第17話 好奇心は、突然に〈3〉
離れようとすると、柚奈の腕が俺の首を抱いてきた。
予想外に来たからバランスを崩してしまい、上半身が少し後ろに反る。
柚奈の髪が俺の顔に掛かった。
良い香りが俺の周りに充満し、クラクラしてしまいそうだ。
頭が働かなくて、何秒キスをされていたのかは分からない。
でもしばらくしてから、柚奈は拘束を解いてくれた。
……はぁ、はぁ。
溺れた後のように、俺は酸素を求めて呼吸する。
柚奈も同じようで、俺の頬をかすめてくすぐったい。
しだいに、俺たちの呼吸のタイミングは一緒になった。
俺の腰に当たっている柚奈の手が、息に合わせて揺れているせいだろう。
「口でするのって良いね、みんながしてる理由が分かったよ」
興奮冷めやらない様子で柚奈はそう言った。
みんながしている訳がないだろ――と一瞬思ったけど、『付き合っている人たちみんな』という意味で言ったのかもしれない。
いやいや。
そもそも俺たちは付き合っていないのだから、その理論はおかしい気がする。
「ねぇ、悠太。悠太も良かったよね、全然離してくれなかったし」
「え? 離さなかったのは柚奈じゃないのか?」
「手はね。でも、悠太は口押し付けてきたじゃん」
「…………」
そんなことをしたつもりはない。
しかし柚奈が噓を吐いている雰囲気じゃないし……。
まさか――。
俺はもしもを否定することができなかった。
「なんかね、繋がっているっていう実感が素晴らしいよね。守られているっていうか、求められているっていうか、わたしが必要とされている感じがして――」
柚奈は共感を求めるように、俺を見てにこやかに笑って「でしょ」と言った。
「あぁ、そうだな」
そこについては否定できない。
俺もさっき、まさしくそう思った。
「毎回までとは言わないけど、一日に2回くらいはしたいな」
「2回……」
「だめ?」
1回でも耐えられるか微妙なところなのに、そんなにしたらすぐにどうかなってしまいそうだ。
でも、柚奈の懇願する目に嫌と言うのは憚られる。
俺だってこのキスによって幸せになれる部分もあって――だから、ここでチャンスを逃してしまうのはもったいない。
「まぁ、いいよ」
「嬉しい。言質は取ったからね」
あの映画で興奮してしまったせいであって、あれは一時の迷いだったんだ。
あの言葉は本望じゃないから、なしで――。
なんて言われるのなら、今のうちに言われておきたい。
その方が心が楽だ。
夢じゃないかと思うほど、いつもの柚奈とは違う様子をしている。
嬉しいようで、嬉しくない。
「玲ちゃんに言ったこと、本当になっちゃった」
「好奇心のこと?」
「そう。だってしなくて良いことまでするって、好奇心だもん」
あっけらかんに言うのが、俺の胸に響いた。
今日の夜、もう一回だけ口でした。
俺たちの関係が、少し――いや、かなり変わった。
それが良いのか悪いのかは、考えられない。




