愛すること赦すこと
パリのいたるところでミモザのやわらかな黄色い花が咲いている。
春先の日曜日、マリナは彼女が生まれ育ったスラムの墓地に、母エマの墓参りをするために向かった。マリナが家出して二十年が経っていた。
暗やみに凍り付く大きな高層集合住宅。
錆びて太くなったむき出しの鉄骨。
今にも崩れ落ちそうなブロック塀。
ひび割れた窓ガラス。
スラムは昔と同じようにわびしくひっそりしている。
母の墓参り、幼いころに祖母と一緒に行ったことはあるのだが、家出してからは一度も訪れたことはない。
マリナは幼い頃の微かな記憶を頼りに母親の墓を探してみたのだがみつからず、諦めかけていたとき人の気配を感じた。
「……」
マリナは咄嗟に近くの大きな墓石の裏に身を隠した。
墓地があるところはスラムの中でも特に寂れた地域で、ほとんど人がやってこない。人がいるとすれば墓荒らしか、追い剥ぎぐらいなものだ。
しだいに杖をつき足を引きずるような音と話し声が近づいてきた。
暫くして人影がみえるとマリナはびっくりして、思わず声を上げそうになった。
姿を現したのは紛れもなくマリナの父、ジャンだったのだ。
若い介護士らしき男性に付き添われている。
制服にはミモザ介護センターというネームが刻まれていた。
重い病でもかかったのだろうか……
髪の毛はすっかり白く薄く、頬もこけ、年老いて体は一回も二回りも小さい。だが紛れもなくジャンだった。
子供の頃さんざん父親の暴力に苦しめられ、どれ程辛い毎日を過ごしてきたか、決して逆らうことのできなかった暴君も今では年老いて小さく弱々しい。
ジャンはマリナが近くにいるとは思いもせず、彼女が隠れている墓石の前を静かに通りすぎていく。
(まさか……)
マリナはジャンの後ろ姿を目で追いながら声をかけることを躊躇う。
恐怖で心が竦み体の震えが止まらなくなった。
幼い頃に父親からうけた酷い言葉や暴力。それらがありありと蘇る。
マリナは墓石の影から父親の背中を追った。
ジャンは杖をつきながら摺り足でしばらく歩き続け、小さな墓の前で立ち止まった。
幼かったときの記憶に微かに残る、母親エマの墓だ。
マリナの全身は剥き出した神経の塊のようになり、ジャンの姿や手や足の細かな動きの一つ一つが電気針のように心や脳に心臓に突き刺さる。
ジャンは持ってきた白い菊の花をエマの墓にしずかに置く。
父親の一つ一つの動作が白々しく思えてならない。
それから介護士にささえられながらゆっくり跪き、手を組んで祈りはじめた。
マリナはたまらなくなり、
(……)
声をあげかけたが、頬が強張り唇が震えて言葉を発せない。
マリナは荒く呼吸して、よろめくように座り込み墓石を背にして項垂れた。
握り締めた拳から汗が止めどなく滲み出てくる。
(あの人を赦せるのか……)
忌まわしい遠い過去の記憶が有り有りと蘇る。
罵声、暴力、存在の否定、放置、心と体を守るために自分に付き続けた嘘の言葉や惨めな態度。毎日、朝から晩まで、きまぐれな父親の顔色をおろおろと窺っていた、哀れな少女の姿が心のスクリーンに流れ続ける。
(お母さんはどうしてあんな屑と結婚したの? すぐに別れるべきだったのよ!)
