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幼馴染は3時間に一回キスをしないと意識がなくなるらしい。って、俺とするの!?  作者: 冷泉七都
第一章

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第3話 屋根の下、柚奈と〈1〉

 ソファの右端と左端に、それぞれ俺と柚奈が座っている。

 もっと近づくことはできるけれど、付き合っているわけでもないからそんなことはしない。

 俺はぼーっと、テレビでしているバラエティーの再放送を眺めるだけだ。


 ふと右側に目線を遣ると、柚奈がスマホを触っていた。

 俺に見られているのには気づいていないようで、画面に集中している。

 俺は思わず、柚奈を観察してしまった。


 学校ではいつも結ばれている髪は下ろされていて、肩下あたりまで伸ばされているのがよく分かる。

 そしてもう一つ、学校との相違点があって、伸縮性のある生地のせいだろうか、本来のアレの大きさが見えてしまう。

 クラスメイトの野蛮な話では、おそらくDらしい――なにがとは明言しないが。


 少し柚奈に悪い気がしてきて、俺は再びテレビへと目を向けた。

 1時間前まで昼寝をしようとしていたことなんて、すっかり忘れてしまっていた。



 ピピピピっ、ピピピピっ。

 突如、柚奈が持つスマホのアラームが鳴った。


「そろそろだよ」

「あぁ」


 なんて、今からする行動に見合わない、色気のない言葉なのだろうか。

 いや、柚奈の素っ気ない言葉は、緊張を自覚しないためのものなのかもしれない。


「わたしも一応、恥ずかしいんだからね。嫌じゃないけど、こんなことするの初めてなんだし」


 柚奈が照れながら、ぼそっと言う。

 そういうのは俺まで恥ずかしくなってくるから、やめてほしい。


「俺も初めてだよ」

「それは良かった」


 気が動転してしまって、変なことを言ってしまった。

 柚奈からすれば、全くいらない情報なのに。

 嬉しがった柚奈は、決して好きだからではなく、適当な返しとしてそう言ったはずだ。


「悠太からしてくれる? もしものためにも、その方がいいと思うんだけど」


 柚奈はそう言いながら立ち上がり、俺の無言の肯定を聞くと、俺の真隣に座り直した。

 とても近い。

 実際そのためなのだが、顔と顔が触れ合いそうなほど近い。


 柚奈の呼吸の音がありありと聞こえる。

 おそらく、俺のも柚奈に聞こえてしまっているのだろう。

 胸の鼓動が速くなる。

 どうにかなってしまいそうなほどの緊張が、俺を襲う。

 テレビから垂れ流された笑い声も効果音も、すでに俺には聞こえなくなっていた。


「悠太、お願い。キスして――」


 言葉の内容のせいで、妙に色っぽく感じてしまう。

 目をつぶった柚奈の顔の無防備さが、俺を誘ってくる。


 柚奈は俗にいうキス待ち顔をしているわけではない。

 だから、マウス・トゥ・マウスを求めていない。

 あと、首筋にするのは独占したいみたいで論外だ。

 つまり俺に残されたのは、頬にするか、額にするか――。

 急いで答えを出さなくてはいけないのに、悩ましい。


 柚奈と俺が両想いなら、どれほど良かっただろう。

 こんなに悩む必要もなく、唇にキスをしてしまえばいいのに……。


 そんな無駄な思考はすぐにやめて、目の前の頬と額を交互に見る。

 柚奈が目を開けてしまう前に、俺は決めた。


 柚奈の前髪を少しだけずらして、俺の唇を額に触れさせる。

 柔らかいその感覚に一瞬夢中になるが、柚奈がひゃぁ――と嬌声みたいな声を漏らすのが聞こえて、一気に現実に戻った。


「柚奈っ?」


 なにか仕出かしてしまったのかと不安になり、すぐに顔を離して柚奈の顔を確かめる。

 しかし柚奈に怒った様子はなく、目を少し細めて困っている感じだった。


「悠太、ちょっと……」


 やっと柚奈が話したと思ったのに、理由は言ってくれない。

 柚奈はただ、俺がさっきキスした額を撫でるだけだ。


「ごめん、柚奈」

「いやいや、謝らないで。悠太はなにも悪くないよ」

「じゃあなんで――」


 俺は不思議すぎて聞いてしまった。

 すると、柚奈は恥ずかしげにして言う。


「だって、ほっぺにキスされるんだと思ってたから……。予想外で驚いちゃったの」

「あぁ、そういうことか」


 どうやら正解は、額ではなく頬だったらしい。


「でも別にどっちでもいいからね、お好きな方で」

「好きな方って言われてもな……」

「もしかして、次は口がいいとか?」

「…………」


 自分の唇に人差し指を当てながら言ってくるから、俺の顔は赤くなってしまっていただろう。

 柚奈は少しはにかむ。


「冗談、冗談。そんな顔しないでね」


 そしてさっきまで柚奈の口元にあった指を、俺の唇に触れさせてきた。

 見る人が見れば、これも一種の間接キスと言えるのかもしれない。


「分かってるよ」


 無自覚というよりも、全く気にしていない感じでしてくるから、ドギマギしている俺が馬鹿みたいだ。


 柚奈は手を太腿あたりに戻すと、「まぁ――」と話を変えてくれた。


「これから何十回、何百回するか分からないけど、こんな感じでよろしくね、悠太」

「ああ、もちろん。柚奈の方が大変なんだから、当たり前だろ」


 そこから甘いピロートークのような空気感になるわけでもなく、柚奈は立ち上がった。


「そういえば、夕飯ってどうするの?」

「あーそっか、忘れてた。この家には、カップ麺とかパスタしかないな」

「いつも、そんなのしか食べてないんだよね」

「恥ずかしながら、そうだ」


 俺は料理が下手なうえ、作る気にもなれず、一人暮らし二日目から不摂生な生活を続けている。

 学校では学食で美味しい料理を食べてるから良しとしていたのだが、さすがに柚奈がこんな食生活をするわけにはいかない。


「それならわたし、スーパーで食材買ってきて作るけど」

「お願いしてもいいのか?」

「そりゃあ、わたしは住まわせてもらう身だし」

「ありがとう、柚奈。荷物持ちとか、役に立てられるところはするから――」

「これで毎日、健康な手料理食べれるね」


 どうやら、柚奈は毎日料理を作ってくれるらしい。


「あぁ、俺の胃袋が喜ぶよ」

「喜んでくれたら、わたしの腕も喜ぶかも」


 柚奈との軽快な会話が、俺に、仲良く遊んでいた頃を思い出させてきた。

 柚奈と昔みたいに楽しく話せている。

 なんだか、幸せだと実感した。

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