『Thank you.』
My name is Aris Sari.
Please call me Aris.
Nice to meet you.
……それは、あまりにも突然のことだった。
まだ少し寒さの残るある2月のこと。
午前9時ごろ、窓際の席はほんのり心地よい。
高3の彼は卒業を3日後に控えていた。
その時突然、教室前方の扉が開いた。
それが彼の人生を変えた―。
彼は、英語が嫌いだった。
ある日、英語の授業で彼は疑問を抱いた。
日本人なのに、どうして英語を勉強するのかと―。
そして、彼は彼女に出会った。
それは2月27日のことだった。
自己紹介を終えた彼女は、ホッと息をついて彼の隣の席に座った。
彼はリンゴ色の頬の彼女に、心臓が高鳴った。
ゴクリと唾を飲み込むと、彼女に話しかけた。
彼女はそっと微笑んだ。
でも、返答はなかった……。
彼はうつむいていると、そっと小さな紙切れが机の上に置かれた。
『Thank you. Please know your name.』と書かれていた。
彼は『Thank you.』という単語だけ分かった。
彼は彼女の書いた下に『Thank you.』と付け加えた。
彼女は再び微笑んだ。
彼は何か話したそうにして、そっと前に向き直った。
そしてあっという間に、卒業式の日がやってきた……。
彼は泣いた。
英語をろくに勉強しなかったことに―。
彼女は笑顔だった。
彼に出会えたことに―。
たった3日間だったが、それは輝きに満ちた3日間だった。
出会い、別れそれは切っても切り離せないものだ。
そして彼は別れの時を迎えていた―。
彼女は『Thank you.』と言い残して歩き始めた。
広い青空に彼の声が響き渡った。
『My name is …….俺はアリスさんが好きだ……」
あれから、もう20年の月日が経つ。
彼女は日本語をすっかり話せるようになった。
でも彼は、やっぱり英語が嫌いなようだ―。