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第46話 退路なき戦い

「ひえぇっ! 来るな、来るなぁっ!」


 集落を包囲していた帝国軍の攻撃部隊は、ジオハルトが操るマグマによって大混乱に陥っていた。傾斜すら無視して足元に迫る溶岩流は、不定形のモンスターかのごとく兵士たちを追いやっていく。


「アチッ、アチイイッ!」

「は、早く後退しろ! 黒焦げになりたいのか!」


 隊列を崩して逃げ惑う兵士たち。絶対的に優位な状況を確保していたにもかかわらず、突然の天変地異によって帝国軍は前進すらままならない状況である。攻撃部隊を率いる指揮官は苛立ちを隠せずにいた。


「臆病者どもめ! 反逆者の根城を前にして背を向けるとは何事か!」

「しかし指揮官殿。溶岩に阻まれては進軍は叶いませぬ。ここは一時退却し、竜騎兵の派兵を要請すべきです」


 攻撃部隊は数こそ多けれど、その戦力は歩兵のみ。強制徴兵によってかき集められた間に合わせの軍勢である。兵士たちの練度は高くない上、魔王出現の噂によって士気は大幅に低下していた。


「馬鹿なことを言うな。竜騎兵は敵本土攻略のための貴重な戦力であるぞ。たかが民兵の拠点一つ落とすためだけに陛下が差し向けるわけがなかろう」


 先にジオハルトが会敵した竜騎兵は、皇帝直属のエリート部隊とも言える存在である。海を渡って日本本土を攻めるとなれば、帝国軍としても航空戦力は温存しておきたい状況だった。


「ですが、敵には魔王が……」

「魔王がなんだというのだ! 陛下の命令に背いた者がどうなるか知らぬわけでもあるまい。つべこべ言わずに敵陣への経路を探せ!」


 溶岩に追い立てられる部下の胸中など露知らず、指揮官は檄を飛ばし続けた。皇帝の命令が絶対とはいえ、理不尽な作戦に付き合わされる兵士たちの不満は募る一方である。


 そこへ一人の伝令が駆けつけた。


「西方面の部隊より報告。集落の西側には溶岩流が及んでいない模様。……陸路からの攻撃は可能とのことです」

「おお、それはまことか!」


 天運が味方したとばかりに指揮官は膝を叩いた。溶岩流が精霊によってコントロールされていることなど知る由もない。


「よし、西側から総攻撃を仕掛けるぞ。全軍、我に続け!」

「お待ち下さい、指揮官殿。集落の西側にのみ経路が開かれているなど不自然です。これは敵の罠なのでは……」


 そもそも集落を囲うようにして溶岩地帯が発生すること自体が異常である。人ならざる意思が働いているとしか思えない状況なのだ。兵士たちが集落への攻撃を尻込みするのは当然のことだった。


「ふん。仮に罠だとして、民兵ごときにどれだけの武器が用意できる? 敵は寡兵なのだ。我らの勝利は揺るがん!」


 部下の進言も無視して指揮官は兵を西に進めた。

 林道にはマグマは及んでいないし、敵の伏兵も見当たらない。西方面の部隊との合流までに何ら支障はなかった。怖いぐらい順調に段取りは進んでいく。


「この先の経路はどうなっている?」

「ここから先は一本道です。両脇は溶岩地帯になっておりますのでお気をつけを」

「ぬぅ……各隊は隊列を維持。マスケットを装填し、集落の正門を強襲するぞ!」


 溶岩の影響を考慮すると、兵士たちが通れる道の幅は15m前後。密集陣形で進軍するより他にない。陸の孤島と化した集落に向けて、兵士たちは冷や汗をかきながら歩を進めた。

 しばらく進むと集落の正門が目に入った。正門といっても民兵たちが急ごしらえで用意したものだ。到達することさえできれば突破は難しくない。


 しかし、ただ一人、兵士たちの行く手を阻む者が現れた。



「――悪意の尖兵ども。ここから先は死地だ。命欲しくば早々に立ち去れ!」



 帝国軍に立ちはだかったのは、灰の鎧を纏いし勇者である。

 数の上では圧倒的に不利な状況――だが正門の前で仁王立ちするセリカの気迫は、兵士たちをすくみ上がらせるに十分であった。

 たった一人の人間が、どうして軍隊に立ち向かうことができるのか。かの少女こそが「伝説の勇者」だとでもいうのか――


「何をこまねいている! 敵は一人だけだぞ? さっさと撃ち殺してしまえ!」


 勇者なんてものは伝説の中にしか存在しないのだ。指揮官はセリカの行動を単なるこけおどしと断じ、部隊に攻撃命令を下した。

 兵士たちは震える手でマスケットを構え、一斉射撃を浴びせた。この距離で銃弾を浴びて生きていられるはずがない。同じ人間ならば(・・・・・・・)倒せぬ道理はないのだ。


「プロテクト・イージス!」


 勇者が手にする光の盾は、マスケットによる隊列射撃など物ともしない。銃弾は弾かれるどころか、光波防壁に触れた瞬間に消滅してしまった。民を守らんとするセリカの揺るぎない意志が、カレッドウルフの出力を大幅に向上させているのだ。


