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悪役令嬢とヒロインのすれ違い断罪

作者: -Anemone-

そこそこ長い文章を書き上げられました。

今回はヒロイン主人公の物語です。恋愛糖度薄め。


私の名前はレティ・ブロッサム。悪役令嬢の活躍劇を主題にした小説のヒロインに転生してしまったらしい。

今日、家の階段で1段目から転がり落ちて思い出した。あまりの悲鳴に、使用人はもちろん両親にも学校を休んで一日安静と言われてしまった。


自室に戻って前世の記憶を手繰り寄せてみる。ヒロインは男爵令嬢。間違いない。でも、市井で産まれて孤児として男爵家に引き取られたという話なのに、私は両親の実の娘だ。少し齟齬がある。だけど、それならこれから降りかかりそうなヒロイン断罪劇も無くせそう!よし、物語を思い出すわよ!


主人公は悪役令嬢で公爵令嬢のエレノア・ヒルデガルド。幼少期に過去の自分を思い出してヒロインに断罪される恐怖から慎ましやかで大人しい性格へと変貌を遂げて…婚約者の第二王子クリス・フォン・アルフォード殿下とは仲睦まじく愛を育てるんだったわね。あ、違ったわ。愛を育てるとヒロインの私に断罪されると思って、一定の距離を置いているだったわ。今なら絶対イケメンでも王子様なんて相手にしないわ!だってこっちが断罪されちゃうんだもの。桑ばら桑ばら。

ええっと、それからクリス殿下の側近で従兄弟のエリック・セルディオス公爵令息。クリス殿下と共に生徒会副会長をしている。クリス殿下が生徒会会長だ。わー。ご立派だわ。

このお二人が攻略対象って話で……私は近づいてしまうと絶対にエレノア様と関わっちゃうのよね。そこはどうにかしないと。

あとの攻略対象者が魔法クラブの会長で辺境伯令息のルドルフ・フォルゲン。私はこのクラブに入って光魔法を発現してルドルフに好意を持たれるのよね。うーん。要らないわ。お友達でいて欲しい。あ、確か1学年歳上だった筈。親しい先輩なら大歓迎なんだけど。それと最後に、一番最初に仲良くなる攻略対象者の子爵令息のセト・クラウゼン。この方は勉強が遅れてる私が図書室で勉強をしてる時に話しかけて来て勉強を教わるんだったわ。同じクラスだったわよね。確か。うーん。記憶にない。まだ、私ちゃんとクラスの人達の顔覚えてないわ。だって男爵令嬢なんてみんな見向きもしないもの。自分から友達作戦しないと友達なんて作れないわ。


「今、入学してからどのくらい経ったのだっけ。」


思い出したようにカレンダーに目を向ける。入学が春の月の初めだから今80日程経ってる。攻略対象者達とも会話さえしていない。多分春の終わりの試験後に最低最悪な点数を取って夏休みの図書室通いが始まるのよね。


「うぅ。もう試験も近いわ。今から挽回するにしても全く勉強出来る時間がないわ。」


もうセト様とは仲良くするしかなさそうね。


私はため息をついて今思い出したことを日記帳に日本語で書き記した。誰かに読まれたら、たまったものじゃ無いしね。さて物語を改変するわよ!まず、明日から図書室通いだわ!


次の日。授業が終わってすぐに図書室に向かった。参考書と教科書を睨めっこして遅れている勉強に励む。私はまだ一年生の15歳。社交界デビューは今年の冬の時期に済ませた。でも、誰も友達は出来なかったけど。記憶を取り戻す前だし。適当に挨拶してたわね。ああああああ。思い出してたらもっと色々観察してたのに!!


