなった。
「お前達、外で軍の人間を見たか?」
「ううん。見ふぇないふぉ」
クッキーを頬張っているせいで不明瞭だが、男の子が教えてくれた。他の者も「見てない」とジェスチャーする。ミシェルは考えた。この子ども達を信じて今の内にここから出るか、暗くなってから出るか。軍の人間がまだこの辺りへ到達していないのなら、早めに出た方が良さそうではあるが。
「うちの村……っていうかテントなんだけど、そこにも誰も来てないよ」
「そうそう。おれ達隠れるの上手いからなぁ」
にぃと笑った男の子に、ミシェルは先程の言葉を思い出す。
「そういえばお前達、どうして嫌われ者の一族なんだ?」
「目だよ。おれ達みんな金色の目なんだ。天使と一緒の」
「そう。綺麗でしょ!」
小さい子の無邪気な言葉にミシェルは頷く。
「でも天使と一緒の目だからってみんなに意地悪されてさ。街に入ろうとしたら駄目だって言われるし、入ったら入ったですごい避けられるし『怖い』とか『嫌』とか言われたんだ。『天使の仲間』とか『天使の血が流れてるんじゃ』とか」
「だからあたし達、静かな森に引っ越してきたって訳。まあずっとテント暮らしで移動には慣れてるから、別にあたし何も思わなかったけど」
女の子は言う。天使であるミシェルの手前少し気も遣っているのだろうが。
彼女達からは何の悪意も感じない。「村に行こう」と手を引いて、ミシェルを日の下へと連れ出してくれた。『信じていいのかもしれない』。ミシェルはそんな小さな希望を抱いた。
辿り着いた村に沢山あったテントはどれも、森に紛れるように葉で覆われていたり色が塗られていたりした。中には丸太の家もあったがまだ新しい。そして子ども達が話していた通り、目の色が皆金色だった。
「あら、来てくれたのね。よかった」
「今日からここで暮らすといい」
大人達も快くミシェルを受け入れてくれ、新しい服と居場所をくれた。それがミシェルはありがたいながらも、本当に信じていいのかという不安が織り混じった状態で数日を過ごした。けれど彼のその不安が見事に払拭される出来事が訪れる。
村で過ごし始めて四日目だった。軍の人間がやって来たのだ。彼らは村人達が天使を匿っていないかや、人間に扮した天使がいないかを厳しく確認した。が、ミシェルが見つかることはなかった。
村の保存庫であるテントと、その横に置かれた複数の木箱。そしてすぐ側に植る低木がいくつか。村人達はその低木の下に穴を掘り、木箱を埋めた。ミシェルが出入り出来るだけの小さな隙間に土を付けた蓋を用意して。数時間、彼はその中で震えることにはなったが、命が奪われることはなかった。
しかしその後も何度も軍は村を訪れては天使の生き残りを探した。その度にミシェルは木箱に入り、何ならしまいにはその中に食料も水も入れて、殆どをそこで生活するようになった。軍が来る度にミシェルは死の恐怖に怯えたが、村人達は誰一人として彼の居場所を吐かなかったし、いつも彼に優しくした。
「みんな、いつもありがとう」
ある時、体を綺麗にする為に出てきていた彼は皆にそう伝えた。ずっと大人を避け、殆ど何も喋らなかったミシェルが感謝を伝えてきたことに村人達は微笑んだ。心なしかミシェルの顔の陰も薄くなったような気がする。
「いいんだ、似た者同士だからな。俺達のがずっとマシだが、お前がこの先笑っていきられるように祈ってるよ」
「うん」
ただ、ミシェルには一つ気になっていることがあった。
『一週間後に私はまたこの場所に戻る」
「……絶対だぞ」
「約束する」』
あの男との約束の日はとうに過ぎていた。あれからもう数ヶ月経つ。心配させているだろうか、そう思ってミシェルは溜め息を吐いた。
光線を撃って気絶した堕天使は普通なら殺されておしまいだった。ただ、そんな彼を殺さず逃したあの兵隊は、ずっとミシェルのことを気遣っていた。必要以上に踏み込まず、ただ側にいて……。