「指揮官殿、マスケットがまるで通用しません!」

「光だ……光の壁が弾を消しているぞ!」

「うろたえるな! あんなものはハッタリだ。先鋒隊は着剣の上、突撃せよ!」


 号令を受けた兵士たちはマスケットに銃剣を装着。正門を守るセリカとの距離をじりじりと詰めていく……包囲攻撃を仕掛ける算段だ。

 帝国軍のヘイトが勇者に集中する――その瞬間をレジスタンスは見逃さなかった。



「そらっ! 石の雨を浴びせてやりな!」



 櫓門(やぐらもん)の上から民兵たちが一斉に姿を現した。彼らの武器は、セリカが拾い集めてきた天然の石ころである。カゴいっぱいに溜め込まれた丸石を兵士たち目掛けて次々に投擲(とうてき)した。


「ぐあぁっ!」

「い、痛えぇっ!」


 セリカに気を取られていた先鋒の兵士たちは、石の雨によって大打撃を受けた。投石はマスケット銃のような装填動作が不要な上、高所から投げつければ威力が大きく上昇する。防御手段を持たない兵士たちにとっては、この上ない脅威なのだ。


「ええいっ、石ころごときに怯むな! マスケットで反撃しろ!」


 指揮官は兵士たちにマスケットを再装填させ、櫓門のレジスタンスを狙うように命じた。マスケットは狙撃に不向きな銃器であるが、この状況では他に選択肢がない。

 慌ただしく紙薬莢を取り出し、ラムロッドを手にする兵士たち――しかし彼らに第2射を放つ猶予など残されてはいなかった。マスケットの装填が完了するよりも先に、クロエのライオットガンが火を吹いたのだ。


「ぎアあぁぁッ!」


 兵士の一人が全身を痙攣(けいれん)させながらのたうち回る。マイクロスタンバレットが命中し、高圧電流が兵士の身体を駆け巡ったのだ。


「ひっ、ひいいっ! 何が起こったんだ!?」

「この距離から当ててくるなんて……あがアぁぁッ!」


 クロエはポンプアクションと発砲を繰り返し、マスケットを構える兵士たちを次々に昏倒させた。スタンバレットが敵を殺害することはないが、帝国軍からすれば味方が立ちどころに死んでいくようにしか見えない。奇声を上げながら倒れていく犠牲者の姿は、兵士たちを恐怖のどん底へと陥れた。


「もう嫌だぁっ! 何が簡単な作戦だよ!」

「これ以上前進したら捨て駒にされちまう……みんな早く引き上げろ!」


 正門に向かった部隊はレジスタンスによって徹底的に打ちのめされてしまった。惨状を目にした兵士たちは戦意を失い、我が身可愛さに逃走を始めた。両脇のマグマに足をつけないように、もと来た道を小走りで引き返していく。


「敵に背を向けるな! お前たちは帝国軍の兵士だろうが! 陛下のために命尽きるまで戦え!」


 敗走する兵士たちを押し戻そうと指揮官は一人で躍起になっていた。無論、彼の号令に従う兵は残っていない。正規兵ならまだしも、強制徴兵で集められた軍隊にどれほどの忠誠心があるというのか。


「どうして私の言うことを聞かんのだ! お前たちも反逆者になりたいのか!?」


 愛想を尽かした兵士たちは、マスケットを溶岩に投げ捨ててゾロゾロと退散していく。もはや作戦の失敗は明白。取り残された指揮官は地団駄(じだんだ)を踏んだ。


 そんな時、空から恐怖の魔王が降ってきた。


「こういう時はな、自分から手本を見せてやればいいんだよ」

「なっ……うわああっ!」


 ジオハルトは指揮官の襟首を掴むと、そのまま空中へと連れ去ってしまった。グラビティレイダーでフワフワと宙を浮かびながら、指揮官を集落の方向へと運んでいく。


「だ、誰か! 誰か助けてくれぇ!」


 必死になって叫ぶ指揮官だったが、部下の兵士たちは遠目に眺めているだけで何一つ行動を起こそうとはしない。つまるところ彼は帝国軍の兵士を預けられていただけで、本当の仲間など一人もいなかったのだ。


「よかったな。これでお前が一番乗りだ」


 集落に到着したジオハルトは、指揮官をボスッと地面に落下させた。場所は敵陣の真っ只中である。指揮官はあっという間にレジスタンスに取り囲まれてしまった。


「指揮官殿。あなたは『命尽きるまで戦え』と部下に命じました。当然、あなたも皇帝に命を捧げる覚悟はできているのでしょう? さあ、今こそ帝国軍の兵士として華々しく戦ってみせなさい」


 孤立無援。

 虚勢を張るだけの気力はもう残っていない。

 指揮官はがっくりとうなだれたまま、両手を上げて降伏の意思を示すのだった。

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