第20話 無邪気な、キスを〈3〉
「なぁ、悠太。休み時間に嶺田と一緒に消えるけど、どこに行ってるんだ?」
教室で二つの机をくっつけて、俺と晴樹は昼食を食べている。
そして食べ始めから1分も経たずに、そう柚奈との関係を聞かれた。
まぁ、晴樹からすればただの日常会話なのだろう。
しかし、関係を聞かれたと言っても、幼馴染とか、そういうのを答えれば良いのではない。
「まぁ、色々と話してるんだよ」
「んー……? 話って、どんな話を?」
納得のいっていないようすで、重ねて聞き返された。
韮沢もそうだけど、気になるのも無理はない。
昼休みの前の休み時間も、柚奈と教室を出て隠れてキスしていたし、勘ぐってしまう気持ちはとても分かる。
「そりゃあ、他愛もないことだよ。数学の授業が――とか、部活が――とかな」
「そんなに嶺田と仲良いとは思ってなかった。去年は全然話してないんだろ?」
「そう、ほんと最近また話し始めただけで」
もし、柚奈のあれがなければ、今ごろ俺と柚奈はどんなっていたのだろうか。
今のように、昔みたいな喋ったりできる関係に戻れていたのだろうか。
そこは、運命に感謝すべきところだ。
晴樹は何かを思い出した如く、手を叩いた。
「そういや、朝、二人が一緒に登校してるの見たって聞いたぜ」
「やっぱり、そんなに広まっちゃってるのか?」
「まぁな。悠太とか嶺田と仲良くしてる人は、結構知ってる感じだな」
そんな気はしたが、いざ言われると恐ろしくなってくる。
まだバレていないようだけど、同じ家から出ていたなんて噂された日には、梅井さんや韮沢に聞かれるのはもちろん、クラスメイト全員から問い詰められてしまう。
頭に浮かべたその光景は、俺には耐えられなさそうだ。
いつ誰かに見られてしまうかは分からない。
だから、ちょうど良い言い訳ぐらいは考えておくべきかもしれない。
一緒に家を出なければ良いじゃないか――という元も子もないことは、選択肢になかった。
「それにしても、羨ましいな――」
晴樹はレーズンパンを一口かじって言った。
「そうか?」
「オレもそうなりたいって訳じゃないんだけど……」
そう前置くと、周囲に聞こえてしまわないようにと、晴樹の声が小さくなった。
そして身体を乗り出して、俺だけに聞こえるようにして言う。
「悠太、嶺田のこと好きなんだろ。幼馴染で、ずっと――」
「なっ……」
俺が言い訳を繰り出す前に、晴樹は次の言葉を言って、俺に発言権を与えてくれない。
「そんな恋が叶いそうだなんて、そうそうないぜ」
「…………」
「たまたまじゃなくて、悠太の日頃の行いが良いからだろ。それが、羨ましいなって……」
晴樹は言いたいことを全て言って、元の体勢に戻って続けてパンを食べた。
いやいや――。
褒められて嬉しいけど、それよりもなぜ晴樹が、俺が柚奈を好きだと知っているのか。
「それって、いつからバレてたんだ?」
「一年生の2学期ぐらいから思ってて、3学期には絶対って思ったな」
「なんで……」
そう感じられてしまう行動はしていないはずだ。
はずだから、してた――と言われれば、そうなのかも知れないけど……。
「まぁな。親友を舐めるなよ」
晴樹は笑いながら言った。
晴樹がしているのは、純粋な恋への応援だろう。
それなら、ありがたく受け取っておくのが良い。
「そうだな。ありがとう」
実のところ、俺と柚奈の関係は少し変だということに胸が痛い。
でもそれは飲み込んで、俺は言った。
俺はレーズンの匂いを感じながら、柚奈が作ってくれた弁当を食べ始めた。
柚奈の手料理は相変わらず美味しくて、冷めてもなお、それは変わらない。
俺はチラッと柚奈のいる方を見た。
梅井さんと二人なのかと思っていたが、他にも何人かの女子と食べていた。
きっと、柚奈と仲良くしたい女子はたくさんいるのだろう。
耳を澄ませてみれば、梅井さん以外の女子は積極的に柚奈のことを可愛いだの言って持ち上げていた。
しばらく聞いていると、コスメはどこの使ってるの――とか、俺には到底理解できない話を始めた。
俺はよく分からないから、聞くのをやめようとした。
しかし――。
「柚奈ちゃんは、好きな人とか居るの?」
そう聞こえて、俺は柚奈のことにしか集中できなくなった。
きっとこういうことがあって、晴樹に俺の想いがバレてしまったのかもしれない。
「急だね――。別に、わたしはいないけど」
「えー、ほんとかなー」
「柚奈ちゃん可愛いからモテるのに」
「もったいなーい」
「モテると好きな人がいるのは別物でしょ」
柚奈がモテているということを否定しなかったのが辛い。
見たことはないけど、知らぬ間に柚奈は誰かに告白されていたりするのだろうか。
もしあったとしても今、彼氏はいないらしいし、傷心するほどではない。
でも嫌という感情は、確かに俺の中にはあった。
「あれ? 柚ちゃんって、好きな人いなかったっけ?」
そう聞いたのは、ニヤニヤしている梅井さんだ。
始業式の日にも見た、人の恋愛を揶揄っている時の顔である。
「だから、心愛。ただの幼馴染だってさ……」
「でも休み時間とかに二人でどっか行ってるじゃん」
「そうそう、私も気になってた」
「教えてよ。どこ行ってたの?」
「アタシも気になる」
柚奈が全員から質問攻めにされている。
というか、これは完全に俺のことを話している。
「色々お話ししてるだけだよ。変なことはしてない」
みんなが疑って唸り声を出す。
「だから――――」
俺はだんだん、柚奈が俺の心を抉ってしまうことを言うのではないかと不安になってきた。
聞かない方が良いのではと思って、俺は柚奈たちから意識を逸らす。
しばらくすると、声は気にならなくなっていた。
そのあと俺と晴樹は、取るに足らない話をしながら昼食を取って、あっという間に昼休みが終わった。
次の授業明けの休み時間も柚奈とどこかに行き、きっとまた晴樹に不思議がられたり、韮沢に微笑まれたりするのだろう。
そう思うと、この先どうなってしまうのかが思いやられる。




