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クリスマスのパリ

 街路樹の枯れ葉が黄色くなり、さながら黄金のトンネルのようになった晩秋のパリ。

 百貨店や商店街のショーウインドにクリスマスの飾りがあふれるように付けられている。

 コロナの騒ぎもなくなり街路樹のいたるところに人が溢れ、夜にはきらびやかなイルミネーションが輝いて、お祭りムードを少しずつ盛り上げていた。

 アネットは学校でエッフェル塔をモチーフにした水彩画の新しい制作にとりかかっていた。

 そんなとき、サラが主催するパーティーに招待された。

 パーティーにはカフェのムッシュも招待されていて、アネットに渡すため、ピエールから預かっていた童話集を持って来ていたのだ。

 大勢の招待客で賑わうパーティー会場では、心が癒やされるような優しいピアノの曲や軽快なヴァイオリンが流れ、きらびやかなクリスマスのキャンドルが飾られている。

 テーブルにはたくさんの美味しそうな料理やお酒がならべられ、それを囲むように、お洒落に着飾った招待客の楽しそうな話し声や笑い声が響き渡っていた。

 アネットがパーティーの会場に着くと、グラスを片手に仲間たちと楽しそうに話をしているカフェのムッシュとすぐに目が合った。

「アネットさん! お久しぶりです。きょうもお美しいですね!」

 ムッシュは手を振りながら愛嬌ある笑顔でアネットに挨拶した。

「ありがとうございます。お久しぶりですね!」

 アネットも満面の笑顔でこたえる。

「しばらくお見えにならなかったので心配していましたよ」

 ムッシュは少し前屈みになってアネットの顔を覗き込む。

「学校の勉強が忙しくて。怠けていたつけですわ」

 アネットは恥ずかしそうに頬を赤らめ理由を説明した。

「大変ですね!」

 ムッシュは同情するよな慰めの声をかける。

「ムッシュ。 絵を飾ってくださってありがとうございます!」

 アネットは話題を切り替え、にこにこしながら絵のことをムッシュに感謝した。

「いえ、こちらこそ、あんなに素敵な絵を飾らせていただけて光栄です」

 ムッシュは本当に嬉しそうな笑顔を見せる。

「とんでもないです」

 アネットは照れながら微笑んだ。

「ところで、昨日お話ししたピエールさんという青年が、あの二人の天使の絵をとても気に入られていました。そしてぜひあなたにお会いしたいと言われていました」

 ムッシュはグラスのワインを美味しそうに一口飲むと話を続けた。

「あなたにどうしても渡して欲しいと頼まれて、ピエールさんから童話集をお預かりしてきましたよ」

 そう言って鞄からピエールから預かった童話集を取り出した。

「それがピエールさんの童話集なのですね!」

 アネットは嬉しくて仕方なく彼女の目は期待と嬉しさで輝く。

「はい。まだ無名の作家ですが、魂に響く素敵な童話を書かれます。お預かりしてきた童話集がこれです」

 そういいながらムッシュは、ピエールから預かった童話集をアネットに手渡した。

「ありがとうございます!」

 アネットはピエールの童話集を開くと熱心に読み始める。

 そこに書かれているどの童話からも言葉では言い尽くせない愛しさや切なさ、懐かしさや温かさが感じられた。そしてみるみるうちに、幸せと安らぎに包まれたピンクゴールドの天国の景色が蘇ってきた。

(ついに彼が私を見つけてくれた!)

 アネットは魂の疼きを感じ心の中でさけんだ。

「アネットさんはその作家さんをご存知なのですか?」

 ムッシュはアネットがあまりにも熱心に童話に目を通すのでとても驚く。

「まだ父が亡くなる前に偶然雑誌でみかけて、とても気になっていました。心を震わせ魂に響く童話を書く方です」

 ピエールの童話を手にしたアネットは、彼の物語に初めてふれたときに感じた喜び、心に波打つような喜びに震えが止まらなかった。

「わたしも童話集を読ませていただいたのですが、とても心に沁みて、優しく、温かく、魂の故郷を思い出させるような、そんな愛に溢れる童話ばかりでした」

 ムッシュも感動で喜びが電流のように体を通り抜けるのを感じた。

 童話集には心に幾重にも響く魂の輝きのような言葉がちりばめられていた。

 もちろんアネットはその童話集の中に雑誌で読んだ天使の童話もみつけた。

 アネットは確信した。まぎれもなく彼だと。

「ムッシュ、ありがとうございます! わたしが探していた作家はこの方です」

 アネットは嬉しさに頬を緩ませ、右手を差し出してムッシュとぎゅうと握手した。

「ほんとですか。お役に立てて嬉しいです!」

 ムッシュは顔に嬉しさを隠しきれない。

「ありがとうございます!」

 アネットの目は嬉しさにキラキラ輝いた。

「ピエールさんの連絡先は最後のページに書いてありますよ」

 そう親切に教えるとムッシュはアネットに軽く会釈して、彼の友人達が待っているテーブル席に戻っていった。

 アネットが言われたとおり最後のページを開くと、彼女はそこに印字されているブログのハンドルネームを見てびっくりした。そこにはブログのURLとともに小さく、『ルーラン』と記載されていたのだから。

