第7話 学校では、隠れて〈2〉
2年4組のところに、月城悠太の名前はあった。
少し上に去年からの友人の瀬戸島晴樹も書かれてあったが、それよりも、俺はもっと下の方へ目を遣っていく。
嶺田……嶺田……と、目的の名前を探す。
――――あっ、あった。
嶺田柚奈の名前を見つけて、思わず声を出してしまいそうだった。
柚奈も4組で、俺は柚奈と同じクラスになることができた。
隣で背伸びをして掲示を見ようとしていた柚奈を見てみると、にまっとした笑顔をしていた。
多分、柚奈も気づいたのだろう。
すると柚奈は俺の左手を両手で掴み、上下に揺らして喜びを表現してきた。
「悠太と同じだね」
「あぁ、本当になれるとは思わなかった」
「えー、わたしはなれるって信じてたのにな」
そうやって柚奈と話していると、背後からやってきた影が一つ。
「楽しく話してるとこ、ごめんね」
人違いかと思ったけど、明らかに俺たちに向かって喋っているから、その人の方を向いた。
「柚ちゃん、久しぶりー」
珍しい柚奈の呼び方で、俺はやっと気づいた。
一年のとき、柚奈のことをそう呼びながら、仲良しそうに二人でいるのを見たことがある。
「心愛じゃん、久しぶり。今日は学校来るの早いんだね」
「もち、クラス替えだしね」
彼女の名前は、梅井心愛。
この高校では、かなりギャルの部類に入るであろう人である。
それだけが理由ではないけど、スカートの丈は短いし、人との距離感もまさしくそれらしい。
「心愛は何組だったの?」
「あたし? あたしはね、3組だったよ」
「そっかー、わたしは4組だから残念だったね」
「まじ? 柚ちゃんと同じが良かったのにー」
「そうだね」
梅井さんはアクロバディックに悲しみを表現していた。
しかしすぐに俺の方を見ながら、声色を変えて再び喋り始めた。
「でも、彼氏とは同じクラスなんじゃないの?」
「え、なんで?」
柚奈の疑問に、頷いて俺も激しく同意した。
彼氏なんて、確信を持って言わないでほしい。
そこまで明らかに付き合っている雰囲気は出していないはずだ。
「だってさ、さっき二人で喜びあってたの見えたし」
「心愛、見てたんだ」
「そりゃあ、ちょっと目立ってたしね。それよりさ、一緒で嬉しかったんじゃないの?」
「いやいや、嬉しかったのはそうなんだけど……。そういうことじゃなくて、わたしたち付き合ってないってこと」
柚奈がそういう発言をすると、なんだか恥ずかしくて、自然と顔が赤くなっていく気がした。
「えー、ほんとかなー」
梅井さんは依然態度は変わらず、というか、さっきよりも顔をにやにやさせて揶揄ってきている。
なんだろう、俺はあまりこういう人を好かないな――。
「そうだ、名前なんて言うの?」
俺に向かって、梅井さんは聞いてきた。
「月城です。柚奈の彼氏ではないです」
「ちなみに、あたしは心愛っていうよ。心愛下の名前は何なの?」
「悠太です。あと、柚奈の彼氏ではないです」
「それなら、悠太くんって呼ぶね。どうやって柚奈と仲良くなって、付き合い始めたの?」
怒涛の質問攻めに、俺は少しだけ怖気付いてしまう。
まぁ、答えられることは答えるべきだろうし、あのこと以外は隠す必要もない。
「小さい頃から幼馴染ってやつで、色々あってまた話すようになっただけです。何回も言いますけど、柚奈の彼氏ではないです」
「へー、そうなんだっ」
いくら俺が彼氏じゃないと言っても、その部分だけ聞こえない振りをしてくる。
俺と柚奈が付き合ってないからといって、梅井さんに不利益が生じるわけでもないのに、どうしてそんなに強情なのだろうか。
俺には分からないし、柚奈も分かっていないようだ。
「じゃあ、お二人で仲良くーっ」
そう言い残して、校舎の中へと消えていった。
カップルは二人にしておいてあげる、梅井さんなりの優しさなのだろう。
やっぱり、あんまり好みではない性格だな――。
自分の心の中で、そう思った。
「心愛ってば、変なところで意地を張るんだから……」
「梅井さんとは前から仲良いの?」
「入学の日に話しかけてきてくれて、そこから結構仲良いよ。あんな部分もあるけど、一所懸命なところもあるし、優しいし、あと可愛いし」
確かに梅井さんの顔も整っている。
学年可愛い女子ランキング(とある男子調べ)では6位をマークしていた覚えがある。
おそらく、話しやすさも含めればもっと上、トップ3には入ってくるのではないかと思う。
「なるほど」
「あの感じなら、また悠太に話しかけてくるかもだから、そのときは仲良くしてあげてね」
「あぁ、もちろん」
別に毛嫌いしたいとか話したくないというわけでもないし、もし話しかけられたらそうしよう。
柚奈のことも色々聞けるかもしれないし。
俺たちは靴をスリッパに履き替えて、2年4組の教室まで歩いていく。
同じ階段に同じ廊下、春休み前と全く変わらない校舎なのに、不思議と新鮮な気分がする。
それは多分、2年生に進級したからだろう。
そして目的の教室に到着して、俺と柚奈は一緒に教室へ入った。
教室の中を一瞥すると、去年からの友人である晴樹が、俺を見つけて驚きの表情を浮かべていた。
やはり、俺の生活は変わってしまうのか――。