ブツブツ呟きながらノートと睨めっこしていると……


「独り言が多いけど、ここは図書室だよ。もう少し静かに出来ないかな?」


セト・クラウゼンが話しかけて来た。


【うわ!来ちゃったわ!攻略対象!時期が違うけど小説通りじゃない!】


「す、すみません。勉強が分からなくて…」


思った事をそのまま話せば、セト様は私の隣の席に座った。


「貸してごらん。どこが分からないんだい?」


サラサラのファウンテンブルーなショートの髪に黒メガネ姿のセト様は物凄く格好良かった。ああ。これは間違いなく攻略対象者だわ。


「こちらの魔法学と語学と歴史学と…」


「はぁ…。ほぼ全てじゃ無いか。君は入学してから何をしていたんだい?」


「す、すみません。上手く理解できなくて。」


素直に謝るとフッと苦笑された。


「仕方ない。僕が教えよう。それでは語学から…」


あっという間に3時間経った。意外にもセト様の教え方は先生方より分かりやすくてスラスラと頭の中に入っていった。


「なんだ。出来るじゃ無いか。これなら試験までにはまあまあの点数が取れるんじゃ無いのか?」


「あ、ありがとうございます!あの…明日も教えてもらえますか?」


「ああ。僕が居る時間に君が図書室に来れればね。」


サラリと言われ素直に頷いた。するとセト様に優しく微笑まれた。


「素直なレディは嫌いじゃないよ。また明日。」


とんでもない事を出会った初日から言われて私は慌てた。


【こ、これがヒロイン補正なの?!ただ勉強しただけなのに?!】


フラフラと朧げな記憶のまま自宅に帰った。


部屋に直行してベットに倒れ込む私に侍女のマリーが慌てて話しかける。


「どうなさいました?!昨日の今日ですからお加減がまだ悪いのでは??」


私はベットに顔を埋めたまま呟いた。


「違うの。ちょっと色々あって…セト・クラウゼン様と仲良くなったの。」


「まあ、良かったではありませんか!お嬢様。学園に入学してからお友達が出来ないと嘆いておられましたもの。」


そうだった。嘆いてた。みんな社交界パーティーで仲が出来上がってる貴族のパイプ。私はスタートラインから既に遅れを取っていて横のつながりが薄い。貴族で一番下の男爵なんて令息でも無ければ意味もない。お嫁に行けるのも同じ男爵家か良くて子爵。後は平民になるしか無い。


断罪だけと…王子様の場合は毒杯。公爵様の場合だとギロチン。辺境伯様の場合だと辺境伯の教会の修道女。子爵様の場合だとただの追放。最悪なのはハーレムにして悪役令嬢を断罪すると一家離散で私は国王陛下の命令で逃げる途中で殺される。うわーーーーー!!!絶対に嫌だわ!!殺されたくないし、死にたくない。一番マシな子爵様の追放が生活しやすいわ。もう既に関わってしまったし。


ブルブル震え出した私を心配したマリーが声をかけて来た。


「やはり調子が悪いのでは?温かい飲み物でも持って参りますね。」


マリーはそう言うと、部屋を出ていった。


私は学生服を私服に着替えてまたもベットに寝転がった。


「明日からセト様と勉強か…。どうなるんだろう。」


私はそのままウトウトと眠りについた。


翌日。授業が終わり図書室へ向かうとセト様は読書中だった。気付かれないように距離を取って席に座り教科書と参考書を広げた。


「なんとか頑張らなきゃ…」


勉強も生き延びる事も。そう思いノートに目を向けると、コツコツと誰かがやって来る靴の足音がした。見上げてみるとセト様だった。


「やあ。今日も来たのだね。昨日の続きからだろう?」


【き、気付かれた!!結構距離離れて座ったのに!!これもヒロイン補正なの?!】


私は慌てながらセト様を見つめた。


「何を惚けているだい?勉強はしないのか?」


私はハッとして首を横に振る。


「いえ!します。ただ、クラウゼン様が気付いてくれたのが驚いてしまって。」


素直に胸の内を話すとニッコリ微笑まれた。


「図書室は利用者が限られてるからね。勉強なら家庭教師を雇うだろう?本を読むなら自宅で事足りる。ここに来るのは男爵家か子爵家くらいなものさ。すぐに顔なんて覚えられる。」