父への憎悪、母を責める心、怒りの感情が胸の中で激しく弾けた。
一つ思い出せば辛くて不愉快な記憶が芋ずる式に思い出されてくる。
黒いマリア様のまえで父を赦すと誓ったはずなのに、マリア様から愛の光をいただいたのに、いざ現実の父の姿を目にすると心に無限嵐が吹き荒れる。
気分で怒鳴り、叩き、殴られた。
俺の子じゃないと否定され穢らわしい存在として扱われた。
無条件で信じていたのに、ただ慕っていただけなのに、それなのに、ありとあらゆる醜い言葉で少女の心と魂は幾度も切り刻まれた。
心の少女があいつを懲らしめてやれと叫びまくる。
あたしが悪いのではない。あたしの心も魂も肉体も穢れてなんかいやしない。
あの男が心も魂も醜く穢れているのよ。
(赦せない!)
マリナは、足もとに転がっていた重い煉瓦を鷲づかみにし、
(殺してやる)
怒りと恐怖で体を震わせながらかたく握り締めた。
その時だった。
愛しなさい、赦しなさい。
黒いマリア様の声がしたような気がした。
「ブラック・ヴァージン……」
(憎しみと恐怖を手放せと仰るのですか。わたしの心と魂の傷はあの男がこの世から消え去らない限り癒えることはありません)
マリナは心の中で抗った。
愛しなさい。赦しなさい。
黒いマリア様の言葉が心の漆黒の闇と戦う。
緊張で顔が強張りみぞおちの深くが鈍く重く痛む。
殺してやる 殺してやる 殺してやる。
(あたしがこんなになったのも、何もかもあいつのせいよ! あいつがいなければ、あたしは沢山の辛くて悔しくて惨めで悲しい思いをしなくて済んだのに)
マリナは青ざめ少しずつ後ずさりして、父親の姿が見えなくなると、煉瓦を捨てその場から死に物狂いで走り出した。
急にひどい吐き気が襲う。
内蔵の全てをひっくり返したような胸苦しさが続く。
「ちくしょう! ちくしょう! ちくしょう!」
マリナは墓地を出たところで屈みこみ、心に堆積していたどす黒い汚物を吐き出した。
「オェ……、オェ……」
気がつくとマリナは自分の家のソファに横たわっていた。
どこをどうやって帰ってきたのか分からない。
ひどい疲れから身体の隅々が鉛のように重く感じる。
「愛しなさい。赦しなさい……」
魂に刻まれたように黒いマリア様の言葉が頭の中で繰り返す。
「あたしには……」
と言いかけてマリナはペンダントを強く握り締めた。
(このままだとあたしは一生憎しみに囚われの身となる。これ以上あの男に人生を台無しにされてたまるか)
マリナは居間に設けた小さな祭壇の前まで這って行き、やっとの思いで跪き胸の前で固く手を組んだ。
「愛します。赦します」
マリナはひたすら祈り続けた。
ところが祈れば祈るほど、怒りが波紋のように大きく拡がっていく。
心の底から発した言葉なのか?
上辺だけの言葉なら百万回繰り返しても何の意味もない。
それでもマリナは繰り返した。
「愛します。赦します」
繰り返された暴力。
純真な心を切り刻み引き裂くような冷たく荒々しい言葉。
あたしは無条件で信じ信頼していただけなのに、いつも裏切られ痛めつけられた。
「あの残酷で傲慢な父親が変わるはずがない。墓地で見たあの優しそうな老人は人違いにちがいない」
鋭い槍で体を内側から突き破られるような痛みがはしる。
憎しみと憎悪が怒りを伴って繰り返し噴火した。
「あたしには赦せない」
マリナは大きく目を開け、祭壇の真ん前の床を両手で力任せに叩いた。
痛みは感じなかった。心に突き刺さる過去の記憶という針の方がはるかに痛い。
マリナの心は血を流していた。
マリナは祭壇の前に両手をついてがっくりと項垂れた。
肌着がぐっしょりするほど、体中に脂汗が吹き出ていた。
「ブラック・ヴァージン、あたしの心は父に殺されました。あの人はあたしを生きながらにして殺したのです。あたしが、いま、こうして生かされているのは奇跡としかいいようがありません。なのになぜ、なぜ、父は罰せられないのですか! あの男を罰して下さい!」
