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白い堕天使  作者: いとい・ひだまり
出会い編
1/9

プロローグ 天使の王国

『 天使の捕獲と運用には最善の注意を払わなければならない。少しでも気を抜けば自らの命が、天使の力が、永遠に失われてしまうだろう――


 各国は軍事勢力を拡大する為に天使を捕獲し、その力を使った。もちろん彼らは嫌がるものだから使うのは難しくもあったが、痛みや恐怖を教え脅しでもすれば割と簡単に手駒になった。自国を攻められたくない、親しい人を殺されたくないという心理を突くのは効果的だった。その為大人よりも子どもが多く狙われた。天使は青年頃の年になると体の成長が止まる。それ故に、より幼い見た目の天使が選ばれたのだ。

 捕獲した天使には光線で街を消し飛ばさせた。しかし力を使い人を殺した天使は堕天使となり、もう二度と力を使うことは出来なくなる。軍から言わせれば『用済み』だ。用済みとなった天使は大抵処分される。力はないとはいえ、数をなし攻められては堪ったものではないし、わざわざ国へ返してやるのも人間側としてはリスクがあったからだ。


 天使達は誰も殺さないことを誓っていた。堕天使となった者は追放されるのが掟だったくらいだ。しかしあまりにも同族が死んでいく為か、これ以上は我慢ならないと隊を組んで人間の国々を襲撃した。まさか反撃されるとは思っていなかった各国は大打撃を受けた。

 天使達が変わらぬ戦力で国を攻め落とすには数え切れない程の天使が必要だったが、彼らは力がなくなると弓を射り、矢もなくなると地上に降りて剣を振った。今まで自分達が受けた痛みを返すように、身分も年も性別も関係なく彼らは目に入った人間全ての命を奪っていった。

 しかし人間達とて黙ってやられるだけではなかった。天使に対抗する為に全ての国は手を組むと、天使の国に仕掛けた。幾度となく砲撃をし、捕まえた天使を使い光線を撃たせた。偶に天使の国から放たれる光線を食らいながらも着実に天使の力を奪っていった。

 天使は堕天使にさえしてしまえば何も恐れることはない。元々彼らは殺生を好まない。備えてあった武器も火薬も、人間側に比べれば何ていうことはなかった。彼らは遠距離からの攻撃に対抗する手段もなく、最後は軍が放った火に飲まれていった。結果は人間側の勝利だ。しかし我々人間側も、前述した通り打撃は受けていた。細かい街々しか残ってはいなかったが、まあそれにしてはよくやったと褒め称えられるべきだろう。


 その後の天使の国と天使についてだが、燃えカスとなった王国に残っていた宝は軍が国々の再興の為に回収した。生き残りの天使や、軍が兵器として使う為に捕獲していた天使は我々の安全の為に全て駆除した。あろうことか天使を匿っていた人間もいたが、そういった者達も共に始末された。見逃しがなければ、天使はもう絶滅したと言っていいだろう。

 ただ、もしも天使を見つけたら注意してほしいことがある。それが堕天使だった場合は特にだ。天使は堕天使となるととても執念深くなる。人間と見ると見境なく襲い掛かる程に。


 そもそも天使とは危険な生き物だ。我々人間にはない超常的な能力を持ち、小さな村くらいなら簡単に消し飛ばしてしまえる。大戦争で天使と我々人間は完全に敵対化した。出会えば彼らは何の躊躇いもなく我々に敵意を向け、命を奪い去るだろう。もしも生き残りを見つけたら、すぐさま国へ報告することだ。それが君の、我々の命を、国を守ることになる。もし報告を怠れば……どうなるかは賢い君なら分かる筈だ。』


 やっぱり嫌な締めくくりだなぁ、と感じたルーシュは読んでいた本を肩掛けバッグにしまう。


 大戦争から三百年。大戦争の暫く後に発行されたこの本は彼が図書館の隅で見つけたものだ。

 大戦争から百年後には天使を見つけた際の報告義務はなくなっており、血眼になって探す者などどこにもいなくなっていた。しかし大戦争から二百五十年間は生き残りの天使を恐れて、人間達は天使の国を立ち入り禁止区域としていた。ルーシュが本を見つけたのは今から一ヶ月程前だが、彼はこの時代に生まれてきてラッキーだったと言えるだろう。


 ――再び目の前の亡国へと向けたルーシュの空色の瞳は、昼の太陽よりもきらきらと輝いていた。

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