「そ、そう言えばそうですね…。」


公爵から伯爵家までの貴族なら自宅に家庭教師を付けられるし図書館並みの大きな図書室も有る筈だ。ここにはそこまでお金に余裕の無い子爵と男爵が通う場所。言われてみればその通りだ。


「さあ。雑談は後にして続きを教えるよ。君は理解するのが遅いからね。」


ストレートに言われてグサッと胸に刺さったが本当の事なので何も言わずにただ頷いた。


今日もそうして3時間。だいぶ勉強が捗った。


「ありがとうございました。」


素直に礼を言うとニッコリ笑われて


「また明日も来るといい。勉強を教えるよ。君に教えると僕の復習にもなる。」


そう言われた。少しづつ距離が縮まってる。怖い。大丈夫なのかな。これ。


「ありがとうございます。明日もよろしくお願いします。」


ぺこりと頭を下げて図書室を退出した。


学校の門まで馬車が来ている筈だからと歩いていると後ろから声をかけられた。


「おい。幽霊部員。」


振り返るとルドルフ・フォルゲン様。わあ!今日はなんて間の悪い日なの?!


「フォルゲン様。あ、あの。その。幽霊部員とは…。」


「お前。クラブの登録するだけして部に来てないだろ?!なんで来ないんだ!」


廊下で怒られた。頭を下げて言い訳をする。


「す、すみません。魔法学が身に付いておらず魔法が出来ないため出席を控えて居ました。」


そう言うと、はあー。と盛大なため息を吐かれた。


「そう言うものはな。実地でやった方が早く覚えられるんだよ!教科書と睨めっこしてても魔法は上手くならねーよ。今からでいい来い!俺が試験してやる!」


半ば引きずられるようにして魔法クラブの中庭にやって来た。


「的に目掛けて魔法を当ててみろ。何が出来る。」


「火魔法の火球と水魔法の水球です。」


「そうか。じゃあ、やってみろ。」


言われて術を唱えると弱々しい炎が地面に落ちた。


「は?!」


慌てて水魔法も唱えるが、水の玉がふわふわと揺れながら的まで届かずに地面に落ちた。


「マジかよ!なんでウチのクラブに入部したんだ!いや。こんだけ出来ないから入部したのか!合点が行ったぞ!よし!明日から俺が特訓してやる!絶対に来いよ!」


両肩をがっしり掴まれて凄まれては、頷くしかなかった。


「よし!明日から特訓だ!」


ニッコリ笑われて私は憂鬱になった。


【あああああー。ヒロイン補正第二弾来ちゃったー。入学当時に記憶が戻って入れば、魔法クラブなんて入部して無かったのにー!】


フラフラしながら家路についた。


今日もまたベットに倒れるように突っ伏しているとマリーに心配された。


「今日はどうなさったのです?」


「魔法クラブでルドルフ・フォルゲン様と魔法の特訓を確約されたの。」


「まあ、良かったではありませんか!友達がまた増えましたね。でも、この場合は友達というより先生でしょうか?」


「……そうだと思う……。」


ぐったりとしながら、のそのそ起き上がり着替える私。マリーが着替えを手伝ってくれた。


「でも……不思議ですね。今までは誰1人としてお友達が出来ないと嘆いていられたお嬢様が階段から転がり落ちてから、急に友達が出来るなんて……。しかも男性…ですし。将来安泰ですね!」