「まちがいないわ! ピエールさんにも前世の記憶が。ブログのハンドルネームをルーランにしていたから、検索かけたときにヒットしなかったのね……」

 アネットはこの奇跡のめぐり合わせを神様に感謝した。彼女はサラの二次会の誘いも断り、パーティーを早めに切り上げた。

 アパルトマンに帰るとすぐにパソコンを立ち上げ、アネットは童話集の最後のページに記載されているURLをみながらピエールのブログを開いてみた。

 そこには童話とともに美しい写真もたくさん載っていた。

パソコンの前に座ったアネットはピエールの童話から伝わる波動に魂が揺さぶられ、こみ上げてくる懐かしさや愛しさに胸がはりさけそうになった。

「ピエールさんに手紙をだそう」

 アネットはすぐにレターセットを机の引き出しからとりだして、机の上に広げた。

 嬉しくて涙が溢れ手紙を書こうにもすぐには言葉がでてこなくて、しばらくして落ち着きをとりもどすと、アネットは少しずつ手紙を書き始めた。

 書いては消しての繰り返しで、けっきょく書き上げることができたのは深夜になってからだった。

 アネットは書き上げた手紙を翌朝もう一度読み返してポストに投函しにいった。

 空を見あげたら清々しい青空が広がっていた。


 十一月も終わろうとする頃、パリの夜は長くなり、十六時ごろには日が暮れてしまう。 シャンゼリーゼ大通りには十五万個以上のイルミネーションが灯り、町のいたるところ、通りも街路樹も、クリスマスのイルミネーションが張り渡されパリジャンを楽しませていた。

 ピエールがいつも通り配達の仕事からアパルトマンに帰りつくと、ポストに手紙が入っているのに気づいた。

「あれ、誰からだろう」

 ピエールはその手紙を手に取ると心臓が止まりそうになるほどびっくりした。

 それはまぎれもなくアネットからの手紙だったからだ。

 手紙にはアネットがピエールの童話をよんで、魂が揺さぶられるほど感動し、天使の絵のイメージが降りてきたと綴られていた。

(バーの女性がカードで占って、十二月に出会う女性は悪い縁だと言っていたけどそんなはずはない)

 ピエールは、魂の直感でアネットこそ探し続けていた魂の伴侶に違いないと思った。

 すぐにピエールはペンを握りアネットに返事を書きはじめた。

 

 そのころアネットはアパルトマンのアトリエで、ピエールのことを思いながら新しい二人の天使の絵を描いていた。その絵は虹色の天国にいる沢山の天使たちが、幸せそうにしている二人の天使を見守り祝福している絵だった。

 アネットがその絵を描いているとピエールの愛を強く感じた。

 二人の魂が共鳴した瞬間だった。

 

 数日後、ポストに入っている郵便物をみて、アネットの心臓もとまりそうになった。

 ピエールからの手紙だったから。

 アネットは震える手で封を切り彼からの手紙を読みはじめた。

 手紙には何度も繰り返してみる夢の話、魂に導かれるようにしてパリに来たこと、天国で呼び合っていた天使の名前のことなどが綴られ、アネットの天使の絵をみて、たくさんの童話のイメージが降りてきたとも書かれていた。

 二人は手紙のやり取りを何度も重ね、会うことを約束して、お互いに時間の合う日が決まったのが十二月の半ば頃になっていた。

 

 クリスマスもピークをむかえ、街中のいたるところが活気づき、デパートや商店街はクリスマスの飾り付けであふれていた。

 ピエールと約束をした日の夕方、アネットは待ち合わせのモンパルナス大通りのカフェ、ラ・ クーポールにむかった。

 モンパルナスの大通りも多くの人でにぎわい、待ち合わせのカフェの前にもたくさんの人がいた。

 アネットは彼を見つけることができなかったらどうしようと不安だった。

 しかしその心配はいらなかった。

 アネットはすぐにカフェの前の雑踏の中に一人の青年を見つけ、青年もすぐにアネットに気づいた。

 はじめて会ったはずなのに、

 まだ言葉も交わしていないのに、

 おたがいの魂が、そうだと告げていた。

 アネットとピエールは笑顔で歩み寄り。二人は魂で天国での名前を呼び合った。

「ルーラン」

「エリーナ」

 天国で引き離された天使のルーランとエリーナ、二人の天使はようやく地上で再会をはたした。


 パリはいつのまにか夜になり、クリスマスの豪華なイルミネーションで輝いていた。

 二人はきらびやかなイルミネーションで輝くモンパルナスの大通りを、ぴったりと寄り添いながら歩きつづけた。

 しばらくして二人は見つめ合い、やさしく微笑みながら一緒に夜空をみあげると、数え切れないほどの星がまばたき、たくさんの天使たちが二人のことを祝福していた。



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