マリナはそう言いながら、ハッとした。
自分も罪人なのだ。
占いを頼ってきた、多くの人たちの幸せを妬み嫉み、嘘の結果を伝えてきた罪の深さ。
あたしの人生にリュカは愛の光を注いでくれた。それなのに欲に目がくらんだあたしは彼を裏切り傷つけ、ゴミくずのように捨てた。
「あたしも罰せられるべき存在」
マリナは贖罪を求め祈り続けた。
心はぐちゃぐちゃだった。
「愛します。赦します」
本心からそう思っているのか? 本当は自分の事を棚に上げて父親を罰したいのだろう。それが本心なんだろう。赦すことなんてそんなに簡単にできることじゃない。人間はそんなに心が広く愛が深くはない。人間は神じゃないんだ。そう、あたしは神じゃないわ。
あんな人間さっさと死ねば良いのよ。
思い出すほど心が痛い、吐き気がする、怒りと悲しみが心の壁を傷つけながら弾けまくる。出来ない出来ない出来ない。
やっぱりあたしには出来ない。あの男を赦せない、赦せない、赦せない、絶対に赦せない。
こんなボロボロの人生にしたのはあの男のせいだわ。
生まれてこなけりゃ良かった。
あの時、死んでいればこんな苦痛を味わう事も無かったのに。
あたしはどうして生かされているの?
マリナは心も体も疲れ果て祭壇の前で下唇を固く噛んで意識を失った。
やわらかな朝陽が窓から差し込んでいた。
マリナはうっすら目をあける。
「あたしこんなところで寝てしまって」
祭壇のまえでマリナはボロ雑巾のようになって横たわっていた。
右腕を少し動かしてみる。
痺れが肩ちかくまでのぼってきた。
「腕を枕にして寝ていたんだわ」
腫れた腕を刺激しないように仰向けになった。
昨夜のことを思い出す。
父を赦せるのか赦せないのか激しい葛藤が腹の底で渦巻く。
「たしかにあのときはブリジット先生の前で赦しますと決意したはずだった。なのにひとりになると、まして、現実の父親の姿を見てしまうと、誓いもどこかへふっとんでしまった。やはりむりなのだ」
マリナはそう言って天井を見つめた。
しだいに心が静まってきて、感情の高ぶりが収まり始めた。
心が静まると冷静になって様々なことを考えることが出来る。
「わたしは父を裁く事ばかり考えてきた。でも、あたしの罪は誰が裁くの。あたしのしたことは裁かれることも無く赦されて良いの? そんなはずはないわ。あたしも多くの人達に不幸になるようなことをした。彼らはあたしがしてきたことを知ったらきっと赦さないわ。わたしも裁かれる身」
マリナは胸のブラック・バージンのペンダントを固くにぎりしめた。
あなたの罪も赦しましょう。
マリア様の声がきこえたようなきがした。
「まさか……」
(あたしの罪も赦して下さるのですか)
マリナは黒いマリア様の言葉が、我が身の罪にも向けられていることに気づいた。
神様の愛がとても深いものだと気づいた。
「ブラック・ヴァージン」
マリナは目頭が熱くなり嗚咽した。
「こんなあたしでも赦されるのですか」
燭台の前で手を固く結んで祈りを捧げた。
「ありがとうございます……」
マリナは身も心も力尽き、祭壇の前でうつ伏せて再び意識を失った。
半月後の日曜日の朝、マリナはもう一度、母の墓に行くことにした。
もしかしたら、また、父親と鉢合わせするかもしれない。
もう一度確かめたかった。本人だと言うことを。心から祈っているのだと言うことを確かめたかった。
「あの人が母の墓参りなどするはずがない」
マリナの心の中はまだ疑心で満ちあふれていた。
あの時見たのは人違いなのだ、だからそれを確かめなければ。
マリナはこの間と同じ時刻に間に合うよう墓地に向かった。
危険な墓地だが幸い人気は無い。裏口からなら誰にも気づかれず母の墓の近くに行くことが出来る。マリナは音を立てないように素早く歩いた。そして、前と同じように母の墓の近くにある大きな墓石の後ろにそっと身を隠して潜んでいると、あの時と同じようにステッキをコツンと打つ音と足を摺る音が聞こえてきた。