【違うわ!マリー!!死神の足音が近づいているのよ!!決して幸せになんか成れないわ!!】


心の中で叫んではみるものの、マリーには言えず空笑いしかできなかった。


「お嬢様。笑って居ますが、大した事なんですよ!立て続けに上の位の爵位の方と仲良くなれるなんて!中々できない事なんです!」


【ああ。マリー。それは私がヒロインだからなの!って言いたい!でも、何言ってるか分からないわよね!ああ!本当に説明できたら楽なのに!!】


私はため息をついて、マリーの言葉に頷いた。マリーは納得してくれたのか笑顔を見せた。


翌日。図書室へ向かいセト様に勉強を習い。その後、魔法クラブへ向かいルドルフ様に魔法を習う。


そんな日が続いた春の終わりの日。試験当日だ。なんとか実技も学科も一通りこなせた。これでセト様とルドルフ様と距離を置ける。そう思って一息ついたのに……。


次の日。試験の結果が発表されると私は成績が下から数えて5番目だった……。


【ああああああ!!これもヒロイン補正なの?!あれだけ頑張ったじゃない!】


慌てて先生のいる教員室へ向かって質問すると驚いたことを言われた。


「学科はそこそこでしたけど、魔法が全く出来てません。あれでは魔法学も出来ていないと見なされます。ブロッサムさん。貴女は魔法クラブに所属してるのですから、夏休みもみっちり学びなさい。良いですね?」


先生にお小言を言われ、私は弱々しく頷いた。ああ。夏休みも特訓が決まってしまった。この成績を見たセト様にも勉強の特訓をさせられそう……。


「前途多難だわ……。どうしたら良いのよ。」


私は目の前が真っ暗になった。


翌日から夏休み。セト様が居ないことを祈りつつ学園の図書室に向かった。


すると……


「凄い成績を叩き出したものだね。ブロッサム嬢。僕の今までの教え方では満足に成績が取れなかったようだね。もっと厳しく教えた方が良さそうだ。」


深い闇を纏ったような笑いに心が震える。


「も、申し訳ありません。私が稚拙なばかりにっ。」


「夏の終わりの試験には合格とは言わないが良い成績が出せるよう毎日特訓だ。魔法の実地も先生に言われているそうだね。午前は学科。午後は実地。頑張るんだ。」


「うぅぅ。はい。」


「よし。では、今日は……」


そうしてみっちり3時間勉強し、学園の食堂でお昼休憩を取ると、午後はルドルフ様の元に向かった。


「よし!待ってたぞ!ブロッサム嬢。火球は的に当たるようになったが水球はまだまだだな。水球をマスターすれば回復魔法も使えるようになる。そうすれば君も周りに一目置かれるようになるぞ。」


「はい。がんばります!」


火魔法…火球。フレイアロー。ファイアーストーム。インフェルノ。


水魔法…水球。アイスニードル。フラッド。ブリザード。そして、キュアウォーター。


小説の中で読んだ。魔法。どこまで身になるか分からないけど、キュアウォーターだけは覚えたい。光魔法を覚醒しなくても、キュアウォーターを覚えれば回復魔法としてそれなりに認められるからだ。


まずは、的に向かって水球を投げる中々身体の中の魔力が上手く巡ってくれない。うーんうーんと唸りながら両手をじっと見つめた。


「魔法の循環が上手くいかないのか?」


「フォルゲン様……。はい。その通りです。私には魔力の順応性が弱いみたいで…」


「どれ。両手を貸してみろ。」


ルドルフ様に両手を握られビックリするが、手のひらが温かくなって来た。


「俺の魔力だ。お前の掌で受け取れ。そしてブロッサム嬢。お前の魔力を俺に渡してみろ。」


要はお互いの魔力の譲渡だ。私は慌てて魔力を受け取り身体の中で循環させてから魔力を放出した。


「ふむ。弱々しいながら質は悪く無い。夏休みの90日特訓すれば出来ないこともないだろう。あと、この循環の訓練は毎日した方が良さそうだな。お前の魔力量が増える。」


「はい。よろしくお願いします。」


【ああああ。これもきっとヒロイン補正…絶対絶対光魔法だけは顕現しないようにしないと。】


夏休みの休暇は全て勉強に費やされた。毎日顔を合わせるセト様とルドルフ様とは随分距離が近くなり、お二人から名前で呼ぶことを許されてしまった。セト様はセト様と。ルドルフ様はルド様と愛称で構わないと言われてしまった。


【ああああ。ここもすでにヒロイン補正。ゲームだったらゲージが貯まってMAXまで行ってそうな勢い。怖い。】


だけど、お陰で勉強も予習ができるほど進んだし、魔法も火魔法はフレアアロー。水魔法はアイスニードル。それから念願のキュアウォーターを覚えられた。キュアウォーターを覚えた事は、ルド様に沢山褒めてもらえた。


