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幼馴染は3時間に一回キスをしないと意識がなくなるらしい。って、俺とするの!?  作者: 冷泉七都
第一章

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12/21

第12話 入部希望、文芸部〈1〉

 始業式の翌日――。

 今日から授業が開始されて、再び億劫な日々が始まる。

 昨日のように特別教室の校舎だったり、屋上に繋がる階段の踊り場とかでして、午前中のキスは乗り切れた。


 キーンコーンカーンコーン――。

 4時間目の終了を告げるチャイム音が鳴り、昼休みに突入した。

 そして、昼休みには昼食を食べることになる。


「悠太、今年度(ことし)も学食で食べるよな?」


 晴樹は俺の机までやってきて、財布片手にそう聞いてきた。


 一年生のとき、基本的に俺は晴樹と食堂で食べていた。

 だから一緒に行こうというお誘いだろう。

 しかし今、俺の鞄の中には弁当箱が入っている。

 ありがたいことに、これからは柚奈が毎日作ってくれるらしい。


「ごめん、晴樹。実は今日からは弁当があるんだ」

「え、まじか。じゃあちょっと、そこで待っといてくれ――」

「あ、あぁ」


 すると晴樹は急いで教室を出ていってしまった。

 どこに行ったのか。


 俺は言われるがまま、自分の席に座って待つ。

 2分も経たないうちに、晴樹は戻ってきた。


「お待たせ。食べようぜ」


 晴樹が焼きそばパンとメロンパンを机に置いた。

 そして、俺の一つ前の席のイスを180度回転させて座る。


 俺と食べるために、わざわざ昼食を購買で買うことにしてくれたのだ。

 晴樹の優しさに、俺は感動した。


「晴樹は良いやつだな……」

「なんだよ、急にそんなこと言って。なにも出ないぞ」


 ハハっと少し笑って、俺は鞄からランチクロスで包まれた弁当を取り出す。

 机の上で広げると、懐かしい弁当箱が登場した。

 俺が中学校のときに使っていたものを棚から見つけ出して、柚奈はこれに詰めてくれたのだ。


 しかし、学校でのお楽しみ――と言って、家では中身を見せてくれなかった。

 だから俺は期待に胸を膨らませて、弁当を開ける。


「おー」

「おー、美味しそう」


 俺が感嘆すると、晴樹も感嘆した。

 とにかく、食べる前から分かるぐらい、それほどまでに素晴らしい出来(でき)の料理のオンパレードだった。


「これって、悠太が作ったわけじゃないんだよな」

「そうだけど」

「誰に作ってもらったんだ? 親は東京にいるとか言ってなかったっけ?」

「あー……」


 ここの判断ミスで、柚奈との同居関係がバレてしまうかもしれない。

 どんな返答が最適解か、俺は急いで思考を巡らせた。


 …………思いつかない。

 嘘を吐いても、ひょんなことで気づかれたら元も子もない。

 できる限り、俺が失言しなさそうな嘘を――。


 そのとき、放送が流れ始めた。

 教室が一瞬だけ静かになる。


『各部活動の部長は、職員室前に集まってください』


「あれ、悠太って部長だっけ?」

「いや、違うよ。俺じゃなくて韮沢(にらさわ)がやってくれてる」


 俺は席を立った韮沢を指さした。


「そういや、そう言ってたな」


 晴樹は焼きそばパンを食べ始めた。

 どうやら、この弁当の作り手の話題は上手くすり替えられたようだ。


 俺は唐揚げを一個食べる。


 美味い――。


 冷めているのにも関わらず、それを感じさせないほどに美味しい。

 こんなのをほぼ毎食食べられる俺は、幸せに違いない。

 そう心から思った。


 俺は視界の端に、梅井さんといる柚奈を捉えた。

 柚奈の弁当箱は俺のとは違うもので、中身さえ比べられなければ、気づきようがない。

 俺と柚奈は少し離れているし、大丈夫だろう。


 不安を振り払って、俺は目の前の弁当に集中した。



 放課後になり、俺は柚奈に話しかけた。


「今日、文芸部の部活あるんだけど……」


 俺は一応、文芸部に入っている。

 ちなみに文芸部は、去年の三年生が卒業して、現在部員は三人のみという極小部活だ。

 しかもうち一人の先輩は幽霊部員と化しているため、実質二人で活動しているのだが。


 とりあえず、もし俺が部活に行ってしまうと、3時間が過ぎてしまうかもしれない。

 柚奈は帰宅部だし、なにもしない時間を過ごすのも大変だろう。


「それって、わたしも行っていいのかな」

「多分、良いと思うけど。韮沢に聞いてみ……」

「いないね」


 韮沢とは同じクラスだ。

 だからいつも座っている席を見てみたのだが、そこはすでに誰もいなくなっていた。

 もう部室に行ってしまったのかもしれない。


「まぁ、直接部室に行ったら大丈夫だろ」

「そうだね。わたし場所分かんないから連れてって」

「あぁ」


 校舎の4階、その奥まったところに、文芸部の部室はある。

 俺はその部屋のドアに手を掛けた。

 抵抗がなくて、どうやら鍵は閉まっていないようで、韮沢が開けてくれたのだろう。


 ドアを開けると、いつもの定位置に韮沢は座っていた。


「月城君……それと、嶺田さん?」

「わたし、文芸部入りたいの」

「ぇ?」


 予想外の柚奈の発言に、俺は驚いてしまった。

 ついて来るだけで、それだけだと思っていた。

 しかし、入部希望だとは……。


「それなら大歓迎よ。今日から三人で活動していきましょう」


 普段とは全然違い、韮沢のテンションが高くなっている。

 いつもの韮沢は、静かで真面目な人だ。


 やはり、部長をしている部活に人が増えるのは、かなり嬉しいのかもしれない。

 もし新入生が文芸部に入ってきてくれたら、韮沢はどうなってしまうのだろうか。

 想像するだけでも、なんだか面白そうだった。


「ありがとうございます。玲さん」

「玲さん――?」


 俺は柚奈が『さん付け』するのが不思議で、疑問の声を出してしまっていた。

 いつも同級生の女子には、誰でも呼び捨てでいた気がする。

 柚奈も俺が不思議そうにしている理由が分かったのだろう、求めていた答えが返ってきた。


「なんか、呼び捨てにし辛くてさ。悪い意味じゃなくて、良い意味でね」

「なるほど」


 なんとなくだが、柚奈の言っていることは分かる。


「嶺田さんの好きに呼んだら良いわよ。よくさん付けされてるし、それでも」

「じゃあ、玲さん、で――」


 そうして柚奈の、韮沢の呼び方が決まった。

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