童貞魔王と第四皇女:その7…他種族の交流と混血、そして観測者(後編)
『ではお聞きします。皆様は疑問に思った事はありませんか?』
「何をだ?」
『人類、魔族、エルフ種、ドワーフ種、ノーム種、オーガ種、獣人種、ハーピー種、竜人種、アラクネ種、マーマン種…これらが何故、種を超えて子供を作れるのかを』
ミドリアの言葉にマクシムは首を傾げる。
「ふむ、考えた事も無いな…」
「う~ん、古くからの伝承とかでも語られてるし…普通だと思ってたわ」
『ではお聞きします。人と猿は近縁種ですが子を成せません。しかし竜人種とマーマン種は子を成せます。何故でしょうか?』
「…そういう事は生物学者と議論しろ」
「マクシム…ドライアドが親切で教えてくれてるのよ?分かんないなりに考えなさいよ!」
2人の困惑を察したのか、ミドリアは静かに語り出した。
『では結論から申し上げます。先にお伝えした11種ですが、全て同じ先祖の”原種”から派生しているのです』
「先祖が…同じ?」
『そうです。ミドリアの時間軸で言えば4万年前に原始時空が崩壊し、観測できただけで7200以上の派生時空が生成されました。それらが個別に進化し、派生11種が誕生したのです』
「ごめん、言ってる意味がわからないわ」
『想像しやすい例として、空気と石鹸水が入った密閉容器を想像してください。平常を原始時空とした時、この容器を激しく揺らして無数の泡が発生したとします。この無数の泡が派生時空です。それぞれの時空はティーセン多角形にて分断され、隣接しながらも全くの別時空となったのです』
シルフィアは頭を抱えつつ、なんとかミドリアの話を整理した。
「えっと…石鹸の泡のそれぞれに、世界が出来たって事?」
『ご理解いただきまして、ありがとうございます。そして派生時空は個別の時間軸を持ち、個別の進化を遂げたのです。ミドリアの時間軸が4万年と言いましたが、別の派生時空では2億年経過している時空もあります』
「?どうして別の世界の時間経過が判るの?」
『ドライアドは植物であり、全てが死滅しない限りは意識が存続します。それぞれの派生時空で生き残ったドライアドは合流し、その知識を共有したのです』
「…分からん。別の派生時空のドライアドが、何故に合流した?」
『境界の崩壊です。容器の泡はいずれ全てが崩壊し、元の空間へと戻ります。それと同様に派生時空の境界も崩壊を続け、原始時空の状態に戻ろうとするのです。ドライアドは7200の派生時空を生き残り、合流しました。その時に同種の彼我を認識し、自我が芽生えたのです』
マクシムは思考を停止しようとしたが、シルフィアに睨まれて諦めた。そして何とか思考を巡らし、一つの疑問へと至る。
「…7200の世界と言ったな?では原種を元に派生した種が、何故11種しか存在しない?」
『端的に言えば、他の派生時空では絶滅したのです。それだけ過酷な環境でした。もしかするとドライアドすら滅んだ時空が無数に存在するかもしれません。ドライアドが観測できたのは、ドライアドが存在した派生時空だけだからです』
ミドリアの話を2人は半分も理解できなかったが、何とかして嚙み砕いてみる。
「つまり…ドライアドが見た限り、派生時空を生き残った派生種が11種存在する。それらは皆、同じ原種を親に持つ…か?」
「そう言えばミドリアさん、”人々が淘汰ではなく、次の進化へと歩みを進める”と言ってたけど、これってどういう事?」
『これこそがドライアドが観測者として、もっとも見てみたい事象なのです』
そのミドリアの声は少しだけ強さを増したように感じた。
『原種が原種となる以前、この時空の派生種のように他種族が存在しました。しかし原種は他種族を滅ぼし、淘汰したのです。単一となった原種は種としての進化を歩みませんでしたが、その文明は大きく進歩しました。そしてその文明で、自らの原始時空を崩壊させたのです』
「時空を崩壊させる…きっと神にも届く、凄い文明だったのね…」
「しかし自らの世界を崩壊させるとは、きっと頭が悪かったに違いない」
『………ブブブ………』
マクシムの言葉に反応したのか、ミドリアは小さく笑うような声を上げた。
『…失礼。ミドリアの意思が皮肉を理解し、愉快という感情が発生したようです。さて、話を戻しますが、この時空では淘汰が行われず、11種が交流を持つ事となりました。これはいずれ混血が発生する事を示し、そして全ての種を混成させた新たなる原種が誕生する可能性を秘めています。この新たな原種は過酷な環境を生き抜いた為に、先の原種を大きく上回る能力を有するはずです。ドライアドはその新たな原種がどのような世界を築くのか、観測したいのです』
「なるほど、分かった!」
マクシムは腕を組み胸を張ると、目の前のミドリアに問い掛ける。
「つまりは他種族と子を成し、世界が兄弟になる事を望んでいるのだな?」
『世界が兄弟…ドライアドが望むのは文化的な事ではなく、血縁的な意味合いですが…マクシム殿の言い分は間違ってはおりません』
「…ま、世界が仲良くなるってのは良い事ね。兄弟でも憎しみ合う事はあるけど、少なくとも他人よりは協力できるはず。他種族での混血は世界平和にも繋がる…のかな?」
『私達もそう考えます。ですのでその可能性を発現されたマクシム殿に祝辞を送る事にしたのです』
「よし!王たる者の道が見えた!」
マクシムは隣に立つシルフィアを抱き寄せると、その唇を優しく奪った。
「な、何するのよ!」
「これが俺の歩む道だ。俺はシルフィアと更なる子作りに励む!」
「何でそうなるのよ!」
「王たる俺は皆の指針なのだ。つまり俺がシルフィアと子を成せば、魔王国民も人族と積極的に交合する事になる!そうなれば種族を超えた交流は活性化し、ドライアドが望む新たな原種へと至るだろう!」
『私達もその意見に賛同いたします』
シルフィアは頬を赤らめつつ、力強いマクシムの腕に身を委ねる。
「…正直、待ち遠しくはあるんだからね…交合できるようになったら、沢山してもらうわよ!」
『分かりました、ドライアドとしても協力を惜しみません。助力になるか分かりませんが、性力増強・排卵誘発が期待できる植物の情報を提供いたします。存分にご活用ください』
「有難く使わせてもらおう!」
こうしてミドリアの助力を得たマクシムは、これまで以上に夜の公務に力を入れる事になる。その成果としてマーマン種のフィシアとの間に138人、アラクネ種のクモアとの間に45人、そしてシルフィアとの間に18人、その他の種族とも5人以上の子供を授かる事となった。後にマーマン種の別邸の近くに王族専用の学園が作られる事になるのだが、それはまた別の話である。