「なんだ!素質ないとか言いつつ回復系のキュアウォーター覚えられるなんて凄いじゃないか!3ヶ月でここまで出来たんだ。もっと魔法上達するぞ!俺のお墨付きだ。」


格好良くウインクするルド様は、銀色のさらさらな髪を横に結び、紫の瞳を輝かせて居た。ルド様もセト様に負けず劣らず物凄く格好いい。


【はぁぁぁぁぁ。攻略対象者だもの。格好良い訳ないのよね。それにこんなに距離が縮まって……どうしたらいいの?】


心の中では大泣きしたいのをグッと堪えて、ルド様に返事した。


「ルド様の教え方がとても素晴らしいからですわ。こんなにすぐに魔法が使えるようになるなんて思っても見ませんでした。ありがとうございます。」


すると、突然ルド様から突拍子もないことを言われた。


「キュアウォーターを使える人間は限られて居てな。生徒会の会長が是非にともレティ嬢を生徒会に入れたいそうだ。」


【ええええええー!!!何ですって?!それは光魔法のキュアライトが出来ないと生徒会入りは無かったはずなのに!!何で?!もしかして小説からずれ始めてるの?!】


「私は男爵令嬢です。いくらキュアウォーターが出来たからだとしても生徒会に入るのは…。」


しどろもどろに答えるが、ルド様は爽やかな笑顔で答えた。


「これまでのレティ嬢の頑張りをアルフォード殿下も観ておられたのだ。名誉なことだ。俺からも推薦しておく。早速行ってこい。」


肩を叩かれ、私は死刑台に上がるかの如く恐る恐る生徒会室の前に立ってノックをした。


「…レティ・ブロッサムです。」


中から〝入れ〟と、声が聞こえた。恐る恐る中に入ると、第二王子。従兄弟の公爵令息。そして悪役令嬢役でもあるエレノア・ヒルデガルド様がソファに座って居た。


「学園でも珍しいキュアウォーターを習得したようだな。是非、生徒会の庶務に入ってもらいたい。」


「どの様な仕事をするんですか?」


おずおずと質問すると優しい声色でエレノア・ヒルデガルド様が答えてくれた。


「うちの学園では定期的に慈善活動として教会の孤児院や庶民の病院へ行って治療を行なうの。卒業してしまってからでは気安く市井に出向く事は出来なくなるからね。」


「なるほど。わかりました。私でお役に立てるのならば…。」


そう言ってヒルデガルド様を見ると、スッと目を逸らされてしまった。やはり私がヒロインだと知っているのだろうか。


【悪役令嬢のヒルデガルド様と仲良くは出来ないかもしれないけれど、なるべく平穏に王子には絶対距離を取らなくちゃ。】


私がふんふんと意気込んでる姿を、何故か切なそうにヒルデガルド様が見つめて居た。


夏休みが明け試験も終わり、私の成績は中の中まで上がった。その事についてはセト様もルド様も沢山喜んでくれた。


ある日、生徒会で市井に向かう日が来た。皆庶民の服装を纏い孤児院を訪ねる。


王子が神父様に話をし、私とヒルデガルド様が病人の治癒を施す。子供達の病気は風邪だった様で、すぐに良くなった。


「良かった。」


私が子供たちを見ながら微笑むと、ヒルデガルド様から突然な言葉を浴びせられた。


「貴女も孤児院出身だからそんなに親身になれるの?」


「え?私は男爵家の娘です。」


「養子なんでしょう?」


「え?違います。両親の本当の子供です!」


「エレノア!何を言っているんだ!君は!ブロッサム嬢に失礼ではないか!!」


王子殿下の言葉でハッとしたヒルデガルド様は真っ青な顔をして私に謝って来た。


「ご、ごめんなさい!わ、わたくしなんて失礼なことを!」


必死の形相で謝るヒルデガルド様に〝大丈夫です。〟と言いながら、私は確信した。この方転生してらっしゃる。もしかしたらもしかしてお友達になれるかも知れない!