父親に違いないわ。
ジャンと介護士はマリナが隠れている墓石の前を通り過ぎ、母親の墓の前で止まると、跪き白い菊の花を添えて手を組んだ。
祈る父親の姿を見てもどうしても信じられない。
(どうしてあの男は墓参りなんかしてるの。白々しい)
だが紛れもなくあの男は父親だ。
自分の父親であることに間違いない。
「ジャンさん、奥様との話は済みましたか?」
付き添いの介護士がジャンの腕を支えながら立たせた。
「わたしは気づくのが遅すぎました。わたしが何を話しかけても妻は返事をしてくれません。わたしは愚かな人間です」
ジャンはそう言ってハラハラと涙を流している。
「そんな。大丈夫ですよ。奥様は天国から見守って下さってますよ」
介護士の青年はそう言いながらジャンの背中をさすった。
「そうだといいのですが」
ジャンは杖をぎゅっと握りしめた。
「行きましょうか」
付き添いはジャンを立たせるためにゆっくりとサポートする。
「有り難うございます」
ジャンも杖を突きながら墓石に背を向け、来た道を引き返し始めた。
コツンコツンという杖の音。
足を引きずる音。
二人はマリナが隠れているのも気づかず墓石の前をゆっくりと歩き去って行く。
「偽善者」
老人が父親だとはっきり分かるとマリナはなおさらジャンに腹が立ってきた。
母の死因が父親の暴力だと言うことは祖母からも近所の住人からも聞かされていた。それだけに死ぬほど母を追い詰めたこの暴君が白々しく墓参りをしていること自体が偽善的で受け入れられない。しかもマリナが母のお腹にいるとき、暴力はエスカレートしたという。原因は仕事仲間のシリア人が、治安が悪いからと母を家の近くまで送ってくれたことに嫉妬したのが原因だったらしい。
「そんなに大切ならどうして酷いことをしたの。どうして母を信じてあげなかったの。母は理由をちゃんと説明したと祖母が証言していたわ」
母の顔を写真でしか見たことがなかったマリナだが、ジャンから毎日のようにひどい暴力を受けていたことをマリナは周囲から聞かされていたし微かな記憶にも残っていた。祖母がDVの相談を市にしたことから何度か行政がジャンを注意しに来たこともあったそうだ。
「赦せない」
マリナはその日も父親の前には姿を現さず、ジャンが帰ったあと母親の墓に白い菊の花を添え、涙を浮かべながら胸の前で手を組んで祈り帰った。
それからマリナは日曜日になる度に母の墓参りをする父を待ち伏せ、父親の行いをつぶさに観察した。
数日経ったある日、マリナは思い立ち、父に付き添っている介護士に会ってみることにした。
「たしかミモザ介護センターだったわね」
スマホで調べると、施設はパリ郊外サン・ドニに見つかった。
マリナは何度か躊躇った後、介護センターに行った。
「ジャン・ハモンの家族です。担当の介護士の方にお会いしたいのですが」
窓口の前に立ってやっとの思いで名乗ることが出来た。
暫くして、いつも父に付き添っている若い介護士が現れた。
「マリナさんですね」
介護士はそう言って事務室の長椅子に腰掛けるよう促した。
長身だが腰は低く感じの良い青年だ。
「どうしてわたしの名前をご存じですか?」
マリナは初めて会ったはずなので、驚きを隠せない。
「お父さんからよく聞かされています」
青年はにっこり微笑む。
「よく聞かされている……」
マリナは青年の返事に戸惑った。まさか頭を殴って家出した娘のことを良い意味でも悪い意味でも話題にするとは。頭を瓶で殴り家の金を持ちだして家出したのだ。
「父は私のこと酷く恨んでいるでしょう?」
マリナは思い切って訊いてみた。
きっと怨んでいるに違いないと思えるから。
「いいえ、それどころかとても後悔されています」
青年から思いもよらない返事が返ってきた。
信じられない言葉だった。
「後悔って」
マリナの思考が固まった。
憎んでいたのはあたしの一方的な感情だったの?
