表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
幼馴染は3時間に一回キスをしないと意識がなくなるらしい。って、俺とするの!?  作者: 冷泉七都
第一章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

2/8

第2話 キスして、お願い〈2〉

 柚奈はすぐに目を覚ました。

 どうやら、キスされた瞬間に意識を取り戻すらしい。


「悠太、どう?」


 真っ先に俺の方を見て、質問してくる柚奈。

 親子で全く同じ聞き方をしているのが、なんだかおかしかった。


「本当だって、分かった――。ごめん柚奈、疑ってしまって」

「いや、いいよ。ほんとはね、信じるわけないって思ってたから」


 柚奈がソファに座って、俺が前に立つという形で話しているから、柚奈の顔は少し上を向くことになってしまう。

 その見上げる視線で、良かった――と言ってニカっと微笑むのが、とても可愛かった。

 なぜさっきまで柚奈を信じていなかったのかと、5分前の自分が嫌になってしまいそうだ。


「じゃあ、お願いがあるんだけど。いいかな?」

「もちろん」


 申し訳なさで、柚奈のお願いならなんでも聞き入れてしまうかもな。


「わたし、今日からここに住んでもいい?」

「もちろ――、え?」


 すんでのところで踏み留まることができた。

 柚奈は、なにを言っているのか。

 多分、柚奈母が『これからどうする』と漏らしたのは、このことなのだろうけど。

 全く分からない。


「そして、わたしと3時間に一回……」


 柚奈は首を動かして、視線を左斜め下に落とす。

 そして熱い頬を冷ますように、右手で右頬に軽く触れながら、目だけをこちらに向けてきた。


「キス、してくれたらな――って」


 なるほど。

 いや、でも、それは柚奈の両親がすれば解決する問題ではないのか?

 そんな疑問はお見通しのようで、柚奈母が俺の隣から付け加えて言う。


「私が何かできたらいいんだけど、学校で倒れたりしちゃわないように、誰か同級生には頼まないとダメなの」

「それなら女子とかでもいいんじゃないですか?」


 学校で何人かの友達と仲良く話しているのを見たことがある。

 だから名案だと思ったのだが、すぐに「いや、それがね――」と否定されてしまった。


「私もパパも、土日に仕事があったりするし、その人の家に住んだ方がいいんじゃない? ってなって、これを頼めるのは、昔から親しい月城さん()だけなの」

「俺はいいですけど、柚奈はいいのかどうか」


 俺は柚奈の様子を窺ってみる。

 柚奈は何も気にしていない様子でいた。

 キスという単語を言うときにだけ恥ずかしがるのだろうか、とても不思議な人だ。


「悠太なら大丈夫だよ。変なこともしないでしょ」

「まぁ、しないけども……」


 俺は簡単に手を出すような男じゃない。

 暴露してしまえば、柚奈はとても可愛いと学年でも知られているし、俺は柚奈のことが好きだけれど、自制することぐらいできる。

 それに、柚奈が俺のことをどうも思っていないのは、この状況を見れば分かる。


「ならいいじゃん、ね。私の生活――人生が掛かってるの」


 そんなことを言われれば、俺は弱くなってしまう。

 人生というのが、決して大袈裟なことではないのは俺でも分かるからだ。

 俺は決断しないといけない場面に立っている。


 …………。


「分かった。一緒に住もう」


 少しの間があって、柚奈の表情がパーっと明るくなった。


「いいの、やったっ。ありがとっ」


 柚奈は勢いよくソファから立ち上がり、弾むような声を出す。

 そして俺の両手を両手で包み込み、「これからよろしくね」と言った。


「服とか、荷物はちょっとずつ持っていけばいいから、今日は、柚奈はゆっくりさせてもらいなさい」

「うん、そうする。しばらく悠太に迷惑かけちゃうかもだけど……」


 結局柚奈が家にいるなら、いくら迷惑をかけられても同じ気がする。


「気長にすればいいよ。俺も、荷物運ぶの手伝うからさ」

 

 ここから柚奈の家はまあまあ近いから、それぐらいはしてもいいかもしれない。


「ありがと――。悠太の隣の空き部屋使って良いらしいから、そこに置いていく感じだね」


 …………?


「それって誰に聞いたんだ?」

「悠太のお母さんだけど……」


 まさか――と思った、その通りだった。


「じゃあ、もう、お母さんはこのこと知ってるのか?」

「当たり前じゃん、今日の朝に伝えたよ。勝手に人様の家に居候するわけにはいかないしね」

「それはそうだが……」


 全くの予想外だ。

 つまり、初めからこの家に住む以外の選択肢はなかった。

 それなら先に言ってくれてたら良かったのに――。

 声には出さなかったが、そう思った。


「まぁ、無事、柚奈の住むところも決まったわけだし、私は家に帰るわね」


 若い人たちに任せておいて、おばさんはおいとまするね――みたいな調子で、柚奈母は去ってしまった。


「ママ、いっちゃったね」

「あぁ、そうだな」


 俺たちは立ち尽くしたまま。

 一気に冷静になったような感じだ。


「わたし、料理とかできるから、結構役に立つと思うよ。もちろん、洗濯とか掃除とかもするし、安心して」

「それはありがとう」


 さっきとは全然違い、一気に現実味溢れる話になって、逆になんだか落ち着かない。


「ひとまず、あの部屋結構ホコリ被ってるかもだから、掃除するか?」

「する。手伝ってくれるの?」

「そりゃそうだろ」


 柚奈は和やかに微笑んだ。

 その嬉しそうな顔がとても愛おしくて、毎朝毎晩見れると思うと、どうにかなってしまいそうだ。


「これから毎日大変になっちゃうかもだから、もし無理だったらすぐに言ってね」

「…………? 大変って何がだ?」


 家事の話かと思ったが、どうやら違うらしい。


「3時間に一回会ってするんだから、大変でしょ?」

「あー、そっか、なるほど」

「あと、悠太に好きな人がいるなら、申し訳ないし……」

「いないから、大丈夫。これからも、できる予定はない」


 俺の気持ちを知られるわけにはいかなくて、少し早口になってしまった。


「…………。もしもできたら、わたしはなんとかするから、遠慮しないでね」


 ちょっと不審がられたけど、バレてないようでよかった。


 俺はふと時計を見た。


 今から3時間以内に、俺は柚奈とキスしないといけないのか――。


 だんだん実感が湧いてきて、緊張してきた。

◇あとがき◇

 お読みいただき、ありがとうございます。

 今作も純愛ものですので、ご安心ください。

 毎日20:10に投稿していきますので、応援(ブックマークや評価)をお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