そう思った矢先。私は突然王子殿下に両手を握られて居た。


「私の婚約者が無礼な態度を見せたのに全てを許すとは何と慈悲深い。貴女を生徒会に入れて本当に良かった。」


【え?!ここで王子殿下の好感度上がっちゃうの?!ヒルデガルド様が突然変な事言っちゃったからー!でも、あれが無ければ転生してるって気づかなかったし!ああ!どうしよう!】


「ああ。殿下はやっぱりブロッサム嬢の事を……」


ぽつりと呟いたヒルデガルド様の言葉を私は聞き逃さなかった。



翌日、生徒会室へ向かうと運良くヒルデガルド様だけいらっしゃった。私を見たヒルデガルド様は真っ青な顔をして私から逃げようとして居た。


だから思わず言ってしまった。


「ヒルデガルド様!転生してますよね!」と。


ヒルデガルド様はビクッと身体を震わせて振り返る。


「もしかしてブロッサム様も?」


「はい。あ、私の事はレティでいいです。ヒルデガルド様。」


「……私のこともエレノアでいいわ。」


「じゃあ。エレノア様で。私、エレノア様にお話があったんです。」


「私に話?」

「はい。この世界が〝魔法学園のCinderellaに悪役令嬢が転生して来てヒロインを断罪する。〟って世界で…」


「え?!ち、違うわ。この世界は〝魔法学園のCinderellaにヒロインが転生して来て悪役令嬢を断罪する。〟よ。」


「え?」


「なんだか一部が一緒で一部が全く違うお話ね。内容を擦り合わせましょう。ここではダメね。学園の池のそばのガゼボに行きましょう。あそこなら誰も来ないわ。」


そうして、ガゼボにやって来た私達は話を詰めるにつれて、お互いがお互い断罪されてしまうストーリーを読んでいて転生して来てしまったことだ。


「そんなお話が二つあるなんて……」

「対になってるんですかね。なんてややこしい。」


俯くエレノア様はまだ顔色が悪い。私は声をかけた。


「エレノア様は殿下が好きですか?」


私の声にハッと顔をあげたエレノア様の目には沢山の涙が溢れて居た。


「貴女といつか結ばれてしまうと思って居てもずっとずっとお慕いしていたの。」


「私は半分ぐらいフラグへし折ってますので王子殿下とは恋愛したくないです。」


私の言葉に目を見開いてエレノア様が呟く。


「わたくし、我慢しなくていいの?」


「はい。」


私の返事に破顔したエレノア様はさめざめと泣いた。


「ありがとう。本当にありがとう。」


「私も良かったです。断罪なんて真っ平ごめんだったので、エレノア様とお友達になって殺されるの回避したいです。」


「ふふ。わたくしもよ。」


2人で笑い合って握手を交わした。


その後、生徒会の役員もしているが、あの一件で王子殿下が私に何かと心を砕いてくれる事に対してエレノア様とお友達になりましたので、殿下は気にされなくて大丈夫です。というと安心してくれた様だ。


私はそこから、生徒会役員は最小限の仕事をさせてもらい、セト様の勉強会とルド様の魔法クラブに通った。


セト様との勉強会はとっても楽しかった。熱心に勉強するほど、優しく教えてくれるセト様。


「君はいつの間にか僕が教える事より先の勉強ができる様になってしまったね。これではどちらが勉強を教わっているのか分からないな。」


「そんな。ここまで教えてくださった。セト様のおかげです。そんな事おっしゃらないでください。」


「レティ嬢。本当の君は慎ましやかで賢く優しいのだね。そんな君がとても好ましいよ。」


「え?……」


「お付き合いを申し出ても宜しいだろうか?」


セト様は真っ赤な顔で告白してくれた。


私は嬉しくて俯きながら『はい。』と答えた。


もう、断罪に縛られなくていい世界。私は初めての恋愛に心弾ませるのだった。




Fine

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