「あなたを怒鳴ったり、たくさん暴力を振るったりしたことです」
まさかともいうべき返事だった。
青年はさらに続けた。
「心の弱すぎる自分が悪いのだとも」
(そこまでわかっていたのならどうして自制することが出来なかったのよ)
マリナはこの感情をどう扱って良いものか苦しんだ。
「お父さまの本心だと思います」
介護士の青年はマリナの前にすすみでた。
「父がそんなことを……」
マリナは介護士の思いがけない言葉に戸惑いを隠せない。
父はこの青年に家庭の事情を洗いざらい何もかも話しているに違いない。
でもそれらがどう伝わっているのか。
「いろいろご事情が有りそうなので、無理にとは言いませんが、一度、お父さまにお会いしてみませんか? きっとお喜びになると思います」
介護士の青年はそう言ってマリナに笑顔を見せる。
「そ、そうですか……」
マリナはうつむいてカーペットの格子模様を見つめた。
どう説明を受けようとも心と体が反射的に身震いした。
「すぐにとは言いません。昔の記憶が蘇るのでしょう?」
青年は目尻を下げマリナの横顔を覗き込む。
「とても怖い思いでしか無いんです」
「でも、あなたは今日、ここに来た」
「あ、あたしがここに来たことは父には秘密にしておいて下さい」
マリナは青年に向き直り彼の目を真っ直ぐ見つめた。
「お約束しましょう」
青年もマリナの目をしっかり見ながら返事した。
二人の間に一瞬の沈黙が訪れた。
「……あの、父は足に怪我をしたのですか?」
すり足が気になっていたことだった。
「いえ、二年前に脳内出血に……でもどうして足が悪いことをご存じで……」
介護士がすかさず訊いてくる。
「たまたま街で見かけたからです。もう二十年近くも会っていないのですから、本人か自信はありませんでしたが」
マリナは咄嗟にばればれの嘘をついた。
「脳内の右側に出血されたので、体の左半分に障害が残ったのです。左側の手や足もほとんど動かせなくなっていたのですが、リハビリを頑張られて今では、すり足ですが杖を支えに歩けるようになられました」
介護士の青年は詳しくこれまでの様子を話をしてくれた。
「お父さん、リハビリを頑張っていらっしゃるんですが、主治医の話では左手は後遺症が酷くて、これ以上の回復は見込めないそうです」
介護士の青年はパットに触れ父親のデータを呼び出して、正確なデータをマリナに示した。
「あたしのせいなんです」
マリナは申し訳なさそうに俯く。
「いえ、それは違います。もし、あなたが傍にいらっしゃっても、どうすることも出来なかったと思います。それにあなたが家を出たのは二十年前、お父さまが脳内出血したのは二年前のことですから」
介護士は父娘の間で何が起こったのかをおおよそ知っているようだ。おそらくジャンが何もかも話したに違いない。
「そうでしょうか……」
マリナは窓から外の緑の庭園を眺めながら唇を固く結んだ。
「お父様、火曜日と金曜日はこのセンターでリハビリを受けてます。あと、毎週、日曜日の朝はお母様のお墓参りに行かれてます。お会いしなくてもいいので、いろいろご事情があるとお察ししますがいつか様子を見に来てあげて下さいね」
青年はマリナの気持ちを察したのか、マリナのうつむき加減な横顔に向かって微笑んだ。
「ありがとうございます。考えてみます」
マリナはゆっくりと立ち上がり、介護士と軽く握手してセンターをあとにした。




