第十二話 天使の過去
今から三百年と少し前。各国は戦争に兵器として天使を使っていた訳だが、ある時から人間達はお互い争い合うのをやめ、矛先を天使に向けることになる――
軍事基地を徹底して天使達が潰したことで、人間達の反感を買ったのが始まりだった。人間達は基地を地下に移動させたり兵器を民家に詰めたりして隠すようになる。しかしそれに伴って、天使達は街そのものを攻撃するようになった。
「うちの街が一つ消えた」
「うちもだ。くそぅ、あんな小国にしてやられるとは……」
「このままじゃ人間は全滅してしまうぞ」
「だったらやられる前にやってやろうじゃねえか。元々人間の方が天使よりずっと数が多いんだ」
各国は兵を集めると天使の国へと向かった。
「――おれんとこのおじさん、どうなったかな」
「さあな……。でもきっと何かやってくれたよ」
ミシェルは友達にそう答えると、遠くに見える人間の国を見つめた。ここからなら何も脅威はないように見える。けれど今までだってずっと、幼い天使達は拉致されては兵器代わりに使われてきたのだ。
「早く平和にならないかな」
しかし、そんな彼らの願いが叶うことはなかった。
ある時から天使の国に大砲が飛んでくるようになった。とは言っても、山のような天使の国のほんの下の方をちょこちょこと攻撃してくるのみ。天使達は光線を放ち、そんな敵達を消し飛ばした。
他の国では何人もの天使の手の平から光線が放たれ、闇夜を切り裂くそれは幾人もの人間の命を奪った。次第に、兵器の代用であった天使達は恐れられていく。
しかし人間達は諦めなかった。切り札があったのだ。
「放て!」
「む、無理だよぉ」
捕らえた天使の子どもに、祖国を撃たせるというものだった。その中にはミシェルもいた。他国を襲撃しに行った両親の様子を見に向かったところ、捕まったのだ。
捕らえられた天使の子達は言うことを聞かなければ傷付けられ、その翼が黒くなるまで国に光線を撃ち続けることを命じられた。
四方八方から攻撃を受け、天使達は反撃も出来ずにぐっと数を減らしていった。
「さあ、次はお前の番だ。よく狙えよ」
夜の闇の中、目の前の王国の光を浴びるミシェルの手は震えていた。少し前に堕天使となった友達が『処分』されたのを見て、これから自分がやらなければならないこと、そしてそれをやった後のことを想像して。
「どうした、ほら。早く撃て。痛い目に遭いたいのか?」
「や、やだ……」
手の平を向け、光線を撃つ格好はするもののミシェルは全くそれを撃つ気配がない。嫌だ嫌だと呟いて、目に涙を浮かべている。
目の前には愛する国。いつも歩いたあの道に、好きなお店。家族や友達との思い出が詰まっている。数百メートル離れた後方には、順番を待つ天使の子。ミシェルは、ここは地獄だと思った。
「もう嫌だ。もう……。っ嫌なんだよ‼︎」
側に立っている男が見かねて鞭を振り下ろそうとした時、ミシェルの身体がぱっと発光した。
「っなんだ……⁉︎」
その言葉を残して、男は死を迎える。
ミシェルは正常に光線を放てなかった。通常手の平から放たれるそれは、ミシェルの周りに少しと、王国の色々な場所に少しずつ放たれた。
けれど彼は光線を撃った衝撃と罪の意識により気絶する。
……と、後方から一人の男が駆けてきた。まだ若く、金に近いブラウンの髪と深い緑色の瞳をしている。彼は倒れているミシェルの脈を確かめると軍の手前、肩に担いで後方に戻った。
「生きているか?」
「ショック死しています。埋めてきます」
「行ってこい。おい次、天使に付くやつ――」
指示をする上官の声を背に、彼は天使の国の西の森へと進んだ。暫く行くと滝が見えてきて、彼はその裏にある小さな洞窟へとミシェルを運び込む。側に座って、堕天使となってしまった彼が目を覚ますのを待った。




